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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第49回   49
思わずあたしまで、視線を逸らしてしまった。
が、すぐに向こうから声をかけてきた。

「やっほ〜!」
その声にあたしと松井君以外が振り向いた。
「・・・おねーちゃん!・・・っ!!」
美樹は、美加さんの隣にいた男の人の存在に気づき、少し態度が変わった。
「え・・・、山下の姉貴?」
田口君がコソコソときょんちゃんに聞いていた。
「あぁ・・・うん。」
きょんちゃんも返事をしつつ、気まずそうだ。
美樹はもちろん、きょんちゃんも話で松井君の気持ちを聞いたことがあるので、この状況を気まずい雰囲気に感じている。
聞かずとも、美加さんと男の人の関係がわかってしまう。
美加さんの手は、男の人の腕に組まれていた。

「何やってんの?花火もうすぐじゃない?」
こちらとは違って、いつものように明るく振る舞う美加さん。
「あぁ・・うん・・・友達待ってて・・・もうそろそろ来ると思うんだけど・・・。」
美樹は答えながら、隣の男の人をチラチラと見ていた。
それに気付いたらしく、美加さんはさらに笑顔になって言ってきた。
「えへへへへ、驚かせようと思って黙ってたんだけど・・・」
そういうと、さらに男の人を自分の方に近づけた。
「この人、あたしの彼氏なんだ〜。」

――っ!!!

「・・・どうも・・・横井 徹です。」
美加さんの笑顔がその人の方に向けられ、照れくさそうに自己紹介をしてきた。
「・・・あ・・・どうも・・・」
確信の言葉を聞き、動揺しつつも、なんとか対応をしている美樹だった。
「美樹ったら・・・ちょっとリアクション薄くない?」
「・・・驚いてるよっ・・・・・・だって、帰って来てから何日か経つのに、そんな話してなかったから・・・。」

松井君は知ってたけど・・・美樹は知らなかったんだ。
美加さん、松井君には言ってたってこと・・・?

「だからっ、驚かすつもりで、今日まで黙ってたの!もっと違うリアクションするかと思ったのに〜、なんかつまんない。」
「つまんないって・・・だから驚いてんじゃん・・・」
「だからっ、その驚き方がちがうの!」

姉妹のやりとりは続けられていたが、あたしはチラッと、美加さんの彼氏を見た。
正直言って、二人の釣り合いがいいとは言えない。
美加さんが美人過ぎるのもあるけど、それにしても、彼氏はなんていうか、地味・・・とでもいうか、あんまりパッとしない感じだ。
美加さんの彼氏を勝手に想像していた自分が悪いんだろうけど、もっと、かっこよくて、人当たりがよくて・・・美男美女のカップルなんだろうと思ってた。

「智子ちゃんっ、この間はお茶付き合ってくれてありがとうね!」
いつの間にか、美加さんは彼氏の腕から離れて、あたしの近くに来ていた。
「あ・・いえ。こちらこそご馳走様でした。」
とりあえず、お礼を言った。
「えっと〜・・・きょんちゃん・・だったね?」
美加さんは、あたしの隣にいたきょんちゃんにも目をやった。
「あ・・はい。お久しぶりです。」
少々緊張気味に応えてる。
「久しぶり〜。智子ちゃんもだけど、きょんちゃんもすごい大人っぽくなったね〜。」
そう言って、きょんちゃんの頭のてっぺんから、足のつま先まで眺めた。
「えっ・・そんなこと、ないですよ〜。」
凝視されてることに、益々緊張と恥ずかしさが出て、きょんちゃんの顔は真っ赤になっている。それが余計に可愛らしさをかもしだしてるとは、本人は気付いてもいないけど。
「ますます可愛くなってるし絶対モテてるでしょ?・・・あっ・・・もしかして、彼氏いるとか?」
その質問に、約一名は、気が気じゃないだろう。
チラッと、その人物に目をやる。
きょんちゃんから出る言葉を、息を呑みこむように待っている感じだ。

「いませんよっ!・・・それに、モテないですってば・・・。」
必死に否定しているが、美加さんには通じてないようだ。
「またまた〜、謙遜しちゃって〜。」
そんなきょんちゃんを救ったのは美樹だった。
「もう〜、おねーちゃんしつこいよ。きょんちゃん困ってんじゃん。」
「・・・はいはい、わかりました〜。」
ちょっとすねた感じで、美加さんは美樹の方へ戻った。

「わり〜わり〜っ、お待たせっ。」
そこへ、着替え終えたケンちゃんが走って来た。
「いや〜、なんかインタビューとかされちゃってよ〜。今度の広報に俺載ってるかも。」
こちらの状況とはうって変わって、超ご機嫌の様子だ。
「・・・ん?・・・だれ?」
見知らぬ二人の存在に、今気付いたようだ。
「こんばんは。美樹の姉です。と、あたしの彼氏ね。」
「あ・・・こんばんは・・・野村です。」
ケンちゃんも美加さんの美貌に少し戸惑ってる様子だ。
まぁ、誰だってそうなるようね。
「野村君ってことは・・・ケンちゃん?」
美加さんは思い出しながら、ケンちゃんを指さした。
「あ・・はい・・・」
「じゃあ・・そっちの彼は、田口君?」
「え・・あ・・はい。」
突然のふりに、田口君も少し戸惑った感じだ。
「そっかそっか〜、最近美樹と仲良くさせてもらってるみたいだね。話の中に出てくる男の子って、あなた達とリョーマぐらいだからさ。」
「え、いやぁ、おねーさんに名前知っててもらえたなんて光栄ですよ〜。」
・・・さすがケンちゃん。
受け答えが上手いわ。
「くすくすっ、聞いていた通りで面白いね、ケンちゃんって。」
美加さんもそんなケンちゃんに対して好印象もったみたい。
「・・・っ、おねーちゃんっ、いいの?あたしらとこんな話してて・・・彼氏さん待ってるじゃん。」
少し小声になりながら、美樹は群から少し離れた所にいる彼に目をやった。
「はいはい、わかったわよ・・・あっ、帰り一緒に帰ろう?彼車で来たからさ。」
「えっ!?・・・いいよ・・・邪魔になるし・・・」
「何言ってんの?そんなこと気にしなくてもいいよ。彼優しいからそこんとこ理解してくれるし。」

・・・・・・まるでおのろけにも聞こえてしまう・・・そうなんだろうけど。
美加さんは、ほんとにあの人のこと、好きなんだ。
・・・って、当り前か・・・つきあってんだしね。

「・・・そうだ、リョーマっ。」
ずっと隅っこでベンチに座っている松井君に、美加さんは声をかけた。
「・・・・・・。」
返事をすることなく、美加さんの方を向いた。
「・・・あんたも一緒にどう?」

―――っっ!!
・・・よりによって・・・そんなこと、聞くなんて・・・。

あたしら女子は、皆同じことを思っているだろう。

「・・・・・・いいよ・・・俺、チャリで来たし。」
いつものように、無愛想で答えた。
「あっそ・・・じゃあ美樹、花火終わったら、ここに来てね。だいたい・・・9時くらいかな。あたし達がくるまで、変な人に付いて行っちゃだめよ。」
「そんな、子供じゃないんだからっ。わかってるよ。」
「子供でしょ、十分・・・じゃあ後でね。」

・・・子供・・・十分・・・
その言葉が、やけに引っかかった。
なんとなく・・・わざと言ってるような気がして・・・。

「・・・智子ちゃんっ。」
バスターミナルから出かかった美加さんに、手招きされた。

・・・?

不思議に思いながら、あたしは美加さんの側へ行った。
「・・・なんですか?」
「そういえば・・・」
少し小声になりながら、美加さんはあたしに近づいてきた。
「・・・仲直りした?」
「・・・は?」
「あいつとよ。」
そう言いながら、そっぽを向いている松井君の事を見た。
「え・・あぁ・・まぁ、仲直りなんて言うまでもないんですけど。元々そんな仲良しでもないですし・・・。」
「・・・愛想つかさないでね。」
「え・・・?」
「・・・あんな性格だけど、根はいい奴だから。」

・・・・・・どういう・・・意味?

「・・・あたしの勘なんだけど・・・智子ちゃんとあいつ、結構気が合うと思うんだ。」
「・・・は!?」
「リョーマが思ってることズバズバ言えるのって、そうそうないことだし。美樹からも、二人がよく衝突してるって聞いたことあって、なおさらそうじゃないかと思えてきたの。」
「・・・っ!それはっ・・・違いますよ・・・」
少し声が大きくなりそうになったが、後ろのみんなに聞こえないよう小声で否定した。
「・・・確かに・・衝突はしてるけど・・・でも、ほんとそういうんじゃなくて・・・」

・・・なんて言ったらいいんだろう?
よりによって、美加さんがそんな風に誤解してるなんて・・・。
松井君の・・・彼の気持ちは、ずっとずっと美加さんなのに・・・。
痛いくらい、彼の気持ちを知っているからこそ、この誤解を解きたいのに・・・っ。

続きが出てこないあたしに対して、美加さんはニッコリ笑って言った。

「・・・・・・あたしじゃダメなんだ・・・」

・・・・・・え?

俯いていた顔を、思わず美加さんに向けた。
あたしの表情を見て、さらに続けた。

「・・・なんとなく、この間お茶した時、智子ちゃんなら気付いてると思って・・・あいつの気持ち。」

「・・・美加さん・・・知ってて・・・?」

コクン・・・
そう頷くと、またニッコリと笑った。

「・・・あたしにとって、あいつは弟みたいなもんだから。この関係壊したくないの。」
「・・・・・・」
「・・・だからって、無理矢理智子ちゃんとくっつけようなんて思ってないよ。智子ちゃんの気持ちだってあるだろうし・・・ただ・・・もし、そういう風に思ってくれたらいいなって・・・・・・なんか、あたし母親みたいだね。」
そう言って、照れくさそうに笑った。
「・・・・・・」

「・・・おねーちゃんっ!!まだ〜?」
向こうから美樹が叫んでいる。
「ごめんごめんっ、もう終わるからっ!!」
そう言い返し、再びあたしの方を見た。
「・・・いきなりでごめんね。まぁ、美樹もだけど、リョーマともこれから仲良くしてね。じゃあまたね。」
美加さんは、あたしの肩をポンっと叩いてから、待たせていた彼氏の方へ走って行った。

・・・・・・わからない・・・あたしには・・・美加さんの気持ちが、わからない。
この先の二人の結果を知っているからか、この美加さんの言動が理解できなかった。
・・・本音でいってるんだろうか?
・・・松井君のことは、そういう風にはみれないって・・・
今はそうでも、この先はわからないんじゃない?
・・・それとも、わざと突き放してるとか・・・?

一気にいろんなことを考えてみたが、どうにもまとまりそうではなかった。

「なんだって?おねーちゃん。」
固まりかけていたあたしに美樹が駆け寄ってきた。
「えっ・・・いやぁ・・・その・・・」
あとのみんなもこちらへ向かってきた。

・・・なんて言おう・・・?

「・・・これからも・・・美樹と、仲良くねって・・・」
・・・嘘ではないな・・・
自問自答しながら答えた。
「んもうっ!すぐそうやって世話焼くんだからっ。」
「まぁまぁ、おねーさんも山下のこと心配なんだろ?っていうか、あんな美人のねーちゃんいたなんてびっくりするじゃん!」
ケンちゃんは、行ってしまった姿を追いかけていた。
「・・・・・・そんなびっくりするほどでもないでしょ?」
美樹は軽くあしらった。
「いやいやっ、あんな美人そこら辺にはいないっしょ?でも、それと同時にあの彼氏にもびっくりだわ〜。まるで釣り合ってないじゃん・・・あれ?そういえば、おねーさんリョーマのこと呼び捨てだったな・・・そっか・・・山下と幼馴染なんだから呼び捨てでもおかしくないか。いいなぁ〜、俺も呼ばれてぇ〜!!」

・・・またこいつは思った事をズバズバと・・・訳わかんないことも言って。
こっちはヒヤヒヤもんなんだけど・・・。


「・・・・・それよりっ、早く場所取り行こうよ。花火始まっちゃうよ。」
美樹は、先へと進んだ。
確かに時刻は、8時10分前になっていたが、それよりも早くこの話題から離れたい様子だ。
「おっ、そうだな・・・おいっ、リョーマっ。行くぞ!」
ケンちゃんはまだベンチに座ったままの松井君に声をかけた。
「・・・・・・」
いつもの無表情のまま、こちらに向かってきた。

なんとなく・・・松井君の顔を、それ以上見ることができなかった。


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