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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第27回   27
2月に入り、周りはバレンタインデーの話題で盛り上がり始めていた。
好きな男の子がいる子はもちろんのこと、そうでない子もとりあえず作ることが目的として、誰が持ってきたものか定かではないが「手作りチョコ」とタイトルの載った雑誌が回し読みされていた。

あたしたちの手元にもそれが回ってきて、昼休みの話題となっていた。
「これおいしそう〜!ねぇねぇ、美樹作ってよ〜。」
「え〜っ、なんでよ〜。自分で作んなよ。」
「・・・だって〜、美樹こういうの得意そうじゃん。ほら、前にクッキー焼いてきたのあったじゃん!あれ、すんごいおいしかったもん。」
「あ〜、うんうん!おいしかったよね〜。」
あたしの言葉にきょんちゃんが賛同した。
「え〜、いつの?あたし食べた?」
橘まどかが聞いてきた。
「食べたじゃん!ほら〜、マーブル模様したやつ。まどかが一番食べてなかった?」
森下夏美が雑誌のページをめくりながら言った。
「・・・あぁ!あれか!何あれ美樹が作ってきたの?あたし知らなかったよ。なんかみんな食べてたから一緒に食べただけで。てっきり、市販のかと思ってた〜。」
「え〜!?ちょっとまどか〜、そんなおだてないでよ〜。」
美樹が多少照れながら返す。
「ほんとほんと!マジだって〜。」
「・・・ほら〜、まどかもこう言ってることだし・・・ね?材料費出すから〜。」
あたしは手を合わせてお願いした。
「んもう〜〜っ・・・わかったよ。」
「ほんと!?やったー!!」
「そのかわりっ・・・」
喜ぶあたしたちは美樹の言葉に止まった。
「・・・一緒に作るよ。」
「・・・え〜〜っ!!」
嫌がるあたしと違ってきょんちゃんはつぶやいた。
「・・・楽しそう・・・うん、みんなで作ろうよ。他にもおいしそうなのあるしさ。」
「・・・じゃあ、決まりね。」
こうしてあたし達は美樹の家に行ってチョコレート作りをすることになった。

まどかと夏美、ことなっちゃんは、わだかまりが無くなって、また前のように仲良くなった。二人ともあたしの知らないうちに、美樹に謝ったみたいだ。
元々この二人もあたしときょんちゃんと同じように、後ろにくっついていたような感じだったから、そういうのを止めようと決心したみたい。

一方、弘子と美穂は・・・。
先生と話をした翌日、あたしは思い切って、二人に「おはよう」とあいさつをした。
当然、相手があたしだったから驚いた様子だった。
でも・・・小さい声だったけど、聞こえた。
「・・・おはよう・・・」
「・・・おはよ・・・」
って・・・。
それ以外は話していない。朝会ったらあいさつだけ。それだけだったけど、あたしは十分だった。前のように仲良くはならなかったけど、全く存在をお互い認めないようにして過ごすよりよっぽど良かった。
またいつか自然に話せるようになる時がくるだろう。慌てて、無理に今仲良くしなくても、きっと普通に自然に・・・。
あたしはそう思っていたかった。

バレンタインデーに近い日曜日。
あたしたち4人は美樹の家にお邪魔した。
まどかもなっちゃんも、初めて美樹のお母さんを見てびっくりしていた。もちろんきれいだから。あたしと同じように自分の母親と比べていた。
「なんのおかまいもできないけど、ごゆっくりね〜。」
美樹のお母さんは、最初だけいて婦人会の用事とかですぐに出掛けた。

そしてチョコレート作りが始まった。
担当が分担された。
主に作る人・・・美樹ときょんちゃん
補助的な人・・・まどかとなっちゃん
残りのあたしは・・・後片付け・・・
ほんとあたしは、料理という料理ができなかった。というかやる気もなかった。
味見担当でもよかったんだけど、それは外されてしまった・・・。

「・・・よ〜し・・・ここがポイントだね・・・。」
あたし以外のみんなで丁寧にチョコを仕上げていく。
いわゆる生チョコみたいな感じに作るため、今の作業は手早くしなければいけないみたい。

―――ピンポーン・・・
インターホンが鳴った。
「え〜、誰だろ〜?・・・ねぇ、ちょっと智子。出てくれない?」
「げっ、あたし!?」
「お願い〜、これやったら行くからさ。変な勧誘だったら、速攻無視していいからさ〜。」
「・・・わかった。」
手が空いているのはあたしだけだから、しぶしぶ玄関へ向かった。
ただでさえ、人が家に来るの応対するの苦手なのに、よそんちのなんてなおさらだよな・・・。
あたしは、おそるおそる扉を開けた。
「「―――っ!!」」
あたしも相手もお互いに一瞬固まった。
目の前にいたのは、松井君だった。
「・・・・・・いたの?」
先に口を開いたのは松井君だった。
「・・・あぁ・・・うん。」
そして松井君は、確認するように外を振り返った。
「・・・今日チャリは?」
「え・・・あぁ、今日はみんなとバスで来たから・・・。」
「・・・みんな?」
そういうと、玄関にずらりと並んでいる靴に目をやった。
そして、気まずそうな顔になった。

「ごめんごめん、誰だった?」
パタパタと美樹が台所から走ってきた。
「あ・・・えっと・・・」
あたしは美樹の方を振り返った。と同時に美樹は松井君に気付いた。
「あれ?どうしたの?リョーマ君。」
美樹の呼び方に、この二人の関係を思い出した。
幼馴染で、今でもたまに家に来るって言ってたな、そういえば・・・。
「・・・これ・・・」
松井君は手に持っていた器を差し出した。
「あぁ、お母さん昨日持っていったって言ってたもんね。もう夕飯食べ終えてたんじゃない?」
美樹は松井君から空の器を受け取った。
「いや、まだだったから助かったよ。おばさんいないの?」
「うん、婦人会で出掛けてる。」
「そっか、お礼言っといて。」
「うん、わかった。」
「じゃ・・・。」
そう言うと、松井君は帰ろうとした。
「・・・あっ、そうだ!ね、ちょっと上がってよ。」
・・・・・・へ?
美樹は帰ろうとする松井君の腕を引っ張って、家の中に連れて行った。
「ちょっ、おいっ!なんだよ!」
無理矢理の美樹の行動に、さすがの松井君も戸惑う。
当り前だろう。靴を見てもわかる通り、中にいるのは女子ばかりだし、そんな中に彼を連れて行こうとするなんて・・・。
「いいからいいから。」
かまわず、松井君を台所の方へ連れて行って・・・いや、引っ張って行った。
「離せって!・・・美樹っ!」
必死に抵抗する松井君の言葉に反応してしまった。
・・・いま・・・美樹って・・・呼び捨て?
・・・・・・そっか・・・幼馴染・・・だったね。
納得するものの、松井君の呼び方に少しドキッとしてしまった。
確か、あたしが道に迷った時は、「山下」って呼んでたけど・・・。
前に、美樹があたしときょんちゃんの中と同じとは言っていたけど・・・やっぱり相手が男の子だと・・・ううん、松井君だと同じとは思えない。

あたしは、ポツンと取り残されたが、とりあえず空きっぱなしの玄関を閉めて、ひっくり返った松井君の履いてきたサンダルを、並べ直してからみんなの方へ戻った。


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