ジャージ姿の3人は、ごみ箱をそれぞれ抱えていた。 掃除がこんな時間までやってないだろうから、きっと部室のだろう。 テニス部に限らず、大抵の運動部員の1年の服装はジャージだ。
「・・・うわさをすれば・・・だな。」 ボソッと呟いたのは、野村君だった。 「――っおいっ!ケンっ・・・」 この二人のやり取りを聞き逃さなかった。 あたしはとっさに田口君と目を合わした。向こうは、しまった・・・というような感じだ。 「・・・どんなうわさ?」 あたしは静かに問いただした。 「え、いや・・・そんな大したことじゃ・・・」 「・・・だから、なに?」 「・・・えっと・・・ほら、あれだよあれ・・・」 必死に違う事を言おうと考えてるのが丸分かりだ。 そんな田口君を見て、口を開いたのは野村君だった。 「・・・はっきり聞けばいいじゃん、この際。」 「――っおまえな・・・・」 「・・・ごまかしきれないんじゃね?」 「・・・・・・」 さらに松井君も加わった。 「・・・言うまで、この場から逃してくれなさそうじゃん。」 そういって、あたしを見た。 ・・・なにもそこまでするつもりは・・・ 一瞬ひるみそうになったけど、あきらめたかのように田口君が見てきたので、また戦闘モードに入った。 「・・・今朝の事だよ。」 すぐに弘子たちとの言い合いだとわかった。まぁ、田口君でなくとも誰ぞや今朝の事は話題にしているだろう。 「・・・それが?」 でもあたしはあえて続きを促した。 「・・・女子って、もともと何考えてんのかわかんない時あるけど・・・昨日までつるんでたのに、あの大喧嘩だろ?しかも、あの北田泣かすなんてさ・・・」 ・・・ようするに、あたしが悪人とでも・・・ 「・・・山田って・・・実は・・・その・・・」 だんだん言いにくそうになる。 ・・・早く言いなよ・・・ 少しイライラしてきた。 「・・・裏番長?とか思ってさ・・・」 ・・・は?裏・・番長・・・って・・・なに、その表現・・・ 「「――っぷ、くくくくっ・・・」」 野村君と松井君は同時に堪えるように笑いだした。 さきほど、聞こえていた会話はこれのようだ。 もっと他の言い方がないんだろうか?・・・まぁ、悪人には変わりないか・・・ 「また笑うっ!俺はマジメに思ったんだぜ!?」 田口君の顔は真剣そのもののようだ。 「・・・マジメに思おうが、思うまいが・・・そんなだっさい表現勝手にしないでよ。」 あたしはあきれながらも、言い返した。 「いや・・・だってさ、昨日からおまえ変じゃん。」 「・・・変?」 そこだけ強調した。 「え・・・いや、その・・・なんか人格変わったみたいになってさ・・・顔もなんか、違うし・・・」 そう言って、あたしの顔をジロジロ見回した。 「・・・顔は、眉毛いじって、髪の毛少し切っただけ!性格はもともとこんな感じ!今までが・・・ちょっと大人しかっただけ!他には?なんか聞きたい事あるのっ!?」 「・・・いや・・・ない・・・です・・・」 いつもからかわれ、言われっぱなしだった田口君に言いたい事いえて、ちょっとした満足感を感じた。 「っぷぷ、おもしれ〜。・・・あ、そうだ!」 野村君は、お腹を押さえて笑っていたが、思いついたかのように言いだした。 「まだあるじゃん、山田に聞きたい事。」 そういって、田口君の肩に手を回し、ニヤニヤとした。 「え!?・・・あっ・・・ばかっ!何言ってんだよ!!」 急に顔を赤らめ、野村君の手を肩から離そうとした。 ・・・なになに?この反応・・・ 「いいじゃんか、協力してもらえよ。」 協力・・・? 田口君の反応といい・・・話が違うことになってるな・・・ ――っ!!もしかして・・・ 「・・・きょんちゃん・・・のこと?」 ボソッとつぶやいた。と同時に3人ともあたしの方を見た。 そして、みるみるうちに田口君の顔が今以上に真っ赤になった。 「・・・すげぇ・・・っていうか、知ってたのか?」 野村君が驚きながら聞いてきた。 「え?・・・いや・・・知ってたというか・・・」 ・・・知ってることだな・・・ 頭がフル回転して思い出されたが、聞いたことある話だ。 田口君がきょんちゃんに想いを寄せているって・・・。でもそれは2年か3年の時に聞いたような・・・。 「・・・もしかして・・・」 言葉が出てこないかと思いきや、田口君は恐る恐る聞いてきた。 「・・・本人にも・・・ばれてる・・・とか?」 「・・・あ〜・・・それは、ない・・・」 ・・・今の段階では・・・。 「ほんとか!?ほんとにだな!?」 ・・・すごい剣幕。 「・・・うん・・・知らないと思うよ。っていうか、田口君そんなそぶりしてたっけ?」 「してね−よ!するわけね−じゃん!!」 ・・・すごい必死。 「・・・なのに・・・なんでだ?なんで山田わかったんだ?俺態度出てなかったよな?」 「あ・・・うん・・・態度ではわかんないね・・・。」 「じゃあなんだ!?なんでわかったんだ?」 「え・・・」 なんでと言われても・・・ 「えっと〜・・・勘・・・かな?」 「・・・かん?」 「・・・そう、・・・勘。」 苦しいかな・・・でもそれ以外思い浮かばないんですけど・・・。 「ほら・・・あたしに聞ききたいってのと、田口君のその反応とを考えたらそうかなって・・・」 「そっか・・・そうだよな・・・ってことは、・・・ケン!!お前が余計なこと言うからっ!」 田口君は野村君の胸ぐらをつかんだ。 「え?あぁ、わりぃ・・・」 「わりぃじゃね−よ!どうしてくれんだよ、こんなに早く他の奴に知られるなんて・・・しかも山田かよ・・・はぁ〜、もう・・・」 だんだん覇気がなくなり落ち込んでいく。 「じゃあさ、ばれたついでにほんとに協力してもらえばいいじゃん。」 「「はぁ?」」 あたしと田口君な同時に発した。 ちょっとちょっと・・・待ってよ・・・ 「なぁ、山田。俺からも頼むよ。こいつマジみたいでさ、協力してやってよ。」 野村君は手を合わせてお願いしてきた。 「ちょっ、なんであたしが・・・」 「だって、中田と一番仲いいんだろ?いろいろ情報とかさ・・・」 「・・・・・・嫌だ。」 この言葉に田口君が異常に反応した。 「・・・なんで?・・・まさか・・・好きな奴いるの?」 一番知りたい事をついてきた。 「そういうことじゃなくて・・・」 「じゃあ、なんでだよ。」 「なんでって・・・そんなの決まってんじゃん、きょんちゃんは親友だからよ!」 「は?」 いまいち理解できない二人はジッと見ている。 「――っだから、大事な友達をなんで田口君とくっつけなくちゃいけないの?」 「・・・なんだよ、それ。どういう意味だよ!」 言われたことが少し理解できてきて、田口君は言い返してきた。 でも、ここは引けない。こいつらにきょんちゃんの情報売るなんてもってのほかだし、何よりきょんちゃんには・・・好きな人がいるんだもん!・・・小学校からずっと・・・。 「・・・そのまんまの意味よ。人の上げ足ばっかとってる奴が、いざ自分にされるとそのざまぁでしょ!?だったら、最初っから他人にするなっての!そんな人ときょんちゃんがくっついて欲しくない!第一、昨日あんたきょんちゃんに、食ってかかってたじゃん。松井君の事好きなのかどうかって。」 昼休みの序盤の出来事を指摘した。 「・・・それは・・・そうだけど・・・。」 あたしの猛攻撃に太刀打ちできてない感じだ。 「・・・まぁまぁ。」 間に入るように野村君が助けてきた。事の発端は自分にあるから、悪いとは思ってるみたいだ。 「昨日のは、あれだよ。ほら、ついつい怒らせるようなこと言ってしまったというか、本心じゃないこと好きな人の前でいってしまうってあるじゃん?」 ・・・あぁ、よくいるね、そういう奴。好きだからこそ意地悪をしてしまうっての。ほんとに幼稚園戻ったら?ってか、松井君と一緒にいたの野村君だったんだ。事情をわかってるってことは・・・。 「・・・それに、こいつこう見えていいとこあるしさ。な、リョーマ。」 ずっと黙ったままの松井君に同意を求めた。 「・・・・・・さぁ・・・?」 ようやく出た言葉に一同振り向いた。 「・・・なんだよそれ・・・」 情けないくらいの声で田口君はつぶやいた。 「くすくす・・・冗談。まぁ、完璧とは言わないけど、いいところもあるんじゃね?」 「・・・あんまりフォローになってないぞ。」 野村君もボソッと答えた。 「ハードルあげてもしょうがないじゃん。どうせボロでるだろうし。」 ・・・ほんとこの人って・・・・・・友達なの? でも、ある意味あたってるしな・・・作り上げた自分なんてなんの魅力もない。そういうことわかって言ってんだろうか?だとしたらすごくない?13歳にして、もうそんなこと言えるなんて・・・。大人びているんじゃなくて、ほんとに同世代に比べたら大人じゃん・・・。 あたしは、そんな事を思いながら松井君を見ていた。すると目が合ってしまい、なんとなく目を逸らした。 「・・・協力するしないは別として、このこと黙っといてよ。」 松井君に再び話しかけられ、逸らした視線を戻した。 「・・・・・・」 あたしは無言で頷いた。それなら納得だし・・・。 「ほんとだな?絶対だぞ!」 急に態度を変え、田口君が強気で言ってきた。 「・・・いいません。言ったって何の得にもなんないし。」 あたしも言わなくてもいいのに、田口君の態度を見るとついつい余計な事を付け足してしまう。 「なんだよ、それ!・・・あっ、お前知らないだろう?俺って実はモテるんだぞ!」 ・・・はぁ!?なに、自慢!? 「ほんとだぞ!その目信じてないだろ?」 あたしのあきれた顔に納得できなく突っ込んでくる。 「・・・別に・・・嘘ついてるとは思ってないけど・・・」 実際こいつはこれでよくモテていたからな・・・。 「・・・そういうことをわざわざ口にするのはどうかと思っただけ!」 「――っそれは、その・・・山田が俺のことあんまり良く思ってないと思ったからだよ!」 ・・・はいはい・・・あえて無言にしておこう。 「・・・おい、そろそろ行かないと。」 松井君は置いていたごみ箱を抱えた。 「やばっ、そうだな。先輩たちに怒られるわ。」 野村君も思い出したかのようにごみ箱を抱えた。 「山田!・・・ほんっと言うなよ!その・・・特に・・・中田には・・・。」 「・・・言わないってば!」 ・・・絶対に・・・! 再度念を押して、田口君も二人の後に続いた。
あたしも駐輪場に向かい、学校を後にした。
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