20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:あの頃へ 作者:こまち

第70回   70
しばらくして、松井君が戻ってきた。
ポケットからホットの紅茶を差し出され、それを受け取る。
「・・・ありがと」
松井君はコーヒーだった。
再び隣に腰を下ろし、缶のふたを開ける。
「・・・あったけ〜・・・」
一口飲んだだけで、一気に体温が温まる。
「・・・・・・」
「・・・・・・」
何を話していいかわからず、沈黙になる。
そのせいで、落ち着いていたはずのあたしは、徐々に先程のシーンがよみがえってきた。
・・・なんでもいいから・・・なんか話さなきゃ・・・
この沈黙は・・・耐えれない・・・
・・・えっと〜・・・えっと〜・・・
「・・・――高校っ・・・」
「・・・は?」
松井君は、いきなり単語だけを発したあたしを見た。
「・・・その・・・高校どこ行くか・・・決めた?」
知っていることだけど、今の話題といったら・・・やっぱこれくらいしか思い浮かばなかった。
「・・・進路・・・か・・・はっきりとはまだだけど・・・でも、たぶん笹工。」
「・・・そっか・・・あそこ、サッカー強いもんね。」
「うん、まぁ、それが一番の理由・・・・・・あんたは?」
「えっ・・・あたし・・は・・・」
流れからいって、当然自分にも振りかかる質問なのに、人に聞いといて自分の答えはまだ決まっていなかった。
「・・・・・・まだ・・・決めてない。」
「ふ〜ん・・・美樹から聞いた話だと・・・西高行けるレベルって言ってたけど?」
「・・・わかんないよ・・・頑張ればってことだし・・・」
「・・・頑張って行けるならすげーじゃん・・・俺は頑張っても無理だしな。」
「・・・・・・ねぇ・・・」
「・・・ん?」
「・・・松井君は・・・将来の自分って・・・考えたことある?」
「将来?・・・なに、夢ってこと?」
「・・・まぁ・・・そう・・・」
「・・・そうだな・・・これってのは得にないけど・・・でも・・・サッカーに関することだったらなんでもいいから、やっていたいな。」
「・・・それって・・・プロも考えてるってこと?」
「ふっ、まさか・・・まぁ、Jリーガーとか、かっこいいかもしんないけど、そんな実力あるなんて思えないし・・・とにかく、サッカーに携わってれば何でもいいや。」
「・・・なんでも・・・?」
「・・・例えば・・・自分らでチーム作って、社会人の大会にたまに出るとか・・・もしくは、勉強頑張って、サッカーを教える立場になる・・・とか・・・審判でもいいな・・・いっそのこと・・・サッカーに関するものを制作するってのもいいな・・・」
「・・・制作?」
「・・・極端な話、ボールを作るとか、スパイク作るとか、ゴールポスト作るとか・・・とにかくサッカーに関係あればなんでも。」
「・・・・・・すごいね・・・」
「・・・・・・単純馬鹿ってことが?」
「ううんっ、そんなんじゃないよっ・・・・・・ちゃんと・・・考えてることが・・・すごい・・・」
「ちゃんとって・・・さっき思いついたようなもんなんだけど・・・」
「それでも・・・言えるのが・・・すごいよ。」
・・・なんとなく、話のネタとして切り出したのが、いつの間にか松井君の夢に引き込まれてしまった。
「・・・・・・山田は?」
「え?」
「・・・夢、なに?」
「・・・夢・・・」
・・・夢・・・ゆめ・・・・・・なんだろう?
未来とは違う自分になりたくて、勉強頑張ってるけど・・・具体的に何になりたいとか、やりたい事とか・・・・・・全然考えてなかった。
その事に気がつくと同時に、情けなくもなった。
「・・・・・・なんにも・・・ないかも・・・」
あたしはさらに、顔を自分の膝にうずめた。
「・・・・・・ふ〜ん・・・じゃあ、これからなんでも考えれるじゃん。」
「・・・・・・なんでも・・・?」
「そ、なんでも。・・・夢ってさ・・・妄想に近いもんあるじゃん。自分の好きな事を好きなように思い浮かべればいいんだし・・・その妄想を目標にすんのも悪くないっしょ。」
「・・・・・・クスクス・・・妄想か・・・」
今だから・・・中学生だから・・・それでもいいのかも。
・・・・・・そうだよ。
あたしは・・・14歳、中学生なんだ。
これから先の未来を・・・今から決めることできるんだ。
今は・・・嫌な事とか、不安な事とか・・・考えるの止めよう。
・・・それに・・・

あたしは、すぐ隣にいる松井君の顔を見た。
「・・・・・・なに?」
その視線に気づき、彼もあたしに目をやる。
「なんか・・・うれしいなぁって思って・・・」
「・・・なにが?」
あの頃は、知りもしなかった松井君の考えとか、話し方とか、たまに見せる笑顔とか・・・
今こうして松井君の近くにいることが、素直にうれしく思えた。
「・・・・・・なにもかもっ。」
なんとなく笑みがこぼれ、松井君と目が合う。

・・・・・・
・・・・・・

あたしたちは、今日何度目かの、キスをした。



・・・それに・・・先のことより、松井君と過ごす、1分1秒を大切にしたい・・・そう思えたんだ。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 19737