花火を見る場所は、男性軍が下調べをしてみたいで、いい穴場があったようだ。 会場から少し離れるけど、空に上がったのはもちろん、海上の花火もよく見えるらしい。
出店が並んでいる通りに来て、腹ごしらえに何かを買うことになった。 ・・・が、ここでケンちゃんが余計な案を・・・いや命令を下してきた。
「リョーマっ、山田っ。お前ら二人で買って来い!」 「「・・・は!?」」 当然納得のいかないあたし達はケンちゃんを睨んだ。 「・・・ちょっと・・・なんでよっ?」 先に文句を言ったのはあたしだった。 「そんなの決まってるだろ?俺の応援してないからだよ!」 「・・・応援って・・・してたよっ。何言ってんの?」 「いーや、してないっ。俺は舞台から見てたんだぞ!おまえら二人からの声援はまるでなかった。それどころか、リョーマっ!おまえは見てもなかっただろ?」 ケンちゃんはそう言って、松井君を指さした。
・・・確かに・・・声援・・・は、してないか・・・ 恥ずかしさが上回ったからな・・・
「・・・・・・最初っから嫌だって言ってたじゃん。それをおまえが無理矢理来いって言ったんだろ?」 当り前のように悪びれることなく松井君は答えた。 「それでもだっ!親友が頑張ってるってのに、一言くらいっ、何故声援を送らない?俺がおまえの立場なら、会場で一番のエールを送るぞ!?それが親友ってもんだろっ!?」 「・・・・・・わかったよ・・・買ってくればいいんだろ?なにがいいの?」 これ以上言っても無駄と判断した松井君は、あっさり承諾した。 「よろしいっ!コーラとたこ焼き、これは外すなよ。あとは何でもいいや。」 ケンちゃんはご機嫌になった様子だ。
・・・ちょっと待ってよ・・・あたしは? あたしもこのままだと買いに行くの? 松井君と一緒に? さっきの状況の後に?
「おまえらは?」 松井君は、他の3人にも聞いている。 「えっと・・・じゃあ、ポテト・・・」 「俺はフランクとジンジャー。」 「・・・あたしは・・・オレンジジュース。」 「・・・あとは適当に買ってくるわ・・・」 それぞれの注文を聞き、出店の方へ足を向けた。 「おーっ、場所わかってるよな?」 再度ケンちゃんは花火を見る場所を確認をした。 「あぁ・・・・・・おいっ!」 松井君は、前へ進んでいたが、付いてこないあたしの方を振り返った。 「へ・・・?」 呆然と立ち尽くすあたしは、素っとん狂な返事をした。 「・・・何やってんだよ、行くぞ。」 そう言うと、またスタスタと歩きだした。 「そうだ、山田。リョーマの様に素直に従えっ!さぁ、あいつらに任せて行こうぜ。もう始まるし。」 ケンちゃんは、立ち止まっている美樹ときょんちゃんを先へ行かせようとした。 「・・・じゃあ・・・先行ってるね・・・」 「・・・お金は後で払うから・・・」 二人とも、言いたい事は他にありそうだったけど、今はそれだけを、申し訳なさそうに告げて行った。
・・・・・・ケンちゃんっ!・・・これはキツイよ・・・
あたしは、しかたなく松井君の後をついて行った。
もうじき花火が始まるというのに、出店の通りはすごい人混みだ。 慣れない下駄を履いてるせいもあって、先へ進む松井君に遅れをとらないようにと必死だった。 その松井君があたしのペースに気遣う訳でもなく、みんながリクエストしていた品物を次々と買い、あと適当につまめるものを3種類くらい買っていた。 飲み物は、パックになっている特大Lサイズのものを3つだけ買った。 「・・・回し飲みでいいでしょ・・・」 一人一人の買っていたら、とても二人で持てる荷物にはならなかったし、それはあたしも同意した。 大抵の荷物は松井君が持って、あたしも一つだけ手提げ袋に入れられた食べ物を持たされた。
そして、買い終えたところで、とうとう花火が始まった。 それと同時に、歩いていた人たちが一斉に空を見上げ、歓声を上げた。
あたしも久しぶりの花火の音と、独特の匂いに立ち止まった。
ヒュ〜〜〜〜・・・ドーンッ・・・ ヒュルヒュルヒュル〜〜・・・ドンドーン・・・
花火が散った瞬間、暗闇の空が色々な姿に変わる。
何度見ても、何年振りに見ても、やっぱりいい・・・
「・・・おいっ・・・早く来いよ。」 数メートル先に進んでいた松井君は、立ち止まっているあたしを呼んだ。 この花火に浸っている様子はまるでない。 ・・・それとも・・・そんな気分になんて、なれないのかも・・・。
小走りで松井君の元へ駆け寄る。
「・・・そんな珍しくもないでしょ、今さら花火なんて。」 あたしが追いつくと、すぐさま先へと進み始めながらぼやいた。 「・・・珍しくは・・・ないけど・・・久しぶりなんだから、浸っていいじゃん。」 「・・・久しぶり!?・・・大袈裟な・・・」 今度はややあきれ口調だ。 「〜〜〜っ、なんでよ!だってそう思ったんだからいいでしょ!」 「・・・どうせ毎年見てたんじゃないの?」 「ここは何年かは見てないのっ!」 「・・・・・・?・・・そうなんだ・・・」
―――っっ!!・・・しまったっ・・・!! ここ何年ってのは・・・おかしいかも・・・ 少し疑問に感じたように答えた松井君の声で気付いたけど、今更言い直しても・・・ あまりにも、花火を見れた嬉しさで、本当の事をついつい言ってしまった。
だんだんと人混みの群から離れて、歩きやすくなってきた。
花火の音意外に、あたしの下駄の音が、カランコロン・・・と響くようになってきた。
さっきまで騒がしいところにいたから気にもしなかったが、今頃になって、沈黙で歩き続けている自分らが、なんとなくぎこちなく感じてきた。 そして、当然のように、さっきのことがよみがえってくる。
・・・っ・・・ブンブンっ!!
考えそうになったところを、頭を振って無理矢理やめた。
「・・・・・・どう思った?」
あたしがそんなことを思っているなんて知るよしもなく、松井君は突然質問してきた。 が、何のことを聞いているのか、主旨がわからなかった。
「・・・・・・なにが?」 素直に、率直に、聞き直した。 「・・・・・・あいつの・・・美加の男・・・」
――っっ!! 人が避けようとしていたことを・・・触れちゃいけないと思っていたことを・・・ ・・・彼はあっさりと、聞いていた。
「・・・どうって・・・」
・・・なんて答えればいいんだろう? ・・・そんなこと聞いて・・・どうするんだろう? 聞き返したい気持ちだったけど、とりあえず松井君の質問に対して答えることにした。
「・・・はっきり言って・・・ケンちゃんと同じ意見・・・」 「・・・・・・ケン?」
聞き直すと、松井君は立ち止まって、あたしの方を振り向いた。 あたしもそれに合わせ、2、3歩前で止まって話を続けた。
「・・・あんまり・・・お似合いだとは・・・正直思えなかった・・・」 「・・・・・・なんで?」 「なんでって言われても・・・別に、あの人が悪そうなんて、そんな事は思わないけど・・・むしろ、いい人そうだったし・・・その・・・もっと違う感じ想像してたっていうか・・・」 「・・・・・・すごいかっこいいやつとか?」
・・・なんだ・・・自分だって、そう思ってたんじゃん・・・
そう思いながらも、あたしは頷いた。
「・・・俺も・・・そう思ってた・・・っていうか・・・そうであって欲しかった。」 「え・・・?」
・・・そうであって欲しかった? ・・・どういう・・・こと?
「・・・・・・あんなの見せられたら・・・俺なんて・・・なおさら出る幕ないわ。」 「・・・・・・なんで?・・・・・・どういう意味?」 「・・・・・・あいつが選ぶ奴なんて、どうせ大人びてるとか、どっか鼻のつくようなかっこつけたやつとか・・・そんな風に思ってた・・・・・・でも実際は違って・・・・・・はっきり言って、見た目は俺の方がましだと思った・・・こんなこと言うと、どうせあんたは自意識過剰とか言うだろうけど・・・・・・でも・・・あいつは、あの男を選んだんだ・・・外見じゃなくて、中身を選んだんだよ・・・・・・そんなんだったら、俺なんて話にもなんないわ・・・」
松井君が話し続けている最中も、花火は変わらず上がり続けている。 そして、その度に一瞬暗闇から、花火の明かりのせいで、彼の表情が見えてくる。 少し俯きながら・・・そして半笑いしている。 ・・・だけど・・・それが、あたしにはすごく・・・すごく・・・
「・・・まぁ・・・わかってたことだけど・・・これで、あきらめが・・・っ!」
――カランコロンカランコロンっ――!
――――――――――――――
―――あたしは、考えるより先に・・・松井君の側へ近寄っていた。
そしてとっさに・・・荷物を持っていない方の手で、彼の腕を掴んでいた。
これ以上・・・無理して強がっている彼を見たくない気がして・・・。 無理をすればするほど・・・すごく悲しそうに感じて・・・。
あたしは俯いたまま、松井君の腕をしばらく離さなかった。 ・・・そして彼も、あたしの手を振りほどこうとはしなかった。
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