ジーッ、ジーッ、ジーッ、ジーッ、・・・
自転車のランプを付けている為、ペダルをこぐ度に音が辺りに響く。 まだ7時前だというのに、暗いせいか住宅街には、たまに車が通るくらいで人通りがなかった。
どの辺を通ってるのかは分からず、ただただ前を走る松井リョーマから遅れをとらないように必死についていった。 ライトのせいで、昼間より自転車のペダルが重いのもあるし、彼のスピードの速さに足がついていかなくなりそうだった。
住宅街から少し車の通りの多い道に出てきて、信号につかまり止まることになった。
・・・はぁ、はぁ、・・・しばしの休憩・・・助かる・・・
必死に呼吸を整えた。
・・・やっぱ、道聞くだけでよかったかも・・・早く知ってる道になんないかなぁ・・・しんど・・・
「・・・体力ねぇな・・・」
−−−っ!
あまりの呼吸の荒さが聞こえてか、松井君は振り向いた。
「・・・悪かったね・・・っていうか、松井君が速すぎると思うんだけど・・・」 「普通っしょ、これくらい。」
・・・そうですか・・・
「毎日自転車通学なんだろ?嫌でも体力つくんじゃね?」 「・・・そんな・・・鍛えながら乗ってないもん・・・」 「じゃ、部活は?入ってないの?」 「・・・一応・・・テニス部。」 「ふ〜ん・・・男子の練習はキツイって聞いたことあるけど、女子は違うんだ。」 「・・・たしかに・・・」
ふと部活の事を思い出す。 力を入れていた活動ではなかったな・・・のんびりやっていた記憶がある。 仲良しの集まりが楽しくテニスをしていたって感じか。 顧問もそんな専門じゃなかったよな・・・
「・・・けなしたつもりなのに、図星かよ・・・」
松井君は少しボソっとつぶやいた。 信号が変わり横断歩道を渡りだした。
あたしも気合いを入れこぎ出した。 が、先へ進むスピードがさっきまでより遅いことに気付く。
・・・もしかして・・・気つかってくれてんの?こいつ・・・
力を抜いてこげるようになった。
「・・・今7時だろ?あんたんち着くの8時過ぎんじゃね?」
腕時計を見ながら話題を変えてきた。
「う〜ん・・・そうだね。」 「そんな時間に帰って親に怒られないの?」 「・・・わかんない・・・」 「なに?・・・親に見放されてんの?」 「そういう意味じゃなくて!・・・ただ・・・あんまり遅く帰ったことないし・・・」 ・・・この頃は・・・ 「ふ〜ん・・・」 「・・・人の事より自分はいいの?」 「だっていつもこのくらいの時間だし、俺は。」 「え?・・・あぁ、そっか・・・サッカー部だったね。」
部活帰りで、会ったってことか・・・まぁ、今の時間ならそうだな・・・部活って、6時くらいまでやってたからな・・・
「・・・へ〜、俺がサッカー部って知ってんだ。」
少し笑うように言ってきた。
ん?・・・なんか勘違いするなよ・・・
「そりゃあ、有名でしょ?」 「・・・なんで?」 「なんでって・・・人気者の松井君だからじゃん。嫌でも情報入ってくるっての。」 「ふ〜ん・・・情報ねぇ・・・単なる噂話が多そうだけどね・・・」
嫌味のつもりで言ったけど、本人にしたらさほど嬉しくなさそうだな・・・ たしか、あたしがこの時に聞いた松井君の情報は、モテまくってて当然とか、自分の事知らない奴はここにはいないとか・・・とにかくかなりの高飛車だったらしいことだったよな・・・
「・・・うれしくないの?」 「・・・・・・」
はっ!! あたしってば何聞いてんの? 率直に思った事を口に出したが、こんな質問相当の嫌味だよな・・・
「・・・はっきり言って・・・迷惑。」
答えてはくれないかと思いきや意外な答えが返ってきた。
「人のこと探って、作り上げて・・・あんたが言ったのと同じで、勝手に人のこと決めつけんなって感じ?」
・・・そうなんだ・・・ん?待てよ・・・
「・・・そういえば・・・何でその時大笑いしたの?」 「え?いつ?」 「だから、あたしが松井君にそう言った時!」 「あぁ・・・なんか意外で。」
・・・意外・・・
「まぁ、山田のことあんま知らなかったから、そんなズバズバ物言う奴とは思ってなかったからさ。あまりにも見た目とのギャップの違いに笑えた。・・・あぁ・・・でも、こんなこと言ってる俺もみんなと一緒か・・・あんたが怒るの当然だわ・・・」
・・・なんか・・・こっちが意外だわ・・・こんな奴とは・・・ ・・・ん?・・・あっ、ここの通り知ってる!!
「あのっ−−!!」
ブレーキをかけ、呼びかけた。
キキッ!! 松井君も止まって振り向いた。
「ここで大丈夫。こっから道わかるから。」 「あっそ。んじゃ・・・」
そう言って自転車の向きを変えあたしと向き合う形になった。
「・・・気をつけて。」 そのまま今来た道を戻って行った。
「あ、・・・ありがとっ・・・」 「・・・どういたしまして。」
振り返ることなく、松井君は先へ進んだ。
・・・はぁ〜・・・さぁてと・・・急いで帰るか・・・
帰りの道中、あたしは松井君との会話を思い返していた。
人から聞いた話を鵜呑みにはするなって・・・今までも散々経験したことから学んでいたはずなのに・・・
松井君のことはもろにそのことだったな・・・あたしが今まで印象を持っていた彼とは少し違っていた。 そのせいか初めて彼と出会ったわけではないのに、すごく新鮮に感じた。
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