なんとか予鈴までには間に合った。 教室の前まで来て、美樹の足が止まる。
「・・・だい・・じょうぶ?」 様子を伺う。いくらあたしが守ると思っても、無理矢理連れ込むより、本人の意思で扉を開けた方がいいと思った。 「・・・うん・・・よしっ・・・!」 意志を固め、いざ扉に手をかけた。・・・が、その時だった。 「お〜、来たか〜。」 その場の緊張感を見事に打ち砕いてくれるような、のんびりとしたトーンで尾上先生が歩いてきた。 「〜〜〜っ・・・もうっ、先生・・・。」 あたしまでガックリきて、先生を睨む。 「なんだなんだ?どうした?」 力の抜けたあたし達に先生は終始のんびりしている。 「・・・どうしたじゃなくて・・・今あたしら気合いを入れてたの!」 あたしはガッツポーズをして見せた。 「気合い!?・・・はっ、あほかっ。」 あ・・・あほ!?ですと−!! 「そんなもんに力入れてどうする。もっと違うもんにしろっ。」 「違うもんって?」 あたしはすかさず聞いた。 「そりゃあ決まってるだろ。勉学だ勉学!」 「・・・はぁ?何言ってんの?」 「またそんな生意気な顔をするー・・・って、おい山田、今日はそれバッチリなのか?」 先生はあたしの頭に目をやった。 とっさに頭を手で隠した。まだ寝癖が多少残っている状態だ。 トイレで整える予定が、時間がなくてできなかったのだ。 「〜〜〜っっ、ほっといてください!レディーにそんなこと言うなんて先生失礼ですっ!!」 あたしは恥ずかしさで一杯だったが、必死に言い返した。 「ほ〜、そういう時はちゃんと敬語なんだな。感心感心・・・。」 むむむっ・・・ 「・・・先生こそ、いっつも髪ボサボサだし、無精髭だし、ちゃんと身だしなみしてるんですか?」 「俺か?俺は自然体でいる主義なんだよ。わかってないな〜、やっぱガキだわ〜。」 が・・・ガキ〜!? よりによって先生に言われるなんて、すごいしゃくなんだけど・・・。 「・・・あの・・・そろそろチャイムなるかも・・・」 美樹は、あたしと先生のやりとりに呆気をとられ気味だったが、廊下の時計を指さした。 と同時にチャイムが鳴った。 「よしっ、ほら入れ。普通にな。」 先生はあたしと美樹の背中を押した。 ・・・普通・・・ 「変に構えると余計おかしくなるぞ。普通でいろ、特に山田な。」 「・・・あたし?」 「そうだ。お前が山下の事思ってるのはようくわかるが、ガードが硬すぎると余計にこじれないものもこじれてしまうぞ。おまえらが普通にしてれば自然とみんなもそれになじんでくるよ。」 「・・・・・・」 「・・・何かあったら、そりゃあおまえの出番だろうけど・・・いや、その前に先生に言ってくれな。山田だとまた暴言吐くかもしれんしな。」 「なっ、ひっど〜い!」 「あはは、冗談だ冗談。ほら早く教室入れ。」 先生は、前の入口から教室に入った。 ・・・そうだね、先生の言う通りだ。 普通・・・簡単そうで難しいかもしれない。 ・・・でも、それが美樹を守る一番の方法かも・・・ 「・・・はいろ。」 あたしは美樹の腕に手を回した。 「・・・うん。」
「こらー、席に着かんか−。ほら田口!席戻れっ。・・・ほら、山田、山下も席に着け。」 先生の言葉に一斉にみんなの視線が後ろに注目した。 もちろんあたしではなく、美樹の姿にだ。 「・・・・・・は〜い。」 あたしはわざと大きな声で返事をして席に向かった。 同時に美樹も自分の席に向かった。 「・・・じゃあ、今日の予定言うぞ。・・・」 先生は、それこそ普通にいつものようにホームルームを始めた。
クラスのみんなも気になりつつもあるけど、自然にふるまおうとしている。 全員とは言わないけど、美樹の事を心配していた人はいるはず。 ・・・きっといつか、ほんとうに自然に普通に過ごせる事を望んでるよね。
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