まだ山田は起きなかった。 とりあえず家に入るが・・・どこに寝かせよう?
リビングの床は・・・痛いよな。 和室は畳だから・・・いや、やっぱ痛いよな。
ふと、おやじの布団が目に入ったが・・・引き返して、自室へと向かう。 ベットへと山田を寝かせる。 その際、抱えていた腕が山田の体に挟まっているのを、起こさないよう注意しながら腕を引いた。 が、「う〜ん・・・」とうなりながら、俺の方に寝返りをした山田によって・・・俺の腕は完全に山田の体の下敷きになってしまった。
――っ・・・どういう、タイミングだよ・・・
そんなことを思いながら、ゆっくりと少しずつ腕を引きずり出す。
「・・・んん・・・ん・・・」
――っ起きた!?
そう思い、山田に目をやる。
・・・・・・大丈夫か。 ・・・・・・ ・・・・・・
酔ったせいなんだろうけど・・・少し赤みを帯びている顔が・・・妙に俺の気を引きつけた。
ほんの少しだが・・・山田の顔を見入ってしまった・・・
・・・・・・―――っ
その事を後ろめたくなり、サッと腕を引いた。 その際また、山田の寝息か寝言が聞こえたが、今度は確認することなく、布団をかぶせ、スタンドランプだけ灯して、部屋を出た。
・・・・・・俺、なにしてんだ!? 酔った女連れて帰って・・・ヘンな気起こして・・・っ そんなことを考えてしまうことすら呆れてしまう。
きっと、山田だからだろう。 相手が中学の同級生だと思うと・・・なんだか自分がガキに思えてきた。 気持ちまでもが、中坊になったような気分だ――
冷蔵庫からミネラルウォーターを取り出し飲む。 塩っ辛いものばかり食べたせいで、異様にのどばかり渇く。 本当はビールでも・・・と思ったが、いつになるかはわからないが、山田を送らなければいけないので、それはお預けだ。
そして、一応念のためと思い、パソコンを開く。 が、それが良かったのか悪かったのか・・・。
今から1時間くらい前に、職場の相手から返信が来ていた。 題名が「至急」。 それを見ただけで嫌な予感が・・・。
昼間に送ったデータの訂正依頼だった。 もうすぐ日付が変わる時間だったから、とりあえず明日ではダメかと返信してみた。 すると、すぐさまその返信が来た。 そのことが、待ち構えてるということを物語っている。 案の定、今すぐでき次第で送って欲しいとのこと。 マジかよ・・・と呟きながらも、会社員である俺がその事を無視することもできなかった。 幸いな事に、量はそんなにないので・・・それでも2時間くらいかかるか? まぁ、最初に作成したことを考えれば軽い方だ。
それからしばらく、仕事へと没頭していた。
そして、終盤にさしかかった時だ。
ガタンッ・・・ わずかだか、俺の部屋から物音がした。
・・・起きたんだろうか?
手に持っていた資料を机に置き立ち上がる。 そして部屋の前まで来て・・・少し緊張が走る。
・・・コンコン
・・・返事がない。 まだ寝てるのかもしれない。 黙って入るのも気が引けて、声を掛ける。
「・・・開けるぞ。」
ガチャ・・・ ゆっくりとドアを開ける。
付けておいたスタンドランプのお陰で、山田の姿をすぐに捕えた。 山田は・・・部屋の真ん中で呆然と立ちすくしていた。
俺の方を見て、緊張してるのがわかる。
「・・・やっぱり起きてた?・・・なんか音したから・・・」
山田は黙ったまま動かない。 状況が把握できていないから当たり前か。 俺は、ドアの柱にもたれかかり事情説明を始めた。
「・・・最初に言っとくけど・・・俺なんもしてないからね。」 起きた場所がベットということもあり、とりあえず一番問題視しているであろうことから、切り出した。
「まぁ、恰好からしてわかるだろうけど・・・同窓会の2次会だったのは覚えてる?」
その質問に山田は、かろうじて、コクンっ・・・と頷いた。 その後も、ここに至るまでの説明をしていたが、山田はだんだんと顔を赤らめながら俯いていった。 そのことで、酔いが冷めているのがわかる。
一通りの説明を受け終え・・・山田は口を開いた。
「・・・・・・ごめ・・ん・・なさい・・・迷惑かけて・・・」
その言葉に、表情に・・・すごく申し訳なさがにじみ出ていて、とても怒るという気にはならなかった。 そもそも山田に対して、迷惑をかけられたという意識もなかった。
「・・・クスクス・・・かなり反省してるみたいだね・・・いいよ、別に。」
でも、山田の気持ちを少しは受け入れようと、そういう言い方をしておいた。 そして、もうその事を気にさせないためにも、後を続けた。
「水飲む?のど渇いてるでしょ。」
そう言って、リビングへと向かった。 山田も少し遅れてこっちに来た。 俺はミネラルウォーターをコップに注ぎ、手渡そうと台所から山田に目を向けるが・・・山田は頭を押さえてる。
「・・・大丈夫?」 そう声をかけると、山田は不安そうに俺を見た。 「頭痛いんだろ?薬飲むか?」 そう言いながら、置き薬箱から薬を取り出した。 その際、「あっ、大丈夫・・・気にしないで・・・」と言っていたが、そんなことはまるで無視した。 「ほら、飲んだら少しは楽になるんじゃない?」 薬と、水の入ったコップを差し出すと、山田はまた申し訳なさそうな顔をしながらでも、素直に受け取った。 「・・・・・・ありがと。」
薬を飲み終えると、山田は不可解な行動に出た。 「あのっ・・・ほんと、ありがとう・・・あたし、帰るね。」 荷物と上着を持ち、玄関に向かおうとしたのだ。
・・・こいつ・・・わかってんのか?
すぐに、後で送ることを伝えればよかったんだろうけど・・・何故か俺は、山田の困る姿を見たくなった。
「・・・どうやって帰んの?」
わざと質問する。 それに対し、山田は当たり前のような答えを言った。
「・・・え・・・どうやってって・・・タクシーでも拾うよ。」
・・・やっぱりか・・・
「・・・こんな時間に、いないと思うけど・・・」
「・・・・・・え?」
一瞬わけがわからなさそうだったけど、すぐさま持っているカバンから携帯を取り出した。そしてようやく、今の時刻を理解したようだ。 呆然と立ち尽くしてる山田の姿が、予想通りに思えて、思わず笑みがこぼれてしまった。
「もう少し待ってて。これ、メール待ってる奴がいてさ。あと30分もかかんないから・・・後で送るよ。」
そう言って、残りの作業に取りかかった。 だいたいのことは終わっているから、あとは確認してから送るだけ。 山田には悪いが、待っているやつもいることだし、こっちを優先させてもらった。
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