そして日曜日。
あたしら3人は、バスで向かった。 中学生にとっての、このバス代はすご〜く痛かった。 山田家のお小遣いは、月に3000円。 以前なら、食べ物にしか使っていなかったが、今のあたしは身だしなみ関係にばかり費やしていたので、とてもじゃないがお金が足りない。 部活の為、嫌でも太陽の下ばかりにいるから、紫外線対策はもとろんのこと、毎日のお肌のお手入れや、(化粧はさすがにしていけないが・・・)服装もこの時代に合わせたおしゃれに気を使っていた。 ほんとうなら、今日の服装だって新しのが欲しいくらいだったけど、買いに行く時間もなければ、自分の足だけでは、お店が遠くて買いに行けなかったのだ。
「・・・うわ〜・・・なんか他の学校入るの、あたし初めてだからちょっと緊張・・・。」 門をくぐったところで、美樹は辺りをキョロキョロしていた。 「あたしだって・・・部活で他校行ったことあるけど、ここは初めてだからなんか・・・変な感じ・・・。」 きょんちゃんも続けて辺りを見回していた。 「・・・・・・」 あたしは・・・、二人とは違う緊張をしていた。 ・・・・・・日曜だから、いないかも・・・・でも、もしかしたら・・・ 尾上先生の転任先の学校。 半分期待、いや、半分以上期待していた。
「とりあえず、グラウンド行ってみる?ここにはそれらしき人達いないもんね。」 「うん・・・あっちかなぁ。」 そして、探し歩いて数分。 だんだんと大勢の声が聞こえてきた。 ケンちゃんの言ったことは、まんざら嘘でもなく、数人の女の子たちが応援席らしきところに集まっていた。 知らない顔ばかりだから、きっとここの生徒たちなんだろう。
「・・・お〜、来た来たっ。お〜い、こっちこっち〜!!」 自分らの学校の生徒が集まっているところから、ケンちゃんと田口君が手を振っていた。 それと同時に、何人かの生徒たちがあたしらに注目した。 いくら同じ学校の人たちとはいえ、知り合いでもないのに見られるのは恥ずかしかった。 あたしらは、顔を下に向けながら、早足でケンちゃん達の方へむかった。
「〜〜〜ちょっとっ、大声で呼ばないでよ〜、恥ずかしいでしょ!」 あたしはケンちゃんの腕をパシッと叩いた。 「なんで〜?・・・あっ、大丈夫。だれも山田の事は見てないから。」 そう言って、美樹ときょんちゃんにニッコリと微笑んだ。 ・・・こらこらっ。 「・・・あの・・・他の女子は?・・・まだ来ていないの?」 きょんちゃんは、自分らの学校の応援席を見渡した。 確かに、ここにいる女子はあたしら3人だけだった。 あとは、部員らしい生徒ばかり。 「えっ、・・・あぁ、・・・そうだね・・・来てないね。」 ・・・なんかしらじらしい。 やっぱり、ただの企みだけか? あたしは声に出さなかったが、ジーっとケンちゃんを目で訴えていた。 それに本人は気付いたようだが、なおもシラを切った感じで、 「まぁ、他の女子が来てくんなくても、お前らだけで十分だよ。ほらっ、みてみ!」 そういって、向こうのチームの応援席を指さす。 「だ〜れも、お前らより勝る奴なんていないじゃん!!」 ・・・なんの勝負だよ・・・ ほんっと調子だけは相変わらずいいな・・・っていうか、指をさすな!指を!! とっさにケンちゃんの手を下に降ろさせた。 「なんだぁ!?野村の彼女?」 3年生の何人かが、声をかけてきた。 そして、たった今ケンちゃんの手を触っている状態のあたしに目をやった。 ・・・ん?・・・あたしのこと!? 思わず手をパッと引いた。 「まっさか〜。違いますよ。俺そんな趣味悪くないし。」 ―――っこの〜!! 「・・・こっちだってお断りだっての!」 あたしはわざと冷静に返した。 そんなことでいちいち怒ってるのアホらしいし。 「そうなんだ、じゃあそっちの二人は?」 先輩らは後ろにいた美樹ときょんちゃんに目をやった。 「あのっ・・・同じクラスのよしみってことで、応援頼んだんすよ。」 すぐに、田口君が答えた。 まぁ、友達の彼女とは思われたくないわな・・・。 「じゃあ、あっちの方で見てる?ここだとボール飛んでくるかもだし。」 「・・・あぁ、うん・・・」 きょんちゃんが一番田口君と近い場所にいたから、返事をして誘導する彼の後を追った。 それに美樹とあたしも続いて。 田口君は、あたしらをこの場から遠ざけたいような感じだ。 きっと、自分の好きな子を先輩らに関わらせたくないんだろうな。 きょんちゃん、かわいいし・・・。 ・・・っていうか、ほんとに好きなんだ。田口君・・・。 なんとなく、改めてそんな事を思ってしまった。
応援席まで来たところから、ウォーミングアップをしていた松井君が見えた。 その姿を捕らえた美樹は、こんな不慣れな場所にいたため、余計に安心するかのように、彼を呼んだ。 「リョーマ君っ。」 美樹の声に反応し、その場にあったボールをドリブルしながらこちらにやってきた。 「・・・・・・けっこう早かったね。」 「うん、まあね。念入りにバスの時刻表確認したもんね。」 そう言いながら、あたしときょんちゃんに相槌をうった。 それにコクンと頷いた。 あたしはなんとなく、松井君と話をするのをためらった。 わざわざ、先生のこと言ってたし・・・。
「ところでさ緑ヶ丘って強いの?」 美樹が松井君の蹴ってきたボールを見よう見まねで足で動かしてみる。 「あぁ、うん。県大会常にベスト4に入ってるし、かなり強いよ。うち今まで勝ったことないし・・・・・・あぶなっ!!」 美樹の足がボールに乗ってしまい、一瞬バランスを崩した。 話しながら様子を見ていた松井君は、とっさに美樹の腕を掴んだ。 「・・・あ、あははは・・・ごめんごめん、ありがと。」 「・・・気をつけろよ。」 そしてボールを足で奪い取り、リフティングをやり始めた。 美樹は元の位置に戻ってきた。 二人の態度はこれといっていつもと変わらなかったが、あたしときょんちゃんはなんとなく、変に意識してしまっていた。 ・・・・・・なんか・・・たいした事じゃないんだろうけど、見てるこっちが照れてしまった//・・・。
「お〜い、集合!!」 部長らしき人が召集をかけた。 「いこっか、リョーマ」 田口君が、声をかける。 「あぁ・・・。」 そして二人は、みんなの元へ走って行った。
ミーティングらしきことが行われ、試合前の緊張感が伝わってきた。 たかが練習試合でも、気は抜けない様子だ。 円陣を組んで気合いの掛け声が、互いのチームからグラウンドいっぱいに響き渡る。 それぞれ自分のポジションに付き、その場で体を動かす。
応援目当ての3人は揃ってレギュラーだ。 そして・・・ホイッスルが鳴った。 補欠選手や1年生達の応援合戦が始まった。
はっきり言って、あたしはサッカーのことなんて、あまりわからない。 ゴールにさえボールが入ればいいんでしょ?くらいの知識しかない。 さすがに日韓ワールドカップの時は自国愛ということもあり、多少なりとテレビで観戦はしたが、ルールとか、何が違反とかはまるでわからない。 それでも、だんだんと見入ってしまっていた。 頑張っている3人の姿は、学校での普段の姿とはまるっきし違って、正直驚いた。 どのプレーが上手下手という区別もわからなかったが、3人とも決して下ではないことがこのあたしにでもわかる。 それに、顔がいいからモテるのはわかっていたが、それだけじゃないんだってことにも気づかされた。 さっきまで、むかついていたケンちゃんでさえ、少しかっこよく見えてしまう。 ・・・・・・こんな姿見たら・・・好きになる女の子たちの気持ち、少しはわかってくるなぁ・・・・・・ただ単にあたしが今まで知らなかっただけだろうけどね。
最初は無言で観戦していたあたしらも、徐々に熱が入ってきた。 気がついたら、3人とも大声で応援しまくっていた。 こんなに、白熱したのは何年振りだろ・・・。
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