・・・ヒュ〜・・・ドーンッ・・・ ・・・ヒュルヒュルヒュル〜・・・ドンドーンッ・・・
花火は相変わらず、夜空に広がっている。 黙ったままの二人だったけど、あたしは我に返り、パッと掴んだ手を離した。
「・・・ごめん・・・」 なんとなく謝り、松井君から少し距離を置いた。 そんなあたしに対し、彼は前へ向き直し、止まっていた足を動かした。 「・・・・・・あいつら、遅いって怒ってるかもな。」 その言葉に続くかのように、あたしも歩き出した。
そして、だんだんとさっきの自分の行動を思い返し、恥ずかしくなってきた。
・・・あたしってばっ・・・何やってんの!? 絶対変だって思われたよ・・・ ・・・・・・でも・・・・・・なんだろう? ほんとは、腕を掴むくらいじゃなくて・・・・・・抱きしめたくなってしまった・・・ 彼が、すごく小さく感じて・・・・・・ 身長は明らかに向こうが高いんだけど、さっきの彼は、あたしの腕の中にすっぽり収まりそうな・・・そんな風に感じてしまった・・・ ・・・・・・っっ!!・・・なに言ってんだ!? こんなこと考えてること事態おかしいでしょ!? ・・・絶対どうかしてる・・・ ・・・母性本能をくすぐられたって・・・ことなのかな・・・
松井君の後ろで、あたしは熱くなった顔を一生懸命手で仰いでいた。
「おせーぞ!!どこまで買いに行ったんだよ!」 案の定、ケンちゃんは待ちくたびれていた様子だ。 「まぁまぁ、せっかく買ってきてくれたんだし・・・いくらかかった?計算しよ?」 美樹が、両手一杯にもった荷物を、松井君から受け取りながら言った。 そして、よっぽどお腹が空いていたケンちゃんは、一番真っ先に食べ物をガッツいていた。 まだ、メインの水上花火はあげられておらず、ちょうど今から始まったみたい。 少し丘になっているところだったので、絶好の場所で見ることができた。
「・・・うわー・・・きれい・・・」 きょんちゃんはすっかり花火に見入っていた。
あたしは、なんとなく松井君から一番離れた場所に腰をおろした。 隣にまだ手をつけていない食べ物が置いてあり、それを取りに田口君がやってきた。
「・・・・・・俺さ・・・」 周りに聞こえないようなボリュームで、コソコソッと話しかけてきた。 「・・・・・・今日・・・言おうと思って・・・」 そう言った田口君の顔を見ると、ちょっと緊張気味の表情だった。 「え・・・?・・・・えっ!!」 少し考えたが、何のことかすぐにわかった。 「・・・・・・おまえら、一緒に帰んの?」 ・・・っ。 あたしは首を横に振った。 「・・・あたしは、バスで帰るから・・・向こうは、親と一緒に帰るよ・・・9時過ぎに待ち合わせしてるみたい。」 あたしもつられてコソコソと受け答えをした。 「・・・そっか・・・じゃあ・・・花火終わったら、あいつとちょっと離れていい?」 「・・・あぁ・・・うん・・・」 ・・・なんであたしに聞くんだ? 許可得てるみたいなんだけど・・・。 「・・・・・・よかった〜・・・てっきり、山田には反対されると思ってたから。」 「え?・・・あぁ・・・」 そうだった・・・前に協力してってケンちゃんに言われた時は、かなり嫌がってたもんな・・・ ・・・いつの間にか・・・この二人のこと・・・嫌じゃなくなってた。 きょんちゃんの気持ちもはっきりしてるし、今さらあたしがどうこう言うことではない。 「・・・反対されたって・・・言うべきことは言えばいいじゃん。」 「・・・そうだな・・・」 田口君は、食べ物を手に取り、元の場所・・・きょんちゃんの隣に戻って行った。
あの頃とは違う、きょんちゃんと田口君。 これから先どうなるんだろう? ・・・・・・うまくいって欲しい・・・そう素直に思えた。
「以上をもちまして、本日の夏祭りを終了させていただきます。なお、お帰りの際は・・・・」 最後のどデカイ花火が打ち終わり、アナウンスが流れだした。
「・・・あ〜あ・・・今年も夏が終わったな〜・・・」 ケンちゃんは背伸びをしながら立ち上がった。 「え〜っ?まだ8月入ったばっかだよ?」 美樹は笑いながら、ケンちゃんの発言に突っ込む。 「俺にとっては、この祭りが夏の終わりなの!・・・あぁ〜っ!!なんか切な〜いっ!!」 ケンちゃんは大声で叫んだ。 「・・・・・・近所迷惑だよ。」 ボソッと松井君が、注意した。 確かにちょっと下には、民家が何軒か建っている。 「何だよ・・・人が浸っているときに・・・」 「そろそろ戻ろっか?時間も時間だし・・・きょんちゃんも確か9時くらいだったよね、待ち合わせ。」 「うん、ちょっと遅れるかもって言ってきたけどね。今何時だろ?」 「えっとな・・・8時40分だな。」 ケンちゃんは腕時計に目をやった。
タイムリミットは、あと20分・・・いや、15分かも・・・ 密かにあたしは、焦っていた。 ここからどうやって、田口君はきょんちゃんを連れ出すんだ?
「・・・よしっ・・・じゃあ・・帰りは俺らこっちから行こうぜ。」 ケンちゃんは自然とそう仕切った。
・・・俺・・・ら?
そう思っていると、あたしと美樹の腕を引っ張って、松井君の方へと向かった。 そして、必然的にきょんちゃんと田口君が残された。
「・・・え?・・・なん・・・で?」 きょんちゃんはだんだん赤くなりながら、事の成り行きに戸惑っていた。 「いいからいいから〜。邪魔者はいなくなるから〜。さっ、いくぞ。」 先頭切って、来たときとは違う経路のほうにサッサと歩きだした。 松井君も何も言わずに、それについて行った。 「えっと・・・じゃあ、あたしらも・・・」 美樹もこの雰囲気が理解され、あたしの腕に手を組んで来て、歩きだした。 「・・・っちょっと・・・」 きょんちゃんは、なおも引き止めてみたが、あたしらは誰一人振り返ることなくその場を去ってしまった。
・・・きょんちゃん・・・今すんごい緊張してるだろうな・・・ ・・・もう一人も同じことか。 なんとなく微笑みながら、二人のその後を想像してしまった。
「ねぇねぇっ、やっぱそういう事!?田口君きょんちゃんに告白すんの!?」 二人からだいぶ離れたところで、美樹は興奮気味にケンちゃんに問いただしていた。 「・・・こんなロマンティックな夜に告白しなくて、いつすんだよ!」 ケンちゃんは、ふふんっ、といった感じで笑った。 ・・・ロマンティック・・・ケンちゃんが言うと、なんか安っぽい・・・ 「え〜っ!!マジで〜っ!!すごいすごいっ、ついにか〜。絶対きょんちゃんびっくりするだろうね〜。」 美樹は益々興奮しまくって、あたしに同意を求めてきた。 「・・・そうだね・・・」 あたしもくすくすっと笑いながら答えた。 「あぁ〜っ、早く結果聞きた〜い。今日はもう遅いから電話できないしな・・・明日部活ないんだよね?」 「あぁ、うん。日曜だしね。」 「やっぱり、直接本人の口から聞きたいから・・・月曜まで我慢するか。」 「・・・月曜学校来るの?」 「もちろんっ!!お昼には終わるんでしょ?その頃行くね。絶対それまで聞いちゃだめだよ!一緒に聞こうね!」 「くすくす・・・わかった。」 ・・・すごい楽しそう・・・ 自分の事じゃなくても、やっぱりこういうのって嬉しいよね。
「山下はねーちゃんと帰んだろ?」 ケンちゃんが時計に目をやりながら聞いてきた。 「あぁ・・・うん・・・」 美樹は少し低いトーンで答えた。 その質問に、現実問題に引き戻された感じだ。 「山田は?」 「あたし?・・・バスだよ。」 「バスって・・・臨時で出るやつか。」 この夏祭りの日だけは、臨時でバスが何台か出る。最寄りの駅から電車も臨時を出しているくらいだ。 「乗れんの?なんか毎年見てるけど、すんごい人だろ?都会の通勤電車のような。」 「あぁ・・・そうだったっけ?」 確かに他の町からも沢山の来客があって、その臨時のバス逃すと帰る手段なくなるため、みんな必死に乗ってたな・・・
「・・・そうだ・・・ねぇ、リョーマ君。自転車なんでしょ?」 美樹は何を思ったか、手をポンっと叩いて松井君に聞いた。 「え?・・・あぁ。」 「じゃあさ、智子送ってもらったら?」
・・・はっ!!??
「・・・こいつんち、南地区だろ?」 松井君は、冷静に問いただした。 「そうだけど・・・ほら、浴衣姿でそんなギューギュー混みのなか大変じゃん?自転車だったら、こっから・・・どんくらいかかる?」 美樹はあたしに聞いてきた。
「・・・いや・・・ちょっと待ってよ・・・」
・・・なんで、そうなるの!?
「・・・こっからだと・・・4、50分くらいじゃね?」 代わりにケンちゃんが答えてきた。 「・・・帰りのこと考えたら、2時間近くかかんじゃん・・・」 松井君はボソボソと言ったが、そんなこと美樹は気にもしていない様子だ。 「そんくらいなら大丈夫でしょ?日頃部活で体鍛えてんだし。おじさんにはあたしが説明しとくから。ねっ。」 美樹はニコニコと松井君の背中を押した。 「自転車取ってくれば?」 「・・・・・・人ごとかよ。」 そう呟きながらも、松井君は素直に駐輪場の方へと向かった。 ・・・ちょっとちょっとっ!!
あたしは美樹の腕を引っ張って、ケンちゃんから少し離れた。 「美樹っ!なんでそうなるの?」 あたしはすごい形相で聞いていたと思う。 「・・・ごめん・・・だって・・・そうしたがいいかなって・・・」 「えっ!?・・・」 「・・・このままみんなでバスターミナル行くと・・・またおねーちゃん会うでしょ?・・・彼氏にだって・・・。リョーマ君にとって・・・ちょっとあんまりかなって・・・」 「・・・・・・」 それはわかる。 きっとケンちゃんの事だから、松井君を道連れに、あたしらがちゃんと帰れると確認するまで見送るだろうし・・・そうしたら、嫌でもまた鉢合わせするに決まってる。 ・・・でも・・・だからって、この流れは・・・ 「ごめんっ!!・・・でも智子ならわかってくれるって思って・・・」 美樹は手を合わせながら頼んできた。
・・・・・・そんな〜・・・
「じゃあな。山田、たまには交代でこげよ。」 ケンちゃんが茶化すように言ってきた。 「・・・・・・こんなかっこで無理に決まってんでしょっ。」
松井君が自転車を取りに行ってきて戻ると、時間は9時を過ぎており、すぐさま美樹とケンちゃんはバスターミナルの方へと向かうことにした。 ケンちゃんの家はここから徒歩で数分だから、どうとでもなるみたい。
「・・・・・・」 「・・・・・・」
なんとなく二人を見送っていたが、松井君は自転車にまたがった。
「・・・・・・乗れば?」 「・・・・・・うん。」
当然足を開いてまたぐことはできないから、いわゆる横乗り状態で後ろに座った。
・・・どこに掴まればいいのやら・・・
あたしはサドルの下の方を掴んでみた。
「・・・・・・落ちてもしんないよ。」 「え・・・落ちないよ、しっかり掴まってるから・・・。」 「・・・・・・腰に掴まればいいじゃん。」 「えっ・・・・・・じゃあ・・・」 断るのもなんだし、躊躇しながらも松井君の腰のあたりの服を握った。 「・・・・・・あのさ・・・服伸びるじゃん。」 そう言うとあたしの両手を掴み、自分のお腹の前まで持っていった。
―――っっ!!
あまりにもすんなりとされたもんだから、抵抗する余地もなかった。 結果的にあたしは、松井君にしっかりと抱きついた形になっていた。 当然顔は背中に、上半身の半分は完全に密着している。 「・・・じゃあ行くぞ。」 「あ・・・うん・・・」
ペダルをこぎ始めて、風が漂う。 それが今のあたしにとっては、すごく助かった。 ・・・暑くてたまらなかったから。 気温がということもあるけど、それよりも、自分の体温が異常に熱いせいだ。 心臓の音も、彼に聞こえてしまうんじゃないかと思うくらい、鼓動が速くなっていた。
・・・このまま・・・持つか・・・あたし・・・
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