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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第114回   リョーマside  4


最終確認中、このままずっと黙っていると思っていた山田が、予想外に話し掛けてきた。

「・・・・・・仕事?」
その事に、少し驚きながらも答える。
「・・・えっ?・・・あぁ・・・うん、まぁ・・・雑用に近いけどね。」
そして、そのことが嫌な感じではなく・・・むしろうれしい気がして、自分でも無意識に微笑みながら答えた。

「・・・・・・忙しい時に・・・ほんとごめんなさい・・・」
・・・そんなに謝られるほど、負担にはなっていないのに。
「別に気にしなくていいよ・・・」
今仕事をしていることを、決して山田のせいでないことをわからせるためにも、こうなった経緯を話す。
それが、また会話を続かせた。

「・・・大丈夫なの?・・・お父さん。」
・・・そっか。
おやじの話の記憶はあるんだな。
そんなことを思いながら話す。

「うん・・・狭心症でも、軽少みたいで・・・まぁ、ほっとくと良くはないんだろうけどね。」
「・・・そっか・・・なんか・・・今日一日・・・大変だったね。」
「・・・え?」

素直に、何が?・・・って、思ってしまった。

「だって・・・お父さんの事だって・・・松井君一人で面倒看てたんでしょ?それなのに、2次会に出席するわ、あたしがここにいるわ、今の終わって、またあたしを送るって・・・ほんっと・・・ごめんなさい。」

・・・あれ?
・・・家庭の事情って、話してたっけ?
パソコンから視線を山田に向けた。

「・・・・・・俺が一人でって・・・母親いないって、わかった?」

山田は、何かを悟ったように俺から視線を逸らした。
悪い事でも言ってしまったと思っているんだろうか・・・

「・・・――っさっき・・・仏壇見えたから・・・もう、仏壇置いてあるなんて・・・そうかなぁって・・・勝手に思い込んでた・・・ごめん・・・」

そう言われ、和室の扉を開けっ放しにしている事に気付く。
「・・・あぁ〜・・・そういう事ね。」
どう見ても核家族の家庭に、仏壇があるのはそう思うか。
それ以上話を延ばすのは、山田が気にすると思い止めておいた。

そして、山田も再び沈黙になり・・・
カタカタと、パソコンのキーを押す音が響く・・・
・・・・・・
・・・・・・

確認を終えた・・・後は送信するだけ。
そう思い、気を抜いた時だ。



「・・・ねぇ・・・お線香・・・あげてもいい?」


「・・・・・・え?」

一瞬、言われた意味がわからなかった。
ここ数年、そんな事を言われたことがなかったから。
たまに来る親戚だって・・・もう気にしなくなっていた。

だからだろうか?
なんとなくうれしい気がして・・・

「・・・・・・あぁ、いいよ。」

快く受け入れた。


和室の電気を付け、ろうそくに火を灯す・・・
山田は母親の前に正座して、線香を供え、手を合わせる・・・
そして・・・母親に目をやる。



その仕草一つ一つが、すごく自然に思えて・・・

「・・・俺が3歳の時に亡くなったんだ。」

今までその事を、自分から話したのは初めてかもしれない。
俺は、自然と話していたんだ。

「・・・そっか・・・早いね・・・」

そんな俺に、山田は静かに受け応えてくれた。

「・・・元々体弱かったらしくてさ・・・俺産むのも一苦労したみたい。」

「・・・そうなんだ・・・・・・・・・っお母さんの事・・・覚えてる?」

「え?・・・」
意外な質問に、一瞬止まったが・・・自分でも意外に、素直に答えていた。

「まぁ・・・なんとなくだけど・・・覚えてる部分もある。・・・ほとんど・・・抱っこばっかされてた気がする・・・顔とか、声とかはさすがに覚えてないけど・・・・・・でも、存在自体は・・・覚えてるかな・・・」

そう言いながら、本当に母親の感覚を思い出していた。

「・・・・・・そっか・・・・・・かわいがられて・・たんだね・・・一緒にいた時間・・・短くても・・・そう思えるってことは・・・」

・・・またもや、山田の言葉に固まった。
が、また俺は自然と頬が緩んでいたんだ。

・・・俺ってこんなに顔の筋肉緩かったっけ・・・?
そんなことも頭によぎった。


「・・・・・・あんたって・・・変わってんね。・・・今まで母親いないこと言うと、大抵の人は、かわいそうとか、大変だったねとか、労いの言葉かけんのに。」

思った事を、思ったまま言っただけだった。

でも、それがおかしかったのか?
いけなかったのか?



山田は、急に立ち上がってリビングへと戻った。

「――っ・・・山田?」

そんな山田を呼び止めてみる。
でも、そのまま置いていた荷物を取り、玄関へと向かう。

「――っ!?・・・おいっ・・・待てって!!」

なんだ・・・?
なんなんだ!?
訳がわからなかったが、このまま帰らせるわけにはいかないだろう。
外出たところで、帰る手段はないのは確実だ。

「――っ・・・山田っ!!」
ブーツを履いていた山田の腕を・・・俺は掴んだ。

「―――っ!!・・・・・・っ」

そのことで、やっと山田の動きは止まった。
とりあえず、落ち着かせるためにも静かに聞いた。

「・・・なんだよ・・・急にどうし・・・――っ!!」

だが・・・落ち着かせるどころか・・・俺が・・・戸惑ってしまった―――

山田は・・・泣いていた。
ポロポロと・・・次から次へと・・・頬に涙がつたっていた。



「――っ・・・どう・・した?」

驚きを隠せないまま、聞き直す。

「・・・・・・っ」

「・・・・・・山田?」

もう一度、名前を呼ぶ・・・

「・・・っ――ごめんっ・・・やっぱっ・・・一人で、帰れるからっ――」
そう言うと、すでに力の抜けていた俺の手を振り払い、玄関を飛び出した。

「・・・――山田っ!!・・・」

山田の行動に、思考がついていかず固まったままだったが、もう一度その場から呼んでみた。
もちろん、あいつが戻ってくることはなかった・・・


なんなんだ?
・・・俺・・・気に障るようなこと・・・言ったか?
俺なりに必死に思い返すが・・・わからない。

半ば呆然としながら、リビングに戻る・・・そして、足元に置いてあった、上着に目が行く。

「・・・・・・――っ!!」

そして、思い立ったかのように、上着と車のカギを手に持って外へ飛び出した。
このまま・・・放っておけなかった。

女が一人出歩く時間帯でもない。
目が覚めたとはいえ、まだ本調子ではないだろう。
でも・・・そんなことは、たてまえで・・・

あいつのことが・・・山田のことが・・・気になって仕方がなかった―――



この辺を、山田が知っているかどうかはわからない。
でも、もし初めて来たとしたら、入り込んでいる住宅街をそうそう抜けれないだろう。
俺は、車でゆっくり走りながら、それらしき姿を探した。

だが、いくら辺りを探しても、山田は見当たらなかった。
もしかして・・・もう大通りまで出たのだろうか?

そっちの方に向い、わずかな希望のコンビニへと、駐車場から車ごしに覗く。

・・・・・・いない・・・

店内には、客らしい姿は誰一人いなかった。

かれこれ・・・30分くらいは経ったか・・・
もしかして・・・運よくタクシーが捕まったか?

まだ、探したい気は山々だったが・・・仕事のことを思い出し、時計に目をやる。

・・・やば・・・先に送信しておけばよかった・・・っ

そんなことを思いながらも、あきらめて家へと向かった。
とりあえず・・・あいつが無事に帰ってる事を願って・・・。


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