バスの中は、冷房が効いていてすごく気持ちよかった。
隣に座っている松井君は、持っていたスポーツドリンクを一気飲みしている。 彼もこの炎天下の中、走ってきたかどうかはわからないが、あたしを追ってきたようだからのどが渇いていたんだろう。 考えてみれば、ほんの数十分前に大喧嘩をしていた二人がこうして一緒に帰っていることが不思議だった。
「・・・・・・みんなはまだ帰らないって?」 「さぁ・・・わかんない。でも食べるもんはもうなかったけどね。」 「・・・なんか・・・言ってた?」 「・・・・・・うん、言ってた。」 「・・・あ・・そう。」 「・・・・・・ほんとにもう好きじゃねーの?」
―――っ!!
さっき、あたしが口走ったことだ。 ・・・もう、先生のことは何とも思ってないってこと。
「・・・ほんとだよ・・・」 「・・・なんで?」 「なんでって・・・・・・なんか、そう思えたから・・・」 「・・・あっちの生徒と仲良くしてたから?」 「えっ・・・」
・・・この的はずれでもない質問・・・ 確かに、尾上先生が女生徒たちと笑いながら話してる姿は、ちょっと嫉妬した。 でも・・・それがすべてではない・・・
「・・・ただ・・・その程度の気持ちだったのかなって・・・思っただけ。」 「・・・・・・なにそれ?」 「だからっ・・・なんていうか、すごい好きだったら、今日の今日まで会えるのを我慢できなかったと思う。ほんとうに好きで好きでたまらなかったら、とっくに先生に会いにいってたんじゃないかな・・・それに、今日久しぶりに会って感じたんだけど・・・先生には先生の生活があって・・・それは、今のあたしにはとうてい釣り合わないし・・・・・・。」
・・・はっ!!あたしってば、何をこんなペラペラと。
「・・・とにかくっ、先生のことは、本当にもういいのっ。」 「・・・ふ〜ん・・・じゃあ、木村先輩のこと前向きに考えるんだ。」 「えっ!?・・・そんなこと・・・ないよ・・・。」 「なんで?」 「・・・だって、今日初めて話しただけだし・・・そんなんで考えれないよ。」 「・・・でも、友達からとはいえ、これから仲良くするんでしょ?あんた、そう返事してたじゃん。」
・・・なに、こいつ一部始終聞いてたの?
「・・・それはっ、なんかいきなりだったし、どう答えればいいのかわかんなかったし・・・なんか、流れでというか・・・」 「・・・木村先輩、絶対期待してるな。」 「えっ・・・そうかな・・・」 「そうでしょ。っていうかさ、いきなりだからって、全くその気なかったら、普通その場で断るでしょ。」 「普通って・・・あのね、言っとくけどあたし告白なんてされたの初めてなんだよ。しかも本来ならありえないことだったのに。それが、面と向かってなんて、戸惑うでしょ。普通はっ。」 「・・・・・・なんだよ、ありえないって。」 「えっ・・・いや・・・だからっ、普通の流れでいくと、今日のメンバーでいったら、美樹かきょんちゃんにいくでしょ。あたしなんて・・・顔も性格も、あんま良くないし・・・。」
自分で言っててむなしくなる。
「・・・確かに。木村先輩あんたのことなんも知らないみたいだな。」 「・・・あのねっ、性格に関しては、松井君に言われたくないんだけどっ。」 「そりゃどうも・・・でもまぁ、これを機に先輩と仲良くなればいいじゃん。すごいいい人だし。あっ、でも仲良くなってからだと、あんたの性格ばれるからそれまでかもな。」
・・・さっきから、余計な一言が多いんですけど・・・。
「・・・ちゃんと、断るからご心配なくっ。」 「なんで?もったいない。」 「・・・もったいないって・・・そもそも、木村先輩みたいな人、あたし苦手なの。」 「・・・は?・・・あんたって・・・男見る目ないんだね。」 「・・・あのねっ、別にあの先輩がかっこよくないとは言ってないよ。かっこいいから、苦手なのっ。」 「なにそれ?」 「・・・なんていうか・・・かっこいい人とは、なんか壁を感じて、接するのが嫌なの。・・・自分に自信ないのはもちろんのこと、レベルみたいな感覚を勝手作っちゃって、違うレベルの人と自分のレベルを合わせなきゃって、思っちゃうの。それが、すごい疲れそうだし、無理してしまう感じがして・・・」 「・・・そのわりには、俺らとは普通に接してんじゃん。」
・・・こいつ・・・何をサラッと。
「・・・言ってる意味わかってんの?自分のことかっこいいって言ってるのと同じなんだよ。」 「だって、周りからみたらそうなんでしょ?俺らっていうか・・・特に俺?」 「・・・・・・そりゃあ、否定はしないけど・・・自分でそれを言う?自意識過剰にしか聞こえないんだけど。」 「事実を言ってるだけじゃん。その事実からいくと、俺らと接することはできないはずだけど、こうして普通にしてるじゃん。それとも、無理してそんな性格でいるわけ?」 「・・・そんな性格って・・・無理じゃなくて自然だけど。それに最初はやっぱり苦手だったよ。でも、慣れたから今は別に・・・。」 「じゃあ、先輩とだって、親しくしてるうちに苦手じゃなくなるんじゃない?」 「それは・・・わかんないけど・・・・・・でもっ、やっぱりちゃんと断るよ。」 「・・・ふ〜ん・・・」
黙って聞いてたのは最初だけか。 次から次へと「なんで?」とか「なにそれ?」とか・・・。 それに対してあたしも必死に答えてるし・・・。
「・・・だいたいさ、人の事なんてまるで興味ない人が、なんでそんなに首突っ込んでくるの?先生の事だってそうだし・・・。」 「・・・・・・木村先輩には、協力してって言われたのもあるし・・・尾上のことは・・・なんとなく自分とかぶってたから。」
へ・・・? かぶってたって・・・?
あっ、もしかして・・・ あたしは美樹から聞いたことを思い出した。 それがほんとうなら・・・。
「・・・・・・好きな人が・・・年上・・・とか?」 わざと探り探りで聞いてみた。 「・・・・・・そう。」
・・すんなりと・・・白状したよ・・・
「そうなんだ・・・もしかして・・・先生?」 「・・・違うよ。そんな好きになれそうな先生なんていないっしょ。」 「あ、そう・・・じゃあ・・・学校の人じゃないってこと?」 「・・・うん、違う。」
これって・・・確信してきた?
「・・・すごい歳離れてるの?」 あたしは少しずつ、答えに近づけた質問をした。 「・・・尾上との差よりはないけど。」 「じゃあいくつ?」 「・・・・・・6」
まさに、ビンゴ!だな。
「そっか・・・もしかして、もうつきあってるとか?」 「・・・まさか。全然そういう雰囲気じゃないし。」 「ふ〜ん・・・松井君の片想いってわけ?」 「その通り。・・・だから、おまえが先生に対して思ってる事とか、自分と重なることあったから、なんとなく気になって・・・。」
やっぱりか・・・先生の離任式とき、やたらと言ってきてたもんな。 「歳の差なんて関係ない」って。 それが強く印象に残っている
「・・・あたしの場合と、松井君とじゃ・・・違うんじゃない?」
そう。 あと何年か後には、この片想いは実るんだろうし・・・。
「・・・似たようなもんじゃん。年上が好きで、まるで相手にされてなくて、立場違うし、生活環境だって違う。あんたが言ったのもろ俺にあてはまるもん。」 「そりゃあ、今はそうかもだけど・・・なんていうか・・・想い続けてれば、きっと振り向いてくれるよ。」
・・・未来がそうなんだもん。
「・・・なにその適当な慰め。」 「別にっ、慰めとかじゃなくて・・・っていうか、あたしがなんであんたの事を慰めなきゃいけないの?・・・じゃあ、いっそのこと今まで自分が冷たく振ってきたみたいに、振られれば?そうすれば多少なりと泣かしてきた女の子の気持ちがわかるんじゃない?」 「・・・おまえって・・・ほんとズバッと言ってくれるよな・・・」 「・・・ほんとことしか言ってないよ。・・・・・・でも、今まで告白されてたけど、誰にも心が動かなかったってことは・・・よっぽど好きなんだ、その人のこと。」 「・・・さぁ、わかんない。」 「・・・ねぇ・・・いつから好きなの?」 なんとなく、興味が出てきた。 今の松井君ならなんでも答えてくれそうな気がしたし。 「・・・いつって・・・わかんない。」 「じゃあ・・・どこが好きなの?」 「・・・どこって・・・ここだってのは、ないけど。」
・・・なんか、さっきからまともな解答ではないな・・・ ・・・じゃあ、思い切って・・・
「・・・気持ち・・・伝えないの?」 「・・・・・・」
さすがにこの質問は、まだ早かったかな・・・
松井君は、それまで少なくともあたしの質問に答えていたが、黙ってしまった。
「・・・・・・まぁ・・・あせんなくても・・・まだいっか・・・。もう少し、後でも・・・ねっ。」 「・・・・・・今はいいや・・・・・・サッカーしてる方が楽しいし・・・」 「あ・・・そっか・・・休みも部活ばっかだもんね・・・」 なんとなく、フォローしてるような発言になってしまったけど、それ以上は何も聞けなかった。 彼のあの人への想いが、真剣そのものに感じたから。
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