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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第74回   74
「ありがとうございました〜。じゃあね、智子。」
「うん、ばいばい。」

あたしの家より、きょんちゃんちの方が近かったので、先に車を降りた。
「さぁてと、次は智子ちゃんね。」
美加さんはアクセルを踏んだ。

・・・・・・
・・・・・・
なんとなく、無言になってしまった。
あたしはその沈黙を破りたくて、話を切り出した。

「あの・・・美加さんは、うまくいってるんですか?」
「え?彼氏と?」
「あぁ・・・はい。」
「うんっ、もちろんよ。」
その返事に偽りはなく、本音に聞こえた。
と同時にホッとしている自分に気付く。
・・・――っ・・・あたし・・・嫌な性格してる。
美加さんたちの幸せを喜んでるんじゃなくて・・・美加さんの気持ちが向こうにあるってことを、ホッとしてるんだ。
「・・・この際さ・・・ほんとのこと言っておいた方がいいと思って・・・」
・・・え?
美加さんが、黙っているあたしに静かに言い出した。
「きっと・・・智子ちゃんのことだから・・・気にしてるんじゃないかなって思って・・・だから、はっきりすっきり全部言っておこうと思って・・・」
・・・ドクンっ・・・ドクンっ・・・
急に心拍が速くなる。
美加さんが言いたい事が、なんのことかわかってしまって・・・
「最初に、これだけは信じて・・・あたし今の彼とはほんとうにうまくいってるのよ?彼のことほんとうに好きだし・・・・・・でも・・・そう思えるようになったのは、数ヶ月前くらいからかな?」
「・・・・・・」
「それまでは・・・はっきりいって、カムフラージュみたいなもんだった・・・・・・あたし・・・リョーマが好きだったんだ。」
「――――――!!」
「・・・たぶん智子ちゃんが予想してたんじゃないかなって・・・どう?」
ゆっくりと頷いた。
「やっぱりか・・・あきれるでしょ?6つも下の中学生を好きになるなんて・・・」
「そんなことっ・・・あきれるとかは、ほんとに思わないです。」
それはほんとだ。
だって、あたしはもっとひどいし・・・
「そう言ってくれると救われるけど・・・・・・リョーマとはさ、あたしも美樹も小さい頃からほとんど一緒にいたの。あの子の母親早くに亡くなって・・・姉妹に弟、ほんとそんな感じで過ごしてきてて・・・リョーマも頼れるのってあたしら家族で、いっつも一緒だった・・・」
美加さんは時折懐かしそうな表情をしていた。
「でも・・・あたしが大学入学してから・・・寮生活になったせいもあるんだろうけど・・・なんか淋しくなって・・・今まで、当たり前の様にすぐ側にいたのが・・・離れた途端・・・会いたくなっちゃって・・・」
―――っ・・・美加さんは・・・ほんとに、松井君のこと・・・
「最初の頃は、バイトなんてしてなかったから、しょっちゅう家に帰って来てて・・・その度に、だんだん大人っぽくなっていくリョーマに、自分が惹かれてくのわかったんだ・・・でも、そんなの絶対に認めたくなくて・・・歳の差はもちろん、今までの関係を壊したくなかった・・・だから勘違いだって、言い聞かせてた・・・でも・・・去年の夏休みに、バッタリ智子ちゃんと街で会って、一緒にお茶してた時、二人のやりとりにすごい嫉妬しちゃった・・・言いたい事、言い合えて・・・羨ましかった・・・あたしははっきり言って、言いたい事全て言えてたの。でもリョーマは違った・・・ある程度は言い返してきても・・・最後は絶対に引いてたし・・・そうさせてたんだろうけどね。」
「・・・・・・」
「そのことに気が付いて・・・帰り道リョーマに、彼氏ができた、なんて嘘ついたんだ・・・ちょっと試したかったのもあるけどね・・・でもあいつは、おめでと、なんてあっさり言ってきて・・・その時ほんとに今の彼氏から交際申し込まれててね、自慢じゃないけど、あと二人いたんだ、告白されてたの。」
・・・・・・そりゃあ・・・こんな美人ほっとかないよね・・・ましてや、大学生なら・・・
「だから、家から戻った後、速攻つきあいOKしたのよ。」
「・・・あのっ・・・」
ずっと黙っていたけど、気になることがあって話を止めた。
「ん?なに?」
「・・・他にも告白されてて・・・なんで、今の彼氏を選んだんですか?」
夏祭りの時に見た、あの彼氏。
美加さんとはとてもつり合いがとれてないように見えた。
もっといい人、他にいなかったんだろうかと・・・
「・・・あの人ね・・・すごく優しい人なの。」
「・・・優しい・・・」
意外に普通の答えだ。
「はっきりいって、見た目はあんまり良くないでしょ?って彼女のあたしが言うのも変だけど・・・」
そう言いながら、笑っている。
「徹ね・・・あ、覚えてる?名前、横井 徹っていうんだけど・・・バイトで知り合ったの。飲食店のフロアーの仕事でさ、忙しい時なんかごった返してて、そういうときに限って、話相手をしてほしい年よりのお婆さんがよく出入りしてたの。あたしもだけど、他のバイトの子たちもそのお婆さん避けてたわけ。捕まったら長いからって・・・でも、そのお婆さんだって客として来てるわけでしょ?注文したくても誰も来てくれないの。そこにバイトの時間終わるはずの徹が、ずっとつきっきりで相手して・・・他から見れば、運が悪いとか、さっさと切り上げればいいのに、なんて目で見られてた。30分くらい相手されてお婆さんも機嫌よく帰って・・・結局、1時間後に終わるあたしと同時に帰れるようになって・・・でもさ、タイムカード押そうと思って、ふと徹の見たら、すでに押してあったの。あたしらバイトはさ、時給制だから、1分1秒でも遅れてもだめだし、いたくもないって感じなのに・・・徹は、バイトだからとかじゃなく、人として、そのお婆さんの相手をしてたんだって・・・そう思った時、自分が恥ずかしくなっちゃって・・・」
松井君の言った通りだ・・・美加さんは・・・中身で選んだんだ。
見せかけの優しさとかじゃなくて・・・ほんとうの優しさに惹かれたんだ。
「それだけが理由じゃないけどね・・・でも、そういうのを見たからこそあの人のこと、見る目変わったかな?・・・初め告白された時は、正直びっくりした・・・絶対あたしみたいなのタイプじゃないと思ってたしね。でも、勢いでつきあい始めて・・・徹には失礼だったけど・・・今となっては、良かったって思ってる。」
・・・美加さんの言葉に嘘はなかった。
あたしにはそう感じた。
「だから・・・もし智子ちゃんが、まだあたしのこと、ちょっとでも気にかけてたとしたら、これでおしまいにして欲しいな・・・いつまでも疑われるの、嫌だもん。」
「疑うって・・・別にそんなつもりじゃ・・・」
「じゃあ・・・もう気にしない?」
「・・・最後に一つだけ・・・いいですか?」
「うん、一つと言わず幾つでも!」
「・・・・・・あたしと・・・あたしと松井君が一緒のところ・・・もし見ることがなかったら・・・美加さんの気持ち・・・どうなってたと思います?」
「・・・・・・そうだなぁ・・・」
しばらく美加さんは考えた。
そして、ゆっくりと口を開いた。
「結果は同じだと思う。」
「―――っ!」
「結局、あたしとリョーマはそういう関係にならなかったよ。」
・・・ちがう・・・ちがうっ―――っ!!
自分から聞いといて、あたしは自分を追いつめている。
二人は・・・二人は・・・―――っ!!
「それに・・・・・・もしも・・・なんて、ないからさ。」
「・・・・・・え?」
「そんなの言い出したらきりないじゃん。今こうして、あたしは徹と・・・智子ちゃんはリョーマと。想いが通じ合ってんのが、事実でしょ?それを否定なんてしたくない。」
・・・・・・・
・・・なんだろう・・・すごく・・・すごく・・・心に響いた・・・
「えっと・・ここ曲がるんだよね?」
「えっ・・・あぁ、はい・・・」
いつの間にか、家の近くまで来ていた。
「なんか、言いたい事言えたらすっきりしちゃった・・・このこと、二人だけの秘密ね。」
最初からそのつもりで、美樹を連れてこなかったんだ。
「・・・はい・・・わかりました。」

そして家に到着し、車から降りた。
美加さんが車の窓を開け、挨拶を交わす。
「送ってくれてありがとうございます。」
「いえいえ、またいつでも遊び来てあげてね。彼氏のいない美樹が淋しがるから。」
「クスクス、わかりました。」
「じゃあね〜」
そう言って、窓を閉めようとした時・・・
「――美加さんっ!!」
「・・・なに?どうした?」
「あのっ・・・ほんといろいろ話してくれて・・・ありがとうございました。」
「・・・どういたしまして・・・じゃあね!」
今度こそ美加さんは車を発進させた。
それを見送り・・・そして空を見上げる。
これでも少し日が長くなったけど、辺りは薄暗くなって星が輝いていた。

・・・・・・きれい。
いつもと同じ空のはずなのに、すごく、すごく・・・きれいに見えて・・・
あたしはしばらく、寒空の下にいた。


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