やってきたのは・・・公園近くにある海辺。
・・・そう・・・夢の中でも来た海だ―――
ここまで来ると・・・なんだか笑えてきた。 もう・・・反発するのも、諦めたかのように・・・
車から降りて、下の砂浜に向かう。 途中、自販機を見つけ、松井君が聞いてきた。
「・・・何飲む?」
「・・・・・・紅茶・・で。」
「紅茶ね・・・」 ホットの方をピッとボタンを押し、出てきた缶を取り出す。 そして自分の分も、コーヒーを買う。 差し出された紅茶を受け取った。 「・・・ありがと。」
そして、適当に砂浜にしゃがみこむ。 4月に入ったとはいえ・・・まだ風は肌寒い。 あったかい紅茶を両手で包むようにして握り締める。
車中では、ずっと無言だった。 そして、一口飲みこんで・・・あたしから話を切り出した。
「この間は・・・ごめん・・なさい。」 「・・・いや・・・別に。」 「あたし・・・かなり酔ってて・・・まだ酔いが冷めてなかった・・みたいっ・・・」 「・・・・・・」
とりあえず、謝っておきたかった。 わけわかんない行動をしてしまったことを・・・
「・・・っそういえば・・・お父さん・・・身体どう?」 「え・・・あぁ、うん・・・元気だよ。あれからは調子いいみたい。」 「そっか・・・・・・っ仕事は?」 「え・・・?」 「ほらっ・・・あの時、メール待ってる人がいるって・・・急いでやらなくちゃいけない仕事だって・・・」 「あぁ・・・あれね。」 「・・・あたしが・・・邪魔しちゃって・・・どうだったかなぁって・・・」
・・・しまった・・・話を逸らすつもりが・・・戻ってしまってる。
「・・・大丈夫だよ・・・ちゃんとあの後メール送れたし・・・」 「そっか・・・なら、良かった・・・」
「・・・・・・」 「・・・・・・」
・・・ザザァ・・・ザザザァ・・・
いつもは癒される波の音が、今はやけにうるさかった。 あたしたちの沈黙をさらに強調するかのように、耳の奥まで響いてる感じだ。 それが嫌で、また口を開いた。
「・・・――ケンちゃんや田口君とは・・・ずっと、仲いいんだね。」 「・・・まぁまぁ・・だけど。あいつらもずっと地元にいるし・・・かといって、そうそう会わないけどな。」 「そう・・だよね・・・あたしの友達も、何人かずっとこの町いるけど・・・なかなか会えないや。時間がないわけでもないのにね。」 「・・・もう30だし・・・学生ん時みたいに、毎日毎日遊んでらんないっしょ。」 「・・・そうだね。」
みんな大人なんだ。 家族がいる子だってほとんどだし。 みんなそれぞれの生活が、過ごし方がある。 懐かしい顔ぶれに会った時は、そのことを一瞬でも忘れることができたけど・・・またすぐに現実が待ち構えている。 いつまでも・・・・・・思い出にひたっては、いられないんだ―――
「・・・ケンと・・・」
え?・・・ケンちゃん・・・?
自分の世界に入り込んでいたが、松井君が話しかけてきたことによって、彼へと意識を向けた。
「・・・仲良かったんだ。」 「え!?・・・ううん。中学ん時は、2年間同じクラスだったけど・・・全然仲良くなかったよ。まともに話したこと・・・ないんじゃないかな?」 「・・・そう・・・2次会ん時・・・そう見えたから・・・」 「・・・あぁっ・・・なんか、流れみたいなもんで・・・」
それと、酒の勢いもある。 そのおかげでケンちゃんと・・・夢の時のように接することができたんだ。 それを思うと・・・同窓会に行ってよかったかな。
「・・・ふ〜ん・・・」 聞いてきたわりに・・・松井君はそっけない返事だ。
・・・なんで、聞いてきたんだ? 話の・・・ネタとして・・・? なんか・・・あの時の松井君みたい。 ・・・今の返事の仕方・・・聞き覚えある。 ・・・――っいけないいけないっ・・・また始まった・・・ あまりにも自然と、彼がこうして隣にいることで、あたしは勘違いをしてしまいそうだった。
上着を持ってきてくれたことが、こうして誘ってくれたことが、こうやって会話していることが・・・当たり前のように感じて・・・
その考えを打ち消すかのように、紅茶を飲む。 なんだか罰あたりのような気がしてきた。 そして、このことも夢なんじゃないかって・・・そう思ってしまう。
再度沈黙が続いた。 お互いに視線を合わせることなく、目の前の海を眺めてしまう。
それにしても・・・なんで、誘ってくれたんだろ? 車中でも考えてた、当たり前の疑問がまた浮かんできた。
「・・・あのさっ・・・俺・・・あれから気になって・・・」
「・・・え?」 いきなり話しだした内容が、なんのことかわからなかった。
「・・・あんたが泣いてたの・・・なんか・・・悪い気がして・・・」
―――っ!! ・・・そのこと!?
「理由はわかんないけど・・・なんか、俺が泣かしたみたいに思えて・・・」
「・・・――ちがうよっ・・・全然関係ないし・・・気にしないでってば・・・」 この話から、早く逸れたかった。 「・・・まだ、酔いが冷めてなかったんだよ・・・あたし、泣き上戸かも・・・うん、きっとそうなんだ。あはは、今気付いた・・・」 焦って言い訳をしながらも、顔が引きつるのがわかる。
「・・・今でも・・・泣きそうに見えんだけど・・・」
――――――っ!! 思わず顔を手で触れる。 松井君に、これ以上気持ちを見抜かれないように・・・
「・・・あんたって・・・俺のこと、見ようとしないよね。」
「――っ・・・」
「会った時からそう。・・・意識して、見ないようにって・・・してない?」
「・・・・・・っ」
「それって・・・俺がなんかしたから?・・・中学ん時、俺あんたになんかした!?」
だんだんと、松井君の声が大きくなる。 それに比例するように、あたしはさらに顔が俯いてしまう・・・
「・・・はっきりいって、俺はなんも覚えてない・・・でもっ・・・もしなんか・・・俺のこと見たくもないって、思うようなことしてたんだったら・・・謝るよ。」
―――っ!!
「・・・・・・ごめ――っ」「――やめてっ!!」
思わず叫んだ。 聞きたくなくて・・・その言葉を、松井君からもう一度聞きたくなくて・・・
「――っ・・・山田?」
松井君の言った通り・・・あたしの目には、涙がたまってた。 そして今にもこぼれそうなのを、手で拭う。
「・・・謝らないで・・・」 「・・・・・・」 「・・・謝られるようなこと・・・されてないから。」
カバンを持ち立ち上がった。 「・・・ごめんなさい・・・帰るね。」 そう言いながら、丘の方へと向かった。
・・・のはずが、2、3歩進んだところで、あたしの腕は掴まれていた―――
「――っ離してっ・・・」 掴まれた腕を振り払う。 でも、簡単には離してくれず・・・ 「・・・・・・」 松井君は無言のままだ。
「・・・あたしがっ・・・変なだけだからっ・・・」 そう言いながらも、腕を振り払う。 「・・・・・・」 「・・・気にしないでっ・・・いいからっ・・・」 「・・・・・・」 「・・・・・・っ」
掴まれた腕から感じる松井君の力と・・・ 拒むあたしを見下ろしてくる松井君の視線が・・・ ・・・耐えきれなくなった―――
「・・・――っ離してってば!!」 もう片方の手で、松井君の腕を払いのけようとした。
――グイっ!
―――っ!!・・・
一瞬何が起きたかわからなかった。 でも・・・徐々に・・・自分の心臓の音が聞こえてきた。 彼にも・・・すぐ側にいる松井君にも・・・聞こえるんじゃないかって、思えるくらい・・・ドキドキしてきた。
あたしは・・・松井君に、抱き寄せられていたんだ―――
「・・・・・・離さないっ・・・」 「――っ・・・」 耳を疑うような言葉に、思わず息をのみ込んだ。
「・・・俺の・・・勘違いかもしんない・・・」 「・・・・・・」 「こんだけ逃げたがって・・・避けられて・・・」 「・・・・・・」 「でも・・・どうしてもっ・・・あんたが、俺のこと・・・嫌ってるようには、感じないんだよっ!」 「――っ・・・」 「・・・こんなこと言うなんて・・・こんなことしてんのだって、おかしいけど・・・俺は・・・気になってしょうがない・・・」 「・・・・・・」 「・・・山田のこと・・・気になって気になって・・・だから、会いに来た。」 「――っ・・・」 「・・・会って・・・自分の気持ちも・・・確かめたかった・・・」
・・・・・・きも・・ち・・・
期待・・・しちゃいけないって・・・これ以上・・・思い返してもいけないって・・・ 何度も何度もそう思ったのに・・・ 欲張りなあたしが・・・また出てしまう・・・
抱き寄せた力が少し弱まり・・・両腕を掴まれたまま、松井君との距離が少し空いた。 そして、まともに彼と・・・初めて向き合った。 視線も・・・心も・・・
「・・・・・・やっぱり・・・間違いない・・・」
まっすぐ見つめてくる松井君を・・・あたしも見つめる。
「・・・俺、あんたのこと・・・・・・好きみたい。」
―――っ・・・
「・・・変だよな・・・あんたと、そんなに関わってもないのに・・・こんなこと言うなんて・・・変だよな・・・これじゃあ・・・ケンの思惑通りじゃん・・・」 松井君は、そう言いながら少し笑っていた。
・・・―――っブンブンッ!
あたしは首を横に振った。 そして・・・ずっと伝えたかったことを、素直に言えた。
「・・・あたしもっ・・・っ好き・・・」
たぶん・・・夢の中でさえ、彼に対して直接言えなかったことだ。
「・・・変なのは・・・あたしの方っ・・・ずっと・・・ずっと前からっ・・・松井君のこと・・・っ好きだった・・・」
目の前の視界がぼやける・・・我慢していた気持ちを・・・抑えなくていいんだと・・・そう思えたら・・・涙が止まらなかった。
「だからっ・・・会うのが、怖かった・・・これ以上気持ち・・・隠せないって・・・っ」
松井君の大きな手が、あたしの頬をつたう涙を拭う・・・そして、ゆっくりと顔が近付く。
この場所で、この人と・・・キスをした―――
いい大人なのに、まるで初めてするかのように・・・お互い緊張が伝わったキスだった。
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