例の駐輪場での犯人探しは続けていたらしが、どうやら有力な情報は見つからなかったらしい。 毎日ヒヤヒヤとしていたが、数日たってバレないことがわかってホッとした。 ましてや、松井君の好きな人でもないのに、とばっちりを受けてもたまったもんじゃないし。
そうこうしているうちに、あと何日かで卒業式、修了式が近付いていた。 そして、あたしはまたある記憶を思い出すことになった。 それは・・・・・・離任式の事だ。 この時期になると、教師にとって当たり前のことだった。 ・・・・・・あたしを思い悩ましていた、尾上先生は4月から、他の中学校に転任する。
あの時なんて、こんな事なんとも思っていなかったのに・・・。 正直この事実を知ったとき、ショックだった。 と同時に、やっぱりあたしは先生の事を好きだったのかも・・・とやっと自覚してきた。
「ねぇ、智子。・・・前聞きそびれたんだけど・・・」 また美樹と二人っきりになった時、聞かれた。 美樹は、わざと二人の時だからこそ聞いてるんだ。 「・・・・・・ほんとに先生のこと、なんとも想ってないの?」 ・・・・・・あたしも・・・真剣に答えなくちゃ・・・。 「・・・・・・何度も、そんなことないって・・・思ってた・・・・・・でも・・・そう思うってこと事態が・・・・・・そうなのかなって・・・」 「・・・・・・そっか・・・このまま、何も言わず別れるの?」 「えっ、・・・何もって・・・言われても・・・」 はっきり言って、先生に対して何かを伝えるつもりはない。 そんなことできっこない。 言ったところでも、どうにもなんないし・・・。 「・・・・・・そりゃあ、先生と生徒って立場だから、そう簡単にはいかないだろうけど・・・でも、もう会えなくなるかもだよ。」 「・・・・・・」 確かに、転任して以来、尾上先生と再会したことはない。 二十歳の時の同窓会にも、3年の時の担任しか来てなかったし・・・。 「・・・・・・何も言わずに別れて・・・後悔するかもだよ。」 ―――っっ!! ‘‘後悔‘‘その言葉にドキッとした。 あたしはこの状況になって、何度そう思って過ごしてきたか・・・。 後悔しないため、もう一度やり直してきた。 ・・・・・・でも・・・恋愛の事なんて・・・幾つになっても、何度重ねても、臆病な自分がいる。人の為になら多少の困難乗り越えられるのに・・・。 結局、先生への想いを白状したものの、何かをする決断はつかなった。
そして、時間は過ぎ、離任式の日が来た。 舞台に上がって、転任する先生たちが紹介される。 尾上先生も、その中に並んでいる。 生徒代表から、花束を受け取り簡単な挨拶が繰り広げられる。
あたしは、なんとなくその姿を目にすることができなった。
式が終わり、個々に親しかった生徒達は、先生との別れを惜しんでいた。 個人的に花束を渡す生徒もいた。 一応3組からもみんなでお金を出し合って花束を渡したが、学級委員長が持って行ったんだろう。 帰りの時間が来て、だんだん生徒も少なくなってきた。 その日も部活があり、あたしは特に先生と接することなく校内をあとにしていた。 思えば、ここ数日先生とまともに会話をしていない。 自分の気持ちを認めたのが一番の原因かも・・・。 普通にしようとすればするほど、態度に出てしまいそうだった。
準備運動がてらに、学校の周りをきょんちゃんとまどかと走っていた。 テニス部だけに限らず、運動部のほとんどが始めに走っていた。 途中、地獄の坂道と呼ばれる場所があり、そこが体力をつけるためによしとされていたみたいだ。 元々体力のないあたしは、二人に遅れをとってしまった。
・・・はぁ、はぁ、・・・何度走っても・・・はぁはぁ・・・慣れないな・・・ 走っていたはずの足は、すでに歩くのもやっとだった。 ・・・ながっ、この坂道・・・ 坂道の終わりを見上げるが、まだ半分はあるみたい。 「・・・・・・そんなんじゃ意味ないんじゃない?」 いつの間にか、後ろから誰かが走ってきていた。 あたしは息を整えながら、後ろを振り返った。 「・・・・・・余計なお世話・・・」 相手を確認すると、あたしは投げやりに答えた。 隣まで近づくと、相手も歩き出した。 「・・・・・・ちょっと、なんで松井君まで歩いてんの?人の事言えないじゃん。」 息は乱れておらず、平然としたままだった。 「・・・・・・別れの挨拶したの?」 人の質問には全く無視だ。 「は・・・?何・・・言ってんの?」 「・・・・・・尾上だよ。いいの?このままで。」 ―――っっ!!何っ・・・なんで、こいつがそんなこと・・・。 「・・・あのさっ、前も言おうと思ってたんだけど、なんか勘違いしてない?別にあたしは先生の事なんて・・・。」 「けっこう強情だよね。」 あたしが言い切る前に松井君が言った。 「―――っ、何言って・・・」 「ま、あんたのことだから、意地でも認めたくないかもしんないけど、素直になれば?最後なんだし。」 〜〜〜っ、なんなのよ・・・なんで・・・? 「・・・・・・相手が先生だから、躊躇してんの?」 ・・・んもうっ!! 「・・・そんなのっ・・・当たり前じゃんっ!!」 半ば、やけくそのようになり、白状してしまった。 このまま否定しても、彼には誤魔化しきれない気がした。 「・・・なんで?」 「はぁ!?・・・なんでって・・・そんなの決まってるでしょ!・・・何か言ってどうなるの?別にあたし・・・どうかしたいなんて思ってないし・・・どうにもなんないし・・・」 「・・・・・・なんか、山田らしくないんじゃない。そういうの。」 「なによっ、あたしらしくないって・・・そんな何でもかんでも思ってること言えるほど、あたし馬鹿じゃないよ。それに・・・先生からしたら、今のあたしなんて・・・相手にされるわけないでしょ・・・。」 「・・・・・・歳が離れてるからってこと?」 「・・・・・・それもそうだし・・・先生って立場だし・・・」 「そんなの、いい訳じゃん。関係ないじゃん。」 気のせいか、すごく強気な発言に聞こえた。 「・・・歳なんて、関係ないっしょ・・・」 そう付け加えた。 ・・・・・・あ・・・・・・もしかして・・・・・・自分の事・・・?
その時、後ろから話し声が聞こえてきた。 サッカー部らしき何人かが、追いついてきたみたい。 それに気付くと、松井君はまた走り出した。 「・・・んじゃ・・・お先・・・」 「・・・・・・」 黙ったまま後ろ姿を見送った。 ・・・・・・なんで・・・彼はあんなこと言ってきたんだろう。 決して、からかってる感じではない。 むしろ真剣に言ってきてくれた。 まだこの時の真意は、あたしにはわからなかった。
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