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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第68回   68
公園を出てから10分くらいで海に着いた。
そんな広くはない海岸で、砂浜があるけど、海水浴場とまで整ってはおらず、どこから、いつ流れてきたのかわからない漂流物があちこちに見受けられる。

目の前は、水平線・・・というわけではなく、夏祭りの会場だったところだ。
入江になっているところなので、防波堤をまたいで、すぐに向こうの町並みが見える。


「・・・・・・さむっ・・・」
着いて早々、思った通りの感想を松井君が呟いた。
公園とは違い、海からの潮風が、まともに顔にあたる。
「クスクス・・・あったかいお茶でも買えばよかったね。」
「・・・・・・お茶!?・・・・・・好きだね・・・」
「え?・・・」
・・・・・・あ・・・そうでした。
・・・お茶を買う時代ではなかったね・・・
「・・・紅茶の・・・間違い。」
その場にしゃがみこんで言い直す。
「・・・前も間違えてたじゃん。」
松井君も、フッと笑いながら座り込んだ。

――っ!・・・

またときめいてしまった・・・たまにしか見せてくれない笑顔に。
あんまり見ていたからか、視線に気づいてあたしの方を見た。

――っ!!

すぐさま、視線を逸らす。

「・・・なに?」
いつものぶっきらぼうに無表情ときた。
「・・・別に。」
あたしもなるべく平然と返すが、なんとなく沈黙になるのが怖くて、すぐに後を続けた。
「――っやっぱある。」
「は・・・?」
「・・・・・・前から聞きたかったんだけど・・・松井君って・・・大笑いするの?」
「・・・・・・は?」
「だから・・・バラエティとか、お笑いとか観て、お腹押さえて笑ったりって・・・するの?」
「・・・・・・お腹押さえるほどは・・・ないかも・・・でも・・・笑うけど?」
「・・・そう。・・・なんか、すんごい笑ってるとこって・・・見たこと・・・――あっ!・・・あるや!」
・・・そうだ・・・一回だけ見た・・・
「・・・なんだよ。」
「ほらっ、廊下で!・・・あたしが去年、田口君に文句言った後。」
「・・・・・・はぁ!?」
「〜〜〜もうっ、だから〜っ・・・そうだ!あたしらが初めて話した日だよ。」
「え?・・・・・・」
・・・――あ・・・なんか・・・今の説明はいらなかったかも・・・
あんまりいい会話してなかったし・・・
「・・・あぁ・・・あん時ね・・・」
松井君はまた少し笑った。
「――っそうそう!・・・その時、大笑いしてた・・・ね・・・」

あたしが、外見とのギャップがあり過ぎてって・・・後から聞いたらそんな風に言ってたな。
・・・そうだよね・・・あの時が最初だった。
松井君と話したのも、田口君にあんな啖呵切ったのも・・・・・・あたしが今ここにいるのも・・・あの日から・・・――――っ・・・

・・・まただ・・・またさっきの不安がよぎる・・・
こんなこと・・・今までなかったのに・・・――っ!


「・・・今さらこんなこと聞くの変かもしんないけどさ・・・」
海を眺めながら話しだした松井君を、あたしは返事の代わりに目をやった。
「・・・なんで、美樹はいじめられてたわけ?」
――!!・・・ほんと・・・今さら・・・だよ・・・
松井君に向けていた視線は、自然と外してしまった。
「・・・・・・しょうもないことだよ・・・」
黙ってるのも嫌で、ボソボソと呟いた。
「・・・女子の間では・・・ありがちなこと・・・・・・美樹だけじゃなくって、他にも同じような理由で・・・いじめにあってた子はいたよ・・・・・・単なる・・・ひがみ、ねたみ、みたいなもんなんだろうけど・・・」
この間美樹が、未だにあたしのおかげだ、なんて思ってたことも驚いた。
そのあたしは、忘れてはいけないって思ってたことなのに、あまりにも普通に美樹が接してくれるもんだから・・・頭の中から完全に消えていた。
いつもの悪い癖だ。全然学習してないな・・・

「・・・ふ〜ん・・・別に女子だけのことでもないじゃん。」
「え?」
「・・・そういうひがみ、ねたみなんて・・・男にだって・・・大人にだってあるもんだしね・・・」
「・・・え?」
「・・・うちの父親が言ってた。社会に出ればそれの連続だって。子供より、大人の方が薄汚いって・・・」
「・・・そう。」
・・・お父さんが・・・か。
・・・ちょっとびっくりした・・・松井君の口から、大人って言葉が出たのが。
「・・・ま、美樹自身に理由があったわけじゃねーってことなんだな・・・」
「・・・・・・なんで・・・今頃聞いてきたの?」
「・・・・・・あいつ・・・今でも引きずってるような気がしてさ・・・」
「・・・え・・・?」
・・・どういう・・・こと?
「・・・俺の気のせいかもしんないけどね・・・・・・なかなか、心の傷ってのは・・・治りにくいんじゃね?・・・あんたや中田がいてくれるから、楽しくはあるんだろうけど・・・」

・・・・・・あたしって・・・ほんと、ばかだ――っ!
やった方より、やられた方は忘れないって・・・散々理解してたつもりなのに。
仲直りで、はいおしまい、ってわけではなかったんだ。
美樹の心の奥底では・・・まだ恐怖心が残ってるかもしれないんだ。
また、自分が何かやらかした・・・みんなが、去っていくって・・・そう思い込んでるのかも。
あの時の・・・あたしが問い詰めた時の・・・美樹の顔が、今頃、胸に焼きつく。
あたしに・・・嫌われるかもって・・・そう思ってたのかも。



・・・ムギュッ――!!
「――いっ!――」
ほっぺに激痛が走り、俯いていた顔が一気に上がった。
松井君が、あたしのほっぺをつねったせいだ。
「―――っなに・・すんの!?」
つねられた手はまだそのままで、あたしはその手を離そうと掴み、松井君に目をやった。

「・・・・・・変な顔してるから。」
真顔で言い、もう片方のほっぺもつねられる。
「―――いっ・・たっ!!」
―――っていうか・・・痛みよりも・・・・・・恥ずかしさがまさってる――//
こんな至近距離でつねられたのはもちろん、顔が近付いたのも初めてで、あたしはそれから逃れようと必死に、松井君の両手を掴み、ほっぺから離そうとした。
「・・・・・・こっちの方が・・・変か。」
焦るあたしとは正反対で、非常に冷静に感想を言っている。
「〜〜〜あのねっ・・・」
「・・・今・・・自分のこと、責めてた?」
「―――っ!!・・・」
「そういう顔してた。」
そう言って、つねった手をグイグイと引っ張ってる。
「〜〜〜//・・・ちょっ、人の顔で遊ばな―――っ」

つねる力が緩んで、その手で頬が包まれて・・・目が合う――――――

――――――この続きが・・・わかってしまう。

初めてのことじゃないし――――――

――――――でも・・・今のあたしは、14歳そのままだった―――


近づいてくる松井君の顔をこれ以上直視できなくて、視線をずらす・・・
と同時に・・・

――唇が重なった――

―――っ//
――――――
――――――

あたしは・・・・・・初めてのキスをしたんだ・・・


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