0−0で前半を終えた。 決して強豪相手に負けず劣らずの接戦で、惜しいシーンはいくつかあった。 一息つくため、あたしらはいつの間にか立ち上がっていた腰を降ろした。 と同時にあたしはある異変に気付いた。 ・・・っ!!・・・まさか・・・!? いや、でも待てよ・・・・・・そういえば、2年の時か・・・? 降ろした腰をすぐにあげて、あたしはカバンを手に取った。 「・・・どうした?」 隣に座っていたきょんちゃんがあたしの行動を不思議に思った。 「えっ・・・あぁ、うん・・・その・・・」 〜〜〜っえぇい!!恥ずかしがっても無理だ。この際・・・ 「・・・実は・・・さ・・・その、なっちゃった・・・みたいで・・・」 「・・・え?・・・えぇ!?・・・そうなの?」 きょんちゃんは、わりと早くわかってくれた。 「なになに?どうしたの?」 あたしらのやりとりに美樹も加わった。 「あれだよ、あれっ!!」 周りに誰がいるわけでもないが、自然と小声になる。その様子と発言で美樹もピンッと来たようだ。 「そうなの!?え〜、大丈夫?」 とっさに美樹はあたしの後ろを見た。 「・・・わかんない・・・」 「早くトイレ行ってきなよ。」 きょんちゃんも後ろが気になりながら、言ってきた。 「・・・・・・それがその・・・なくって・・・」 「あぁ、そっか〜。予定より早かったの?」 美樹が何気に聞いていた。 「・・・・・・ううん・・・・・予定も何も・・・その・・・今日が、はじ・・・めて・・・」 だんだんと声が小さくなってしまう。 「・・・あ・・・そっか・・・ていうか・・・それならなおさらびっくりじゃん!」 「あたし持ってるよ。ちょっと待って・・・」 きょんちゃんはそういうとカバンをあさって、目的のものを取り出した。 巾着袋に入ったまま、あたしに手渡した。 「はい。早く行っといでよ。それかついていこうか?」 「あぁ、いいっ。それは大丈夫・・・じゃあ行ってくるね。確か来る途中にそれらしき建物あったよね?」 「えっと〜・・・うんっ。あったあった。」 「気をつけてね。」 「・・・うん。」 二人に見送られ、あたしは校舎の方へと向かった。
・・・・・・完璧に忘れてた・・・。 あたしはたった今、初経を迎えた。 以前も2年のこの時期に、あたしは初経になったはずだった。 それが今回も同じくらいになってる。 ・・・・・・どちらも同じあたしなんだから当たり前なんだけど、すっかりないままの生活に慣れていて、身体の成長の事なんて、気にもしていなかった。 それに、あたしは普通より遅い方だったから、以前もやっとなったことを恥ずかしくもあり、少々ホッとしていたのを覚えている。 これでみんなと仲間入りなんだって・・・。
トイレをすんなり見つけることが出来て、事を済ませる。 ほんとに、始まってすぐだったから大事には至っていなかった。 安心してホッとしながらトイレを後にし、またグラウンドの方に向かっていた時だ。 「・・・・・・山田?」 ―――っっ!! すぐに呼ばれた方を振り返る。聞き覚えのある、その声の主へ・・・。 ・・・・・・数ケ月振りに呼ばれた名前。 ・・・・・・そして、その姿。 「・・・・・・せん・・・せい・・・。」 そう呼ぶことが、やっとのことだった。
「・・・やっぱり〜、山田か〜。なんだ、久しぶりだな〜。」 相変わらずの笑顔で、近づいてきた。 「また、どうしてここにいるんだ?」 あたしとの距離が1mくらいのところで止まった。 「・・・え・・・っと、サッカーの・・・練習試合で・・・。」 あたしは話の流れを止めないようにと、必死に答えた。 「・・・サッカー?・・・あれっ?お前って・・・サッカー部・・・のマネージャーでもしてたっけ?」 「いやっ・・・その、頼まれて・・・応援に・・・」 「ほ〜、応援か〜。・・・ん?ってことは、うちのサッカー部と暁中(あたしらの学校名)が試合してんのか?」 「・・・はい・・・今、前半終わったとこです。」 「そっか〜、知らなかったな〜・・・よしっ、ちょっと見てみよう。今何対何だ?」 尾上先生は、訊ねながらグラウンドの方へ歩き出した。 あたしも、追いかけるように足を進めた。 「・・・まだ0−0です。」 「そっか〜、まぁ、ここ強いのは聞いていたけどな。でも、暁が今日来るとな。良かった〜、見回り当番で。」 「見回り?」 「あぁ、休みは先生らみんなで交代で学校来てんだよ。まぁ、警備員変わりだよ。雇うと人件費高いしな。」 「・・・そうなんだ。・・・じゃあ・・・ほんと偶然なんだね・・・。」 「ほんとだよ。またこうして山田に会えるとはな。何ヶ月ぶりだ?えっと〜・・・」 「・・・4ヶ月・・・」 あたしは前々から考えていたことなので、すんなりと答えた。 「・・・そっか〜・・・もうそんな経つか〜、早いな〜・・・」 先生はしみじみと言った。 「・・・それより、おまえ・・・」 そう言うと先生は、後ろを歩いていたあたしを振り返った。そして、ジーっと見てきた。 ―――っ!!・・・えっ・・・なっ、なに・・・!!?? あたしは、動くに動けず、見られるがままだった。 「・・・・・・老けたな・・・。」 ・・・・・・は?・・・・・・はぁ〜!!?? みるみるうちに、顔が違う意味で赤くなっていった。 「ちょっ、なにそれっ!!??」 「・・・・・・私服のせいか・・・中学生には見えんぞ?」 「・・・どうせなら・・・大人っぽくなったって言えないの?」 「まぁ、そういう意味でも間違っちゃいないけどなぁ〜・・・」 「・・・先生っ・・・相変わらず失礼な発言ですよっ!!」 「・・・くすくすっ・・・おまえこそ、相変わらず生意気なんだよ。」 そう言って、久しぶりに先生の手があたしの頭に触れた。 そして同じように、緊張が走った。 でも、その後はあたしはすんなり受け答えができていた。 「そりゃあ、成長してませんからっ。なんせ、中学生だもんっ。」 「はっ、そういう時だけ、子供ぶる。っとに調子いいよな〜。」 ほんと・・・自分でも予想外に先生と会話ができていて、安心した。 もっと、てんてこまいになってしまうかと思っていた。 最初はさすがにびっくりしたけど、でもだんだんと前のような先生とのやりとりができて嬉しかった。
グラウンドまで来たところで、暁中のところにたどりつく前に、応援していたここの女子生徒達が尾上先生の存在に気付いた。 「あ〜っ、尾上先生〜。応援!?」 あたしが隣にいようが関係なく、数人近づいてきた。 「おっ、お前ら来てたのか?」 先生の顔見知りみたいで、すぐにうちとけた。 「何?先生今日当番?」 「そうなんだよ。っとに忙しい休日なのにさ〜・・・」 「うっそだ〜、ヒマしてたんでしょう?どうせ。」 「なんだと!?・・・よくわかったな・・・」 「きゃははははっ、当たり前じゃ〜ん・・・」 ・・・・・・なんか・・・やけに・・・楽しそう・・・ しかも、さっきから・・・・・・タメ口ばっかだし・・・ ・・・・・・注意なし・・・か!?あたしには散々言っといて・・・! 先生の顔を思わず睨んでしまっていた。 そして視線を周りの女生徒に戻したところで、一人の子と目線が合った。 ・・・・・・え?・・・・・・何? なんとなく・・・嫌な感じがした。 するとすぐにあたしから視線を外し、先生を見て笑って言った。 「ねぇ、先生。一緒にこっちで応援しようよ。」 そして、先生の腕を引っ張った。 「あ−・・・うん、まぁ、あとでな。」 「え〜!!なんで〜!?」 他の女子も言い返していた。 「ちょっと、前の学校の奴らんとこ行ってからな。」 そう言って、先ほど引っ張られた腕を、ゆっくりとほどいた。 「・・・っ、なんで?先生は今ここの先生でしょ?どうして前のところが優先なの?」 納得いかず、強気で先生を引き止めた。 「・・・優先とかじゃなくて・・・とりあえずだよ。・・・今でも前でも、みんな生徒には変わりないから。」 ・・・・・・先生・・・。 あたしだけじゃなく、みんなも無言になってしまった。 「・・・・・・そうやきもちやくなよ〜っ。すぐ戻ってきてやるからさっ。」 その場の雰囲気を変えるためか、先生はお茶らけて見せた。 「そっ・・・そんなんじゃないよ。・・・もうすぐ調子に乗るんだからっ。別に戻ってこなくていいよーだ。」 そう言いながら、笑って元の場所へ戻って行った。 そして先生は、暁中の控えの方へ進んだ。
今でも前でも・・・生徒に変わりない・・・か・・・ いつまでもあたしの心に残っていた言葉だった。
休憩時間はまだ残っており、尾上先生の突然の登場で、暁中の生徒らは喜んでいた。 当然1年生らは知らない先生だけど、2、3年正は関わりがあったので、話に花が咲いた。 あたしは美樹ときょんちゃんの所へ戻った。 「そっか〜、尾上先生って、ここだったんだね〜。すっかり忘れてた〜。」 きょんちゃんらしい発言だ。 「・・・・・・あたしも・・・忘れてた・・・。」 美樹はそう言いながら、少しあたしの事を気にかけてる感じだ。 「・・・・・・日曜なのに、なんでいたのかな?」 そう続けた。 「・・・なんか、休みの日は、先生たち交代で見回りしてるんだって。警備員変わりに。」 「ふ〜ん・・・それで、今日偶然いたんだ・・・。」 「・・・そうみたい。」 「あたしも先生のとこ行ってこようっと。」 きょんちゃんは、みんなが集まっている場所へと走って行った。 「・・・・・・美樹は?行かないの?」 「・・・・・・智子こそ・・・」 「・・・・・・あたしここにくるまで、話してたから・・・。」 「・・・・・・そっか・・・・・・良かったね・・・偶然でも・・・会えて。」 「・・・・・・うん。・・・良かった・・・」 あたしは素直にそう思えた。 「・・・・・・あたしも挨拶してくるね。」 美樹はそういうと先生の方へ向かった。
美樹ときょんちゃんの存在にも気づいて、先生は嬉しそうだった。 ・・・・・・そりゃあ、そうだよね・・・・・・ みんな、大事な大事な・・・生徒なんだもんね、先生にとって・・・。 ここにいるみんなも、あっちにいるみんなも・・・。 そして先生は、あたしらとは違う環境の生活になっている。 学校が違えば、人も違うんだから当たり前なんだけど・・・。 でも、いつまでも立ち止まっててはいけないんだ、そういう風に思えてきた。
そして・・・あたしは心の中が、きれにスーッとなった気がした。 告白もしていない恋が、今完全に終わったはずなのに・・・ あたしは、なんでか悲しいという気持ちより、スッキリした気持ちの方が強かった。
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