・・・ザック、ザック、ザック・・・ 立ち止まったあたしに、松井君は歩いて近づいてきた。
「・・・・・・なんか、あったの?」 「・・・・・・」 「・・・・・・様子が変だったって・・・ケンと田口が言ってたけど・・・」 「・・・・・・」
あたしの2、3歩前まで来て止まった。 そこからだと、嫌でも視界に入ってくるし、向こうからもあたしの表情はわかってしまう。 これ以上黙っていると、変に思われると思い、自転車にまたがった。
「・・・別に、なんでもないよ。・・・急いでたから・・・」 付け足して告げると、ペダルに足を置いた。
いかにも、もうこぎ出すんだと、わからせるために。
「・・・そう・・・・・・これ、サンキューな。」 松井君は、手に持っていたハンカチを差し出した。
・・・これのことか。
祭りの帰りに貸したものだ。
「・・・今日じゃなくても、良かったのに・・・」 ハンドルから片手を離し、パッとハンカチを受け取りポケットに入れた。 そして、すぐさま自転車をこぎ出した。
「・・――おいっ!・・・」 少し進みかけたあたしの腕を、松井君が掴んできた。
―――っ!!
とっさにブレーキをかける。
「――っ、なに?――っ・・・」
掴まれた腕を振り払おうとした。 でも、それを制するかのように、更に力強く掴まれた。
「・・・なんで、怒ってんの?」 いつもより低い声だ。
「・・・別に、怒ってないよっ・・・」 「怒ってんじゃん!・・・明らかに、態度出まくってるだろ!?」 「――っ、だから・・・違うってば!」 あたしも更に力を入れて、腕を振った。
今度は、彼の手が振りほどけた・・・その瞬間、目があった。
―――っ・・・
今まで何度かある・・・ ひるむことなく見てくるこの鋭い視線・・・ 何もかも、見透かされてしまいそうな・・・
一瞬にして、あたしは彼から目を逸らした。
「・・・・・・誤解っ・・・されるから、行ってよ・・・」 弱々しい声で呟いた。 「・・・はぁ!?・・・誤解?・・・なんのことだよ。」 「・・・松井君のファンの子に・・・一緒にいるとこ見られたら、誤解されるんだってば・・・」
・・・また、卑怯なあたしがそこにいた。
「・・・・・・そういうの・・・迷惑っ・・・」
そんなこと言いたくもないのに、勝手に口が動いてしまう。
「・・・・・・・あんまり・・・話しかけてこないでっ・・・」
次から次へと・・・言ってしまった・・・
「・・・・・・・・・わかった・・・」
・・・ザック、ザック、ザック・・・
一言だけ言うと、松井君はすぐさま振り返り、グラウンドの方へ歩いて行った。
・・・・・・・ 再びペダルをこぎ出す。 そして、下り坂をスピードに任せたまま走らせる。
・・・―――っ・・・キキーッ!!
坂を終えたところで、ブレーキをかけた・・・前の視界が見えなくなっていたからだ。
ちょっと前に流した涙より、さらに量を増して・・・
「――うっ・・・――っく・・・」
あんなこと言いたかったんじゃない・・・ でも・・・何か言わなくちゃ・・・ 自分の気持ちがバレそうで・・・ それが怖くてまた逃げた。
でも、今度のはあまりにも代償が大きかった。
彼を・・・松井君を・・・・・・怒らせてしまった。 ・・・・・・好きになってほしいとか、そんな大それたことは思わないけど・・・嫌われたくは・・・なかった。 もう・・・あの笑顔なんて・・・見れないかも・・・
松井君はその後、あたしに話しかけることはもちろん、近づくこともなかった。 自分からなんてできるわけもなく、夏休みが終わっても、2学期が始まっても・・・
あたしらはまるで以前のように、顔見しりの、ただの同級生となったんだ。
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