・・・ばかみたい。 ・・・なに1年生に言われっぱなしで、泣いてんの? なんで・・・言い返さないの? あたしは・・・・・・大人のはずじゃん。 ・・・こんな中学生レベルの問題に、なんで巻き込まれてんの。 ・・・なんで、あたしはここで泣いてんの?
―――・・・原因は、ただ一つ・・・
あの子たちの言ったことが・・・すべて、図星だった。 そして、それを見事に木村先輩に見抜かれた。
あたしは逃げてた。 とっくに気付いてたことなのに、認めたくなくて・・・向き合っていなかった。 認めてしまうのが怖かった。 いつからなんて事はわからない・・・でも、最初っから・・・あの頃から、気になっていたのかも・・・ 苦手なんて言いながら、どこかで気にかけていた。 情報が入ってくるたび、耳を傾けてたし、なにかイベントがある時だって、目立つのもあったけど、勝手に視線が追いかけてた。 そして、不思議なくらい早く、あいつを見つけることができていた。 それは・・・今でも同じこと。
少しでもそれを認めると、絶対に今までのようにはできない・・・・・・距離があいてしまう。 それも向こうから・・・ そういうことだって、心のどこかではわかっていた。 わかってて、あたしは行動してたんだ。 これ以上は踏み込まないように・・・これくらいまではいいかもって・・・。
結局、あたしはあの頃とちっとも変ってない。 美樹をいじめてた時と変わってない。 自分の都合のいいように、自分が傷つかないように・・・ 口が達者になっただけで、本質的には何一つ・・・ ・・――卑怯――・・・
その言葉が、頭に浮かんだ。 ほんとにあの子らにとっては、あたしは卑怯者だ。
美加さんの事だって・・・相談に乗ってるみたいな、応援してるみたいな感じにしてたけど、話せることがうれしかっただけなのかも・・・ そして、彼の美加さんへの対する気持ちがわかればわかるほど、・・・少し傷ついている自分がいることもわかってた。
それでも、たまに見せてくれる気遣いとか・・・優しさとか・・・笑顔とか・・・ それに、すがってたんだ・・・・・・
あたしは・・・彼のことが・・・松井君のことが・・・―――好きで好きでたまらなくなってるんだ―――
認めちゃった・・・どうしよ・・・こんなことになるなんて・・・ ・・・・・・
なんとなく、今の自分の状態に笑えてきた。 泣きながら笑うなんて、ある意味器用かも・・・
尾上先生のことだって、ありえない恋心にあきれたけど、でも今ならまだマシだったって思える。 先生は、ほんとのあたしと歳が近かったし、話してても素の自分で、大人の自分で接することができていた。 こんな状況になって、ああいう大人の男性に魅かれるのは自然なことかも・・・。
でも・・・相手が松井君ってのは・・・・・・はなっから、無理でしょ? ありえなさすぎるわ・・・・・・下手したら犯罪でしょ? 木村先輩の時だって、そう思った。 考えることすらできなかった。
・・・・・・なに考えてんの!? ・・・ちょっと、気持ち悪いよ・・・
急に、自分の気持ちに対して冷静になってきた。
・・・やっぱ・・・今のなし・・・なしなしっ!
あたしは、濡れた頬を両手で拭い、そのままパンパンっと、叩いた。
・・・・・・部室・・・行かなくちゃ。
そして現実に戻り、あたしはその場から、やっと動いた。
嫌でも、またグラウンドの横を通り過ぎなければならない。 会いたくない人物がいっぱいいるところを・・・
あたしは走って行った。 少しでも早く、学校から抜け出したくて。
だんだん、掛け声と応援の声が聞こえてくる。 そして、その横を通り過ぎる。 部室に着き、置きっぱなしにしてあった袋を手にして鍵を閉めた。 また、小走りになって、校舎へと向かう。 鍵を返して・・・早く、帰りたいっ・・・早く・・・ここからっ・・・
「・・・あっ、おいっ!・・・・・・山田っ!!」
――!!
すぐに振り向かなかったあたしに対し、ケンちゃんは大声で名前を叫んだ。 練習中とはいえ、何人かはその声に気づき、あたしの存在にも気づいただろう。
・・・・・・っ
ほんとは聞こえないふりして行きたかったけど、こっちに向かってくるケンちゃんを無視することもできなくて、立ち止まった。
「ほんとにまだいたんだな。」 「?・・・・・・なに?」 言ってる意味がよくわかんなかったけど、とりあえず用件を聞くだけ聞いて、早くこの場から去りたかった。 「・・・おまえ・・・目どうかしたの?」
―――っっ!!
思わず手で隠した。 「――別にっ・・・ちょっと、さっきごみが入って・・・」 そんなありきたりな嘘をついた。
「・・・ふ〜ん・・・」 そう返事をするだけで、深入りはしてこない様子だ。
「・・・それよりっ・・・なに?練習中でしょ?戻んなくていいの?」 「あぁ、たった今休憩になったばっか。交代で試合やってんだよ。だから、別にいいの。」 そう言って、今行われてる試合に目をやった。
・・・いいのって・・・こっちは困るよ・・・
いつものあたしら、ちょっとした会話もできたんだろうけど・・・今は勘弁・・・ ・・・絶対、さっきの1年生・・・こっち見てるよな。 ううん・・・あの子らだけじゃない・・・ケンちゃんのファンだっているだろうし、あたしの存在、気に入らないよね・・・
「なにやってんの?」 こんな時に限って、田口君までタオルで汗を拭きながらやってきた。 「もう、テニス終わってんでしょ?」 田口君はそう言いながら、周りをキョロキョロとした。 「・・・・・・きょんちゃんなら帰ったよ・・・」 あたしはボソッと言った。 「〜〜〜っ、ばっ、なに言ってんだよ!聞いてないだろ、そんなこと!」 思いっきり顔を赤くしている。
わかりやすい・・・
「ぶはははは〜、おまえの考えてることはお見通しなんだよ〜。」 ケンちゃんはそう言って、田口君の肩に手を回した。
・・・・・・なんか・・・長引きそう・・・
「・・・あたし、行くね。」 そう言って、足を進めた。 「えっ?もう?」 「・・・もうって・・・忘れ物取りに来ただけだし・・・」 「じゃあさ、もうちょっと待っててよ。」 ケンちゃんはなおもあたしを引き止めようとする。 「・・・なんで!?」 ・・・ほんと、今日に限ってなんなの・・・ 「リョーマがさ、呼び止めといてって言ってたから。」
―――!!
「・・・・・・なんで・・・」
さっきより、小さい声になってしまった。
「なんか、返すもんがあるって言ってたぞ。」
・・・返す物・・・?
「今部室に取り行ってんだよ。山田が部室行くの見かけたらしくてさ、引き止めといてって。休憩入ってすぐ行ったから、もう来るんじゃね・・・」 そう言いながら、ケンちゃんは向こうにある部室を眺めていた。 男子と女子の部室は離れて建っていた。 一応、思春期の年頃だからだろう。
「・・・・・・また今度でいいって言っといて・・・」 そう伝えるが早く、あたしは走って行った。 「へ?・・・えっ、おいっ・・・」 またケンちゃんが呼び止めたけど、今度は止まらなかった。 というか、止まっていられない。
今・・・このあたしが、会えるわけないじゃんっ・・・ たった今・・・好きだと認識してしまった相手の事を・・・まともになんて見れないよ・・・
急いで職員室へ行き、先生に鍵を返した。 そして、また急いで自転車を止めたところへと走って行った。
今のあたしには、暑さとか、部活の後の疲れとか、そんなもの感じることはなかった。 ただ、早く・・・一刻も早くっ・・・
自転車のかごに、すでに荷物が入っていたが、今持ってきた袋を無理矢理詰め込んだ。 そして、車輪止めを外した時だ。
・・・ザッ、ザッ、ザッ・・・ 砂利道を走って来るスパイクの音がした。
それが、今最も会いたくない人物だとわかってしまう・・・
額から汗が流れてきて、自分が立ち止まっていることに気付いた・・・
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