恐怖続きの授業も午前中を無事終えた。
給食を食べ、やっと一息できる。 ・・・はずだったのに・・・
「キャ〜!ほんとに!?すっご〜い。それでそれで?」 「えっとね〜、なんか一緒に帰ることになってさ〜・・・」 「え〜っっ!!うっそ〜、いいなぁ〜。」
・・・耳を塞ぎたくなるほどの大きな声での会話が繰り広げられる。 クラスの女の子5、6人で恋バナというか、ガールズトークというか・・・
なんか学生の頃って、妙に大声で話してたよなぁ。 そして妙に、明るく楽しく過ごしてます、みたいな自分を作ってた。 そうすることで、周りから明るい子なんだと思われたかったんだろうね。
・・・アホらしい・・・
ほとんど会話なんてうわの空で、この場から去りたいんだけど、きょんちゃんが腕に巻きついて離してくれなさそう。
「あ〜あ、あたしも松井君と帰りた〜い。」
ふとその名前に反応する。
・・・そっか、この子好きだったよなぁ・・・松井君のこと。 でもあっさりフラれて次の男の子に乗り換えてたっけ?
北田 弘子。 この集団のリーダー的存在だ。 今日も彼女の呼びかけで集まった。
「・・・おっ!!噂をすれば・・・ほらっ!」
教室の後ろのドアから松井リョーマとその友達が入ってきた。
そういえば、3組に仲のいい子がいたっけ? 松井君が向かう男の子に目をやった。
田口 武。 同じサッカー部の子だ。 この子もなかなかモテてたような・・・
松井君とはちょっと違うタイプでムードメーカーというか、まぁ、悪ふざけをするやんちゃ坊主みたいな感じだったな。
休み時間にちょくちょく来てたから、その度に、いま目をキラキラさせてる弘子がはしゃいでたわ、そういえば・・・
この女子軍団が一斉に松井リョーマに視線を向けてるものだから、いやでも本人は気づいてしまう。
「きゃーっ、こっちみてるよ〜、どうしよ〜。」 少し小さめの声でその子がはしゃぎ、隣の子の腕をバンバン叩いてる。
「なに?おまえらまたリョーマ目当て?」
声を掛けてきたのは、田口君だ。 ニヤニヤしながらこっちに近づいてきた。 冷やかしたい願望丸出しだ。
「いいかげん教えろよ。この中で誰がリョーマのこと好きなんだよ。」 「はあ?何言ってんのよ。」 弘子は強気で言い返す。今バレては困るからだろう。 「おれが取り持ってやるからさ。な、チャンスだろ?」
あきらかに嘘だ。
でも弘子にとっては、魅力の言葉だろう。 「・・・・・・」 何も言えなくなってしまう。
田口君は一人一人の顔を眺め犯人を探そうとしている。
あたしとも目が合った。
「・・・山田は・・・違うもんな〜。」
・・・なに?それ?・・・
思わず突っ込みたくなった。 なにか言いたげのあたしに、にやけながら更に続けた。
「ほら〜、おまえには近藤がいるもんな〜。」
−−−っ!!
頭が一気にフル回転する。 交換日記にも書かれてあった人物だ。
確かにこの頃のあたしは同じクラスの近藤君に恋してた。 中学に入って初めての恋の相手だ。 そして、何故か告白もしてないのに周りにばれてしまってた。 こいつにはそのことで何度か、からかわれたのを思い出す。
「あれっ、近藤いないな〜。どこ行ったんだよ〜。山田、おまえ奥さんなんだから知ってんだろ?」
だんだん調子に乗ってきている。 言い返してこいよ、と言わんばかりの口調だ。 ・・・・・・
「・・・ちょっと、やめなよ!」
黙っているあたしの隣できょんちゃんが言い返した。 かばってくれたんだろう。
「ああっ!!実は中田なんだろう?リョーマのこと好きなの。」
適当もいいところだ。
「はあ?違うわよっ。なんでそうなるのよ。」 「またまた〜、焦ってるところがあやしいなぁ・・・」 からかいの矛先があたしからきょんちゃんに変わってしまった。
・・・・・・−−っ!! バンッ!!
立ち上がったあたしを一斉にみんなが注目した。 もちろん田口君も。
「・・・ガキ」
上から睨むように発した。
「・・・・・・」 「・・・・・・」
辺りが心なしか静かになった。 そんなこともお構いなしにあたしは続けた。
「あんたの言ってることは、低レベル過ぎるんだよ。・・・もう一回小学校行ってくれば?いや・・・幼稚園のほうがいいかも。人としてやり直してきたら?」
決して大声ではなく、ゆっくりと言い放った。
・・・・・・ん?
ここだけでなく、教室全体の空気が止まってる。 そしてみんなあたしに注目している。 というより目が離せないといった方がいいだろうか・・・
・・・−−しまった! ・・・そっか。
あたしはみんなと同じ中学1年なんだ。 さっき言ったようなこと、この頃のあたしは・・・絶対言ってないな。 30歳のあたしだからこそ言ってしまったんだ・・・
ふと、松井君と目が合ってしまった。 彼もあたしが発した言葉を聞いていたはずだ。 そして朝の松井君との会話を思い出した。
・・・あれも今のあたしだから食ってかかったんだ。 昔のあたしなら何も言えなかったもん。
・・・オバタリアン・・・
この言葉がよみがえる。 若い頃は言いたいことが言えなかったが、歳をとると平気で言えちゃう・・・なんて、まさしくオバタリアンだ・・・ 古い言葉だけどね・・・
あたしはとりあえず、トイレへと逃げ込んだ。
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