松井君とつきあいだして、3日過ぎた木曜日の昼休み。
「――っ智子いるっ?」 廊下からすごい勢いで、まどかとなっちゃんがやってきた。 いつものように談話していたあたしらは一瞬にして、固まった。 「なに・・・どうしたの?」 ふたりは少々興奮気味のようだ。 あたしらの席まで近づくと、少し小声になった。 「・・・さっき・・・聞いたんだけど・・・松井君と、つきあってるって・・・ほんと?」 ―――っ! いつかは聞かれると思っていた質問。 でもこんなに早いとは・・・。
つきあいだしたといっても、これといって今までと変わった行動はとっていない。 校内ですれ違っても特に話すこともなく(あたしは恥ずかしくて、半ば避けてたのもあるけど・・・)、部活帰りに一緒に帰るなんて、カップルにはありがちな行為も正反対の帰路っていうのもあるし、していない。 田口君には、きょんちゃんから報告があったとしても、それがケンちゃんに伝わっているかどうかはわからない。 でもケンちゃんのことだから、耳に入ったら、なにかしら言ってきそうなものの、そういうこともないから、まだ知らないのかも。 どっちみち、バレるような行動をとっていないのは確実だ。
「どっから聞いたの?そのこと。」 かわりに美樹が問いかけた。 まどかとなっちゃんは、息を整えるように空いている席へ腰を下ろした。 「バレー部の1年生が、松井君に告白したらしいんだけど・・・」 ――っ・・・相変わらず、モテてるみたい・・・ でも・・・久しぶりに聞いた話だ。 なっちゃんはバレー部だから、その情報が入ってきたんだろう。 「松井君が断るのはたいして驚かないんだけど、その子が、智子のこと聞いたみたいでさ・・・」 「え?・・・なんで?」 「あたしもさ、その子じゃないけど、1年に聞かれたことあるんだ。智子と松井君が、その・・・夏祭りの時に手を繋いでたって・・・どういう関係だって。」 「「―――っ!!」」 あたしは冷や汗を。 美樹ときょんちゃんはあたしに視線を。 ・・・あの時のやりとり・・・言ってないし・・・ 「――っあはっ・・・なに・・それ?・・・それで?」 あたしは半分笑いながら、続きを促した。 このことをあまり突っ込んで欲しくなかった。 「それで、あたしはそんな話知らなかったし、智子と松井君ってのが、あんまりピンと来なくて、その時は知らないよって言ったんだけど。そういうのもあってか、智子との関係を松井君に聞いたらしんだわ。」 「それでっ!?リョーマ君はなんて?」 美樹は身を乗り出してきた。 「・・・つきあってるって・・・やっぱり・・・ほんとなの!?」 まどかとなっちゃんは、あたしよりも美樹ときょんちゃんの表情を見ている。 「・・・うふっ・・うふふふ・・・あはははは〜!」 美樹は堪えていたのが爆発したかのように大笑いになった。 「――ちょっとっ・・・美樹ってば〜・・・」 美樹の笑い声にクラスメイトの何人かが振り向く。 それに気づいてきょんちゃんが必死に止めてる様子だ。 「クスクスクスっ・・・はっきり言って・・・リョーマ君は嘘つかないよ!」 ――っ!・・・美樹〜っ!! 「「――ほんとに〜っ!!」」 まどかとなっちゃんは一斉に声を上げた。
それから数時間経つうちに、この話は広がっていった。 放課後になると、違うクラスの同じ小学校出身の子や、テニス部の1年生からも質問攻めだった。 正直、1年生に聞かれた時は戸惑ったけど、同じテニス部だからか、あたしが予想してた反応と違った。 「どうやって射止めたんですか〜!?」 「すご〜いっ!なんか智子先輩のこと自慢したーいっ!」 偉人扱いにも似ていたけど・・・どうやら、みんながみんな、あたしのことを松井君にふさわしくないとは、思われてなかったみたい。 ・・・ちょっと、ホッとした。
そして次の日の朝。 今度はケンちゃんがあたしを待ち構えていた。 「おっす・・・。」 「・・・おはよ。」
自分の席に向かい、カバンから教科書を取り出す。 ケンちゃんは前の席に、あたしの方に向かって座った。 「・・・おい。」 「・・・なに?」 「・・・なんか俺に言う事あるんじゃね?」 「・・・なんかって・・・?」 「ほ〜・・・そうやってとぼけて済まそうってか?」 「・・・・・・」 「言っとくけど・・・俺は昨日知った訳じゃねーんだぞ。」 「えっ・・・」 ・・・そうなの? 「ふんっ、この俺が他のやつらと同じなわけねーだろ?・・・本人から聞いたんだよ。」 本人・・・・・・松井君が? ・・・ふ〜ん・・・話したんだ。 「で?・・・言っていいぞ。」 「・・・なに・・を?」 「なにをって・・・おまえなぁっ!俺がどんなにおまえらのこと気にかけてたと思ってんだ!?それなのに、挨拶もなしとはどういうことだ!?」 「・・・挨拶って・・・」 「ずっと見守ってやった親鳥みたいなもんだろ?」 ・・・なにその例え・・・ 「親にはちゃんと挨拶と報告が必要なんだよ。俺はおまえから言ってくるのを今か今かと待ちわびてたのによ〜、なんだよおまえは?はぁ〜、信じられん!」 「・・・わかったよ!・・・・・・ご心配・・・お掛けしました。」 ・・・ん?なんで謝ってんだ? 「・・・よしっ!わかればいいんだ、わかれば。」 納得いかないあたしとは違って、ケンちゃんは満足そうだ。 「まぁ、もしあいつが浮気したら俺が慰めてやるから。」 そう言って、あたしの肩をポンポンと叩く。 「・・・はいはい・・」「・・・誰が浮気するって?」 「「―――っ!!」」 あたしとケンちゃんは声のする方を見上げた。
〜〜〜//! 「お・・おっす、リョーマ・・・」 3日ぶりに間近で顔を見た。 「なんだよ、珍しいじゃん。2組に来るのって。」 そしてすぐに俯いた。 「・・・数学の教科書忘れた。」 「数学?・・・しょうがねーな・・・」 ケンちゃんは席から立ち上がろうとした。 「山田。」 ・・・へ? 顔を上げる。 「貸して。」 「・・・え?」 「数学の教科書、貸して。」 「・・・あ・・・うん。」 慌ててさっき机にしまい込んだ教科書を探る。 「ほ〜、ほ〜っ。この俺からは借りたくないと?」 ケンちゃんは再び腰を下ろす。 「・・・おまえの落書きばっかで使いづらい。」 「ばっ・・落書きじゃねーよ!アートだよアート!」 やっとのことで、教科書を取り出す。 「・・・はい。」 「サンキュ。」 そう言うと、すぐにその場から離れようとした。 「あ〜っ、おはよ〜。」 そこに美樹が登校して来て、松井君の足を止めた。 「リョーマ君、いっつも早いね〜。何時に出てんの?」 美樹は、この間だけ早く登校したが、いつもはギリギリだ。 「・・・7時半。」 「そうなの!?あたしと5分しか違わないんだぁ。」 「山下が遅過ぎんじゃねーの?」 ケンちゃんが間に入ってきた。 「あんまりスピードだして自転車こぐと、髪型崩れるの!」 美樹は前髪を整える。 「大丈夫大丈夫。乱れた山下もかわいいって〜。」 ケンちゃんは立ち上がって美樹の頭をグシャグシャっと撫でた・・・いや、乱してる。 「ちょっ、何すんのよ!」 すぐさま逃げたケンちゃんを美樹が追っかける。 教室全体を使った追いかけごっこの始まりで、クラスメイトの注目を浴びていた。
「・・・あのさ・・・」 二人のやり取りを見ていたが、松井君がまた近づいてきた。 ――っ// またしても、直視できない。 「・・・あんま避けられると、俺落ち込むんだけど。」 「――っ!・・・あ・・・ごめん・・・」 あたしってば・・・自分のことしか考えてない・・・ 「まぁ・・・周りも知ってるみたいだし・・・」 松井君はそう言って、こちらに向けられている視線の方へ目をやる。 ケンちゃんと美樹にばかり注目してると思ったけど、何人かはこちらを見てコソコソ話していた。 「俺としては堂々としてたいんだけど・・・無理?」 「・・・――ううん・・・だい・・じょうぶ。」 「・・・じゃあ、部活の後、少し会おっか。」 「・・・うんっ。」 「じゃ・・・」 そう言うと、松井君は自分の教室へと戻っていった。
・・・うれしい。 憧れてた部活帰り。 帰り道は違っても、10分でも5分でも1分でも・・・一緒にいれるんだ。 こんな些細なことが、すごくすごくうれしくて、恥ずかしくて・・・。
その日から、あたし達は一緒にいる時間が増えていった。 部活の後、昼休み、ホームルームの前の時間。 時間があれば一緒にいる、そして周りもあたし達の仲を自然とはやしたてなくなっていった。
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