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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第26回   26
休み時間になる度に、美樹の周りには生徒が増えていった。
あたしときょんちゃんはもちろんのこと、他のクラスで小学校から美樹と仲良かった子もきた。ひとみもそのうちの一人。
「はい、これ。クラス違うから多少ズレはあるかもしれないけど。」
そう言って主要の3科目のノートを渡した。
「え〜っっ!!すごーい!!」
あたしは美樹より先にノートに手をやった。
こんなこと気にも止めてなかった。さすが、ひとみだわ。
パラパラとノートをめくっていると、美樹がノートを取り上げた。
「・・・これは、あたしの!ありがと、ひとみ。」
「くすくす、どういたしまして。」
「・・・ねぇねぇ・・・そのノートあたしにも見せてほしいなぁ。」
あたしは美樹におねだりした。
「なんで?智子休んでないじゃん。」
「・・・そうなんだけど・・・その・・・最近ちゃんと授業聞いてなかったかもって・・・。」
「・・・ほ〜、なら山下と一緒に補習受けるんだな。」
「「え?」」
会話のなかに、低い声が混じってきた。後ろを振り返ると、いつの間にか尾上先生が立っていた。
「先生っ、いつからいたの?」
「たった今だよ。」
「・・・補習って・・・ほんとですか?」
美樹が恐る恐る聞いてきた。
「ああ、他の先生にも協力してもらう予定だから、今日から放課後残っとけよ。1週間以上休んでると、結構進んでるからな。」
「げ〜・・・最悪・・・」
「な〜に言ってんだ。感謝しろよ。わざわざ山下の為にするんだから。」
「え〜・・・頼んでませんけど・・・」
「またっ、そういうことを言う!山田と一緒にいすぎて似てきてないか?」
「・・・ちょっと、先生どういう意味?」
すかさず突っ込んだ。
「そのまんまの意味だよ。それよりほんとに山田も受けたらどうだ。確かに最近の授業身に入ってなさそうだからな。」
「え〜っ!!冗談・・・」
すぐに断ろうとしたが、それは美樹によって遮られた。
「うんっ、そうしよう!一緒に頑張ろう!!」
満面の笑みで言ってきた。
「・・・え・・・いや・・・でも、ほら、部活が・・・。」
「・・・大した活動もしてないんだろう?」
「・・・・・・」
先生がボソッと言ってきた。それに反論しようと思ったが、言葉が出てこない。
「よしっ、じゃあ決まりな。ここの教室でやるから、ちゃんと残っとけよ。」
先生はそう言うと、教室から出て行った。
「くすくす、頑張ってね、お二人さんっ。」
周りのみんなは人ごとのように笑っていた。
・・・あ〜あ、せっかくの放課後が〜・・・
その日から1週間、あたしと美樹の補習が行われた。
毎日1時間行われたが、結構時間の割に、内容の濃い補習だった。

そして補習の最終日。
「はぁ〜・・・終わった〜。」
あたしと美樹は机の上にもたれた。
「よし、じゃあ後は自分らで復習しておけよ。テストには間に合ったんだから、期待しておこう、おまえらの成績。」
尾上先生は、黒板を消しながら言ってきた。
「・・・先生っ、それとこれは別。」
あたしは態勢を戻し、言い返した。
「な〜に言ってんだ。こんだけ事細かく指導したんだぞ。それなりの結果出してくれよ〜。特に山田の質問攻めには疲れたし・・・。」
「〜〜〜っ、だって、いい機会だし納得いくまでと思ってさ・・・」
確かに、あたしは知識が飛んでいってしまったせいもあって、必要以上に質問した。補習内容とは違う事まで。基本的なことから、まだ習っていない内容がごちゃまぜになってしまって・・・。
「なら、なおさらだ。っと、それより山田、おまえ今日日直だっただろ?」
「え?・・・あー、はい。」
男女一人ずつペアで日直をしていた。
「日誌記入漏れだらけだったぞ。職員室あるから書きに来い。」
「え〜っ!?うそ・・・渡辺君に頼んどいたよ〜。」
日直の仕事は、日誌を書く以外にいろんなことがあり、大半はあたしがしたので、日誌くらいは同じ日直の渡辺君に託していたんだが・・・。
「あいつもう帰っただろ?じゃあ、しかたない。おまえが責任もって書くんだな。」
「え〜っ、もう〜っ、わかりました。・・・あ〜、美樹、先帰ってていいよ。時間かかるかもしれないから。」
「うん・・・わかった。じゃあね。」
あたしは先生の後を追うように教室を後にした。

生徒はこの時間に校内には残っておらず、静まり返っていた。
ペタペタ・・・と先生の歩くスリッパの音だけが妙に響いていた。
あたしはそんな先生の後ろ姿を眺めながら、2、3歩後ろを歩いていた。
「・・・どうだ?」
「へ・・・?」
先生の突然の質問に戸惑う。
先を歩くスピードを緩め、あたしと並ぶように歩きだした。
「・・・クラスの連中だよ。この1週間、山下に対してなんかあったか?」
「あぁ・・・ううん。何にもないよ。」
「・・・そっか・・・」
「・・・なんか、あたしだけかもしんないけど、美樹が休んでたのがウソみたいに思えちゃう。」
「・・・そっか・・・俺も・・・そうかもな。」
「・・・先生の言った通り、普通にしすぎてるからかもね。」
「あはは、そっかそっか。・・・・・・北田達とはどうだ?」
−−−っ!
先生は最初から、この事を聞きたかったんだ。
あたしも、そうじゃないかと思いながらも避けていたけど・・・。
「・・・相変わらずだよ。・・・あれから話してない。あたしはもちろんだけど、美樹やきょんちゃんも・・・かな?」
「・・・そっか・・・おまえはどうしたいんだ?」
「・・・どうしたいって・・・このままじゃ良くないとはわかってんだけど・・・でもあんまりわかってないかも。避けられてるのはあからさまだし、かといって、しらじらしく仲良くするのも、ちょっとなぁって感じ・・・。」
「・・・・・・無理に仲良くする必要はないだろ。」
「・・・え?」
「・・・まぁ、先生の立場でこんなこと言うのは無責任だろうけど・・・でも、世の中には、合う合わないの人間がいるからな。現に俺だってあるさ。でも、嫌だからって、関わらずにはやってけないしな。今は良くても、やっぱ生きていく上でそれは避けられないことだと思うよ。」
先生の言葉をただただ黙って聞き入っていた。
「将来社会にでたら、もっともっと嫌な現状にぶち当たるだろうし・・・それでも自分が苦手な奴ともうまくつきあっていかなくちゃなんない。上司にしろ部下にしろだ。まぁ、同じ人間としては沢山の人と関わったがいいぞ。マイナスもあるがプラスだってなんらかあるしな。友達ってのは、ごくわずかでも中身が濃ければ数人でもいいけどな。・・・でも、おまえらはせっかく何かの縁があって出会ったわけだろ?たまたま同じクラスに、たまたま同じ学校に、たまたまこの時代に・・・って、ちょっとオーバーだけど、その出会いをほんの少し大切にしたら、何か変わるんじゃないか?相手との関係は二の次で、自分自身の気持ちがな。・・・・・・ちょっと難しすぎたか。」
「・・・ううん・・・すごい、わかる気がする。」
・・・たまたまこの時代に・・・その言葉がすごく心に響いた。
「・・・そうか?」
「・・・うん。・・・明日・・・無視されるかもしんないけど・・・声かけてみるね。」
「・・・そうか。」
先生はニッコリと笑った。
ふと大人の時の自分を振り返る。
あたしは先生の言うような大人のつきあいはしていなかった。
嫌な人とはとことん避けて、自分の過ごしやすい・・・ううん、楽なほうばっかりに逃げてきた。
人間関係もそうだし、仕事に対しても。
だから、あたしはなんの目的も楽しみもない生活を淡々と過ごしてたんだろう。
今の自分は少なくとも大人の時より、充実してる。
・・・楽しい。素直にそう思えることもある。
「・・・まぁ、これ以上もめ事起こしてくれないことが、先生としては何よりだけどな。」
「・・・結局、先生が負担減らしたいだけじゃん。」
「おまっ・・・言ってはならないことを〜・・・。」
そう言って、あたしの頭を前のように片手でぐしゃぐしゃっと撫でた。
そして、また同じように変な緊張が走ってしまった。
〜〜〜っ、スキンシップでこんなテンパるんなんて・・・
必死に平然にしようとすればするほど、意識してしまう自分がいた。
なんで・・・?こんな感情すら久しぶりすぎて、対応がうまくできない。
・・・・・・あたし、欲求不満?
そんなバカげたことを考えてしまう自分に、また呆れてしまった。


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