「ありがとうございました〜。じゃあね、智子。」 「うん、ばいばい。」
あたしの家より、きょんちゃんちの方が近かったので、先に車を降りた。 「さぁてと、次は智子ちゃんね。」 美加さんはアクセルを踏んだ。
・・・・・・ ・・・・・・ なんとなく、無言になってしまった。 あたしはその沈黙を破りたくて、話を切り出した。
「あの・・・美加さんは、うまくいってるんですか?」 「え?彼氏と?」 「あぁ・・・はい。」 「うんっ、もちろんよ。」 その返事に偽りはなく、本音に聞こえた。 と同時にホッとしている自分に気付く。 ・・・――っ・・・あたし・・・嫌な性格してる。 美加さんたちの幸せを喜んでるんじゃなくて・・・美加さんの気持ちが向こうにあるってことを、ホッとしてるんだ。 「・・・この際さ・・・ほんとのこと言っておいた方がいいと思って・・・」 ・・・え? 美加さんが、黙っているあたしに静かに言い出した。 「きっと・・・智子ちゃんのことだから・・・気にしてるんじゃないかなって思って・・・だから、はっきりすっきり全部言っておこうと思って・・・」 ・・・ドクンっ・・・ドクンっ・・・ 急に心拍が速くなる。 美加さんが言いたい事が、なんのことかわかってしまって・・・ 「最初に、これだけは信じて・・・あたし今の彼とはほんとうにうまくいってるのよ?彼のことほんとうに好きだし・・・・・・でも・・・そう思えるようになったのは、数ヶ月前くらいからかな?」 「・・・・・・」 「それまでは・・・はっきりいって、カムフラージュみたいなもんだった・・・・・・あたし・・・リョーマが好きだったんだ。」 「――――――!!」 「・・・たぶん智子ちゃんが予想してたんじゃないかなって・・・どう?」 ゆっくりと頷いた。 「やっぱりか・・・あきれるでしょ?6つも下の中学生を好きになるなんて・・・」 「そんなことっ・・・あきれるとかは、ほんとに思わないです。」 それはほんとだ。 だって、あたしはもっとひどいし・・・ 「そう言ってくれると救われるけど・・・・・・リョーマとはさ、あたしも美樹も小さい頃からほとんど一緒にいたの。あの子の母親早くに亡くなって・・・姉妹に弟、ほんとそんな感じで過ごしてきてて・・・リョーマも頼れるのってあたしら家族で、いっつも一緒だった・・・」 美加さんは時折懐かしそうな表情をしていた。 「でも・・・あたしが大学入学してから・・・寮生活になったせいもあるんだろうけど・・・なんか淋しくなって・・・今まで、当たり前の様にすぐ側にいたのが・・・離れた途端・・・会いたくなっちゃって・・・」 ―――っ・・・美加さんは・・・ほんとに、松井君のこと・・・ 「最初の頃は、バイトなんてしてなかったから、しょっちゅう家に帰って来てて・・・その度に、だんだん大人っぽくなっていくリョーマに、自分が惹かれてくのわかったんだ・・・でも、そんなの絶対に認めたくなくて・・・歳の差はもちろん、今までの関係を壊したくなかった・・・だから勘違いだって、言い聞かせてた・・・でも・・・去年の夏休みに、バッタリ智子ちゃんと街で会って、一緒にお茶してた時、二人のやりとりにすごい嫉妬しちゃった・・・言いたい事、言い合えて・・・羨ましかった・・・あたしははっきり言って、言いたい事全て言えてたの。でもリョーマは違った・・・ある程度は言い返してきても・・・最後は絶対に引いてたし・・・そうさせてたんだろうけどね。」 「・・・・・・」 「そのことに気が付いて・・・帰り道リョーマに、彼氏ができた、なんて嘘ついたんだ・・・ちょっと試したかったのもあるけどね・・・でもあいつは、おめでと、なんてあっさり言ってきて・・・その時ほんとに今の彼氏から交際申し込まれててね、自慢じゃないけど、あと二人いたんだ、告白されてたの。」 ・・・・・・そりゃあ・・・こんな美人ほっとかないよね・・・ましてや、大学生なら・・・ 「だから、家から戻った後、速攻つきあいOKしたのよ。」 「・・・あのっ・・・」 ずっと黙っていたけど、気になることがあって話を止めた。 「ん?なに?」 「・・・他にも告白されてて・・・なんで、今の彼氏を選んだんですか?」 夏祭りの時に見た、あの彼氏。 美加さんとはとてもつり合いがとれてないように見えた。 もっといい人、他にいなかったんだろうかと・・・ 「・・・あの人ね・・・すごく優しい人なの。」 「・・・優しい・・・」 意外に普通の答えだ。 「はっきりいって、見た目はあんまり良くないでしょ?って彼女のあたしが言うのも変だけど・・・」 そう言いながら、笑っている。 「徹ね・・・あ、覚えてる?名前、横井 徹っていうんだけど・・・バイトで知り合ったの。飲食店のフロアーの仕事でさ、忙しい時なんかごった返してて、そういうときに限って、話相手をしてほしい年よりのお婆さんがよく出入りしてたの。あたしもだけど、他のバイトの子たちもそのお婆さん避けてたわけ。捕まったら長いからって・・・でも、そのお婆さんだって客として来てるわけでしょ?注文したくても誰も来てくれないの。そこにバイトの時間終わるはずの徹が、ずっとつきっきりで相手して・・・他から見れば、運が悪いとか、さっさと切り上げればいいのに、なんて目で見られてた。30分くらい相手されてお婆さんも機嫌よく帰って・・・結局、1時間後に終わるあたしと同時に帰れるようになって・・・でもさ、タイムカード押そうと思って、ふと徹の見たら、すでに押してあったの。あたしらバイトはさ、時給制だから、1分1秒でも遅れてもだめだし、いたくもないって感じなのに・・・徹は、バイトだからとかじゃなく、人として、そのお婆さんの相手をしてたんだって・・・そう思った時、自分が恥ずかしくなっちゃって・・・」 松井君の言った通りだ・・・美加さんは・・・中身で選んだんだ。 見せかけの優しさとかじゃなくて・・・ほんとうの優しさに惹かれたんだ。 「それだけが理由じゃないけどね・・・でも、そういうのを見たからこそあの人のこと、見る目変わったかな?・・・初め告白された時は、正直びっくりした・・・絶対あたしみたいなのタイプじゃないと思ってたしね。でも、勢いでつきあい始めて・・・徹には失礼だったけど・・・今となっては、良かったって思ってる。」 ・・・美加さんの言葉に嘘はなかった。 あたしにはそう感じた。 「だから・・・もし智子ちゃんが、まだあたしのこと、ちょっとでも気にかけてたとしたら、これでおしまいにして欲しいな・・・いつまでも疑われるの、嫌だもん。」 「疑うって・・・別にそんなつもりじゃ・・・」 「じゃあ・・・もう気にしない?」 「・・・最後に一つだけ・・・いいですか?」 「うん、一つと言わず幾つでも!」 「・・・・・・あたしと・・・あたしと松井君が一緒のところ・・・もし見ることがなかったら・・・美加さんの気持ち・・・どうなってたと思います?」 「・・・・・・そうだなぁ・・・」 しばらく美加さんは考えた。 そして、ゆっくりと口を開いた。 「結果は同じだと思う。」 「―――っ!」 「結局、あたしとリョーマはそういう関係にならなかったよ。」 ・・・ちがう・・・ちがうっ―――っ!! 自分から聞いといて、あたしは自分を追いつめている。 二人は・・・二人は・・・―――っ!! 「それに・・・・・・もしも・・・なんて、ないからさ。」 「・・・・・・え?」 「そんなの言い出したらきりないじゃん。今こうして、あたしは徹と・・・智子ちゃんはリョーマと。想いが通じ合ってんのが、事実でしょ?それを否定なんてしたくない。」 ・・・・・・・ ・・・なんだろう・・・すごく・・・すごく・・・心に響いた・・・ 「えっと・・ここ曲がるんだよね?」 「えっ・・・あぁ、はい・・・」 いつの間にか、家の近くまで来ていた。 「なんか、言いたい事言えたらすっきりしちゃった・・・このこと、二人だけの秘密ね。」 最初からそのつもりで、美樹を連れてこなかったんだ。 「・・・はい・・・わかりました。」
そして家に到着し、車から降りた。 美加さんが車の窓を開け、挨拶を交わす。 「送ってくれてありがとうございます。」 「いえいえ、またいつでも遊び来てあげてね。彼氏のいない美樹が淋しがるから。」 「クスクス、わかりました。」 「じゃあね〜」 そう言って、窓を閉めようとした時・・・ 「――美加さんっ!!」 「・・・なに?どうした?」 「あのっ・・・ほんといろいろ話してくれて・・・ありがとうございました。」 「・・・どういたしまして・・・じゃあね!」 今度こそ美加さんは車を発進させた。 それを見送り・・・そして空を見上げる。 これでも少し日が長くなったけど、辺りは薄暗くなって星が輝いていた。
・・・・・・きれい。 いつもと同じ空のはずなのに、すごく、すごく・・・きれいに見えて・・・ あたしはしばらく、寒空の下にいた。
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