思わずあたしまで、視線を逸らしてしまった。 が、すぐに向こうから声をかけてきた。
「やっほ〜!」 その声にあたしと松井君以外が振り向いた。 「・・・おねーちゃん!・・・っ!!」 美樹は、美加さんの隣にいた男の人の存在に気づき、少し態度が変わった。 「え・・・、山下の姉貴?」 田口君がコソコソときょんちゃんに聞いていた。 「あぁ・・・うん。」 きょんちゃんも返事をしつつ、気まずそうだ。 美樹はもちろん、きょんちゃんも話で松井君の気持ちを聞いたことがあるので、この状況を気まずい雰囲気に感じている。 聞かずとも、美加さんと男の人の関係がわかってしまう。 美加さんの手は、男の人の腕に組まれていた。
「何やってんの?花火もうすぐじゃない?」 こちらとは違って、いつものように明るく振る舞う美加さん。 「あぁ・・うん・・・友達待ってて・・・もうそろそろ来ると思うんだけど・・・。」 美樹は答えながら、隣の男の人をチラチラと見ていた。 それに気付いたらしく、美加さんはさらに笑顔になって言ってきた。 「えへへへへ、驚かせようと思って黙ってたんだけど・・・」 そういうと、さらに男の人を自分の方に近づけた。 「この人、あたしの彼氏なんだ〜。」
――っ!!!
「・・・どうも・・・横井 徹です。」 美加さんの笑顔がその人の方に向けられ、照れくさそうに自己紹介をしてきた。 「・・・あ・・・どうも・・・」 確信の言葉を聞き、動揺しつつも、なんとか対応をしている美樹だった。 「美樹ったら・・・ちょっとリアクション薄くない?」 「・・・驚いてるよっ・・・・・・だって、帰って来てから何日か経つのに、そんな話してなかったから・・・。」
松井君は知ってたけど・・・美樹は知らなかったんだ。 美加さん、松井君には言ってたってこと・・・?
「だからっ、驚かすつもりで、今日まで黙ってたの!もっと違うリアクションするかと思ったのに〜、なんかつまんない。」 「つまんないって・・・だから驚いてんじゃん・・・」 「だからっ、その驚き方がちがうの!」
姉妹のやりとりは続けられていたが、あたしはチラッと、美加さんの彼氏を見た。 正直言って、二人の釣り合いがいいとは言えない。 美加さんが美人過ぎるのもあるけど、それにしても、彼氏はなんていうか、地味・・・とでもいうか、あんまりパッとしない感じだ。 美加さんの彼氏を勝手に想像していた自分が悪いんだろうけど、もっと、かっこよくて、人当たりがよくて・・・美男美女のカップルなんだろうと思ってた。
「智子ちゃんっ、この間はお茶付き合ってくれてありがとうね!」 いつの間にか、美加さんは彼氏の腕から離れて、あたしの近くに来ていた。 「あ・・いえ。こちらこそご馳走様でした。」 とりあえず、お礼を言った。 「えっと〜・・・きょんちゃん・・だったね?」 美加さんは、あたしの隣にいたきょんちゃんにも目をやった。 「あ・・はい。お久しぶりです。」 少々緊張気味に応えてる。 「久しぶり〜。智子ちゃんもだけど、きょんちゃんもすごい大人っぽくなったね〜。」 そう言って、きょんちゃんの頭のてっぺんから、足のつま先まで眺めた。 「えっ・・そんなこと、ないですよ〜。」 凝視されてることに、益々緊張と恥ずかしさが出て、きょんちゃんの顔は真っ赤になっている。それが余計に可愛らしさをかもしだしてるとは、本人は気付いてもいないけど。 「ますます可愛くなってるし絶対モテてるでしょ?・・・あっ・・・もしかして、彼氏いるとか?」 その質問に、約一名は、気が気じゃないだろう。 チラッと、その人物に目をやる。 きょんちゃんから出る言葉を、息を呑みこむように待っている感じだ。
「いませんよっ!・・・それに、モテないですってば・・・。」 必死に否定しているが、美加さんには通じてないようだ。 「またまた〜、謙遜しちゃって〜。」 そんなきょんちゃんを救ったのは美樹だった。 「もう〜、おねーちゃんしつこいよ。きょんちゃん困ってんじゃん。」 「・・・はいはい、わかりました〜。」 ちょっとすねた感じで、美加さんは美樹の方へ戻った。
「わり〜わり〜っ、お待たせっ。」 そこへ、着替え終えたケンちゃんが走って来た。 「いや〜、なんかインタビューとかされちゃってよ〜。今度の広報に俺載ってるかも。」 こちらの状況とはうって変わって、超ご機嫌の様子だ。 「・・・ん?・・・だれ?」 見知らぬ二人の存在に、今気付いたようだ。 「こんばんは。美樹の姉です。と、あたしの彼氏ね。」 「あ・・・こんばんは・・・野村です。」 ケンちゃんも美加さんの美貌に少し戸惑ってる様子だ。 まぁ、誰だってそうなるようね。 「野村君ってことは・・・ケンちゃん?」 美加さんは思い出しながら、ケンちゃんを指さした。 「あ・・はい・・・」 「じゃあ・・そっちの彼は、田口君?」 「え・・あ・・はい。」 突然のふりに、田口君も少し戸惑った感じだ。 「そっかそっか〜、最近美樹と仲良くさせてもらってるみたいだね。話の中に出てくる男の子って、あなた達とリョーマぐらいだからさ。」 「え、いやぁ、おねーさんに名前知っててもらえたなんて光栄ですよ〜。」 ・・・さすがケンちゃん。 受け答えが上手いわ。 「くすくすっ、聞いていた通りで面白いね、ケンちゃんって。」 美加さんもそんなケンちゃんに対して好印象もったみたい。 「・・・っ、おねーちゃんっ、いいの?あたしらとこんな話してて・・・彼氏さん待ってるじゃん。」 少し小声になりながら、美樹は群から少し離れた所にいる彼に目をやった。 「はいはい、わかったわよ・・・あっ、帰り一緒に帰ろう?彼車で来たからさ。」 「えっ!?・・・いいよ・・・邪魔になるし・・・」 「何言ってんの?そんなこと気にしなくてもいいよ。彼優しいからそこんとこ理解してくれるし。」
・・・・・・まるでおのろけにも聞こえてしまう・・・そうなんだろうけど。 美加さんは、ほんとにあの人のこと、好きなんだ。 ・・・って、当り前か・・・つきあってんだしね。
「・・・そうだ、リョーマっ。」 ずっと隅っこでベンチに座っている松井君に、美加さんは声をかけた。 「・・・・・・。」 返事をすることなく、美加さんの方を向いた。 「・・・あんたも一緒にどう?」
―――っっ!! ・・・よりによって・・・そんなこと、聞くなんて・・・。
あたしら女子は、皆同じことを思っているだろう。
「・・・・・・いいよ・・・俺、チャリで来たし。」 いつものように、無愛想で答えた。 「あっそ・・・じゃあ美樹、花火終わったら、ここに来てね。だいたい・・・9時くらいかな。あたし達がくるまで、変な人に付いて行っちゃだめよ。」 「そんな、子供じゃないんだからっ。わかってるよ。」 「子供でしょ、十分・・・じゃあ後でね。」
・・・子供・・・十分・・・ その言葉が、やけに引っかかった。 なんとなく・・・わざと言ってるような気がして・・・。
「・・・智子ちゃんっ。」 バスターミナルから出かかった美加さんに、手招きされた。
・・・?
不思議に思いながら、あたしは美加さんの側へ行った。 「・・・なんですか?」 「そういえば・・・」 少し小声になりながら、美加さんはあたしに近づいてきた。 「・・・仲直りした?」 「・・・は?」 「あいつとよ。」 そう言いながら、そっぽを向いている松井君の事を見た。 「え・・あぁ・・まぁ、仲直りなんて言うまでもないんですけど。元々そんな仲良しでもないですし・・・。」 「・・・愛想つかさないでね。」 「え・・・?」 「・・・あんな性格だけど、根はいい奴だから。」
・・・・・・どういう・・・意味?
「・・・あたしの勘なんだけど・・・智子ちゃんとあいつ、結構気が合うと思うんだ。」 「・・・は!?」 「リョーマが思ってることズバズバ言えるのって、そうそうないことだし。美樹からも、二人がよく衝突してるって聞いたことあって、なおさらそうじゃないかと思えてきたの。」 「・・・っ!それはっ・・・違いますよ・・・」 少し声が大きくなりそうになったが、後ろのみんなに聞こえないよう小声で否定した。 「・・・確かに・・衝突はしてるけど・・・でも、ほんとそういうんじゃなくて・・・」
・・・なんて言ったらいいんだろう? よりによって、美加さんがそんな風に誤解してるなんて・・・。 松井君の・・・彼の気持ちは、ずっとずっと美加さんなのに・・・。 痛いくらい、彼の気持ちを知っているからこそ、この誤解を解きたいのに・・・っ。
続きが出てこないあたしに対して、美加さんはニッコリ笑って言った。
「・・・・・・あたしじゃダメなんだ・・・」
・・・・・・え?
俯いていた顔を、思わず美加さんに向けた。 あたしの表情を見て、さらに続けた。
「・・・なんとなく、この間お茶した時、智子ちゃんなら気付いてると思って・・・あいつの気持ち。」
「・・・美加さん・・・知ってて・・・?」
コクン・・・ そう頷くと、またニッコリと笑った。
「・・・あたしにとって、あいつは弟みたいなもんだから。この関係壊したくないの。」 「・・・・・・」 「・・・だからって、無理矢理智子ちゃんとくっつけようなんて思ってないよ。智子ちゃんの気持ちだってあるだろうし・・・ただ・・・もし、そういう風に思ってくれたらいいなって・・・・・・なんか、あたし母親みたいだね。」 そう言って、照れくさそうに笑った。 「・・・・・・」
「・・・おねーちゃんっ!!まだ〜?」 向こうから美樹が叫んでいる。 「ごめんごめんっ、もう終わるからっ!!」 そう言い返し、再びあたしの方を見た。 「・・・いきなりでごめんね。まぁ、美樹もだけど、リョーマともこれから仲良くしてね。じゃあまたね。」 美加さんは、あたしの肩をポンっと叩いてから、待たせていた彼氏の方へ走って行った。
・・・・・・わからない・・・あたしには・・・美加さんの気持ちが、わからない。 この先の二人の結果を知っているからか、この美加さんの言動が理解できなかった。 ・・・本音でいってるんだろうか? ・・・松井君のことは、そういう風にはみれないって・・・ 今はそうでも、この先はわからないんじゃない? ・・・それとも、わざと突き放してるとか・・・?
一気にいろんなことを考えてみたが、どうにもまとまりそうではなかった。
「なんだって?おねーちゃん。」 固まりかけていたあたしに美樹が駆け寄ってきた。 「えっ・・・いやぁ・・・その・・・」 あとのみんなもこちらへ向かってきた。
・・・なんて言おう・・・?
「・・・これからも・・・美樹と、仲良くねって・・・」 ・・・嘘ではないな・・・ 自問自答しながら答えた。 「んもうっ!すぐそうやって世話焼くんだからっ。」 「まぁまぁ、おねーさんも山下のこと心配なんだろ?っていうか、あんな美人のねーちゃんいたなんてびっくりするじゃん!」 ケンちゃんは、行ってしまった姿を追いかけていた。 「・・・・・・そんなびっくりするほどでもないでしょ?」 美樹は軽くあしらった。 「いやいやっ、あんな美人そこら辺にはいないっしょ?でも、それと同時にあの彼氏にもびっくりだわ〜。まるで釣り合ってないじゃん・・・あれ?そういえば、おねーさんリョーマのこと呼び捨てだったな・・・そっか・・・山下と幼馴染なんだから呼び捨てでもおかしくないか。いいなぁ〜、俺も呼ばれてぇ〜!!」
・・・またこいつは思った事をズバズバと・・・訳わかんないことも言って。 こっちはヒヤヒヤもんなんだけど・・・。
「・・・・・それよりっ、早く場所取り行こうよ。花火始まっちゃうよ。」 美樹は、先へと進んだ。 確かに時刻は、8時10分前になっていたが、それよりも早くこの話題から離れたい様子だ。 「おっ、そうだな・・・おいっ、リョーマっ。行くぞ!」 ケンちゃんはまだベンチに座ったままの松井君に声をかけた。 「・・・・・・」 いつもの無表情のまま、こちらに向かってきた。
なんとなく・・・松井君の顔を、それ以上見ることができなかった。
|
|