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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第79回   79
・・・・・・
体ごとを松井君から向きを変えた。
いつの間にか、手には拳が握られていた。
「・・・俺らも行くぞ。みんな待ってんだし・・・」
「・・・・・・」
反応を見せないあたしに、松井君は再びため息をつく。
「・・・ケンにはケンの考えがあるんだろ?」
「・・・・・・」
「交際申し込まれて、受け入れたの初めてだし。」
「――!・・・」
それは・・・そうかも・・・
デートとか遊びにはつきあっても、彼女ということでは受け入れてなかった。
それでもいいからって、お誘いがなくなることはなかったけど・・・
「おまえらが考えてるより、いいかげんじゃねーんじゃね?」
「・・・・・・好きでもないのに?」
「は?」
「・・・ケンちゃんはっきり言ったよ!・・・真美ちゃんのこと好きじゃないって・・・それのどこがいいかげんじゃないの!?どこが考えてんの!?」
再びヒートアップしてしまう。
「・・・今は・・・だろ?・・・つきあいだしらわかんねーじゃん。」
―――っ!
・・・なんで?
・・・なんで、そんなにケンちゃんの肩をもつの!?
「・・・話になんない。」
静かにそう言い放って、松井君の横を通り過ぎた。
「――おいっ!」
すぐさま腕を掴まれたが、振りほどこうと腕を上げる。
「離してよっ!・・・ケンちゃんや松井君に言ったって無駄だった。真美ちゃんに直接言ってくる!」
「余計な事すんなって!」
振り払おうとした腕はまだ離されず、お互い力が入ったままだ。
「あたしが蒔いた種なんだから、あたしが止めるだけじゃん!何が余計なのよっ!」
「――――っ・・・」
「離してってば!!」
「――――あいつなりに前に進もうとしてんだよ!!」
―――!
その言葉に、あたしの振り払う動きが止まってしまった。
・・・・・・なんの・・・こと?
背けていた目線を松井君に向けた。
何かを諦めたかのように、掴まれている腕の力もなくなった。
「・・・半分ムキになって・・・ってのはあったかもしんないけど。」
・・・・・・どういう事!?
「・・・あいつ、好きな奴いたんだよ。」
「―――っ!!・・・そう・・なの?」
「・・・たぶん・・・片想いってやつ。」
・・・・・・片想い・・・・・・
「あんな調子だから、気持ち伝えるなんてことしなくて・・・・・・諦めたくても諦めきれずに、未練たらしい自分が嫌だったんじゃないか?」
話し続ける松井君を黙って見ていた。
「いろんな子と遊びに行ってたのも、紛らわすってのもあるけど・・・相手に見せつけるってのが一番だったかもな。」
・・・・・・見せつける?
・・・ってことは・・・近くにいる人?
・・・いつも・・・側にいた人・・・・・・―――っ!!
「そんなこといつまでもやってるわけにいかないから・・・あの子のこと、本気で考えよう思ったんじゃね?」
あたしは一呼吸おいて、ゆっくりと聞いた。



「・・・・・・好きな子の・・・目の前だったから・・・余計に?」



あたしの言葉にしばらく黙っていたけど・・・
「・・・・・・あぁ・・・」
と静かに答えた。

・・・・・・そっか・・・そうなんだ。

今までのやりとりが一気に頭に浮かぶ。
・・・そんなの・・・気付かないよ・・・
本人だって・・・絶対気付いていない・・・


ケンちゃんは・・・・・・美樹のこと―――好きだったんだ―――


「確かに、あの子にとっては失礼かもしんないけど・・・この先の流れ次第で、いいきっかけって思えばいいじゃん。あいつは自分の事だけ考えて、なんてことないだろうし・・・」
「・・・・・・」
「あんたにとっては、嫌なやり方だろうけど・・・ちょっと見守っといてよ。」
「・・・・・・」
松井君は、みんなの方へと歩きだした。
あたしも・・・ゆっくりとその後ろへついて行った。

なにも言えなかった。
意外すぎるケンちゃんの気持ち・・・
美樹に対して特別のことなんてなかったように感じてた。
いつの間にか仲良くなって、冗談を言い合えて、きょんちゃんたちの事に関しては意気投合してたけど・・・あたしらだけじゃなく、他の女の子とも仲良かった。
でも・・・ケンちゃんがデートらしきことするようになったのって・・・・・・3学期の終わり頃からだ。
美樹が・・・木村先輩のこと好きになった後から。
ケンちゃんにはもちろん、松井君や田口君にもいろいろ情報を聞き入れていた。
そのことで、嫌でも美樹の気持ちをわかっていただろう。

その時のケンちゃんの気持ちが、わからない訳ではない。
でも・・・その事を考えると・・・それ以上に、違う事が頭から離れなかった。

松井君がなぜケンちゃんを頑なにかばったのか・・・わかってしまった。
人の恋愛沙汰なんて、今まで口挟んだことないのに・・・今回のことは、一番に理解している・・・・・・自分もかつて感じていた感情に。

・・・・・・片想い
・・・・・・未練たらしい気持ち

美加さんの時と重なっているはずだ。
前に、あたしが尾上先生のことを想っている時と同じように。

彼が話している時の表情が、頭にこびりついて離れなかった。


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