夏祭り当日。
あたしらは、会場近くのバスターミナルで待ち合わせした。
「お〜いっ、こっちこっち〜。」 ケンちゃんが派手な衣装で、出迎える。
・・・大会、あの恰好で出るの?
一昔前の、アイドルっぽい衣装だ。 頭には、キラキラのハチマキ。 腕からは、ヒラヒラとのれんのような感じで、細く裂かれたビニール紐がつけられていた。
「お〜っ、3人とも浴衣似合ってんじゃん。」
みんなで浴衣にしようと合わせてきた。 美樹ときょんちゃんは、髪の毛が長いのでアップしてるから、いつもより大人っぽい。 あたしはショートからやっとボブまで伸びた髪型を、和風のヘアーピンで前髪を止めるのくらいだった。まぁ、首からは上は、たいして普段と変わりなく・・・。
「やっぱ、女って、衣装違うと変わるな〜。なぁっ。」 隣でポ〜っとしている田口君に相槌を打った。 「えっ・・・あぁ・・・そうだな・・・」 なんとか返事はできてたものの、傍から見て丸分かりのように、きょんちゃんに見惚れていた。
・・・口からよだれでも出すの?
「ケンちゃんこそ・・・なに、その格好?・・・手作り?この辺とか・・・。」 美樹はそう言って、ビニール紐を引っ張った。 「あーっ!!引っ張んなよー。テープで止めてるから取れやすいんだよ。せめて歌い終わるまではもっててもらわなきゃ。」 「・・・そう・・・頑張ってね・・・」 きっと、応援するのが恥ずかしくなってきてるに違いない。 「・・・ケン。出場者集まれって・・・打ち合わせするからって・・・。」 松井君が、放送が流れてたのを聞いてたらしく、ケンちゃんに伝えた。 「おー、わかった。」 「カラオケ大会、何時からなの?」 美樹が壁掛の時計に目をやった。 「6時からだよ。」 「じゃあ・・・もうそのまま向こうにいなくちゃかもだね。」 時刻は、5時半を回っていた。 「だろうな。まぁ、ちょっくら行ってくるわ。」 ケンちゃんは気合を入れた。 「そういえば、順番は?」 「ふふふふっ・・・ラッキーセブンの7番だ!ではっ、行ってくるぜいっ!!」 ビニール紐をヒラヒラとなびかせながら、走って行った。 「頑張ってね〜。」 「羽目外し過ぎんなよ〜。」 みんなの声援に手を振りながら、集合場所へと向かった。
「・・・まぁ、うちらも頑張って応援するか。場所取りに行く?」 「そうだな。意外に込みそうだし。」 残りの5人で、カラオケ大会の客席へと向かった。
老若男女問わず、すごい人だ。 あたしらは、なるべく前の方に座った。
そして、大会が始まった。 ケンちゃんの格好に負けず劣らずの衣装で、歌う人は結構いるみたい。 一歩間違えれば、仮装大賞にもなるんじゃ・・・そんな感じだ。 どんどん進み、いよいよ我らがケンちゃんの登場だ。
「キャーッ!!野村センパ〜イ!!」 「頑張ってーっ!!」
――っ!!
あたしらの声援より先にちょっと後ろの方から、黄色い声援が聞こえてきた。 思わず、そっちの方を見ると、同じ学校の1年生らしき集団があった。 5、6人くらいはいるだろうか? ボンボンまで振って、ほんとにアイドルの応援みたいだ。
「なに?あの子らケンちゃんのファンなの?」 美樹が驚きながら、聞いてきた。 「・・・どうせ、出場すること、みんなに言いまくってたんじゃねーの?物好きな奴もいるな〜。」 田口君が、あきれながら答えた。 「ふ〜ん・・・でも、すごいね・・・」 きょんちゃんは半分感心していた。 「よ〜っし、あたしらも応援するよ〜っ・・・ケンちゃ〜んっっ!!ファイトーっ!!」 1年生に負けじと、美樹が声援を送った。 黄色い声援の子たちに手を振って応えていたけど、美樹の声に気づき、すぐこっちにも手を振ってきた。 田口君ときょんちゃんも美樹に続いた。 「ケ〜ン!!優勝あるのみ〜っ!!」 「ケンちゃ〜ん!!頑張れ〜っ!!」
あたしはというと・・・なんとなく、この声援合戦が目立ってきたので、恥ずかしくなってきた。 人の目を気にしてしまうなんて・・・やっぱ、歳のせいか?
松井君の方に目をやると、はなっから応援する気はなく、あぐらをかいて、頬杖をついていた。
まぁ・・・松井君が、張り切って、応援する訳ないか・・・
なんだかんだで、曲が流れだし、ケンちゃんが歌い出した。 これもまた、一昔前の・・・いや・・・これはこの当時の歌だ。 衣装とはまるでジャンルの違う、CHAGE & ASKAの「YAH YAH YAH」。 ドラマの主題歌だったやつで、売れてたもんなぁ。 懐かしくイントロを聞いていたが、歌い出したケンちゃんの歌声を、思わず聞き入ってしまった。
・・・・・・うまい・・・うまいじゃん・・・!!
意外に上手な歌声に、びっくりした。 あたしだけじゃなく、美樹もきょんちゃんも・・・ きっと会場にいる誰もが、あの恰好からは想像できない歌声に聞き入っていた。 そして、サビに近づいて、手拍子が誰からともなく始まった。 会場全体が、ケンちゃんの歌に盛り上がっていた。 それに合わせケンちゃんも絶好調のようだ。 自分流の振付を披露して、ステージ上をフルに使っている。 ちょっとしたライブみたい。
スタンディングオペレーション並みの拍手で、ケンちゃんの出番は終わった。 そして、結果は当然のように優勝。 賞品として、この町の商店街で使える商品券10000円分。 ・・・まぁ、地元ならではだし、中学生にとっては高額の賞品になるだろう。
メインイベントも終わり、あとは8時から始まる花火待ちだ。 ケンちゃんの衣装替えのため、あたしらは再びバスターミナルで待っていた。 さすがにあのままの恰好でずっといるのも大変みたいだし・・・。 ここならトイレもあるし、ベンチもあるし、休憩している人も結構いた。
「ケンちゃんがあんな歌上手いとは思わなかった〜。リョーマ君も田口君も知ってたの?さほど驚いてなかったってことは。」 「まぁね〜、あいつ小学校んときの合唱コンクールでソロ任されてたし。」 ケンちゃんと田口君は同じ小学校出身で北地区だ。 「へ〜・・・でも・・・音楽の授業の時とか、上手だってことわかんなかったな〜・・・」 きょんちゃんが思い返してみる。 「まぁ、中学になったら授業の為に本気は出してないんじゃないの?」 「なんで?絶対あんだけうまかったら、成績いいんじゃない?ほら、うちってコーラス部に力入れてるから、引き抜きだってあるし、そういう子って先生に気に入られてるから、成績もいいらしいよ。」 美樹は、よっぽどケンちゃんの歌声に惚れ込んだみたい。 「・・・それが嫌なんじゃない?」 「え?」 松井君が、口を挟んできた。 「本気で歌うことが恥ずかしいってのもあるだろうけど、コーラス部なんて入らないだろ?あいつにはサッカーがあるんだし。」 サッカーか・・・。 この3人はサッカーで強く繋がってる部分が大きいもんな。 そんな事を思いながら松井君に目をやっていたが、何気にバスターミナルの外を見ていた彼の視線が変わった。 一瞬目を見開いたが、すぐにその先から視線が外された。
・・・?
なんだろうと思い、あたしは松井君が見ていた方向に目を移した。
――っっ!! ・・・・・・美加さんだ。 ・・・隣には・・・知らない男の人。
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