しばらくして、松井君が戻ってきた。 ポケットからホットの紅茶を差し出され、それを受け取る。 「・・・ありがと」 松井君はコーヒーだった。 再び隣に腰を下ろし、缶のふたを開ける。 「・・・あったけ〜・・・」 一口飲んだだけで、一気に体温が温まる。 「・・・・・・」 「・・・・・・」 何を話していいかわからず、沈黙になる。 そのせいで、落ち着いていたはずのあたしは、徐々に先程のシーンがよみがえってきた。 ・・・なんでもいいから・・・なんか話さなきゃ・・・ この沈黙は・・・耐えれない・・・ ・・・えっと〜・・・えっと〜・・・ 「・・・――高校っ・・・」 「・・・は?」 松井君は、いきなり単語だけを発したあたしを見た。 「・・・その・・・高校どこ行くか・・・決めた?」 知っていることだけど、今の話題といったら・・・やっぱこれくらいしか思い浮かばなかった。 「・・・進路・・・か・・・はっきりとはまだだけど・・・でも、たぶん笹工。」 「・・・そっか・・・あそこ、サッカー強いもんね。」 「うん、まぁ、それが一番の理由・・・・・・あんたは?」 「えっ・・・あたし・・は・・・」 流れからいって、当然自分にも振りかかる質問なのに、人に聞いといて自分の答えはまだ決まっていなかった。 「・・・・・・まだ・・・決めてない。」 「ふ〜ん・・・美樹から聞いた話だと・・・西高行けるレベルって言ってたけど?」 「・・・わかんないよ・・・頑張ればってことだし・・・」 「・・・頑張って行けるならすげーじゃん・・・俺は頑張っても無理だしな。」 「・・・・・・ねぇ・・・」 「・・・ん?」 「・・・松井君は・・・将来の自分って・・・考えたことある?」 「将来?・・・なに、夢ってこと?」 「・・・まぁ・・・そう・・・」 「・・・そうだな・・・これってのは得にないけど・・・でも・・・サッカーに関することだったらなんでもいいから、やっていたいな。」 「・・・それって・・・プロも考えてるってこと?」 「ふっ、まさか・・・まぁ、Jリーガーとか、かっこいいかもしんないけど、そんな実力あるなんて思えないし・・・とにかく、サッカーに携わってれば何でもいいや。」 「・・・なんでも・・・?」 「・・・例えば・・・自分らでチーム作って、社会人の大会にたまに出るとか・・・もしくは、勉強頑張って、サッカーを教える立場になる・・・とか・・・審判でもいいな・・・いっそのこと・・・サッカーに関するものを制作するってのもいいな・・・」 「・・・制作?」 「・・・極端な話、ボールを作るとか、スパイク作るとか、ゴールポスト作るとか・・・とにかくサッカーに関係あればなんでも。」 「・・・・・・すごいね・・・」 「・・・・・・単純馬鹿ってことが?」 「ううんっ、そんなんじゃないよっ・・・・・・ちゃんと・・・考えてることが・・・すごい・・・」 「ちゃんとって・・・さっき思いついたようなもんなんだけど・・・」 「それでも・・・言えるのが・・・すごいよ。」 ・・・なんとなく、話のネタとして切り出したのが、いつの間にか松井君の夢に引き込まれてしまった。 「・・・・・・山田は?」 「え?」 「・・・夢、なに?」 「・・・夢・・・」 ・・・夢・・・ゆめ・・・・・・なんだろう? 未来とは違う自分になりたくて、勉強頑張ってるけど・・・具体的に何になりたいとか、やりたい事とか・・・・・・全然考えてなかった。 その事に気がつくと同時に、情けなくもなった。 「・・・・・・なんにも・・・ないかも・・・」 あたしはさらに、顔を自分の膝にうずめた。 「・・・・・・ふ〜ん・・・じゃあ、これからなんでも考えれるじゃん。」 「・・・・・・なんでも・・・?」 「そ、なんでも。・・・夢ってさ・・・妄想に近いもんあるじゃん。自分の好きな事を好きなように思い浮かべればいいんだし・・・その妄想を目標にすんのも悪くないっしょ。」 「・・・・・・クスクス・・・妄想か・・・」 今だから・・・中学生だから・・・それでもいいのかも。 ・・・・・・そうだよ。 あたしは・・・14歳、中学生なんだ。 これから先の未来を・・・今から決めることできるんだ。 今は・・・嫌な事とか、不安な事とか・・・考えるの止めよう。 ・・・それに・・・
あたしは、すぐ隣にいる松井君の顔を見た。 「・・・・・・なに?」 その視線に気づき、彼もあたしに目をやる。 「なんか・・・うれしいなぁって思って・・・」 「・・・なにが?」 あの頃は、知りもしなかった松井君の考えとか、話し方とか、たまに見せる笑顔とか・・・ 今こうして松井君の近くにいることが、素直にうれしく思えた。 「・・・・・・なにもかもっ。」 なんとなく笑みがこぼれ、松井君と目が合う。
・・・・・・ ・・・・・・
あたしたちは、今日何度目かの、キスをした。
・・・それに・・・先のことより、松井君と過ごす、1分1秒を大切にしたい・・・そう思えたんだ。
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