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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第30回   30
バレンタイン気分も放課後になると、だんだん沈んで行った。
たいていみんな勝負は昼休みまでに終えているらしい。

「智子、部活行く?」
まどかが帰り仕度を終え、スポーツバックを持っていた。
見るからに気分は上々のようだ。
きょんちゃんとは違い、昼休みに想い人にチョコを渡せたみたい。
今の段階で、つきあうつきあわないの話は出ていないが、それも時間の問題だろう。
たしか、2年になって同じクラスになり、一気に二人の仲は縮まっていってたもんな。
それからの付き合いは、ず〜っと続き、成人式の時にできちゃった婚の報告があったっけ?。
最後に連絡取り合った時は、3人の子供に恵まれ、上の子は今度小学生になるって言ってたような・・・。
・・・改めて、すごいことだなぁって思ってしまう。
もうこの時から、将来ずっと過ごす人に出会えるなんて・・・。
まぁ、考えてみれば、学生時代が一番の恋愛環境にピッタリなんだよね。
男女同じくらいの人数がいて、規模のおっきい合コン・・・ちょっと言い過ぎ!?かもしんないけど、勉学は外せないとしても、お金の工面とか仕事へのプレッシャーとかない時代だから、恋愛に打ち込めるもんなぁ。
・・・・・・あたしって、つくづく無駄に青春過ごしてたな・・・・・・

「行く行く。ちょっと待ってて。」
急いで教科書をカバンにしまい込む。
「きょんちゃん見当たらないけど、どうするのかなぁ。」
まどかは教室を見渡した。
「え?いないの?」
あたしも思わず周りを見回した。
すると廊下から笑い声と同時に姿を現した。
―――っっ!!
隣にいる相手に、あたしは目を疑った。
「あっ、いたいた。なんだ田口君と一緒じゃん。珍しい組み合わせだね。」
なんてことを呑気に言っているまどかとは逆に、あたしはハラハラしていた。
・・・なんで?・・・なんで、田口君と一緒にいるの?
まどかが言ってた通り、ツーショットなんて初めて見た。
しかも楽しそうにおしゃべりまでしてるじゃん!
・・・・・・っ!!
「きょんちゃんっ!」
なんとなくそんな二人を見るのが嫌で、こっちに呼びよせた。
「ん?・・・あ、じゃあね。」
あたしに呼ばれたことで、田口君にひとこと言ってから、こちらに来た。
・・・・・・昼休みとは、全くもって想像できなかった表情で・・・。
「あ〜、部活いくの?あたしも〜。」
あたし達が部活の準備をしているのを目にし、席に戻って支度をし始めた。
急いで、準備を整えたあたしは、まどかと一緒にきょんちゃんの元へ行った。
田口君は部活に行ったのであろう。すぐに教室から姿が無くなっていた。

「どうしたの〜?田口君となんかあったの?」
相変わらず、思った事をそのまま口にして話すまどか。
あたしは、無言できょんちゃんの答えを待つ。
「え〜、別になにかって訳じゃないんだけど・・・。」
そう言いながらも、笑顔が絶えることがない。
「なになに?気になるじゃん。」
きょんちゃんの様子にまどかは、顔を下から覗き込んだ。
「え〜、・・・その・・・なんていうか・・・結果から言うと・・・」
・・・結果から言うと・・・
心の中で繰り返す。
「・・・チョコあげたの?」
・・・・・・へ!?・・・・・・誰に!?
「え〜、田口君に!?」
まどかの言葉に、コクンと頷くきょんちゃん。
・・・・・・え!?・・・えっ!?・・・え〜っ!!??
「なんで?」
・・・・・・そうよ・・・なんで?
まどかのように声が出せず、ただただ二人の会話についていく。
「・・・なんでって・・・まぁ、深い意味はないんだよ。」
「えっ、でも待って・・・チョコって、加藤君にあげるはずだったチョコでしょ?」
まどかは小学校が違うから、たかちゃんのこと苗字で呼んでいた。
「うん・・・それしか持ってきてないもん。」
「・・・それを・・・田口君にって・・・深いじゃん!深すぎるよ!」
ここまでくると、さすがのまどかも動揺を隠せない様子だ。
「だから〜、違うってば!田口君、あたし以外からも同じような理由でチョコ貰ってるよ。」
・・・???どういうこと?

話を聞いてみれば、田口君はいろんな女の子に、渡すはずで渡せなかったチョコを、捨てるくらいなら自分に恵んで欲しいとのことで、いまだに手元にあるだろうと思われる人物を探しては相談に乗りながら、貰っていたらしい。
その相談によって、やはり想いを届けようと思う物もいれば、きょんちゃんのようにあっさりと恵んでしまう子もいたらしい。
・・・でも、これはあくまで、田口君からの話であって・・・・。
あたしは、この説明を聞いてる途中から、あきらかな犯行とみた。
田口君は、なんらかの形できょんちゃんが誰かにチョコを渡すことを知ったんだろう。
きっと、気が気じゃなくきょんちゃんに近づいたものの、そんな嘘をついて、挙句の果てにチョコをゲットしたのでは・・・。
頭の中で、田口君の行動を推測しまくっていた。

「へ〜・・・なんか、変な流れだけど・・・でも、良かったの?それで。・・・加藤君にあげれなくなったのは確実じゃん。」
まどかは、納得いかない様子で問いただした。
「・・・・・・うん・・・それはもういいやって思っちゃったから。なんか田口君と話してたらそういう風に思えちゃった。」
後悔しつつも、わりとあっけらかんとしている。
・・・違う・・・違うよ、きょんちゃん!!
あいつがきょんちゃんにそう思うように仕向けたに違いない!!
騙されてるんだよっ!!
あたしは心の中で、必死にきょんちゃんに訴えたが、それを声にすることはできなった。
―――「・・・協力するしないは別として、このこと黙っといてよ。」―――
・・・あの時の、松井君の言葉が頭の中に強く残っていた・・・。
田口君本人に口止めされたことよりも、その事の方が、あたしのなかで強かった。
なんでかは、わからなかったけど・・・。

「さっ、お待たせ。行こう。」
きょんちゃんはすっきりした感じで、さっそうと荷物を持ち席を離れた。
「あ〜、もう待ってよ〜。・・・智子?行くよ。」
半ば呆然と立ち尽くしているあたしに、まどかが不思議そうに声をかけた。
「・・・あぁ、・・・うん・・・」
・・・・・・これ以上良くない方向に進まないよね。
自分に言い聞かせ、荷物を持ち二人の後を追った。

そして、あたしの分のチョコは・・・というと・・・。
まだ、残り半分はあるかな。
ラッピングなんてすることなく、自分のおやつとして持ち歩いていた。

みんなからは、「近藤君にあげなよ」なんてこと言われたけど全くそんな気はなく・・・。
でも、美樹に言われたことにドキッとした。
昨日の休み時間、あたしと二人だけの時があって、その時に美樹が話してきた。

「・・・智子」
「ん?」
「・・・あのさ・・・違ってたらごめんね。」
「・・・?・・・何?」
「・・・近藤君のこと好きじゃなくなったって言ってたじゃん。」
・・・そのことか・・・
「うん。好きじゃないよ。っていうか、今までも好きだったのかどうかよくわかんないや。」
「・・・・・・そう思うようになったのって・・・最近?」
少し言いずらそうになっている美樹に疑問を感じた。
「・・・最近っていえば・・・最近かな?・・・なんで?」
「うん・・・その・・・学校来るようになってから、思ったんだけど・・・智子って・・・尾上先生の事、どう思ってる?」
―――っっ!!
突然の事で、頭がパニックになった。
なぜ美樹はそんなこと聞くんだろう・・・。
なぜあたしは、こんなにうろたえてるんだろう・・・って。
「―――っどうって・・・」
それでもあたしは動揺を隠すかのように、口を開いてみたが、続きがうまくでてこない。
「・・・なんとなくね、前の智子と先生って、こんな感じじゃなかったよなぁって思ってさ・・・でも、先生の事、前、煙草臭いとか言って嫌がってたし・・・まさかなぁとは思うんだけど・・・・・・でも、やっぱ、なんか気になって・・・。」
・・・・・・あたしは美樹の言葉を聞きながらも、なんて言おうかと考えていた。
・・・・・・そもそも考えなきゃいけないないんて・・・どうかしてるよな・・・。
「・・・別に、からかうつもりとかで言ってんじゃないよ。」
美樹はずっと黙っているあたしのことを気遣った。
「・・・・・・うん・・・わかってる。」
からかうつもりじゃないことぐらいわかる。
・・・・・・わからないのは、答えられないあたしだ・・・。
今までも、何回か考えようとしたけど、すぐに打ち消していた。
・・・・・・自分でもわからないくらい、尾上先生の事を意識してしまうことに・・・・・・

なにかの勘違い
あたしの中身が大人だから、歳の近い先生と話しやすいんだ
最近、男の人との関わりがなかったから、余計に敏感になってるんだ

そう理由をつけては、考えるのを躊躇していた。
でも、人からこんな質問されるなんて・・・知らず知らずに態度に出ていたんだろうか?
・・・・・・気付かないようにしている自分の気持ちに・・・・・・

そうこうしているうちに、他のみんなが合流し、話題が変わっていった。
美樹はその話には触れず、そのままになってしまった。

部活を終え、きょんちゃんとまどかと別れ、駐輪場に来た。
最近は、早めに来ているので余裕で止めることができていた。
もう帰った生徒も多く、まばらに自転車が止められている。あたしはその中でわりと早く自分のを見つけ、カギをさしていた。

「お〜、今帰りか?」
−−−っっ!!
顔を見なくても誰だかわかった。
今、あたしの頭の中をいっぱいにしている人物・・・尾上先生だった。
「・・・・・・はい・・・」
いつもとは違う気弱な返事になってしまった。
そして、ゆっくり振り返ってさらにあたしは、気が動転した。
その後ろに立っていた男子生徒もまた、少し気になりつつある人物だった。
部活を終え、帰る支度をした松井リョーマだった。


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