「智子―、智子―っ」
・・・んー・・・
下から母の起こす声が聞こえてきた。
「ともちゃん!!」
・・・え・・・?
「起きなさ〜い、遅刻するわよ」
・・・遅刻って・・・へ?
暗いはずのカーテン越しの向こうが明るくなっている。
・・・何? ・・・朝? 寝起きで頭の思考が働かない。 夕べあのまま朝まで寝てたってこと? 起こしてくんなかったのか。 よほど昨日の態度に腹立てて?
背伸びをし、いつもの癖でセミロングの髪を両手でかきあげた。 のはずが、指に通る髪の異変に気づき頭の上で手が止まった。
・・・え? ・・・髪の毛・・・切ったっけ? ・・・いつ?
もう一度髪に触れた。
・・・・・ −−バサッ!!
一気に目が覚め鏡の前へ立った。
・・・・え?・・・へ?・・・ 「・・・え〜〜〜〜っっ!!」
ゆ、夢?いや・・・でも夢?
体中を触りまくった。 そしていつからか着なくなったパジャマを着ていたことにも気づく。 再び鏡を見た。
・・・何がどうなってるの? ・・・これ・・・あたし・・・だ ・・・昔の・・・あたし・・・?
「ともちゃん?どうしたの?」 叫び声のせいか母が上ってきた。
ガチャ。 「急に大声出すからびっくりするじゃない。ほらもう支度しなくちゃ。」
そう言って、はだけた布団をベットに整えた。 そんな母を頭の上から足の先まで見入った。
・・・やっぱり変。 ・・・すべてが変。
自分だけでなく、目の前にいる母も違った。 すごくという訳ではないが、少し若返ってた。 それにさっきから・・・
「・・・ともちゃん?何、具合でも悪いの?変よ。」 鏡の前から動かず、じーっと見ているあたしを母は不思議に思った。 「・・・変だよ・・・絶対変・・・っていうか、なに、これ・・・」
母がさっきからあたしのことを「ともちゃん」と呼んでるけど、ここ何年もそう呼ばれたことない。 常にちゃん付けではないが、何かの拍子に「ともちゃん」と呼ぶことがあった。 でも高校・・・いや中学を卒業する前には呼ばなくなった。 この状況、理解できない。 理解するほうが無理。 今の流れでいくと、あたしは・・・ここは・・・
思い立ったかのように、下へ降りて行った。
「ちょっと、智子?」
いつもの階段と違う気がして転びそうになったけど、あたしは急いで居間に向かった。
・・・テレビ・・・テレビ・・・ えっ、なにこのテレビ・・・先月薄型の買ったじゃん!
一瞬動きが止まったけど、リモコンを探した。 が、辺りに見当たらず、本体の電源を直接付けた。 ちょうどいつも観ている占いのコーナーだった。
・・・ん? でもなんか違う。 内容少し変えたんだろうか・・・
考えているうちにメインキャスターに画面が切り替わった。 −−−っ!! 女子アナがいつもと違う。 というか、昔観たことのある人だ。 ・・・・嘘でしょ・・・
「おっ、起きてきたか。早く用意しなくていいのか。」
新聞をたたみながら、父が来た。 トイレにこもってたのだろう。 呆然としながら父に目をやり、またもや目が離せなくなった。
・・・髪がある・・・昨日まで・・・いや、昨日父は見てないからその前か。 てっぺんがピカピカだったのに、ふさふさとまでは言わないが明らかに髪が生えている。
「・・・どうした?父さんに何かついてるか?」 父はそう言って顔をさわった。 あたしは父の頭からゆっくりと視線を下に戻した。 そして持っていた新聞が目に入り、急いで取りあげて見た。
「なんだなんだ?何か気になるニュースでもあるのか?」
父はネクタイを締めながら聞いた。
・・・・・・−−−っ!!!
・・・間違えない。
新聞に記載されている日付。 これは間違いなく1月20日。
問題は・・・平成・・・4・・・年・・・ ・・・17年前ということ。
「智子っ、朝から何してるの?おかしな子ね〜。ほんと早くしないと知らないわよ。学校遅れるわよ。」 母は立ち尽くしてるあたしに半ばあきれながら、台所へ行った。
「じゃあ行ってくる。」 父はさほど気にする訳でもなく、仕事へ向かった。 「いってらっしゃい、今日も遅くなりそう?」 玄関へ見送りに行く母。 これは今も昔も変わらない光景。
変わったのは・・・あたしが過去にいるってこと? いや、このあたしも姿を見る限り過去のまま。 中身だけ、心だけが過去にいるということになる。 ・・・っていうか嘘でしょ!? ほんっと夢だよね? たまに夢の中にいるってわかる夢見ることあるもんね。 それの超リアル系ということ?長編ということ?
「ともちゃん、・・・智子っ!!」
ふとこの今の現実に戻される。 「いいかげんにしなさい!!早く顔洗ってきなさい!!」
・・・とりあえずこの状況に素直に動いておこう・・・
あたしは洗面所へと向かった。
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