予定より、遅くなった事を詫びて、データを送信した・・・ しばらくして、返信が届く・・・「了解」とのこと。 もう電源を切ってよさそうだ。
冷蔵庫から、ビールを取る。 座ることなく、その場で飲み干す。
ゴク・・ゴク・・・・プハァ〜・・・
そして、さっきからモヤモヤしている頭を、クシャクシャっと掻き回す。 ずっと頭から離れない・・・山田のことが・・・っ
女の泣き顔を見たのは初めてではない。 むしろ俺の前で、女は泣いてばかりだった。
仕事とどっちが大事なの? 何を考えてるかわからない。 本当は、好きじゃないんじゃないか。
そういう理由がほとんどで、今まで何人かとつきあってきたが、最後はみんな俺から去っていった。 そのことを決して何とも思ってないわけでもなく・・・かといって未練があるわけでもなく・・・ 自分で言うのもなんだが、俺という人間はなんて冷たいんだ・・・そう思っていた。
でも、山田に関しては、明らかに今までの女と違う。 普段気にしてもなかったことが・・・いや、俺にとっての普段と違ってた。 あいつと過ごしたのなんて、ほんの数時間。 しかもまともに会話したのはほんの30分足らず・・・ なのに、山田と接したわずかな時間が・・・すごく心地よかった。
・・・懐かしい・・・そんな気もした。 変だ・・・同級生とはいえ学生の頃、あいつと関わったことなんて、俺の記憶では全くといっていいほどないのに・・・
・・・・・・っ――!!
ふと、思い立ったかのように、部屋へと向かう。 そして押入れにしまい込んである、卒業アルバムを探しだした。
このアルバム自体、目にするのは何年振りだ? 懐かしく昔を振り返る性格ではないので、こんなことしている自分がおかしくも思える。 クラス写真を捲る・・・1組・・・2組・・・3組・・・っ!!
・・・いた・・・そっか、ケンと同じクラスだったんだ。 だからか? 居酒屋で、やけに楽しそうに絡んでいた姿を思い出す。 そして、そのことをちょっと気にしてしまう自分がいた。
ここに写っている山田は、さっきまでいた山田と違う印象に感じた。 歳をとった、ということはもちろんだけど・・・なんか、うまく言い表せないのがもどかしい・・・ でも・・・この時、なんでこいつと関わることがなかったんだろうと、中学時代の自分を少し責めてみた。 まぁ・・・あの頃の俺は、誰とも接するの拒んでたから無理か。
母親を幼いころに亡くしたせいか、誰かに甘えてはいけない、男なんだからたくましくなくちゃいけない・・・心のどっかでそう感じてた。 それが、人と深く関わるのを避けてたのかも・・・
それが人の目によっては、クールとか言われ・・・先輩たちには嫌がらせを受けてたのも思い出す。 それでも、ケンや田口、いい先輩もいて、それなりに楽しく過ごしてたっけ。
女に関しては・・・今となっては、あまり会わなくなった幼馴染のことを思い出す。
同じ年の山下 美樹。 いじめによって転校してからも、たまに実家に帰った時は会っていた。 中学のサッカー部の先輩でもある人と結婚したのは、さすがに驚きだった。 この間の正月会った時は、すっかり母親が定着してたな・・・
そして、6つ上の・・・美加。 今や3児の母親か・・・。
幼い頃からずっとそばに居て、世話を焼いて、本当の弟のように接していてくれた。 俺はいつしか、そんな美加に恋心を抱いて・・・
中学の時なんて、思春期の真っ只中だったから、余計に想いが強くなってた気がする。 そんな俺の気持ちも通じてか、高校に入ってから、やっと美加が俺のことを受け入れてくれた。 その事はうれしくてうれしくて・・・だからだろう。 もう美加を離したくないという気持ちが強すぎて・・・俺は空回りしていた。
歳のこともあり、早く大人になりたかった俺は、相当無理してた。 そしてそれは、美加にとって荷が重かったんだろう。
つきあいだして・・・半年もたたないうちに別れを告げられた。
そのことに、俺はショックを受けていた・・・いや、そのはずだった。 でも、実際には・・・けっこう平気な自分がいて・・・
あんなに美加のこと・・・あんなにずっと想っていたのに・・・それがあまりにもあっさりとしていたものだったから、自分の冷酷さに、改めて気付かされたんだ。
結局俺は・・・人を本気で好きになれないんじゃないか? そんなことすら思ってしまった。
現に、社会人になってから、いつもつきあいだすのは向こうからのきっかけで・・・自分から必死に追いかけたことも、好きで好きでたまらない、という感情も・・・まだ味わったことがなかった。
そんな俺が・・・そんな冷めていたはずの感情が・・・今は違う。 なんだこれ・・・? なんだっていうんだよ・・・っ
何にこの感情をぶち当てればいいのかわからず・・・もう一度冷蔵庫へ向かい、ビールを手にした。
翌日になり、おやじを病院へと迎えに行った。 帰りに寿司が食いたいとか言って、仕方なく一応退院祝いとして食べに行った。 そして、その日もあっという間に過ぎて、次の日から、またいつもの生活が始まった。
1時間かけて、仕事場へ向かう。 朝は7時過ぎに出かけ、夜は9時、10時の帰り。
仕事をしている時はいいんだけど・・・部屋に入り、紙袋に目をやる。 山田が忘れていった上着だ。
これがここにある限り、俺のこの感情は消えることがないんじゃないだろうか?
そんな大袈裟とも言える気持ちに・・・ある決心した。
そして、この間取り出したアルバムを再び捲る。 この当時は、後ろの方に、生徒と先生の連絡先が載せられていた。 大抵が実家の住所だ。 今の山田の近況を聞いたわけではないから、この住所に山田がいるとも限らない。 結婚はしていないとしても、家を出て一人暮らしをしているかも・・・。 そんなことを思ったが・・・どっちみち、行ってみなきゃ居どころがつかめない。
週末に、山田の実家に行くことにした。
ナビを頼りに車を進める・・・というか・・・同じ町に住んでいながら、こっちのほうに来るのは初めてだった。
こんな山奥に・・・人が住んでんのか? そんな失礼な事を考えてしまう。 そして、ポツポツと、民家らしき建物が見え始める。 そのことで、間違いはないと内心ホッとした。
それから数分走ったところで、数メートル先の民家の前に、車が路駐されており、その横に人の姿も捕らえた。
―――っ・・・山田だ・・・
それ以上進むのをためらってブレーキをかける。 車の窓越しに誰かと話をしている。
――っ・・・もしかして・・・男・・・?
ありえることだ。 独身とはいえ、彼氏がいないとは聞いてないし・・・
なんとなく気になり、車中の人物に目をやる。
・・・・・・・中田? そうだ・・・中田 京子だ。
そう確認した時だ・・・山田がこっちを見た。 そして、この間と同じように・・・俺を見て固まった。
そんな山田の様子を伺い、中田もこちらに目をやる。 すると何かを察してか、一言山田に告げてから、車を発進させた。
俺とすれ違う際・・・なんか嬉しそうにも見える表情をして、少し頭を 下げて行った。 ・・・俺も軽く会釈をする。
このまま、車にいるつもりもなく・・・渡すつもりの上着の入った紙袋を手に持ち、車から降りた。 そして、立ち止まったままの山田に近づく・・・
「・・・いきなり来て・・・ごめん・・・これ、忘れてたから・・・」
そう言いながら、紙袋を差し出した。 当然山田の住所を知るはずのない俺が、ここをどうやってわかったのか、説明しといたほうがいいだろう。
「・・・住所・・・卒業アルバムの最後の方に載ってたから・・・それを頼りに・・・」 そう言うと、山田はさらに顔を俯いた。
「・・・・・・ありがと。」
「・・・・・・」 「・・・・・・」
やっぱり、いきなり家に来たのはまずかったか? ・・・でも、すぐに引き返すほど俺は・・・気の利くやつではなかった―――
「あのさ・・・ちょっと・・・時間いい?」
「―――っ・・・え?」
「・・・・・・せっかく・・・天気いいし・・・ドライブでも、どう? 」 このまま・・・すぐに別れるのは嫌だった。 ただそれだけだ。 そんな子供じみた誘いに山田は・・・
「―――っ・・・・・・うん。」
そう言ってくれた。
俺は・・・やっと確信した。 わけわかんない感情が、なんなのか。 いや・・・すぐにわかってたのを認めたくなかったのかもしれない。
こいつと話してみたくて・・・ こっちを見てほしくて・・・ 泣いてたことが気になって・・・ 男が来てると勘違いして・・・ そうじゃない事にホッとして・・・ 今こうして目の前にこいつがいて・・・ 俺は山田に・・・会いたかったんだとわかって・・・
あの夜、山田と再会して・・・出会って・・・俺は、一目惚れしてたんだ―――
顔はもちろんのこと・・・山田がかもしだす雰囲気が、俺にとってすごく、心地よかったんだ―――
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