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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第116回   116
やってきたのは・・・公園近くにある海辺。

・・・そう・・・夢の中でも来た海だ―――

ここまで来ると・・・なんだか笑えてきた。
もう・・・反発するのも、諦めたかのように・・・


車から降りて、下の砂浜に向かう。
途中、自販機を見つけ、松井君が聞いてきた。

「・・・何飲む?」

「・・・・・・紅茶・・で。」

「紅茶ね・・・」
ホットの方をピッとボタンを押し、出てきた缶を取り出す。
そして自分の分も、コーヒーを買う。
差し出された紅茶を受け取った。
「・・・ありがと。」

そして、適当に砂浜にしゃがみこむ。
4月に入ったとはいえ・・・まだ風は肌寒い。
あったかい紅茶を両手で包むようにして握り締める。

車中では、ずっと無言だった。
そして、一口飲みこんで・・・あたしから話を切り出した。

「この間は・・・ごめん・・なさい。」
「・・・いや・・・別に。」
「あたし・・・かなり酔ってて・・・まだ酔いが冷めてなかった・・みたいっ・・・」
「・・・・・・」

とりあえず、謝っておきたかった。
わけわかんない行動をしてしまったことを・・・

「・・・っそういえば・・・お父さん・・・身体どう?」
「え・・・あぁ、うん・・・元気だよ。あれからは調子いいみたい。」
「そっか・・・・・・っ仕事は?」
「え・・・?」
「ほらっ・・・あの時、メール待ってる人がいるって・・・急いでやらなくちゃいけない仕事だって・・・」
「あぁ・・・あれね。」
「・・・あたしが・・・邪魔しちゃって・・・どうだったかなぁって・・・」

・・・しまった・・・話を逸らすつもりが・・・戻ってしまってる。

「・・・大丈夫だよ・・・ちゃんとあの後メール送れたし・・・」
「そっか・・・なら、良かった・・・」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

・・・ザザァ・・・ザザザァ・・・

いつもは癒される波の音が、今はやけにうるさかった。
あたしたちの沈黙をさらに強調するかのように、耳の奥まで響いてる感じだ。
それが嫌で、また口を開いた。

「・・・――ケンちゃんや田口君とは・・・ずっと、仲いいんだね。」
「・・・まぁまぁ・・だけど。あいつらもずっと地元にいるし・・・かといって、そうそう会わないけどな。」
「そう・・だよね・・・あたしの友達も、何人かずっとこの町いるけど・・・なかなか会えないや。時間がないわけでもないのにね。」
「・・・もう30だし・・・学生ん時みたいに、毎日毎日遊んでらんないっしょ。」
「・・・そうだね。」

みんな大人なんだ。
家族がいる子だってほとんどだし。
みんなそれぞれの生活が、過ごし方がある。
懐かしい顔ぶれに会った時は、そのことを一瞬でも忘れることができたけど・・・またすぐに現実が待ち構えている。
いつまでも・・・・・・思い出にひたっては、いられないんだ―――

「・・・ケンと・・・」

え?・・・ケンちゃん・・・?

自分の世界に入り込んでいたが、松井君が話しかけてきたことによって、彼へと意識を向けた。

「・・・仲良かったんだ。」
「え!?・・・ううん。中学ん時は、2年間同じクラスだったけど・・・全然仲良くなかったよ。まともに話したこと・・・ないんじゃないかな?」
「・・・そう・・・2次会ん時・・・そう見えたから・・・」
「・・・あぁっ・・・なんか、流れみたいなもんで・・・」

それと、酒の勢いもある。
そのおかげでケンちゃんと・・・夢の時のように接することができたんだ。
それを思うと・・・同窓会に行ってよかったかな。

「・・・ふ〜ん・・・」
聞いてきたわりに・・・松井君はそっけない返事だ。

・・・なんで、聞いてきたんだ?
話の・・・ネタとして・・・?
なんか・・・あの時の松井君みたい。
・・・今の返事の仕方・・・聞き覚えある。
・・・――っいけないいけないっ・・・また始まった・・・
あまりにも自然と、彼がこうして隣にいることで、あたしは勘違いをしてしまいそうだった。

上着を持ってきてくれたことが、こうして誘ってくれたことが、こうやって会話していることが・・・当たり前のように感じて・・・

その考えを打ち消すかのように、紅茶を飲む。
なんだか罰あたりのような気がしてきた。
そして、このことも夢なんじゃないかって・・・そう思ってしまう。

再度沈黙が続いた。
お互いに視線を合わせることなく、目の前の海を眺めてしまう。

それにしても・・・なんで、誘ってくれたんだろ?
車中でも考えてた、当たり前の疑問がまた浮かんできた。



「・・・あのさっ・・・俺・・・あれから気になって・・・」

「・・・え?」
いきなり話しだした内容が、なんのことかわからなかった。

「・・・あんたが泣いてたの・・・なんか・・・悪い気がして・・・」

―――っ!!
・・・そのこと!?

「理由はわかんないけど・・・なんか、俺が泣かしたみたいに思えて・・・」

「・・・――ちがうよっ・・・全然関係ないし・・・気にしないでってば・・・」
この話から、早く逸れたかった。
「・・・まだ、酔いが冷めてなかったんだよ・・・あたし、泣き上戸かも・・・うん、きっとそうなんだ。あはは、今気付いた・・・」
焦って言い訳をしながらも、顔が引きつるのがわかる。



「・・・今でも・・・泣きそうに見えんだけど・・・」



――――――っ!!
思わず顔を手で触れる。
松井君に、これ以上気持ちを見抜かれないように・・・



「・・・あんたって・・・俺のこと、見ようとしないよね。」

「――っ・・・」

「会った時からそう。・・・意識して、見ないようにって・・・してない?」

「・・・・・・っ」

「それって・・・俺がなんかしたから?・・・中学ん時、俺あんたになんかした!?」

だんだんと、松井君の声が大きくなる。
それに比例するように、あたしはさらに顔が俯いてしまう・・・

「・・・はっきりいって、俺はなんも覚えてない・・・でもっ・・・もしなんか・・・俺のこと見たくもないって、思うようなことしてたんだったら・・・謝るよ。」

―――っ!!



「・・・・・・ごめ――っ」「――やめてっ!!」

思わず叫んだ。
聞きたくなくて・・・その言葉を、松井君からもう一度聞きたくなくて・・・

「――っ・・・山田?」

松井君の言った通り・・・あたしの目には、涙がたまってた。
そして今にもこぼれそうなのを、手で拭う。

「・・・謝らないで・・・」
「・・・・・・」
「・・・謝られるようなこと・・・されてないから。」

カバンを持ち立ち上がった。
「・・・ごめんなさい・・・帰るね。」
そう言いながら、丘の方へと向かった。

・・・のはずが、2、3歩進んだところで、あたしの腕は掴まれていた―――



「――っ離してっ・・・」
掴まれた腕を振り払う。
でも、簡単には離してくれず・・・
「・・・・・・」
松井君は無言のままだ。

「・・・あたしがっ・・・変なだけだからっ・・・」
そう言いながらも、腕を振り払う。
「・・・・・・」
「・・・気にしないでっ・・・いいからっ・・・」
「・・・・・・」
「・・・・・・っ」

掴まれた腕から感じる松井君の力と・・・
拒むあたしを見下ろしてくる松井君の視線が・・・
・・・耐えきれなくなった―――

「・・・――っ離してってば!!」
もう片方の手で、松井君の腕を払いのけようとした。



――グイっ!

―――っ!!・・・



一瞬何が起きたかわからなかった。
でも・・・徐々に・・・自分の心臓の音が聞こえてきた。
彼にも・・・すぐ側にいる松井君にも・・・聞こえるんじゃないかって、思えるくらい・・・ドキドキしてきた。

あたしは・・・松井君に、抱き寄せられていたんだ―――



「・・・・・・離さないっ・・・」
「――っ・・・」
耳を疑うような言葉に、思わず息をのみ込んだ。

「・・・俺の・・・勘違いかもしんない・・・」
「・・・・・・」
「こんだけ逃げたがって・・・避けられて・・・」
「・・・・・・」
「でも・・・どうしてもっ・・・あんたが、俺のこと・・・嫌ってるようには、感じないんだよっ!」
「――っ・・・」
「・・・こんなこと言うなんて・・・こんなことしてんのだって、おかしいけど・・・俺は・・・気になってしょうがない・・・」
「・・・・・・」
「・・・山田のこと・・・気になって気になって・・・だから、会いに来た。」
「――っ・・・」
「・・・会って・・・自分の気持ちも・・・確かめたかった・・・」

・・・・・・きも・・ち・・・

期待・・・しちゃいけないって・・・これ以上・・・思い返してもいけないって・・・
何度も何度もそう思ったのに・・・
欲張りなあたしが・・・また出てしまう・・・

抱き寄せた力が少し弱まり・・・両腕を掴まれたまま、松井君との距離が少し空いた。
そして、まともに彼と・・・初めて向き合った。
視線も・・・心も・・・



「・・・・・・やっぱり・・・間違いない・・・」

まっすぐ見つめてくる松井君を・・・あたしも見つめる。

「・・・俺、あんたのこと・・・・・・好きみたい。」

―――っ・・・

「・・・変だよな・・・あんたと、そんなに関わってもないのに・・・こんなこと言うなんて・・・変だよな・・・これじゃあ・・・ケンの思惑通りじゃん・・・」
松井君は、そう言いながら少し笑っていた。

・・・―――っブンブンッ!

あたしは首を横に振った。
そして・・・ずっと伝えたかったことを、素直に言えた。

「・・・あたしもっ・・・っ好き・・・」

たぶん・・・夢の中でさえ、彼に対して直接言えなかったことだ。

「・・・変なのは・・・あたしの方っ・・・ずっと・・・ずっと前からっ・・・松井君のこと・・・っ好きだった・・・」

目の前の視界がぼやける・・・我慢していた気持ちを・・・抑えなくていいんだと・・・そう思えたら・・・涙が止まらなかった。

「だからっ・・・会うのが、怖かった・・・これ以上気持ち・・・隠せないって・・・っ」

松井君の大きな手が、あたしの頬をつたう涙を拭う・・・そして、ゆっくりと顔が近付く。

この場所で、この人と・・・キスをした―――

いい大人なのに、まるで初めてするかのように・・・お互い緊張が伝わったキスだった。


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