「あ〜、来た来た。おいっ、こら〜っ!!おせ〜ぞ、山田〜っ!!」 校門から松井君以外の4人の姿が見えた。 あたしに向かって、ケンちゃんが叫んでいる。
「あ・・・ごめんごめん。」 トボトボと歩いていたが、みんなのところまで走って行った。
「何してたんだよ〜。まさか迷子にでもなってたのか?」 「え・・・いや、別にそういう訳じゃ・・・」 「混んでたんじゃない?ほら・・・応援の女子いっぱいいたし・・・。」 あたしが理由をなかなか言えないのを、美樹ときょんちゃんは違うことを気遣ってくれたみたいだ。 「まぁ、いいじゃん。それよりリョーマ君は?」 その問いを、あたしに向かって聞いていることに気付いた。 「え・・・?松井君?・・・知らないよ。」 「あれっ?マジで?おっかしーな〜、あいつもトイレに行ったはずなんだぜ。」 ケンちゃんが校舎の方を見渡した。 「・・・うそ・・・そうなの・・・?」 ・・・なんとなく、ドキッとした。 ・・・でも・・・それらしき姿・・・見てないよ・・・まさか、さっきの・・・見られてないよね・・・?
そんなことを思っていると、向こうからその本人がやってきた。 「来た来た。・・・ほんとに山田にしろ、リョーマにしろ、人を待たせるなよな〜。」 またブツブツと文句を言っている。 いつものあたしならここですぐに言い返すだろうが、今は先ほどからの不安でそれどころじゃなった。
「なんだよ〜、おっきい方でもしてたんか?」 デリカシーのない言葉をケンちゃんが言った。 「・・・おまえじゃあるまいし・・・」 いつものことだからか、冷静に返した。 「なんだよ〜、まるで俺がいつもウ○コしてるみたいじゃんか!」 「・・・・・・ケンちゃんっ!今から食べに行くってのに・・・」 さすがに美樹がケンちゃんの暴走を止めた。 「・・・ほんとケンは下品だよな〜。」 田口君が付け足した。 「・・・おいっ、こら・・・俺にそんな口たたいてもいいのか〜?」 ・・・完全なる脅しだな。 でも、この脅しに田口君が引っかかるのは無理もない。 こうして、愛しのきょんちゃんと共に過ごせる時間を作ってもらったのは、ケンちゃんに間違いないし。 「・・・あはは、冗談だよ。さぁっ、みんな揃ったし、いこっか。」 「そうだね、お腹空いちゃった。」 きょんちゃんも田口君の合図に合わせた。 気付けば、この二人いつも近距離の位置にいるなぁ・・・。 ふとそんなことを思ったが、一瞬、松井君と目が合ってしまいそっちに気が取られた。
・・・・・・まぁ・・・大丈夫・・・だよね?
あたしは、集団の後ろについていった。
バス停の近くに、お好み焼きの店があったので、そこに入った。 お昼時という事で、少々混んでいたが、あたしらが座れる席は空いていた。 あたしの前に、ケンちゃん。 きょんちゃんの前に、田口君。 そして美樹の前に、松井君。 女子と男子と分かれて、向かい合って座った。
「えっと〜・・・とりあえず、ミックスを4人前と焼きそばでもたのもっか〜。」 常に仕切っているケンちゃんの意見にみんな賛同した。 そして、コーラで乾杯をとることにした。
「え〜、本日は〜、お日柄もよく〜・・・」 ケンちゃんが、そんなありがちな挨拶をしだした。 それを、狙い通りに美樹ときょんちゃんはクスクスと笑っている。 あたしは、いつものとおりにあきれて見ていた。 「こうして我々暁中が、勝利を手にすることができました。これもひとえに、ここにいる女性人の応援と、そしてこの僕の活躍がっ、何よりの勝因に違いありませんっ!!」 「・・・・・・もういいか?」 松井君は、先にゴクゴクとコーラを飲んだ。 「あ〜っ、こらっ、今いいところだったのに〜・・・」 ケンちゃんのそんな言葉にも耳を貸さず、鉄板の上で焼かれているお好み焼きをひっくり返そうとしている。 「こっちもひっくり返そうか?」 美樹も特に気にすることなく、松井君と同じようお好み焼きに手をやった。 「おいおい、山下まで〜・・・」 「・・・はいはい、ケンちゃんがすごいすごい。そういうことで、かんぱ〜い!!」 代りにあたしが続きの乾杯の音頭をとった。 「・・・・・・いちばんのおいしいところを〜・・・」 納得いかない様子だが、みんなはもうお好み焼きにしか目がいっていない。 それにあきらめた様子で、ケンちゃんも食意地に走った。
初めて来た店だけど、お腹も空いてるからか、なかなかおいしかった。 まぁ、お好み焼きでそうそうまずいところもないだろうけど。
試合の話が盛り上がり、周りに迷惑じゃないかと思うくらいの笑い声が店中に広がる。 そして、美樹の言ったことから、話題が変わった。
「でもさー、サッカー部って、かっこいい人ばっかだよね〜。3年生ってほとんど彼女いるんでしょ?まどかが言ってたけど。」 「あ〜・・・そうだなぁ。俺の知ってる限りじゃ・・・二人以外は、いるんじゃね?」 「へ〜、すご〜い。確率で言うと、90%以上・・・って感じ?」 「そうだな・・・そういっても嘘じゃないよな。あと二人だって、前いたけど別れたとかって聞いたぞ。」
・・・・・・なんとなく・・・話題が変わって欲しかった。 ・・・・・・嫌な予感がする。
あたしの心配をよそに話はどんどん盛り上がっている。
「え〜、じゃ残ってる先輩ってだれだれ?」 美樹はどんどん核心に近づいてきた。 「えっと〜、杉浦先輩と木村先輩。」
―――っっ!!
みんなに変に思われないように、必死に平然さを装った。 内心ドキドキだったが・・・。
「杉浦・・・って、杉浦 宏?」 美樹は、目の前の松井君に確認した。 「うん、そう。」 「そっか〜・・・」 「知ってるの?」 美樹の反応にきょんちゃんが聞いてきた。 「あぁ、うん。同じ小学校だからね。・・・じゃあ、木村先輩って?」
・・・・・・大丈夫、大丈夫。 普通にしてたら、バレるわけないし・・・。
異様にのどが渇いてあたしは、水をゴクゴクと飲んだ。
「うんとね〜、背番号5番の人。わかんないかな〜・・・あっ、ほら、お前らが学校ついた時に話しかけてきた先輩らいたろ?」 「え〜・・・佐々木先輩は・・・わかったけど。あとは、何人かいてわかんなかったな・・・」 美樹は必死に思い出している様子だ。
・・・・・・あの時、いた・・・か・・・
あたしも心の中で思い返してみた。
「どんな感じの人?」 美樹はまだその人物を知りたい様子だ。 「そうだな〜・・・」 ケンちゃんが考えていると、田口君が代りに答えてきた。 「・・・まぁ、さわやかって感じじゃない?背はスラーっとしてて。」
・・・・・・確かに。
「え〜っ?・・・やっぱわかんないや・・・ねぇ、覚えてる?」 その質問はあたしときょんちゃんに向けられた。 「・・・ううん、あたしも覚えてない。なんか一斉に見られてたから、あんまり顔見てないもん。」 きょんちゃんはそのまま思った事を言った。 「そうだよね〜・・・ねぇ、智子は?わかる?」
――っ!!・・・きたよ。
恐れていた展開になった。
・・・・・・でも・・・大丈夫、同じように知らないって言えばいいんだし・・・。
「・・・さぁ・・・・・・わかんない。」 そう言って、また水を飲んだ。 コップの中の水はなくなってしまった。
「だよね〜、まぁ、いっか。こんど部活の時にでも見ようっと。」 「なに〜?そんな木村先輩のこと気になるの〜?」 ケンちゃんが冷やかすように言ってきた。 「え〜、だって、どんなにかっこいいか見てみたいじゃん。一人身ならなおさら。」 女子独特の興味本位だ。
なんとなく、この話題も終わりそう。 そう思って安心した時だ。
「・・・・・・さっき、山田が話してた人じゃん。」
そう言ったのは、あたしから一番遠くに座っている松井君だった。
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