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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第55回   55
・・・ばかみたい。
・・・なに1年生に言われっぱなしで、泣いてんの?
なんで・・・言い返さないの?
あたしは・・・・・・大人のはずじゃん。
・・・こんな中学生レベルの問題に、なんで巻き込まれてんの。
・・・なんで、あたしはここで泣いてんの?

―――・・・原因は、ただ一つ・・・

あの子たちの言ったことが・・・すべて、図星だった。
そして、それを見事に木村先輩に見抜かれた。


あたしは逃げてた。
とっくに気付いてたことなのに、認めたくなくて・・・向き合っていなかった。
認めてしまうのが怖かった。
いつからなんて事はわからない・・・でも、最初っから・・・あの頃から、気になっていたのかも・・・
苦手なんて言いながら、どこかで気にかけていた。
情報が入ってくるたび、耳を傾けてたし、なにかイベントがある時だって、目立つのもあったけど、勝手に視線が追いかけてた。
そして、不思議なくらい早く、あいつを見つけることができていた。
それは・・・今でも同じこと。

少しでもそれを認めると、絶対に今までのようにはできない・・・・・・距離があいてしまう。
それも向こうから・・・
そういうことだって、心のどこかではわかっていた。
わかってて、あたしは行動してたんだ。
これ以上は踏み込まないように・・・これくらいまではいいかもって・・・。

結局、あたしはあの頃とちっとも変ってない。
美樹をいじめてた時と変わってない。
自分の都合のいいように、自分が傷つかないように・・・
口が達者になっただけで、本質的には何一つ・・・

・・――卑怯――・・・

その言葉が、頭に浮かんだ。
ほんとにあの子らにとっては、あたしは卑怯者だ。

美加さんの事だって・・・相談に乗ってるみたいな、応援してるみたいな感じにしてたけど、話せることがうれしかっただけなのかも・・・
そして、彼の美加さんへの対する気持ちがわかればわかるほど、・・・少し傷ついている自分がいることもわかってた。

それでも、たまに見せてくれる気遣いとか・・・優しさとか・・・笑顔とか・・・
それに、すがってたんだ・・・・・・

あたしは・・・彼のことが・・・松井君のことが・・・―――好きで好きでたまらなくなってるんだ―――


認めちゃった・・・どうしよ・・・こんなことになるなんて・・・
・・・・・・

なんとなく、今の自分の状態に笑えてきた。
泣きながら笑うなんて、ある意味器用かも・・・

尾上先生のことだって、ありえない恋心にあきれたけど、でも今ならまだマシだったって思える。
先生は、ほんとのあたしと歳が近かったし、話してても素の自分で、大人の自分で接することができていた。
こんな状況になって、ああいう大人の男性に魅かれるのは自然なことかも・・・。

でも・・・相手が松井君ってのは・・・・・・はなっから、無理でしょ?
ありえなさすぎるわ・・・・・・下手したら犯罪でしょ?
木村先輩の時だって、そう思った。
考えることすらできなかった。

・・・・・・なに考えてんの!?
・・・ちょっと、気持ち悪いよ・・・

急に、自分の気持ちに対して冷静になってきた。


・・・やっぱ・・・今のなし・・・なしなしっ!

あたしは、濡れた頬を両手で拭い、そのままパンパンっと、叩いた。


・・・・・・部室・・・行かなくちゃ。

そして現実に戻り、あたしはその場から、やっと動いた。


嫌でも、またグラウンドの横を通り過ぎなければならない。
会いたくない人物がいっぱいいるところを・・・

あたしは走って行った。
少しでも早く、学校から抜け出したくて。

だんだん、掛け声と応援の声が聞こえてくる。
そして、その横を通り過ぎる。
部室に着き、置きっぱなしにしてあった袋を手にして鍵を閉めた。
また、小走りになって、校舎へと向かう。
鍵を返して・・・早く、帰りたいっ・・・早く・・・ここからっ・・・

「・・・あっ、おいっ!・・・・・・山田っ!!」

――!!

すぐに振り向かなかったあたしに対し、ケンちゃんは大声で名前を叫んだ。
練習中とはいえ、何人かはその声に気づき、あたしの存在にも気づいただろう。

・・・・・・っ

ほんとは聞こえないふりして行きたかったけど、こっちに向かってくるケンちゃんを無視することもできなくて、立ち止まった。

「ほんとにまだいたんだな。」
「?・・・・・・なに?」
言ってる意味がよくわかんなかったけど、とりあえず用件を聞くだけ聞いて、早くこの場から去りたかった。
「・・・おまえ・・・目どうかしたの?」

―――っっ!!

思わず手で隠した。
「――別にっ・・・ちょっと、さっきごみが入って・・・」
そんなありきたりな嘘をついた。

「・・・ふ〜ん・・・」
そう返事をするだけで、深入りはしてこない様子だ。

「・・・それよりっ・・・なに?練習中でしょ?戻んなくていいの?」
「あぁ、たった今休憩になったばっか。交代で試合やってんだよ。だから、別にいいの。」
そう言って、今行われてる試合に目をやった。

・・・いいのって・・・こっちは困るよ・・・

いつものあたしら、ちょっとした会話もできたんだろうけど・・・今は勘弁・・・
・・・絶対、さっきの1年生・・・こっち見てるよな。
ううん・・・あの子らだけじゃない・・・ケンちゃんのファンだっているだろうし、あたしの存在、気に入らないよね・・・

「なにやってんの?」
こんな時に限って、田口君までタオルで汗を拭きながらやってきた。
「もう、テニス終わってんでしょ?」
田口君はそう言いながら、周りをキョロキョロとした。
「・・・・・・きょんちゃんなら帰ったよ・・・」
あたしはボソッと言った。
「〜〜〜っ、ばっ、なに言ってんだよ!聞いてないだろ、そんなこと!」
思いっきり顔を赤くしている。

わかりやすい・・・

「ぶはははは〜、おまえの考えてることはお見通しなんだよ〜。」
ケンちゃんはそう言って、田口君の肩に手を回した。

・・・・・・なんか・・・長引きそう・・・

「・・・あたし、行くね。」
そう言って、足を進めた。
「えっ?もう?」
「・・・もうって・・・忘れ物取りに来ただけだし・・・」
「じゃあさ、もうちょっと待っててよ。」
ケンちゃんはなおもあたしを引き止めようとする。
「・・・なんで!?」
・・・ほんと、今日に限ってなんなの・・・
「リョーマがさ、呼び止めといてって言ってたから。」

―――!!

「・・・・・・なんで・・・」

さっきより、小さい声になってしまった。

「なんか、返すもんがあるって言ってたぞ。」

・・・返す物・・・?

「今部室に取り行ってんだよ。山田が部室行くの見かけたらしくてさ、引き止めといてって。休憩入ってすぐ行ったから、もう来るんじゃね・・・」
そう言いながら、ケンちゃんは向こうにある部室を眺めていた。
男子と女子の部室は離れて建っていた。
一応、思春期の年頃だからだろう。

「・・・・・・また今度でいいって言っといて・・・」
そう伝えるが早く、あたしは走って行った。
「へ?・・・えっ、おいっ・・・」
またケンちゃんが呼び止めたけど、今度は止まらなかった。
というか、止まっていられない。

今・・・このあたしが、会えるわけないじゃんっ・・・
たった今・・・好きだと認識してしまった相手の事を・・・まともになんて見れないよ・・・

急いで職員室へ行き、先生に鍵を返した。
そして、また急いで自転車を止めたところへと走って行った。

今のあたしには、暑さとか、部活の後の疲れとか、そんなもの感じることはなかった。
ただ、早く・・・一刻も早くっ・・・

自転車のかごに、すでに荷物が入っていたが、今持ってきた袋を無理矢理詰め込んだ。
そして、車輪止めを外した時だ。

・・・ザッ、ザッ、ザッ・・・
砂利道を走って来るスパイクの音がした。

それが、今最も会いたくない人物だとわかってしまう・・・

額から汗が流れてきて、自分が立ち止まっていることに気付いた・・・



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