「「お疲れ様でした―!!」」 「1年生!今日はコート整備念入りにね!」 「はーい。」
今日の部活は終わった。 ほんと毎日毎日、嫌になるくらいの晴天気。 日差しも痛いくらい・・・。
きょんちゃんと水道場に顔を洗いに行った。 日焼け止めをたっぷり塗っていたから、しっかり落とさなきゃ。 というか、もう汗で落ちてるな。
「ぷは〜っ・・・気持ちぃ〜・・・」 「・・・今日も疲れたね〜・・・清田でかき氷食べた〜い・・・」 「いいねぇ〜・・・行こっか。」 「うんっ、行こう行こう!」
学校から下って、すぐのバス停の前に、清田商店という、田舎にはありがちの店があった。 今で言ったら、コンビニ代わりの店だ。 24時間ではないけれど・・・ 部活帰りの生徒は、たいていここで腹ごしらえをしていた。
ジャージ姿のまま、店に向かったが、早速先客がいた。 店内に簡易のテーブルと椅子があったので、ここで飲食することもできる。 今日みたいな暑い日に、涼しい店内で食べたいのはみんな同じだ。
バレー部の人たちが4人いたが、端っこが空いていたので座らせてもらった。 あたし達の後にも次から次へと、生徒たちが入ってくる。 もう少し遅かったら、炎天下の下で食べる羽目になっていただろう。
かき氷を半分くらい食べたところで、夏休みに入ってから、会っていない姿と声がした。 「やっぱり〜、ここにいた〜。」 「えっ!!美樹!?どうしたの?」 店の入り口から入ったところだ。 美樹は部活には入っていないから、夏休みに学校に来る事なんてなかった。 当然、私服姿だし。
「えへへ、ヒマだったから遊びに来たんだ。でも、学校で二人の姿なかったからもう帰っちゃったかと思ってさ〜。」 「よくわかったね〜、ここにいるって。」 「うんっ、聞いたんだ。」 「・・・誰に?」
あたしときょんちゃんが不思議に思っていると、見慣れたメンバーが入ってきた。
「おっ、やっぱいただろう?どうせなんか食ってると思ったよ。」 ・・・げっ・・・ ケンちゃんだ。その後ろに田口君、そして、あの日以来顔を合わせてなかった松井君だ。
あたしの反応とは違って、きょんちゃんは少しうれしそう。 ・・・田口君・・・いるもんね・・・ 認めたくない現実だ。
「・・・自分らだって、何か食べたいんでしょ。」 あたしは、溶けてきたかき氷をストローでズズズーっと飲みながら、言い返した。 「あったり前じゃん!おまえらテニス部と違って、体力の消耗がハンパじゃないんだよ、サッカー部は!」 「・・・あっそ。」 「さぁて、何にしよっかな〜・・・」
ケンちゃんは店内をウロウロしだした。 それに続いて田口君も足を進めたが、その時、きょんちゃんと目があったらしく、「お疲れ」とボソッと言ったのが、あたしにも聞こえた。 とっさにきょんちゃんに目をやると、案の定赤くなって、コクンとだけうなづいている姿が見えた。
・・・おいおいおい・・・ほんとに!?
また信じられない光景を目にしてしまったよ。
田口君の後ろにいた松井君には、一切目を向けなかった。 まだこの間のことは、根に持ってるし・・・向こうもそうかもな。
「あっ、そうだ!智子、この間の日曜日、おねーちゃんに会ったんだって?」 「えっ・・・あぁ・・・うん。」 思わず見たくないはずの松井君に目をやった。 買う物を選んでるみたいで、こっちには気にもしてない様子だ。 「え〜?そうなの?」 きょんちゃんもさっきの余韻はなくなり、会話に入ってきた。 「・・・うん、ほんと偶然で、びっくりしたよ。おごってもらったしさ。またお礼言っといてよ。」 「ううん、いいのいいの!どうせおねーちゃんが無理矢理誘ったんでしょ?」 「・・・いやぁ・・・」 ・・・そうです、とはいいにくいなぁ・・・ 「・・・それからさ・・・」 美樹は少し小さめの声になった。 それに合わせ、あたしときょんちゃんも体を寄せ、美樹の方に耳を傾けた。 「・・・また、リョーマ君とケンカしたんだって?」 −−っ!! 「え〜っ・・・そうなの?・・・っていうか、松井君もいたの?」 思わず声が大きくなったきょんちゃんだったが、すぐにボリュームを下げた。 「うん、その日おねーちゃんとリョーマ君一緒に出掛けてたんだ。あたしも誘われたけど・・・まぁ、なんていうか、一応断ってさ。悪いかな〜って思って・・・」 「・・・あぁ・・・なるほど・・・」 きょんちゃんは納得しながら、チラッと松井君に目をやった。
「・・・ケンカというか・・・向こうが仕掛けてきたんだよ。」 あたしは残りのかき氷を飲んでしまった。 そして空の容器をテーブルの上に置いた。 「なんか・・おねーちゃんの話じゃ、ナンパがどうとかって言い合ってたって言ってたけど・・・。」 「ナンパ!?」 「・・・内容はどうあれ・・・松井君、あたしに美加さんといるところ見られたのが嫌だったんじゃない?だから、早くその場から追い返そうっと思って、ケンカ仕掛けてきたのかも。」 「・・・なんで?なんで嫌だったのかな?だって、智子がリョーマ君の気持ち知ってるなんて、わかんないんじゃない?」 「えっ・・・うん、まぁ、それはそうだけど・・・なんか感づかれる・・・とか思ったんじゃない?ほらっ、あの松井君が、女の人と一緒にいることって、珍しいじゃん?だから、あたしが変に感づいてこないかって・・・思ったんじゃない?」
・・・やばいやばい・・・松井君の白状については、言ってないもんね・・・ なんとか、うまくごまかせたかな・・・?
「そっか〜・・・で、まだそのまま?」 「え?なにが?」 「だからっ、リョーマ君と仲直りしてないの?」 「・・・仲直りって・・・別に、元々仲良くないし・・・あたし悪くないし。」 「何言ってんの?仲いい方じゃん。ケンちゃんや田口君は同じクラスだから余計だけどっ・・・」
「なになに?・・・俺らがなんだって?」 「「えっ!!」」 いつの間にか、買い終えた3人があたしらの後ろに立っていた。
「・・・あっ・・・ううん・・・その・・・最近あたし達って・・仲いいよね〜って・・・」 美樹が苦し紛れにごまかしてるのがわかる。 「・・・達って・・・俺らも入ってるってこと?」 ケンちゃんは内容を確認するように聞いてきた。 「・・・うんっ、もちろんだよっ・・・」 「そっかそっか〜。そうだよな?俺ら仲いいよな〜。」 「・・・うんうん・・・」 あたしときょんちゃんもケンちゃんの笑顔につられて笑った。
どうやら、会話の内容は聞かれてないな・・・ とりあえず一安心・・・
「・・・じゃあさ、仲良しってことで、来週の夏祭り一緒に行こうぜ!」
・・・は!?
「・・・祭りって・・・あぁそっか。来週だっけ?」 この町の夏祭りが8月の第一土曜日に毎年行われてる。 港があって、そのふ頭から打ち上げれらる。 夕方から始まり、カラオケ大会や盆踊り、ちょっとした歌謡ショーが開かれ、8時過ぎに花火が打ち上げれらる。 その花火がけっこうきれいで、船で進みながら花火を海に投げる、水上花火がいちばんのメインだ。 地元ならたいていの人が行っているし、隣町とかからでもやって来るくらい、この辺では有名な祭りだ。
この祭りは、16年後の本当のあたしの時代でもまだ続けられている。 でも、ここ数年は行ってないな・・・行く相手もいないかったし・・・。
「そう!来週だよ。実はな、ふっふっふっふ・・・なんと俺、カラオケ大会出場しま〜す!!」 ケンちゃんはそう言って、Vサインをしている。 「「え〜っ!!ほんとに!?」」 あたしらは一斉に驚いた。 ちょっとした大会とはいえ、予選まで行うほど、出場者が多い人気の大会だ。 「マジマジ。俺もびっくりしたよ〜。」 田口君は、たった今買ったパンをほおばりながら言ってきた。 「・・・予選通ったんだ・・・」 「ふふんっ、もちの、ろんだ!!あっはっはっはっは〜。」 「すご〜い、ケンちゃん!!絶対応援行くね〜!」 美樹は話の流れで祭り行きを承諾した。 「お〜っ、頼むぞ〜!!中田と山田も、いいなっ!」 「え・・あぁ、うんっ。頑張ってね。」 きょんちゃんも、戸惑いながらもOKした。
・・・・・・この二人が行くなら・・・あたしも行くしかないよね・・・ ・・・でも・・・久しぶりの花火祭り・・・ちょっと、行ってみたいな・・・
「・・・ケンちゃん!出るからには・・・わかってるだろうね?」 あたしは、答えを求めた。 「お〜よっ!優勝に決まってんだろう!?まっかせとけ〜。」 「「あははは〜」」
「・・・俺、パス。」 「・・・え?」 みんなが盛り上がっているムードを一気に下げた。 いつの間にか席が空いており、座ってパンを食べている松井君にみんなが注目した。 「なんだよ、パスって。おまえ行かないの?祭り。」 ケンちゃんはすぐさま、松井君の肩に手を回した。 「・・・俺、人混み嫌いだから。」 「はぁ〜!?何言ってんだよ?・・・あっ、もしかしてリョーマ・・・実は先約ある・・とか?」
――っ!!
ケンちゃんの言葉に思わず反応した。 もしかして、一緒に行くのかな?・・・美加さんと・・・まだ、こっちにいるしな・・・ きっとあたしだけじゃないだろう、そう思ってるのは。
「・・・そんなんじゃねーよ。ただ、ほんとにあんな人の多いところ行くのが嫌なだけ。」 松井君は平然として、答えた。 「・・・だめだっ!」 「は!?」 「そんな理由で行かないのは、俺が認めないっ!」 「・・・ケン、何言ってんだよ、なんでっ・・・」 「だめだったらだめっ!!」 松井君がしゃべるのも遮って、ケンちゃんは押し通した。 「山下っ、当日リョーマの迎え頼んだぞ!」 「えっ?・・・あたし?」 美樹は自分にそんな責任を任せられるとは思わず、戸惑ってしまう。 「そうだ。家も近いことだし、山下の言うことだったら聞くだろうし。」 「え・・・あぁ・・・うん・・・」 しかたなしに、承諾した美樹だったが、その様子を見て松井君は観念したようだ。 「・・・わかったよ・・・行けばいいんだろ?・・・美樹、迎え来なくていいよ。ちゃんと行くから。」 しぶしぶといった感じで答えた。 「そっかそっか、わかればいいんだ、わかれば。よしっ、今日からボイストレーニングだな。あっ、あっ、あっ、あっ、あ〜♪・・・」 ケンちゃんが他の人の目も気にせず、音程にのって、発声練習をしだした。
・・・ほんと・・・ケンちゃんって、強引だなぁ・・・
それにしても・・・少し松井君に同情しながらも、ほんとうは約束があったのでは・・・という疑いも出てきた。 美加さんがこっちにいる期間なんて限られてるし、そんな貴重な日を無駄にはしたくないだろうし・・・
あたしはそう思いながら、空の容器を店の外にあるごみ箱に捨てに行った。 店の中では、ケンちゃんのマネごとレッスンが続けられている。
・・・外・・・あっつ・・・ あたしは高く上っている太陽を、手で仰ぎながら見上げた。 室内との温度差に、気持ち悪いくらいだ。
「・・・ちょっといい?」
・・・へ?
振り向くと、いつの間にか松井君も外に出ていた。 あたしにそういうと、店から離れようとした。
「・・・え・・ちょっと・・なに?」 あたしは、事の流れについていけず、引き止めた。
「・・・話、あるから。」 そして、バス停横にある屋根つきのベンチへと向かった。
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