公園を出てから10分くらいで海に着いた。 そんな広くはない海岸で、砂浜があるけど、海水浴場とまで整ってはおらず、どこから、いつ流れてきたのかわからない漂流物があちこちに見受けられる。
目の前は、水平線・・・というわけではなく、夏祭りの会場だったところだ。 入江になっているところなので、防波堤をまたいで、すぐに向こうの町並みが見える。
「・・・・・・さむっ・・・」 着いて早々、思った通りの感想を松井君が呟いた。 公園とは違い、海からの潮風が、まともに顔にあたる。 「クスクス・・・あったかいお茶でも買えばよかったね。」 「・・・・・・お茶!?・・・・・・好きだね・・・」 「え?・・・」 ・・・・・・あ・・・そうでした。 ・・・お茶を買う時代ではなかったね・・・ 「・・・紅茶の・・・間違い。」 その場にしゃがみこんで言い直す。 「・・・前も間違えてたじゃん。」 松井君も、フッと笑いながら座り込んだ。
――っ!・・・
またときめいてしまった・・・たまにしか見せてくれない笑顔に。 あんまり見ていたからか、視線に気づいてあたしの方を見た。
――っ!!
すぐさま、視線を逸らす。
「・・・なに?」 いつものぶっきらぼうに無表情ときた。 「・・・別に。」 あたしもなるべく平然と返すが、なんとなく沈黙になるのが怖くて、すぐに後を続けた。 「――っやっぱある。」 「は・・・?」 「・・・・・・前から聞きたかったんだけど・・・松井君って・・・大笑いするの?」 「・・・・・・は?」 「だから・・・バラエティとか、お笑いとか観て、お腹押さえて笑ったりって・・・するの?」 「・・・・・・お腹押さえるほどは・・・ないかも・・・でも・・・笑うけど?」 「・・・そう。・・・なんか、すんごい笑ってるとこって・・・見たこと・・・――あっ!・・・あるや!」 ・・・そうだ・・・一回だけ見た・・・ 「・・・なんだよ。」 「ほらっ、廊下で!・・・あたしが去年、田口君に文句言った後。」 「・・・・・・はぁ!?」 「〜〜〜もうっ、だから〜っ・・・そうだ!あたしらが初めて話した日だよ。」 「え?・・・・・・」 ・・・――あ・・・なんか・・・今の説明はいらなかったかも・・・ あんまりいい会話してなかったし・・・ 「・・・あぁ・・・あん時ね・・・」 松井君はまた少し笑った。 「――っそうそう!・・・その時、大笑いしてた・・・ね・・・」
あたしが、外見とのギャップがあり過ぎてって・・・後から聞いたらそんな風に言ってたな。 ・・・そうだよね・・・あの時が最初だった。 松井君と話したのも、田口君にあんな啖呵切ったのも・・・・・・あたしが今ここにいるのも・・・あの日から・・・――――っ・・・
・・・まただ・・・またさっきの不安がよぎる・・・ こんなこと・・・今までなかったのに・・・――っ!
「・・・今さらこんなこと聞くの変かもしんないけどさ・・・」 海を眺めながら話しだした松井君を、あたしは返事の代わりに目をやった。 「・・・なんで、美樹はいじめられてたわけ?」 ――!!・・・ほんと・・・今さら・・・だよ・・・ 松井君に向けていた視線は、自然と外してしまった。 「・・・・・・しょうもないことだよ・・・」 黙ってるのも嫌で、ボソボソと呟いた。 「・・・女子の間では・・・ありがちなこと・・・・・・美樹だけじゃなくって、他にも同じような理由で・・・いじめにあってた子はいたよ・・・・・・単なる・・・ひがみ、ねたみ、みたいなもんなんだろうけど・・・」 この間美樹が、未だにあたしのおかげだ、なんて思ってたことも驚いた。 そのあたしは、忘れてはいけないって思ってたことなのに、あまりにも普通に美樹が接してくれるもんだから・・・頭の中から完全に消えていた。 いつもの悪い癖だ。全然学習してないな・・・
「・・・ふ〜ん・・・別に女子だけのことでもないじゃん。」 「え?」 「・・・そういうひがみ、ねたみなんて・・・男にだって・・・大人にだってあるもんだしね・・・」 「・・・え?」 「・・・うちの父親が言ってた。社会に出ればそれの連続だって。子供より、大人の方が薄汚いって・・・」 「・・・そう。」 ・・・お父さんが・・・か。 ・・・ちょっとびっくりした・・・松井君の口から、大人って言葉が出たのが。 「・・・ま、美樹自身に理由があったわけじゃねーってことなんだな・・・」 「・・・・・・なんで・・・今頃聞いてきたの?」 「・・・・・・あいつ・・・今でも引きずってるような気がしてさ・・・」 「・・・え・・・?」 ・・・どういう・・・こと? 「・・・俺の気のせいかもしんないけどね・・・・・・なかなか、心の傷ってのは・・・治りにくいんじゃね?・・・あんたや中田がいてくれるから、楽しくはあるんだろうけど・・・」
・・・・・・あたしって・・・ほんと、ばかだ――っ! やった方より、やられた方は忘れないって・・・散々理解してたつもりなのに。 仲直りで、はいおしまい、ってわけではなかったんだ。 美樹の心の奥底では・・・まだ恐怖心が残ってるかもしれないんだ。 また、自分が何かやらかした・・・みんなが、去っていくって・・・そう思い込んでるのかも。 あの時の・・・あたしが問い詰めた時の・・・美樹の顔が、今頃、胸に焼きつく。 あたしに・・・嫌われるかもって・・・そう思ってたのかも。
・・・ムギュッ――!! 「――いっ!――」 ほっぺに激痛が走り、俯いていた顔が一気に上がった。 松井君が、あたしのほっぺをつねったせいだ。 「―――っなに・・すんの!?」 つねられた手はまだそのままで、あたしはその手を離そうと掴み、松井君に目をやった。
「・・・・・・変な顔してるから。」 真顔で言い、もう片方のほっぺもつねられる。 「―――いっ・・たっ!!」 ―――っていうか・・・痛みよりも・・・・・・恥ずかしさがまさってる――// こんな至近距離でつねられたのはもちろん、顔が近付いたのも初めてで、あたしはそれから逃れようと必死に、松井君の両手を掴み、ほっぺから離そうとした。 「・・・・・・こっちの方が・・・変か。」 焦るあたしとは正反対で、非常に冷静に感想を言っている。 「〜〜〜あのねっ・・・」 「・・・今・・・自分のこと、責めてた?」 「―――っ!!・・・」 「そういう顔してた。」 そう言って、つねった手をグイグイと引っ張ってる。 「〜〜〜//・・・ちょっ、人の顔で遊ばな―――っ」
つねる力が緩んで、その手で頬が包まれて・・・目が合う――――――
――――――この続きが・・・わかってしまう。
初めてのことじゃないし――――――
――――――でも・・・今のあたしは、14歳そのままだった―――
近づいてくる松井君の顔をこれ以上直視できなくて、視線をずらす・・・ と同時に・・・
――唇が重なった――
―――っ// ―――――― ――――――
あたしは・・・・・・初めてのキスをしたんだ・・・
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