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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第34回   34
学校の周りを走り終え、練習が始まった。
・・・・・・が、あたしは集中できてなかった。

時計ばかり見てしまっている。
・・・・・・もう、いない・・・よね。
・・・・・・今頃戻ったって・・・・・・でも、もしかしたら・・・・・・
ううん・・・無理無理・・・・・・でもっ・・・・・・

「・・・・・・ごめんっ、ちょっとトイレ。」
近くにいたきょんちゃんに伝えるが早く、あたしは校内へと走って行った。
「えっ・・・あぁ・・・うん」
・・・・・・我慢・・・してたのかな。
そのくらいにしか思われていなかった。

・・・・・・なんか・・・やっぱり、挨拶くらいは・・・
あたしは先ほどの外回りを走っていた時より断然に早かった。

まずは職員室へ。
はぁはぁ・・・いない・・・
次は3組の教室へ。
・・・ここにも、いない・・・
はぁはぁ・・・もう帰っちゃった・・・かな・・・
・・・あ・・・・・・目的室・・・いるかもっ。
息が苦しいのも忘れて、走った。

はぁはぁ・・・ゴクンっ。
少し呼吸を整えて、ドアをゆっくり開けた。

・・・ガラガラ・・・

・・・・・・いない・・・
その場にしゃがみこんだ。
力が抜けるかのように・・・

「・・・・・・なんだ?どうした?」
ドアの音に気づいて、ベランダから姿を現した。
「―――っっ!!・・・先生・・・」
・・・うそっ・・・・・・いた・・・
あたしは、ゆっくり立ち上がった。
「?・・・大丈夫か?」
先生は煙草を吸っていたらしく、急いで携帯灰皿で消した。
そしてポケットにしまうとこっちに近づいてきた。
「・・・・・・」
「・・・おまえ部活の途中か?」
あたしの格好を見て尋ねた。
「あ・・・はい・・・」
「どした?なんかあったのか?」
「・・・・・・」
無言のままのあたしに、先生は心配そうだ。
「・・・・・・山田?」
「―――っ、もう・・・いな・・・いと・・・思って・・・」
「え・・・あぁ・・・まぁ、もう少ししたら帰るとこだったけどな。・・・・・・そういえば、山田に言い忘れてたことあったな。」
「・・・・・・え?」
先生の言葉に俯いていた顔を上げた。
「・・・・・・いろいろありがとな。」
・・・・・・え?・・・・・・なに・・・が?
「・・・・・・山田には、この3学期助けてもらったよ。クラスの事もそうだし・・・教師という職についても考えさせられた。」
・・・・・・
ずっと黙ったままのあたしに、先生は続けた。
「正直自信無くしそうになった事あったし、教師としてちゃんとやってけるのかってな・・・・・・でも、山田と話してたら、そういう不安とか飛んでいったな。まぁ、多少生意気なこと言うなぁって思うこともあったけどな。」
そう言いながら笑った。
「・・・・・・もう少し早くから、おまえと接しておけば良かったな。いろんな話したかったし。自分のクラスの生徒なのに、山田の人間性に気付くの遅かったわ。まぁ、そういうところが未熟だったんだろうけどな。」
・・・・・・違う・・・それは、違う・・・
「・・・・・・2年になっても頑張れよ。勉強はもちろんのこと、学校生活すべてな。
二度とあとに戻れないんだから、後悔のないようにな!」
―――っっ!!その言葉を・・・あたしに言うなんて・・・
「・・・あっ、そうだ・・・・・・」
先生はそういうと、ズボンのポケットに手を入れた。
そして何かを取り出し、あたしに差し出した。
・・・・・・あめ・・・玉?
「遅くなったけど、お返しな。」
・・・あぁ・・・チョコの・・・
フッと笑ってあたしはそれを受け取った。
「・・・・・・ありがと。」
「・・・ありがとうご・ざ・い・ま・す・、だろ?」
そして、あたしの頭に手を置いた。
いつものように、大きな手でくしゃくしゃっ、と撫でた。
「・・・・・・先生。」
「ん?」
間近で先生を見上げた。
「・・・・・・ずっと・・・教師続けてね。」
すでに頭から手は離れていて、先生は笑顔で答えた。
「・・・・・・あぁ、もちろんっ!!」
「・・・・・・一年間、ありがとうございましたっ。」

今まで、お世話になった先生に対して、恩を感じた事なんて一度もなかった。
でも、尾上先生は、間違いなく忘れられない先生だ。
教師としても、男性としても・・・。

結局、淡い恋心を伝えることはできなかったけど、でもそれでも良かった。
どっちにしろ、先生の答えはわかってる。
先生は先生で、あたしは生徒。
いつまでたっても、大人になってもその関係は変わらない。
ずっと、一生・・・

校内をあとにし、走ってテニスコートに向かっていた。
途中でサッカー部の隣を通った時、松井君とすれ違った。

「会えたの?」
「・・・・・・うん。」
「・・・そう。」
「・・・・・・ちゃんと、別れの挨拶言ってきたよ。」
「・・・そう。」

それだけのやりとりをして、お互い部活に戻った。
別にわざわざ報告することもなかっただろうけど、その時のあたしは、なんとなく言いたかった。


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