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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第72回   72
松井君とつきあいだして、3日過ぎた木曜日の昼休み。

「――っ智子いるっ?」
廊下からすごい勢いで、まどかとなっちゃんがやってきた。
いつものように談話していたあたしらは一瞬にして、固まった。
「なに・・・どうしたの?」
ふたりは少々興奮気味のようだ。
あたしらの席まで近づくと、少し小声になった。
「・・・さっき・・・聞いたんだけど・・・松井君と、つきあってるって・・・ほんと?」
―――っ!
いつかは聞かれると思っていた質問。
でもこんなに早いとは・・・。

つきあいだしたといっても、これといって今までと変わった行動はとっていない。
校内ですれ違っても特に話すこともなく(あたしは恥ずかしくて、半ば避けてたのもあるけど・・・)、部活帰りに一緒に帰るなんて、カップルにはありがちな行為も正反対の帰路っていうのもあるし、していない。
田口君には、きょんちゃんから報告があったとしても、それがケンちゃんに伝わっているかどうかはわからない。
でもケンちゃんのことだから、耳に入ったら、なにかしら言ってきそうなものの、そういうこともないから、まだ知らないのかも。
どっちみち、バレるような行動をとっていないのは確実だ。

「どっから聞いたの?そのこと。」
かわりに美樹が問いかけた。
まどかとなっちゃんは、息を整えるように空いている席へ腰を下ろした。
「バレー部の1年生が、松井君に告白したらしいんだけど・・・」
――っ・・・相変わらず、モテてるみたい・・・
でも・・・久しぶりに聞いた話だ。
なっちゃんはバレー部だから、その情報が入ってきたんだろう。
「松井君が断るのはたいして驚かないんだけど、その子が、智子のこと聞いたみたいでさ・・・」
「え?・・・なんで?」
「あたしもさ、その子じゃないけど、1年に聞かれたことあるんだ。智子と松井君が、その・・・夏祭りの時に手を繋いでたって・・・どういう関係だって。」
「「―――っ!!」」
あたしは冷や汗を。
美樹ときょんちゃんはあたしに視線を。
・・・あの時のやりとり・・・言ってないし・・・
「――っあはっ・・・なに・・それ?・・・それで?」
あたしは半分笑いながら、続きを促した。
このことをあまり突っ込んで欲しくなかった。
「それで、あたしはそんな話知らなかったし、智子と松井君ってのが、あんまりピンと来なくて、その時は知らないよって言ったんだけど。そういうのもあってか、智子との関係を松井君に聞いたらしんだわ。」
「それでっ!?リョーマ君はなんて?」
美樹は身を乗り出してきた。
「・・・つきあってるって・・・やっぱり・・・ほんとなの!?」
まどかとなっちゃんは、あたしよりも美樹ときょんちゃんの表情を見ている。
「・・・うふっ・・うふふふ・・・あはははは〜!」
美樹は堪えていたのが爆発したかのように大笑いになった。
「――ちょっとっ・・・美樹ってば〜・・・」
美樹の笑い声にクラスメイトの何人かが振り向く。
それに気づいてきょんちゃんが必死に止めてる様子だ。
「クスクスクスっ・・・はっきり言って・・・リョーマ君は嘘つかないよ!」
――っ!・・・美樹〜っ!!
「「――ほんとに〜っ!!」」
まどかとなっちゃんは一斉に声を上げた。


それから数時間経つうちに、この話は広がっていった。
放課後になると、違うクラスの同じ小学校出身の子や、テニス部の1年生からも質問攻めだった。
正直、1年生に聞かれた時は戸惑ったけど、同じテニス部だからか、あたしが予想してた反応と違った。
「どうやって射止めたんですか〜!?」
「すご〜いっ!なんか智子先輩のこと自慢したーいっ!」
偉人扱いにも似ていたけど・・・どうやら、みんながみんな、あたしのことを松井君にふさわしくないとは、思われてなかったみたい。
・・・ちょっと、ホッとした。

そして次の日の朝。
今度はケンちゃんがあたしを待ち構えていた。
「おっす・・・。」
「・・・おはよ。」

自分の席に向かい、カバンから教科書を取り出す。
ケンちゃんは前の席に、あたしの方に向かって座った。
「・・・おい。」
「・・・なに?」
「・・・なんか俺に言う事あるんじゃね?」
「・・・なんかって・・・?」
「ほ〜・・・そうやってとぼけて済まそうってか?」
「・・・・・・」
「言っとくけど・・・俺は昨日知った訳じゃねーんだぞ。」
「えっ・・・」
・・・そうなの?
「ふんっ、この俺が他のやつらと同じなわけねーだろ?・・・本人から聞いたんだよ。」
本人・・・・・・松井君が?
・・・ふ〜ん・・・話したんだ。
「で?・・・言っていいぞ。」
「・・・なに・・を?」
「なにをって・・・おまえなぁっ!俺がどんなにおまえらのこと気にかけてたと思ってんだ!?それなのに、挨拶もなしとはどういうことだ!?」
「・・・挨拶って・・・」
「ずっと見守ってやった親鳥みたいなもんだろ?」
・・・なにその例え・・・
「親にはちゃんと挨拶と報告が必要なんだよ。俺はおまえから言ってくるのを今か今かと待ちわびてたのによ〜、なんだよおまえは?はぁ〜、信じられん!」
「・・・わかったよ!・・・・・・ご心配・・・お掛けしました。」
・・・ん?なんで謝ってんだ?
「・・・よしっ!わかればいいんだ、わかれば。」
納得いかないあたしとは違って、ケンちゃんは満足そうだ。
「まぁ、もしあいつが浮気したら俺が慰めてやるから。」
そう言って、あたしの肩をポンポンと叩く。
「・・・はいはい・・」「・・・誰が浮気するって?」
「「―――っ!!」」
あたしとケンちゃんは声のする方を見上げた。

〜〜〜//!
「お・・おっす、リョーマ・・・」
3日ぶりに間近で顔を見た。
「なんだよ、珍しいじゃん。2組に来るのって。」
そしてすぐに俯いた。
「・・・数学の教科書忘れた。」
「数学?・・・しょうがねーな・・・」
ケンちゃんは席から立ち上がろうとした。
「山田。」
・・・へ?
顔を上げる。
「貸して。」
「・・・え?」
「数学の教科書、貸して。」
「・・・あ・・・うん。」
慌ててさっき机にしまい込んだ教科書を探る。
「ほ〜、ほ〜っ。この俺からは借りたくないと?」
ケンちゃんは再び腰を下ろす。
「・・・おまえの落書きばっかで使いづらい。」
「ばっ・・落書きじゃねーよ!アートだよアート!」
やっとのことで、教科書を取り出す。
「・・・はい。」
「サンキュ。」
そう言うと、すぐにその場から離れようとした。
「あ〜っ、おはよ〜。」
そこに美樹が登校して来て、松井君の足を止めた。
「リョーマ君、いっつも早いね〜。何時に出てんの?」
美樹は、この間だけ早く登校したが、いつもはギリギリだ。
「・・・7時半。」
「そうなの!?あたしと5分しか違わないんだぁ。」
「山下が遅過ぎんじゃねーの?」
ケンちゃんが間に入ってきた。
「あんまりスピードだして自転車こぐと、髪型崩れるの!」
美樹は前髪を整える。
「大丈夫大丈夫。乱れた山下もかわいいって〜。」
ケンちゃんは立ち上がって美樹の頭をグシャグシャっと撫でた・・・いや、乱してる。
「ちょっ、何すんのよ!」
すぐさま逃げたケンちゃんを美樹が追っかける。
教室全体を使った追いかけごっこの始まりで、クラスメイトの注目を浴びていた。


「・・・あのさ・・・」
二人のやり取りを見ていたが、松井君がまた近づいてきた。
――っ//
またしても、直視できない。
「・・・あんま避けられると、俺落ち込むんだけど。」
「――っ!・・・あ・・・ごめん・・・」
あたしってば・・・自分のことしか考えてない・・・
「まぁ・・・周りも知ってるみたいだし・・・」
松井君はそう言って、こちらに向けられている視線の方へ目をやる。
ケンちゃんと美樹にばかり注目してると思ったけど、何人かはこちらを見てコソコソ話していた。
「俺としては堂々としてたいんだけど・・・無理?」
「・・・――ううん・・・だい・・じょうぶ。」
「・・・じゃあ、部活の後、少し会おっか。」
「・・・うんっ。」
「じゃ・・・」
そう言うと、松井君は自分の教室へと戻っていった。

・・・うれしい。
憧れてた部活帰り。
帰り道は違っても、10分でも5分でも1分でも・・・一緒にいれるんだ。
こんな些細なことが、すごくすごくうれしくて、恥ずかしくて・・・。


その日から、あたし達は一緒にいる時間が増えていった。
部活の後、昼休み、ホームルームの前の時間。
時間があれば一緒にいる、そして周りもあたし達の仲を自然とはやしたてなくなっていった。


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