「・・・おいっ、山田。しっかり支えとけよ〜。」 「・・・は〜い・・・」 「・・・よしっ、松井これ持ってろ。」 ・・・・・・なぜか、あたしは自転車のパンク修理の手伝いをさせられている。 部活を終えた生徒が次々と帰っていく中、偶然はちあわせしたあたしがつかまってしまった。 「いいところで会った。」 尾上先生はそういうと、当り前のようにあたしに道具箱を渡した。最初は道具とりのはずが、自転車を支えるはめになっている。 どうやら、帰ろうとした松井君が自分の自転車のパンクに気づいたらしい。 そして尾上先生は、パンク修理が得意のようだった。 以前にも他の生徒のパンク修理をしたことがあったらしい。
・・・・・・それにしても・・・寒いし、暗くなっちゃうし・・・・・・帰りたいんですけど・・・。 「おいっ!山田。グラついてるぞ。」 集中していないあたしの手元を注意しながら、器用にタイヤのチューブを外していく。 そして次に、水の入ったバケツにチューブを少しずつ入れ、パンク箇所を探していく。 その手際の良さに、思わず見とれてしまった。 ・・・・・・けっこう、器用なんだ・・・。 あたしは自分でも気づかないくらい尾上先生の事を見入ってしまっていた。
「・・・ここだな・・・よし・・・」 そういうと、チューブの水気を拭き取り、切れはしのチューブをコンクリートにこすりつけた。 「・・・えっと・・・接着剤・・・っと・・・・あれ?・・・ないなぁ・・・」 先生は道具箱をあさって、目当ての物を探していたが見つからないようだ。 「・・・そっかぁ・・・きれてたの忘れてたなぁ・・・ちょっとこのまま待ってろな。俺の車にあったはずだから取ってくるわ。」 先生は、走って駐車場へと向かった。
「・・・・・・」 「・・・・・・」 残されたあたしと松井君はしばし沈黙のままだった。 そしてその沈黙をやぶったのは松井君だった。 「・・・・・・腹減った・・・。」 「・・・・・・はぁ!?」 「・・・あんたなんか食いもん持ってないの?」 「・・・・・・はぁ!!??」 何言ってんのよ、こいつは!あたしだって腹減ってるってのっ!! だいたいあたしまで手伝わされてるのに、なんか詫びの一つでも出てこないのかね・・・ まぁ・・・彼にはないか・・・。 ・・・・・・あ・・・あるにはあるけど・・・。 あたしは残りのチョコレートの事を思い出した。 でも、今日が今日だし、それを出すのはちょっとなぁ・・・。 迷いながら松井君の方を見た。 地べたに座り込んで、頭を下に向けていた。 「・・・・・・・・・今日誰からも食べ物貰ってないの?」 わざと聞いてみた。 「・・・・・・貰うわけないじゃん。」 「ふ〜ん・・・・・・貰えばよかったのに・・・。」 あたしは最後の方は小声でつぶやいた。 「・・・・・・何のこと?」 顔をあげ、下から見上げてきた。・・・いや、睨んできた、が正解か・・・。 「・・・別に〜・・・ただ松井君なら今日はいっぱい貰ってるのかなぁって思っただけ。」 ひるむことなく、あたしは言い返してしまった。 「・・・・・・知らない奴から貰うの気味が悪い・・・」 「なっ・・・に、それ・・・」 気味が悪いだなんて・・・ひっど・・・ 「・・・・・・変なもん入ってるかもじゃん。」 自然かわざとかわからないが、サラッとした言い方があたしには聞き流せなかった。 「・・・・・・そんなわけないでしょっ・・・渡す方だって、すんごい勇気だしてんのに・・・よくそんな風に言えるね。っていうか、知らない子じゃないじゃん、同じ学年なんだし・・・確か、松井君と同じクラスなんじゃないの?」 「・・・・・・へえ〜・・・」 松井君は目線はそのままで立ち上がった。そして今度は見下ろしてきた。 「・・・・・・見てたんだ。」 ―――っ!! 「・・・・・・いや、覗いてたの間違いか・・・。」 ・・・・・・ばかだ、あたし・・・ 「〜〜〜ったまたま・・・そこにいて・・・別に見たくて見たんじゃないよっ、そこに来た自分らが悪いんじゃん。」 あたしは必死に弁解し、なおも松井君に対して反撃した。 「・・・・・・俺だって、行きたくて行ったんじゃないよ。連れが来いって言ったからあそこに行ったら、そいつがいたんだし・・・。っていうか、覗き見してる奴に文句言われてくないんだけど・・・。」 「・・・っ、覗き見って・・・その言い方やめてよね!・・・っだいたいさ、気味が悪いとか、変なもん入ってるとか、そういう風に思うってことは、自分がそうされるようなこと普段からしてるからじゃないの?」 「・・・・・・そんな覚えはない・・・たぶん・・・」 ・・・なっ・・・少し間が空いてから答えてきたと思ったら、思い返していたの? ・・・あたしは・・・売り言葉に買い言葉のつもりで言い返したのに・・・真剣に食いついてくるなよ・・・。 松井君はまた座り込んだ。 「・・・・・・余計な力使わすなよ。あんたと話してると、無駄に体力使ってる感じ。ただでさえ腹減ってんのに・・・」 ・・・・・・失礼なっ・・・・・・ 「・・・・・・ちょっと、チャリ持ってて。」 「・・・はぁ?あのさ、俺がさっき言ったこと・・・」 「いいからっ。・・・ちょっとだけだからっ!!」 しぶしぶあたしと交代で自転車を支えた。 そして、あたしはカバンの中から、簡単に紙に包まれたチョコを取り出した。 「・・・・・・これ、食べたら。」 そういって、差し出した。 「・・・・・・」 黙ったまま、あたしの手元を見ている。 「・・・・・・言っとくけど、変なもん入ってなし、変な意味もないし・・・この間試食したのと同じもの。」 「・・・・・・あぁ、あんたが作ってないやつ?」 ―――っ、余計な事をっ。 一瞬手を引っ込めようかと思ったけど、その前に松井君はあたしの手からチョコを受け取った。 そして、すぐにそれを一口で食べた。 ・・・・・・なんだ・・・すんなり受け取るんじゃん・・・ 「・・・うん・・・うまい!もうないの?」 「え?・・・ある・・・よ。」 催促されるとは思わず、戸惑いながらチョコを取り出した。 今度はあるだけ全部。 そして松井君は、本当にお腹が空いていたらしく、次々と食べだした。 ・・・・・・ちょっと、惜しい気が・・・あたしだってまだ食べたかったのに・・・ 人にあげといて欲張りな感情が出てしまった。 そして残り一つなった時、 「・・・・・・っていうかさ、今さらだけど・・・これ俺が食べて良かったの?」 「は・・・?」 ・・・ほんと今さらだな・・・ 「・・・別にいいよ・・・誰かにあげるためじゃなくて、自分用だったから。」 「・・・ふ〜ん・・・あげる奴いたんじゃないの?」 「・・・・・・もしかして・・・近藤君の事言ってんの?」 「・・・・・・まぁ・・・それもあるか。」 ・・・・・・?それもある?・・・・・・どういうこと? 松井君は残りの一つをあたしに返してきた。 ・・・・・・? 訳がわからなかったが、とりあえずそれを受け取った。もうお腹が満たされたのかと思いながら。 「・・・・・・それ、先生にあげたら?」 ―――っっ!! なっ・・・なんで、そんなこと・・・!! あたしは言葉にはならなかったが、顔がみるみるうちに色が変わっていた。 「・・・・・・やっぱ図星?・・・俺ってすげ〜・・・」 呑気な事を言いながら、あたしの表情を見て笑っている。 「〜〜〜っなにっ・・・言ってんの?・・・訳わかんないこと言わないでよっ!」 あたしは必死に抵抗した。 「・・・前にも何回か話してんの見たことあるし・・・さっきあんたが先生の事すんごい食い入るように見てたから、もしやと思ったんだけど・・・。」 「・・・あのねっ、先生と話なんて誰でもするじゃんっ。それに・・・先生の事見てたのは・・・意外に手先が器用なのが・・・ちょっとびっくりしたからじゃん。・・・そんなんで勘違いされてもっ!!」 「・・・・・・ふ〜ん・・・顔、真っ赤だけど。」 ―――っっ!! とっさに、顔を手で触った。その瞬間、自転車が倒れそうになった。 「おいっ!!・・・」 すかさず松井君は立ち上がり自転車を支えた。 「・・・ったく、人の自転車壊す気かよ・・・。」 この際、自転車なんてどうでも良かった。 あたしは完全に手を離し、この場から去りたくなった。 「・・・・・・まぁ・・・俺は田口と違って、誰かに言ったりしないから安心したら。」 ・・・・・・言い返さなきゃ・・・違うって・・・そんなんじゃないって・・・ でも・・・今は、何を言っても裏目に出そうな気がして、何も言えなかった。 「・・・でも・・・おもしろい事知っちゃった・・・」 松井君は、ニヤニヤと笑っていた。 ―――っっ、だめだ!!やっぱ言い返さなきゃ!! 「〜〜〜あのねっ・・・」 あたしが口を開いたとき、向こうから走ってくる足音が聞こえてきた。 ―――っっ!!―――こんな時にっ!! 「ごめんごめんっ、遅くなって。車にもなくて、資材室から持ってきたわ。」 あたしは先生の事を直視できなかった。 そんなあたしの様子を伺ってか知らないが、松井君が返事をした。 「・・・・・・もう来ないかと思いました。」 「あはは、すまんすまん・・・ん?お前なんか食べてんのか?」 松井君の口元と包み紙を見て先生は聞いてきた。 「あ〜・・・腹減ったんで、山田に貰って・・・。」 「・・・まぁ、今日だから大目に見るけど、校内で食べるなよ〜。っていうか、山田。」 松井君からあたしの方に視線が向けられた。 ・・・・・・普通に・・・普通に・・・ 自分に言い聞かせながら、先生を見た。 「おまえ普段から食いもん持ってきてんじゃないだろうな?」 「え・・・いや・・・違い・・・ます。」 「・・・そうか?んじゃあ、まぁいいけどな。」 少し態度のおかしいあたしに先生は疑問に思いながら、作業に取り掛かろうとした。 「・・・・・・先生も貰ったら?」 ―――っっ!!こいつっ・・・何言って・・・!! 「え・・・?」 松井君の言葉に先生は手を止めた。 「腹減ってません?まぁ、ふくれないにしても少しはまぎれますよ。ほら・・・」 そういうと、あたしの方を見て、やるように促してきた。 〜〜〜っ、もうっ・・・なんなのよ・・・ あたしはこの流れに歯向かう事も出来ず、チョコを差し出した。 「・・・・・・一個しかないですけど・・・。」 「・・・・・・これ貰ったら、共犯だなぁ・・・・・・ま、いっか、今日くらいは。」 先生はあたしの手から、チョコを受け取った。 「山田からの日頃の感謝の気持ちとしてもらっとくわ。」 「・・・・・・そんなこと一言も言ってませんけど・・・。」 あたしはかろうじて言い返した。 「なに〜?感謝だらけだろ〜?」 先生はパクッと一口で食べてしまった。 「ん?・・・うまいな、これ。手作りか?」 「えっ・・・あぁ・・・まぁ・・・」 松井君の言うとおり、あたしが作ってはいないけど・・・。 「ほ〜、さすが女子だな。こういうことするなんて。」 「いや・・・そのっ・・・」 完全にあたしが作ったって思ってる。否定しなきゃっ・・・ 「山下達と作ったみたいですよ。」 え・・・? あたしが言う前に松井君が言った。 「へぇ〜、そっかぁ。」 先生は、そういうと今度こそ作業に取り掛かった。 ・・・・・・言いそびれた・・・ なによっ・・・こいつ、なに企んでんの? すました顔の松井君に目をやった。 ・・・・・あ〜あ・・・チョコなんて出さなきゃ・・・その前に、もう少し早く帰ってればこんな目に合わずに済んだのに・・・。結局、先生の事、松井君完全にそう思い込んでるし・・・・・・。 ・・・・・・って、やっぱり・・・あたし・・・先生の事・・・そうなのかなぁ・・・。 「おい、山田。マイナスドライバー取ってくれ。」 「あ、はいっ・・・。」 結局、最後まで手伝いをさせられてしまった。
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