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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第50回   50
花火を見る場所は、男性軍が下調べをしてみたいで、いい穴場があったようだ。
会場から少し離れるけど、空に上がったのはもちろん、海上の花火もよく見えるらしい。

出店が並んでいる通りに来て、腹ごしらえに何かを買うことになった。
・・・が、ここでケンちゃんが余計な案を・・・いや命令を下してきた。

「リョーマっ、山田っ。お前ら二人で買って来い!」
「「・・・は!?」」
当然納得のいかないあたし達はケンちゃんを睨んだ。
「・・・ちょっと・・・なんでよっ?」
先に文句を言ったのはあたしだった。
「そんなの決まってるだろ?俺の応援してないからだよ!」
「・・・応援って・・・してたよっ。何言ってんの?」
「いーや、してないっ。俺は舞台から見てたんだぞ!おまえら二人からの声援はまるでなかった。それどころか、リョーマっ!おまえは見てもなかっただろ?」
ケンちゃんはそう言って、松井君を指さした。

・・・確かに・・・声援・・・は、してないか・・・
恥ずかしさが上回ったからな・・・

「・・・・・・最初っから嫌だって言ってたじゃん。それをおまえが無理矢理来いって言ったんだろ?」
当り前のように悪びれることなく松井君は答えた。
「それでもだっ!親友が頑張ってるってのに、一言くらいっ、何故声援を送らない?俺がおまえの立場なら、会場で一番のエールを送るぞ!?それが親友ってもんだろっ!?」
「・・・・・・わかったよ・・・買ってくればいいんだろ?なにがいいの?」
これ以上言っても無駄と判断した松井君は、あっさり承諾した。
「よろしいっ!コーラとたこ焼き、これは外すなよ。あとは何でもいいや。」
ケンちゃんはご機嫌になった様子だ。

・・・ちょっと待ってよ・・・あたしは?
あたしもこのままだと買いに行くの?
松井君と一緒に?
さっきの状況の後に?

「おまえらは?」
松井君は、他の3人にも聞いている。
「えっと・・・じゃあ、ポテト・・・」
「俺はフランクとジンジャー。」
「・・・あたしは・・・オレンジジュース。」
「・・・あとは適当に買ってくるわ・・・」
それぞれの注文を聞き、出店の方へ足を向けた。
「おーっ、場所わかってるよな?」
再度ケンちゃんは花火を見る場所を確認をした。
「あぁ・・・・・・おいっ!」
松井君は、前へ進んでいたが、付いてこないあたしの方を振り返った。
「へ・・・?」
呆然と立ち尽くすあたしは、素っとん狂な返事をした。
「・・・何やってんだよ、行くぞ。」
そう言うと、またスタスタと歩きだした。
「そうだ、山田。リョーマの様に素直に従えっ!さぁ、あいつらに任せて行こうぜ。もう始まるし。」
ケンちゃんは、立ち止まっている美樹ときょんちゃんを先へ行かせようとした。
「・・・じゃあ・・・先行ってるね・・・」
「・・・お金は後で払うから・・・」
二人とも、言いたい事は他にありそうだったけど、今はそれだけを、申し訳なさそうに告げて行った。

・・・・・・ケンちゃんっ!・・・これはキツイよ・・・

あたしは、しかたなく松井君の後をついて行った。


もうじき花火が始まるというのに、出店の通りはすごい人混みだ。
慣れない下駄を履いてるせいもあって、先へ進む松井君に遅れをとらないようにと必死だった。
その松井君があたしのペースに気遣う訳でもなく、みんながリクエストしていた品物を次々と買い、あと適当につまめるものを3種類くらい買っていた。
飲み物は、パックになっている特大Lサイズのものを3つだけ買った。
「・・・回し飲みでいいでしょ・・・」
一人一人の買っていたら、とても二人で持てる荷物にはならなかったし、それはあたしも同意した。
大抵の荷物は松井君が持って、あたしも一つだけ手提げ袋に入れられた食べ物を持たされた。

そして、買い終えたところで、とうとう花火が始まった。
それと同時に、歩いていた人たちが一斉に空を見上げ、歓声を上げた。

あたしも久しぶりの花火の音と、独特の匂いに立ち止まった。

ヒュ〜〜〜〜・・・ドーンッ・・・
ヒュルヒュルヒュル〜〜・・・ドンドーン・・・

花火が散った瞬間、暗闇の空が色々な姿に変わる。

何度見ても、何年振りに見ても、やっぱりいい・・・

「・・・おいっ・・・早く来いよ。」
数メートル先に進んでいた松井君は、立ち止まっているあたしを呼んだ。
この花火に浸っている様子はまるでない。
・・・それとも・・・そんな気分になんて、なれないのかも・・・。

小走りで松井君の元へ駆け寄る。

「・・・そんな珍しくもないでしょ、今さら花火なんて。」
あたしが追いつくと、すぐさま先へと進み始めながらぼやいた。
「・・・珍しくは・・・ないけど・・・久しぶりなんだから、浸っていいじゃん。」
「・・・久しぶり!?・・・大袈裟な・・・」
今度はややあきれ口調だ。
「〜〜〜っ、なんでよ!だってそう思ったんだからいいでしょ!」
「・・・どうせ毎年見てたんじゃないの?」
「ここは何年かは見てないのっ!」
「・・・・・・?・・・そうなんだ・・・」

―――っっ!!・・・しまったっ・・・!!
ここ何年ってのは・・・おかしいかも・・・
少し疑問に感じたように答えた松井君の声で気付いたけど、今更言い直しても・・・
あまりにも、花火を見れた嬉しさで、本当の事をついつい言ってしまった。

だんだんと人混みの群から離れて、歩きやすくなってきた。

花火の音意外に、あたしの下駄の音が、カランコロン・・・と響くようになってきた。

さっきまで騒がしいところにいたから気にもしなかったが、今頃になって、沈黙で歩き続けている自分らが、なんとなくぎこちなく感じてきた。
そして、当然のように、さっきのことがよみがえってくる。

・・・っ・・・ブンブンっ!!

考えそうになったところを、頭を振って無理矢理やめた。

「・・・・・・どう思った?」

あたしがそんなことを思っているなんて知るよしもなく、松井君は突然質問してきた。
が、何のことを聞いているのか、主旨がわからなかった。

「・・・・・・なにが?」
素直に、率直に、聞き直した。
「・・・・・・あいつの・・・美加の男・・・」

――っっ!!
人が避けようとしていたことを・・・触れちゃいけないと思っていたことを・・・
・・・彼はあっさりと、聞いていた。

「・・・どうって・・・」

・・・なんて答えればいいんだろう?
・・・そんなこと聞いて・・・どうするんだろう?
聞き返したい気持ちだったけど、とりあえず松井君の質問に対して答えることにした。

「・・・はっきり言って・・・ケンちゃんと同じ意見・・・」
「・・・・・・ケン?」

聞き直すと、松井君は立ち止まって、あたしの方を振り向いた。
あたしもそれに合わせ、2、3歩前で止まって話を続けた。

「・・・あんまり・・・お似合いだとは・・・正直思えなかった・・・」
「・・・・・・なんで?」
「なんでって言われても・・・別に、あの人が悪そうなんて、そんな事は思わないけど・・・むしろ、いい人そうだったし・・・その・・・もっと違う感じ想像してたっていうか・・・」
「・・・・・・すごいかっこいいやつとか?」

・・・なんだ・・・自分だって、そう思ってたんじゃん・・・

そう思いながらも、あたしは頷いた。

「・・・俺も・・・そう思ってた・・・っていうか・・・そうであって欲しかった。」
「え・・・?」

・・・そうであって欲しかった?
・・・どういう・・・こと?

「・・・・・・あんなの見せられたら・・・俺なんて・・・なおさら出る幕ないわ。」
「・・・・・・なんで?・・・・・・どういう意味?」
「・・・・・・あいつが選ぶ奴なんて、どうせ大人びてるとか、どっか鼻のつくようなかっこつけたやつとか・・・そんな風に思ってた・・・・・・でも実際は違って・・・・・・はっきり言って、見た目は俺の方がましだと思った・・・こんなこと言うと、どうせあんたは自意識過剰とか言うだろうけど・・・・・・でも・・・あいつは、あの男を選んだんだ・・・外見じゃなくて、中身を選んだんだよ・・・・・・そんなんだったら、俺なんて話にもなんないわ・・・」

松井君が話し続けている最中も、花火は変わらず上がり続けている。
そして、その度に一瞬暗闇から、花火の明かりのせいで、彼の表情が見えてくる。
少し俯きながら・・・そして半笑いしている。
・・・だけど・・・それが、あたしにはすごく・・・すごく・・・

「・・・まぁ・・・わかってたことだけど・・・これで、あきらめが・・・っ!」

――カランコロンカランコロンっ――!

――――――――――――――

―――あたしは、考えるより先に・・・松井君の側へ近寄っていた。

そしてとっさに・・・荷物を持っていない方の手で、彼の腕を掴んでいた。

これ以上・・・無理して強がっている彼を見たくない気がして・・・。
無理をすればするほど・・・すごく悲しそうに感じて・・・。

あたしは俯いたまま、松井君の腕をしばらく離さなかった。
・・・そして彼も、あたしの手を振りほどこうとはしなかった。


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