最終確認中、このままずっと黙っていると思っていた山田が、予想外に話し掛けてきた。
「・・・・・・仕事?」 その事に、少し驚きながらも答える。 「・・・えっ?・・・あぁ・・・うん、まぁ・・・雑用に近いけどね。」 そして、そのことが嫌な感じではなく・・・むしろうれしい気がして、自分でも無意識に微笑みながら答えた。
「・・・・・・忙しい時に・・・ほんとごめんなさい・・・」 ・・・そんなに謝られるほど、負担にはなっていないのに。 「別に気にしなくていいよ・・・」 今仕事をしていることを、決して山田のせいでないことをわからせるためにも、こうなった経緯を話す。 それが、また会話を続かせた。
「・・・大丈夫なの?・・・お父さん。」 ・・・そっか。 おやじの話の記憶はあるんだな。 そんなことを思いながら話す。
「うん・・・狭心症でも、軽少みたいで・・・まぁ、ほっとくと良くはないんだろうけどね。」 「・・・そっか・・・なんか・・・今日一日・・・大変だったね。」 「・・・え?」
素直に、何が?・・・って、思ってしまった。
「だって・・・お父さんの事だって・・・松井君一人で面倒看てたんでしょ?それなのに、2次会に出席するわ、あたしがここにいるわ、今の終わって、またあたしを送るって・・・ほんっと・・・ごめんなさい。」
・・・あれ? ・・・家庭の事情って、話してたっけ? パソコンから視線を山田に向けた。
「・・・・・・俺が一人でって・・・母親いないって、わかった?」
山田は、何かを悟ったように俺から視線を逸らした。 悪い事でも言ってしまったと思っているんだろうか・・・
「・・・――っさっき・・・仏壇見えたから・・・もう、仏壇置いてあるなんて・・・そうかなぁって・・・勝手に思い込んでた・・・ごめん・・・」
そう言われ、和室の扉を開けっ放しにしている事に気付く。 「・・・あぁ〜・・・そういう事ね。」 どう見ても核家族の家庭に、仏壇があるのはそう思うか。 それ以上話を延ばすのは、山田が気にすると思い止めておいた。 そして、山田も再び沈黙になり・・・ カタカタと、パソコンのキーを押す音が響く・・・ ・・・・・・ ・・・・・・
確認を終えた・・・後は送信するだけ。 そう思い、気を抜いた時だ。
「・・・ねぇ・・・お線香・・・あげてもいい?」
「・・・・・・え?」
一瞬、言われた意味がわからなかった。 ここ数年、そんな事を言われたことがなかったから。 たまに来る親戚だって・・・もう気にしなくなっていた。
だからだろうか? なんとなくうれしい気がして・・・
「・・・・・・あぁ、いいよ。」
快く受け入れた。
和室の電気を付け、ろうそくに火を灯す・・・ 山田は母親の前に正座して、線香を供え、手を合わせる・・・ そして・・・母親に目をやる。
その仕草一つ一つが、すごく自然に思えて・・・
「・・・俺が3歳の時に亡くなったんだ。」
今までその事を、自分から話したのは初めてかもしれない。 俺は、自然と話していたんだ。
「・・・そっか・・・早いね・・・」
そんな俺に、山田は静かに受け応えてくれた。
「・・・元々体弱かったらしくてさ・・・俺産むのも一苦労したみたい。」
「・・・そうなんだ・・・・・・・・・っお母さんの事・・・覚えてる?」
「え?・・・」 意外な質問に、一瞬止まったが・・・自分でも意外に、素直に答えていた。
「まぁ・・・なんとなくだけど・・・覚えてる部分もある。・・・ほとんど・・・抱っこばっかされてた気がする・・・顔とか、声とかはさすがに覚えてないけど・・・・・・でも、存在自体は・・・覚えてるかな・・・」
そう言いながら、本当に母親の感覚を思い出していた。
「・・・・・・そっか・・・・・・かわいがられて・・たんだね・・・一緒にいた時間・・・短くても・・・そう思えるってことは・・・」
・・・またもや、山田の言葉に固まった。 が、また俺は自然と頬が緩んでいたんだ。
・・・俺ってこんなに顔の筋肉緩かったっけ・・・? そんなことも頭によぎった。
「・・・・・・あんたって・・・変わってんね。・・・今まで母親いないこと言うと、大抵の人は、かわいそうとか、大変だったねとか、労いの言葉かけんのに。」
思った事を、思ったまま言っただけだった。
でも、それがおかしかったのか? いけなかったのか?
山田は、急に立ち上がってリビングへと戻った。
「――っ・・・山田?」
そんな山田を呼び止めてみる。 でも、そのまま置いていた荷物を取り、玄関へと向かう。
「――っ!?・・・おいっ・・・待てって!!」
なんだ・・・? なんなんだ!? 訳がわからなかったが、このまま帰らせるわけにはいかないだろう。 外出たところで、帰る手段はないのは確実だ。
「――っ・・・山田っ!!」 ブーツを履いていた山田の腕を・・・俺は掴んだ。
「―――っ!!・・・・・・っ」
そのことで、やっと山田の動きは止まった。 とりあえず、落ち着かせるためにも静かに聞いた。
「・・・なんだよ・・・急にどうし・・・――っ!!」
だが・・・落ち着かせるどころか・・・俺が・・・戸惑ってしまった―――
山田は・・・泣いていた。 ポロポロと・・・次から次へと・・・頬に涙がつたっていた。
「――っ・・・どう・・した?」
驚きを隠せないまま、聞き直す。
「・・・・・・っ」
「・・・・・・山田?」
もう一度、名前を呼ぶ・・・
「・・・っ――ごめんっ・・・やっぱっ・・・一人で、帰れるからっ――」 そう言うと、すでに力の抜けていた俺の手を振り払い、玄関を飛び出した。
「・・・――山田っ!!・・・」
山田の行動に、思考がついていかず固まったままだったが、もう一度その場から呼んでみた。 もちろん、あいつが戻ってくることはなかった・・・
なんなんだ? ・・・俺・・・気に障るようなこと・・・言ったか? 俺なりに必死に思い返すが・・・わからない。
半ば呆然としながら、リビングに戻る・・・そして、足元に置いてあった、上着に目が行く。
「・・・・・・――っ!!」
そして、思い立ったかのように、上着と車のカギを手に持って外へ飛び出した。 このまま・・・放っておけなかった。
女が一人出歩く時間帯でもない。 目が覚めたとはいえ、まだ本調子ではないだろう。 でも・・・そんなことは、たてまえで・・・
あいつのことが・・・山田のことが・・・気になって仕方がなかった―――
この辺を、山田が知っているかどうかはわからない。 でも、もし初めて来たとしたら、入り込んでいる住宅街をそうそう抜けれないだろう。 俺は、車でゆっくり走りながら、それらしき姿を探した。
だが、いくら辺りを探しても、山田は見当たらなかった。 もしかして・・・もう大通りまで出たのだろうか?
そっちの方に向い、わずかな希望のコンビニへと、駐車場から車ごしに覗く。
・・・・・・いない・・・
店内には、客らしい姿は誰一人いなかった。
かれこれ・・・30分くらいは経ったか・・・ もしかして・・・運よくタクシーが捕まったか?
まだ、探したい気は山々だったが・・・仕事のことを思い出し、時計に目をやる。
・・・やば・・・先に送信しておけばよかった・・・っ
そんなことを思いながらも、あきらめて家へと向かった。 とりあえず・・・あいつが無事に帰ってる事を願って・・・。
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