あたし達は、校舎裏にやってきた。 当然、他の生徒や先生の姿は見えなかった。
ここに来るまでの間、だいたいの予想をしていた。 たいていの部活の子達は午前中で終わっているし、まだ帰ってないってことは、さっきまでグラウンドの外でサッカー部の応援していたんだろう。
この子らの目的は・・・きっと、サッカー部に所属している3人のことだろう。
ケンちゃんに田口君に松井君・・・この3人の中の誰かに関することのはずだ。
最近よく一緒に行動することがあったから、それが気にくわなかったんじゃ・・・ でも、なぜあたし・・・? 偶然見かけたから・・・?
あたしは、周りの状況からして、ここならいいだろうと思い、口を開いた。
「・・・なに?何の用?」 やや低めの声で聞いた。 すでに戦闘モードに入ってしまっていた。
前を歩いていたその子らは、立ち止まって振り返ってきた。 向こうも当然のように、戦闘モードだ。 そして、この中のリーダー的存在の子が先頭を切った。
「あのっ・・・リョーマ先輩とっ・・・どういう関係ですか!?」 「・・・っ!?・・・どういうって・・・」 ・・・松井君のことか・・・。
予想はしていたがその相手が松井君ってのが、少し引っかかった。
「・・・つきあってるんですか!?」 違う子が聞いていた。 「は!?・・・」 次から次へとあたしがまともな返事をする前に、この子らはだんだんヒートアップしている。 「・・・見たんですっ・・・祭りの時・・・」 「えっ・・・」 祭りの時ってことは・・・いつの? 自転車に乗ったこと? そういえば、みんな同じ頃に帰るときだから、誰かしら見られてたかもしれない・・・ あの時は、周りの目なんて気にもしてなかったし・・・とういうか、する余裕なかった。 とにかく、ここは冷静に切り抜けよう・・・ 「・・・あのさっ・・・なんか勘違いしてない?」 彼女らを落ち着かせるためにも、あたしまでムキになってもしょうがなく感じてきた。
「・・・なんですか?勘違いって。」 相変わらず、戦闘モードから抜けそうではない。 「・・・結果から言うと、つきあってなんかないよ・・・あたしら。」 これは、完全なる誤解だ。 きっと彼女らはちゃんとした答えを言わなくちゃ、納得しないだろう。
「・・・じゃあ・・・なんで、手繋いでたんですか?」 「・・・手?・・・・・・っ!!」
・・・あのこと・・・か? あたしが思わず松井君の腕を掴んでしまったこと・・・ あれ・・・見られてたの?
「暗かったから、はっきりとはわかんなかったんですけど・・・でも、その前に出店のとこ一緒にいたの見かけたし・・・なんか、なんでもないようには見えませんでしたけどっ!」
・・・そうか・・・掴んでいたのが、手を繋いでるように見えたんだ・・・
「・・・それはっ・・・」
言い返すつもりだった。 なんでもないって・・・ たいしたことじゃないって・・・
でも・・・なんでか、出てこなかった。
「・・・じゃあ・・・リョーマ先輩の事、どう思ってるんですか?」
――!!
「・・・どうって・・・・・・別に・・・」
「・・・・・・卑怯ですっ!」
・・・・・・え? ・・・・・・卑怯?
意味は知っているけれど、その言葉を自分に向けられたのは生れて初めてだった。
「なんとも思ってないふりして、リョーマ先輩の近くにいるなんて・・・そんなの卑怯ですっ!」 「・・・・・・」 「・・・あたしはっ・・・ちゃんと気持ち伝えました。」 最初に言ってきた子に目をやった。 「・・・当然・・・相手にもされなくふられましたけど・・・・・・でもっ・・・それでもやっぱり・・・あきらめきれないから、応援だけどもって・・・遠くからでもって・・・・・・」 少し涙ぐんでいた。 「・・・この子だけじゃないですよ・・・」 かばうように、また違う子が口を挟んできた。 「・・・今日応援来てる中にも、同じような子います・・・みんな、ちゃんと正々堂々と自分の気持ち伝えて・・・あなただけ、なんにもしないで、しかもそんな風に思ってないって嘘ついて・・・」 「ちょっ・・・嘘だなんて・・・」 思わず、そこには反応した。 「嘘じゃないですかっ!・・・さっき、見てましたよね・・・リョーマ先輩の事。」 「え・・・・・・」 また、言葉が続かなかった。 「・・・そりゃあ、自分に好意持ってないって感じたら、リョーマ先輩だって普通に接してくれますよね・・・・・・あなたは、それを利用してるんでしょ?・・・・・・卑怯ですっ!」 「・・・・・・」 「リョーマ先輩は、あなたが山下先輩の友達だから、普通に接してもらってるんじゃないんですか?幼馴染の友達だからって・・・・・・結局・・・山下先輩のことも利用してるってことじゃないですか!卑怯者!」 「・・・・・・」
・・・・・・なに、これ・・・? ・・・なんか・・・のどの奥が痛い・・・ ・・・ううん・・・息苦しい・・・ ・・・こういう感じ・・・前にも・・・ある・・・
「・・・・・・3対1なんて、それも卑怯なんじゃない?」
―――っ!!
この険悪の雰囲気とは正反対に、明るい口調で誰かが姿を現した。
あたしも含め、みんながその人へと目をやった。
・・・あ・・・
「・・・っ、木村先輩・・・」 一人の子が、場が悪そうに名前を呟いた。
「・・・もう言いたい事は言ったんでしょ?・・・そのくらいにしといたら?」 なおも明るく、さわやかな笑顔で、こっちに近づいてきた。
3人は、顔を見合わせた後、無言でその場を走り去って行った。
「・・・・・・」 「・・・・・・」
木村先輩とこうして対面するのは、あたしがはっきりとおつきあいの申し出を断って以来だ。 いきなりの告白に戸惑って、あやふやな態度のままだったので、夏休みに入る前にちゃんと断った。
「・・・・・・大丈夫?」
少し無言の後、木村先輩はまた一歩あたしに近づいた。
「あ・・・はい・・・」 あたしは、平気そうな顔をして木村先輩を見た。 だけど、目があった瞬間、見透かされそうな感じがして、すぐに体ごと横に向いた。
「・・・・・・山田さんなら、さっきの子ら、なんてことないって思ってた。」 「・・・え?」 木村先輩は、クスッと笑って続けた。 「・・・逆に言いくるめるんじゃないかって・・・そういう人だって聞いてたから。」
・・・聞いてた?・・・誰に?
心の中での質問を、木村先輩はわかったかのように答えた。
「・・・松井にね。」
――っ!!
「・・・山田さんに、その・・告白する前に・・・あいつに聞いたんだよ。どんな子かって・・・協力してって・・・」
・・・・・・
「・・・そしたら、しょっぱなから、やめた方がいいって言われてさ・・・」
・・・・・・
「・・・思ったことズバズバ言うし、言い出したら止まらないしって・・・俺には向いてないんじゃないかってさ・・・。」
・・・・・・そんなこと・・・言ってたんだ・・・
「・・・それでも、言っちゃったけどな・・・・・・聞いてた通り、はっきりとズバッとふられたけどね。」
・・・・・・
「・・・・・・さっきの子らと、こっちに行く姿見えてさ・・・なんとなく気になって追いかけたんだけど・・・・・・今そのこと後悔してる。」
・・・・・・
「・・・・・・自分の気持ちに未練があるってのもわかったし・・・山田さんの気持ちもわかった。」
――!!
「・・・でも・・・俺あきらめないから。」
木村先輩は、そう言うとグラウンドの方へと向かった。
あたしは・・・またさっきの痛みがやってきた。
のどの奥が痛い――― ・・・これは・・・涙をこらえてるせいだ・・・
そう自覚したあと、みるみるうちに目の前の視界がゆがんでいった。
ポロポロと・・・次から次へと・・・ 一度拭ったけど、それくらいじゃ治まることはなく・・・
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