ひとみと別れ、いざ3組の教室の入口へ・・・。
・・・よしっ!!何度目かの気合いを入れドアを開いた。
ガラッ。
昨日と変わらず、騒ぎ声が一気に外に飛び出してきた。
あたしは自分の席へと向かう。 一瞬視線が感じられたが、すぐになくなった。
誰からも声を掛けられることなく、カバンから教科書を取り出し、前の壁に貼ってある時間割表に目をやり1時間目の授業の準備をする。
数学か・・・あっ!昨日宿題でてたな・・・やばっ・・・
時計を見ながら急いで宿題に手をつけ始めた。 幸いまだこの時期の授業の内容にはついていけそうだった。
「ねぇねぇ・・・偽善者って知ってる?」
後ろの方から聞こえてきた・・・弘子だ。
「え〜、なにそれ〜。」
わざとらしい相槌を美穂がしてきた。
「なんかさぁ、本心からじゃなく見せかけでいい子ぶること。自分はいいことしてますって勘違いしてるやつ。」 「うわっ、最悪〜。」 「でしょ〜?そんな奴あたし大っ嫌い!」 「あたしだってやだ〜。」
・・・きたきた・・・直接ではなく間接的な攻撃。
知らないふりして宿題を進めていた。 弘子たちの会話は少し大きめの声で話しているので、クラス中に聞こえているだろう。
「・・・ねぇ・・・きょんちゃんはどう?そう思うでしょ?」
−−−っ!!
わざと弘子はきょんちゃんに同意を求めてきた。 あたしと一番仲が良かったから・・・。 それが一番の攻撃になるとわかっているから・・・。
「・・・・・・」 「・・・ちょっと、答えてよ。」
何も言わないまま俯いているきょんちゃんに、美穂も問い詰めた。
「・・・・・・」 「・・・きょんちゃん・・・はっきり言いなよ。」
静かに、だけど言葉にならない圧力をかけて弘子はきょんちゃんに近づいた。
・・・・・・−−−っ!! バンッ!!ガタンッ!!
堪らず席を立った。 その際椅子が倒れたけど、それを直すことなく弘子たちの方へ近づいた。
「−−−っ!」
ついに来たか、と言わんばかりに、弘子と美穂は目つきを変えた。
「・・・言いたいことは、直接あたしに言えば?」 「・・・はぁ?何のこと?・・・あたしら別にあんたに言いたい事なんてないけど。」 「そうそう!勝手に話に入ってこないでよ。あたしらきょんちゃんと話してんだから。」 「・・・それが、あんたたちのやり方だよね・・・」 「何言ってんの?この人。訳わかんない。」 「・・・そうやって、人のこと遠回しに悪口言って楽しいの?」 「ちょっと・・・誰が、いつ、誰の悪口言ったの?勝手に決めつけないでよ、人聞きの悪い。」 「名前なんて出さなくたって、充分悪口に聞こえるでしょ。このクラスみんなわかってるはずだよ。今、誰のことを言ってるのか。今、誰をいじめてんのか。」 「はっ!な〜に言ってんの?みんながわかってるって?・・・ねぇ!近藤君!」
前の席の方に座っている彼に呼び掛けた。
・・・これも、わざとだ。 あたしがこの時彼のことを好きだったから、直も攻撃するために・・・。
「聞こえてたでしょ?答えてよ。わかってんのか、わかんないのか?」 「・・・なんで、俺に聞くんだよ・・・」
近藤君は嫌そうな顔をしてボソッと言った。
「近藤君の言うことなら、この人納得するかなぁと思って。」
弘子はそう言ってクスッと笑ってあたしを見た。
・・・カチンっ!! 何かが切れるとはこういうことなんだ。
「・・・いい加減にしろってのっ!!」
あたしはなるべく落ち着いて話そうと思っていた。 間違いなく、この中で一番大人なんだから・・・。 だけど・・・こうなったら止められなかった。
「・・・さっきからふざけたことばっか言って。そうやってね、みんなを巻き添えにするんじゃないよ!自分が思ってることは、自分だけにとどめとけば?どうしても言いたいなら、放課後マンツーマンで聞いてあげよっか?なんなりと話してよ、アドバイスもしてあげるし。だいたいね、何様のつもりで発言してんの?なんであんたの言う通りにしなきゃいけないの?そんなにあんたって偉いの?ほう〜、だとしたらごめんごめん。あたしが知らなかったわ。」
半ば、嫌味っぽくなってきた。
「そりゃね、誰だって自分の思う通りにやりたいわよ。思ったまま行動したいし、発言したいわよ!でもそれは、自分だけでやるもんじゃないの?なんでいちいち味方つくってやりたくない人まで巻き込むの?・・・あぁそっかぁ・・・誰かと一緒じゃなきゃ、な〜んにもできないもんね、あんた。・・・いかにも強そうに見せかけて、自分が一番弱いんじゃん!!まぁ、弱い犬ほどよく吠えるとはいうけどねっ。」
一気に言いたい事を言って、まだ言い足りなく口を開いた。
「だいたいさ、自分のこと、みんなから頼りにされてるとか思ってない?それこそ大きな勘違いだわっ。あんたなんかいなくたって・・・−−っ!!」
が、・・・みるみるうちに、弘子の目に涙がたまってきたのに気づいて、口を閉じた。
・・・な、・・・なんで泣くのよっ! まだ早いでしょ!?
最終的には、何も言えなくしてやろうと意気込んでいた。 いや・・・どこかで泣かしたい気持ちもあったかも・・・。 今のあたしは、口で負ける気がしなかったから。
ガラッ!!
「ほら〜、席に着かんかー。」
いつの間にかホームルームのチャイムが鳴り終えていて、尾上先生が入ってきた。 それと同時に、みんな止まっていた時計の針が動くかのに、バタバタっと自分の席へ戻った。 弘子はこぼれおちそうになった涙を拭って、席に着いた。 あたしも、倒れた椅子を元に戻し、席に着いた。 みんなが席に着いたのを見回すと、先生は名簿を教壇の上に置いた。
「・・・おまえらな・・・もう3学期にもなるのに、なぜチャイムが鳴ったら席に着かないんだ。毎日同じこと言わすなよ〜。ったく・・・じゃあ今日の連絡事項伝えるぞ。・・・」
先生は、教室で何が起きていたのかわからなかった様子で、いつものように話を進めていった。
あたしの席より前の方に座っている弘子に目をやった。
下を向いたままだった。
その後ろ姿を見て、出てくる感情は・・・罪悪感と後悔だった。 17年間言えなかった弘子への気持ちを全てぶつけてしまった。 こんな形で・・・。 ある意味卑怯だったかも・・・。
きょんちゃんに答えてほしくなかったのもあるし、黙っていられなかった。 怖かったんだと思う。 きょんちゃんにあたしのこと否定されるのが。
もっと違う言い方があったはずだ。 ちゃんとお互いが納得するような・・・。
言わなくて後悔もするけど、言っても後悔するもんなんだ・・・。
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