やっば〜い、これじゃ間に合わないかも・・・。 恒例となった朝の自転車通学。
今日から美樹が学校に通い始める。 早めに起きて美樹のところへ迎えに行く予定が、昨日懐かしいテレビ番組に見入ってしまったもんだから、寝過ごしてしまった。
気合いを入れた身だしなみも今日はできなかった。 どうせ風によって髪型は乱れるから、学校で整えた方がいいだろう。
学校を通り過ぎて、美樹の家の方角へ自転車をこいで行ったが、すれ違う生徒達は不思議そうに振り返っていた。こっちの区域の生徒でもないし、学校の逆方向に向かっているんだから無理もないだろう。
しばらくして信号待ちをしていると、反対方向から見慣れた姿を二人とらえた。 ・・・・・・なんで?
向こうの二人はまだあたしの存在には気づいていないようで、信号待ちしながら会話をしていた。それは自然で、前からそういう仲だったかのように見えた。
信号が青に変わり、二人は前に進んだ。 そして、一人が止まったままでいるあたしに気付いた。
「・・・智子?・・・うそ・・・ほんとに迎えに来てくれたの?」 そう言って自転車をこいで来た。 もう二度と見ることはないはずだった制服姿で、美樹はあたしの近くまで来て止まった。 「・・・あ〜、うん。ちょっと、いや、かなり遅れちゃったけど・・・。」 そう言いながら美樹に目をやりつつも、後方から来る相手が気になった。 「・・・・・・じゃ、俺先行くわ・・・。」 あたしと目があったが、止まることなく自転車をこいでいった。 「あ・・・ありがとうね、リョーマ君!」 過ぎ去って行く彼に美樹は叫んだ。 ・・・・・・え?・・・・・・え!?・・・・・・りょーま・・・くん!? 「・・・仲・・・いいの?」 あたしは恐る恐る聞いた。 「へ?・・・あぁ・・・うん、まぁね。」 少し言いにくそうになる。 「そうなんだ・・・そっか・・・同じ小学校だったもんね・・・家も近所みたいだし・・・仲もいいか・・・それとも・・・まさ・・・か・・・」 美樹の言いづらそうな態度にあたしはすごい妄想が膨らみ始めていた。 「え・・・ちょ、なにか勘違いしてる?」 あたしが言おうとしていたこと遮って、美樹は否定した。 「・・・え?・・・そういう仲・・・ってことじゃ・・・」 「やだ〜、違うってば!・・・っていうか、隠してるつもりじゃなかったんだけど、なんとなくみんなには言えなくて・・・ほら、リョーマ君って人気あるからさ。」 ・・・・・・どういうこと?ますますそっちの方に思ってしまうんだけど・・・。 「・・・実はさ、リョーマ君とは幼馴染でさ、智子ときょんちゃんみたいな感じだよ。」 あたしたちは止まっていた足を動き始めた。 「あたしんちに小さいときよくリョーマ君来てたんだ。それで、あたしとおねーちゃんと3人で遊んでたの。リョーマ君ちってお母さん早くに亡くなっててさ・・・」 ・・・あぁ・・・そういえばそんな話聞いたことあるな・・・父子家庭だってこと。 「あたしんちとリョーマ君ち2件隣だから、よくうちのお母さんがリョーマ君を呼んでたの。お父さんの帰り遅かったし、夕飯一緒に食べたのもしょっちゅうでさ。まぁ、中学に入ってからはあんまり来なくなったけど、でも今でもおねーちゃんが帰って来たときとか来てるし。昨日だって、智子たち帰った後うちに来ててさ、その時におねーちゃんに今日の朝、あたしを一緒に学校に連れて行けってうるさく言われて。だからだよ。」 「・・・・・・」
空いた口がふさがらなかった。 初耳の事ばかりだったし、いろんなとこで驚く事実に言葉が出てこなかった。 松井君ち・・・美樹んちの2件隣・・・なんだ・・・しかも幼馴染・・・ 相手が相手だから、あたしときょんちゃんの様と言われても、ピンとこない。 それに・・・ 「・・・美樹・・・松井君の事・・・下の名前で呼んでたことあったっけ?」 今までのあまり松井君の事を美樹と話した覚えもないが・・・。 「あ〜・・・みんなの前では・・・中学に入ってからは特に、呼んでなかった。っていうか、呼ばないようにしてた。」 「・・・なんで?」 「・・・なんか、変な誤解されるの嫌だったし・・・リョーマ君に迷惑もかけたくなかったし・・・。」 ・・・あぁ、そっか・・・思い出した。 弘子たちと美樹が話すようになったきっかけは、松井君と美樹が同じ小学校出身ってことから始まったんだった。近所同士ってのを知っていたかどうかは分からないが、何かの接点があるのを知っていたから、美樹から情報を得ようとしていたんだった。 だから、美樹はあまり松井君との仲を知られないようにしていたんだ。 「・・・でも・・・なんか、もういいかなって思ってさ。」 少し吹っ切れるように美樹は笑った。 「・・・リョーマ君も前みたいに話してくれてたし・・・まぁ、あたしが登校拒否してたから気にしてくれてるのもあるんだろうけどさ。」 「・・・・・・そっか。そうだね、わざわざ仲いいのに悪くする必要ないよね。うんうん・・・あたしにとって松井君は・・・まぁ、苦手だけど、美樹にとって力になってくれるんだったら、今までのように接していいじゃん。周りの目なんて気にするなっ!なんか言う奴いたら、あたしが相手してやるっての!」 片手でガッツポーズをしてみせる。 「くすくすっ、ありがと。・・・でも、智子ってなんでリョーマ君の事苦手なの?」 「え・・・なんでって・・・なんとなく・・・」 「そう?話せばそんなことないと思うけどなぁ・・・」 「・・・話したよ・・・話したけど・・・やっぱ、あんまり・・・」 途中まで送ってもらった時の事を思い出した。 確かに前よりは、嫌な感じはしなかったけど・・・でもやっぱり、なんか壁を感じるな・・・。
「・・・あっ、やばっ!!あと5分だよ。」 腕時計に目をやり、あたしたちはスピードを上げた。
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