学校の周りを走り終え、練習が始まった。 ・・・・・・が、あたしは集中できてなかった。
時計ばかり見てしまっている。 ・・・・・・もう、いない・・・よね。 ・・・・・・今頃戻ったって・・・・・・でも、もしかしたら・・・・・・ ううん・・・無理無理・・・・・・でもっ・・・・・・
「・・・・・・ごめんっ、ちょっとトイレ。」 近くにいたきょんちゃんに伝えるが早く、あたしは校内へと走って行った。 「えっ・・・あぁ・・・うん」 ・・・・・・我慢・・・してたのかな。 そのくらいにしか思われていなかった。
・・・・・・なんか・・・やっぱり、挨拶くらいは・・・ あたしは先ほどの外回りを走っていた時より断然に早かった。
まずは職員室へ。 はぁはぁ・・・いない・・・ 次は3組の教室へ。 ・・・ここにも、いない・・・ はぁはぁ・・・もう帰っちゃった・・・かな・・・ ・・・あ・・・・・・目的室・・・いるかもっ。 息が苦しいのも忘れて、走った。
はぁはぁ・・・ゴクンっ。 少し呼吸を整えて、ドアをゆっくり開けた。
・・・ガラガラ・・・
・・・・・・いない・・・ その場にしゃがみこんだ。 力が抜けるかのように・・・
「・・・・・・なんだ?どうした?」 ドアの音に気づいて、ベランダから姿を現した。 「―――っっ!!・・・先生・・・」 ・・・うそっ・・・・・・いた・・・ あたしは、ゆっくり立ち上がった。 「?・・・大丈夫か?」 先生は煙草を吸っていたらしく、急いで携帯灰皿で消した。 そしてポケットにしまうとこっちに近づいてきた。 「・・・・・・」 「・・・おまえ部活の途中か?」 あたしの格好を見て尋ねた。 「あ・・・はい・・・」 「どした?なんかあったのか?」 「・・・・・・」 無言のままのあたしに、先生は心配そうだ。 「・・・・・・山田?」 「―――っ、もう・・・いな・・・いと・・・思って・・・」 「え・・・あぁ・・・まぁ、もう少ししたら帰るとこだったけどな。・・・・・・そういえば、山田に言い忘れてたことあったな。」 「・・・・・・え?」 先生の言葉に俯いていた顔を上げた。 「・・・・・・いろいろありがとな。」 ・・・・・・え?・・・・・・なに・・・が? 「・・・・・・山田には、この3学期助けてもらったよ。クラスの事もそうだし・・・教師という職についても考えさせられた。」 ・・・・・・ ずっと黙ったままのあたしに、先生は続けた。 「正直自信無くしそうになった事あったし、教師としてちゃんとやってけるのかってな・・・・・・でも、山田と話してたら、そういう不安とか飛んでいったな。まぁ、多少生意気なこと言うなぁって思うこともあったけどな。」 そう言いながら笑った。 「・・・・・・もう少し早くから、おまえと接しておけば良かったな。いろんな話したかったし。自分のクラスの生徒なのに、山田の人間性に気付くの遅かったわ。まぁ、そういうところが未熟だったんだろうけどな。」 ・・・・・・違う・・・それは、違う・・・ 「・・・・・・2年になっても頑張れよ。勉強はもちろんのこと、学校生活すべてな。 二度とあとに戻れないんだから、後悔のないようにな!」 ―――っっ!!その言葉を・・・あたしに言うなんて・・・ 「・・・あっ、そうだ・・・・・・」 先生はそういうと、ズボンのポケットに手を入れた。 そして何かを取り出し、あたしに差し出した。 ・・・・・・あめ・・・玉? 「遅くなったけど、お返しな。」 ・・・あぁ・・・チョコの・・・ フッと笑ってあたしはそれを受け取った。 「・・・・・・ありがと。」 「・・・ありがとうご・ざ・い・ま・す・、だろ?」 そして、あたしの頭に手を置いた。 いつものように、大きな手でくしゃくしゃっ、と撫でた。 「・・・・・・先生。」 「ん?」 間近で先生を見上げた。 「・・・・・・ずっと・・・教師続けてね。」 すでに頭から手は離れていて、先生は笑顔で答えた。 「・・・・・・あぁ、もちろんっ!!」 「・・・・・・一年間、ありがとうございましたっ。」
今まで、お世話になった先生に対して、恩を感じた事なんて一度もなかった。 でも、尾上先生は、間違いなく忘れられない先生だ。 教師としても、男性としても・・・。
結局、淡い恋心を伝えることはできなかったけど、でもそれでも良かった。 どっちにしろ、先生の答えはわかってる。 先生は先生で、あたしは生徒。 いつまでたっても、大人になってもその関係は変わらない。 ずっと、一生・・・
校内をあとにし、走ってテニスコートに向かっていた。 途中でサッカー部の隣を通った時、松井君とすれ違った。
「会えたの?」 「・・・・・・うん。」 「・・・そう。」 「・・・・・・ちゃんと、別れの挨拶言ってきたよ。」 「・・・そう。」
それだけのやりとりをして、お互い部活に戻った。 別にわざわざ報告することもなかっただろうけど、その時のあたしは、なんとなく言いたかった。
|
|