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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第19回   先生
昼休みになったが、朝から誰も話しかけてこない。

あたしへのいじめが続いているのか、関係なしに話しかけたくないのかは分からないが・・・。

給食は嫌でも教室でなくちゃいけないから、黙々と食べ終えた。

弘子とは、あれから目も合わせていない。
向こうにしてみれば、あたしのことなんて見たくもないだろう。


「山田、ちょっといいか?」
廊下を歩いていると、教室で給食を食べ終えた尾上先生が呼び止めた。
まだ口がモゴモゴしているので、急いで食べ終えたのだろう。

「・・・なんですか?」

はっきりいってしばらく人と話したくないんだけど・・・。

「・・・ん・・・まぁ、目的室行こっか。」
そう言うとスタスタとその方向へ向かった。

・・・この先生、目的室好きだなぁ・・・。

嫌々ながらあたしは先生の後をついて行った。


「まぁ、座れや。」
先生は椅子を引いて、机をトントンっと叩いた。
そして自分もそのすぐ前の席に座った。

・・・・・・近っ、真ん前!?

しぶしぶ席に着く。

「・・・・・・ありがとな。」

・・・・・・?
いきなり、なぜにお礼を・・・?

意味が分からず、先生をキョトンと見てしまった。

「・・・昨日、山下のとこ行ってくれたんだな。」

・・・あぁ・・・美樹のお母さんから連絡あったんだ・・・。

「・・・いえ・・・別に・・・。先生がお礼言うことじゃない・・・んじゃないですか?」
「・・・いや・・・。俺はなんにもできなかったから・・・。実は先生もな、山下のところ行ってたんだけどな・・・一度も顔を見せてくれたことはなかったよ。」

少し弱気にも聞こえるトーンだ。
・・・一度も・・・ってことは、何度か美樹の家に行ってたんだ。

「やっぱり、先生より身近な友達の方が、力になるな。」
「・・・・・・」
「はっきり言って、昨日の様子じゃ、あきらめてた。・・・かえって、お前らに聞いたのは間違いだったかもって思ってたし。・・・余計なことしたかもってな・・・。」
「・・・・・・先生が・・・。」
「ん?・・・なんだ?」
「・・・先生が言ってくれたから、あたしは行こうと思ったよ。・・・だから・・・先生のしたことは、余計じゃないと思う。」
「・・・そうか?」
「・・・うん・・・言われなかったら、そのまま過ぎていたよ・・・。美樹の苦しむ姿に気付くことなく・・・。だから・・・先生がお礼言うことじゃないよ。」
「・・・そっか・・・まぁ・・・情けない話、いつから山下の周りで変化が起きてたのかなんて、気付かなかったし・・・休んでいるのも、山下のお母さんの言うこと鵜呑みにしてた。体調が良くないからしばらく休みたいってな・・・。でも他の先生から、助言もらってな・・・。一度様子見に行ったがいいってことで、山下の状況がわかったんだ。」
「・・・・・・」
「ほんっと・・・いつも偉そうなこと言ってるけど・・・教師失格だな・・・って、こんなこと山田に言ってることすら、駄目だな。ははっ・・・。」

そう言って笑う先生の顔がすごく、痛々しく見えた。
先生は先生なりに悩んで、行動して、どうにかしようとしてたんだ。
そんなこと気にもしてなかったけど、こういう結果にならなかったあの頃は、相当悔やんだんだろうな・・・。
過ぎ去った過去の先生に同情してしまった。

「・・・先生。いじめなんて、わからないようにするもんなんだよ?先生たちに気づかれないようにって。だから先生が気付かなかったのは、当たり前だよ。むしろ、気付いてても行動しない教師だって、世の中にはいるんだし。先生のしたことは、間違いじゃなかったよ。少なくともあたしにとっては・・・。」
「・・・なんか・・・山田なんだけど、山田じゃないみたいだな。」
「えっ?・・・な、な〜に言っての?」

やばいやばい・・・ついつい今の自分がでてしまう・・・。

「・・・そうか・・・わかった!」

・・・へ?・・・何が?

「その口の利き方だ。」
「・・・は・・・?」
「おまえ先生に対してなんだ?そのタメ口は!」

・・・あ、そこ・・・ね。

「言ってることは、まぁ、納得させられそうになったけど・・・けど、ちゃんと敬語を使え、敬語を。おまえよりは年上なんだし、一応・・・教師だからな。」

先生は、少しふっきれたように、最後の言葉を言った。

「・・・は〜い、すみませ〜ん。」

あたしは、半笑いで答えた。

「感情がこもってない!ったく・・・」
先生は席を立って、頭をポリポリとかいた。
「・・・そういえば・・・先生って、いまいくつなの?」
「・・・いくつですか?・・だろ?」
「あ〜・・・いくつですか?」
「・・・28だよ。」

げっっ!!年下かよっ!?

「・・・それがどうした?」
「えっ?・・・いやぁ・・・」

30過ぎてると思ってた。

「・・・老けてる、とでも?」
「い、いえっ・・・」
「・・・別にいいぞ、気使わなくても・・・。年相応に見られないのは、慣れてるから。」

怒っている様子はなく、本当に慣れた感じだ。

「・・・いや・・・ただ先生になって、何年なのかなぁって思ったから・・・。」
「ん?そうだな・・・7年目・・・か。」
「ふ〜ん・・・。」

そういえば、尾上先生って、今でも教師やってるんだろうな?
今が28なら・・・45歳・・・かぁ。
あたしと15違ってたんだ。
そんなこと考えた事もなかったや。
それに30歳の時のあたしに比べたら、断然しっかりしてるじゃん。
絶対あたしには無理だな。
こんな思春期まっさかりの子供の相手なんて・・・。
幼稚園児の相手もまともにできなかったあたしには・・・。
ふと保育士をやっていたことを思い出す。

「・・・そんなことより・・・おまえ、大丈夫なのか?」
「へ?・・・なにが?」
「・・・・・」

黙ったまま上から見下ろしている。
というより、睨んでいる?

・・・あぁ・・・

「・・・なにがですか?」
言い直すと納得して続けた。
「・・・朝のことだ。あんな派手にやって・・・。」
「・・・え?・・・先生知ってたの?」
「知ってたも何も、廊下まで丸聞こえだったぞ。隣の教室にも聞こえてたんじゃないか?あんだけ大声で言ってたら。」
「・・・なんで・・・ホームルームん時なんにも言わなかったから、知らないと思ってた。」
「あえて、言わなかったんだよ。北田の様子もあの調子だったし・・・下手にいじらない方がいいと思ってな。」
「・・・そっか・・・ちょっと・・・言い過ぎだったよね。」

再度弘子に言った事を、反省する。
一度立ち上がったが、先生は再び席についた。

「・・・まぁ・・・北田にとっては、衝撃的だっただろうな・・・。今まであんなこと言われたことなさそうだし・・・。」
「・・・・・・」
「・・・でも、言われたことで、北田も何か考え変わるだろう、いい方にも悪い方にも。今はすぐに正しい答えは出なくても、そのうちおまえの気持ちがわかる日が来るんじゃないか?それが明日かもしれないし・・・何年も先のことにもなるかもしれんがな。」

先生の言葉がしみじみとあたしの胸に響いた。

「問題は山田だろ?」
「え?あたし・・・?」
「クラスから完全に浮いてしまっただろ?山下以上にな。」
「・・・たしかに。でも、別に気にしてない。というより、気にしないようにしてる。かな?」
「・・・難しい問題だけど、一人で抱え込むなよ。せっかくクラス全員揃うところで、おまえが登校拒否になったら元も子もないからな。」
「えっ!?全員って・・・やっぱり美樹学校来るって?」

俯きかけたが、先生の言葉に顔を上げた。

「あぁ。月曜から来るそうだ。まぁ、その時の山下の心境にもよるしな。無理してもしょうがないし、こういうことは徐々にやっていった方がいいだろう。」
「そっかぁ〜。よしっ!あたし休みのとき美樹んとこ行こう!」
「あんまりプレッシャーかけるなよ。」
「当たり前じゃん!あ〜あ・・・ほんとは学校も一緒に行きたいんだけどなぁ・・・通学全然逆だもんなぁ・・・朝迎え行こうかな・・・?」
「・・・朝起きれるのか?遅刻ギリギリの奴が。」
「ひっど!!ここ2日の話じゃん。大丈夫、その気になれば!!」
「くすくすっ・・・ま、その調子なら大丈夫そうだな。さてっ。」

席を立ち、背伸びをした。

「まだ時間あるな・・・一服してくるか。」

先生は、壁時計に目をやり、ズボンのポケットから煙草とライターを取り出した。
そして、教室からベランダに出て、携帯灰皿をもう片方のポケットから取り出した。

・・・そういや、尾上先生って、煙草臭かったの覚えてるな。
あの時はただ単に臭い、と毛嫌いしていた部分があったけど、今だからか、その臭さに嫌な気はしない。
以前煙草を吸っていた人との付き合いもあってか、なんとなく懐かしい感じがした。

「・・・・・・」
「・・・なんだ?」

先生はあたしの視線が感じられ、煙草をくわえながら聞いてきた。

「・・・おいしい?」
「は?・・・あぁ、これか。・・・まぁな・・・というか、生徒の前で吸うなんてよくないな・・・。」

この時代は、まだそんなに禁煙に対してうるさくなかったし、PTA的にも先生が学校でたばこを吸うことは、問題視されてはいなかった。

「・・・別にあたしは吸ってみたいとは思わなから、大丈夫じゃない?」
「・・・そうか・・・っいやいやいや・・・」

先生は納得しそうになったが、思いとどまるかのように煙草をもみ消した。

「気にしなくていいのに・・・。」

あたしは本音でそういった。
が、それがかえって先生にとっては場が悪く感じたんだろう。

「・・・いいんだ。さ、おまえも行っていいぞ。昼休み残り少なくなったけどな。」
「・・・別に楽しい時間過ごせたわけじゃないからいいよ。」

頬杖ついて座っていたが、背伸びをしながら立ち上がった。

「・・・何かあったら、言えよ、遠慮なく。ま、あんまり山田ばっかり気にかけてると、ひいきしてるって思われるかもしれんが・・・ん?・・・かえって、それが溝を深めてしまうか・・・?」
「―――っぷ、くくくくっ!」

慰めるつもりが、逆に不安になっている先生の言動に思わず吹き出してしまった。

「―――っ!!おまえな〜、人が真剣に・・・」

少し顔を赤らめ、先生は近付いてきた。

「・・・ごめんごめんっ、別に馬鹿にしてるとかじゃなくて・・・」

なおも笑いを堪える。

「・・・一緒のことだ!」

そういって、あたしの頭に先生の手が飛んできた。

−−っ!!

一瞬叩かれるかと思いきや、大きな手は頭をつかむようにぐしゃぐしゃっと撫でただけだった。

ドキッ―――!!

変な緊張感が走った。

「・・・ったく、おまえと話してると調子狂うな・・・。またタメ口になってるぞ、気をつけろ。それから・・・」
あたしはきっと、変な顔してたと思う・・・。
さっきまでの余裕がなくなってた。

「・・・・・・」

先生は、マジマジとあたしの顔を眺めた。

・・・な・・・なに?・・・これ?

「・・・もっと中学生らしくしてろっ。洒落っ気出す前にやることあるだろ?」
「・・・え・・・?」

まだ動揺が隠せない。

「・・・眉毛細くなってるぞ。ったく、こういうことはいっちょまえだな。」

そういって、頭から手を外し、教室から出て行った。

・・・・・・眉・・・のことか・・・。

しばし呆然とたたずむ。

−−−っ!!
あたしってば・・・なに動揺してんのよ!
ちょっと接近したからって・・・っていうか、相手は尾上先生だよ。
おかしいっ・・・ありえないしっ!!

・・・きっと、久しぶりに男の人に頭を触られたからだ。
ここ何年も手すら繋いでないし、まともな会話もないし・・・免疫力が落ちてんだね。

なんとでもないことなのに、あんなにあせって・・・はぁ〜・・・情けな・・・。
でも・・・間近で先生の顔見たのも初めてだなぁ・・・。
先生っていう存在がおっきいから、異性としてなんて考えた事もないもんなぁ・・・。
改めて見ると・・・けっこう渋い感じだよな・・・髭の剃り残しが不精っぽくて、そのせいで年齢以上にみえるんじゃ・・・っは!!

もうやめやめ!!
変なこと考えるのよそうっ!!

顔をパンパンッと叩いて気合いを入れる。

・・・・・・何考えてんだか・・・

あたしも教室を後にした。


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