「おいっ、ケン・・・寝るなよ?」 さっきまで騒いでいたケンが、大人しくなったため声をかけた。 「・・・だい・・じょうぶ・・だよ・・・このやろ・・・むにゃむにゃ・・・」 ・・・完全に寝てるな。
ケンの事は放っておいて・・・酒の肴ばかり食べていたからか、妙にのどが渇く。 ウーロン茶を飲もうと手をやると、隣でひたすら、一人晩酌している山田が目に入る。
こいつ・・・大丈夫か? かなり飲んでるように思うんだけど。 隣に座って1時間は経つか・・・一言も話していないし、まともに顔も合わせてない。 というか、見たくても避けられてるし、しょうがないか・・・。
・・・ん? ・・・見たいのか、俺?
一瞬変な事を思ったが、それを打ち消し、違う考えが出てきた。 一度・・・確かめてみるか。 俺自身が避けられてるのか、はたまた嫌われてるのか。 どちらにせよ、良くは思われてないんだろうけど、理由もわからず嫌われるのは、なんとなくいい気持ちではない。 とりあえず・・・ケンの事、利用するか・・・
「・・・・・・こいつの言ったこと・・・気にすんなよ。」
山田は、自分に対して言われてると思っていなかったのか、反応がない。 ・・・いや、これもそういう反応か? ・・・シカト・・・という。
だが、山田は、恐る恐るとこちらに視線を向けた。
そして・・・初めて目が合った―――
―――っ・・・
その瞬間・・・ドキッとした。 山田のことを、まともに見たのが初めてだったからか、同級生というか・・・初対面の女性に会ったような・・・そんな感覚だった。
そのことを、紛らわすかのように、後を続けた。 「こいつ・・・酒癖悪いから・・・」
「・・・・・・っ・・・あ・・・うん・・・」
山田は、俺の目を見て初めて、受け答えをしてくれた。 その時の感じで、勘違いだったってことがわかった。
俺は少なくとも、悪くは思われてない。 山田の視線に、嫌悪感はなかった。
でも・・・何か、言いたそうな・・・訴えたいような・・・そんな感じがした。 こんなことを考えてしまう俺は・・・どうかしてる・・・
2次会も、みんなの様子からして、終わりを迎えようとしていた頃・・・俺の予感は当たった。
田口と景気の話をしていたら・・・カタンッ・・・
音のした隣に目をやる。 と、同時に今度は腕に重みが・・・そして・・・ほのかに、甘い香りが・・・ 香水の苦手の俺でも、嫌ではない香りだった。
・・・―――っそんなことを考えてる場合じゃない。
俺は、その重みの相手を支えた。 隣で飲み続けていた山田が、ついにダウンしたようだ。 目の前のコップが倒れてる。 中身が少しこぼれてる・・・飲みながら意識なくしたのか? ・・・――まさかっ・・・! 「・・・おいっ!・・・山田っ!?」 山田の肩を、軽くたたきながら声をかける。
「・・・んん・・・ん・・・スー・・・スー・・・」
規則正しい寝息が聞こえた。
・・・ホッ。 とりあえず、無事か・・・かなり飲んでたみたいだから、また病院行きが出たかと思ってしまった。
そのうちに、山田はズルズルと体が倒れ、完全に俺の足を枕と化してしまっていた。 ・・・いわゆる膝枕だ。
山田をどかそうと体勢を動かすと、田口がおもしろ半分で、 「そのままにしといてやれば?せっかく気持ち良さそうに寝てんだから・・・」 と言ってきた。 さすがに、戸惑った。 が、それもそうか・・・と思い、そのまま寝かせといた。 ふと、山田を見下ろす。
・・・気持ち良さそうに寝てる。
なんとなく、笑みがこぼれそうだった。
そして完全にお開きになり、それぞれ帰り仕度に入る。 さすがに俺の膝から山田をおろし、もう一度声をかける。
「山田っ・・・おいっ、山田っ!」
中田や他のやつらも声をかけた。
でも、一向に起きる気配がない。
もう一人、同じ状態の奴がいる。 俺は、ケンを叩き起した。
「おいっ、ケンっ!・・・起きろって!・・・帰るぞっ!!」 「・・・う〜ん・・・う・・ん・・」
・・・こいつもダメだ。
仕方ない・・・ケンは送ってくか。 そう思い、ケンの荷物を先に持った。
「・・・ねぇ、松井君・・・」 俺を呼んだのは中田だった。
「・・・なに?」 「野村君送るの?」 「・・・そうなるね。」 「・・・じゃあ・・・ついでに智子もお願いっ!」 「・・・は!?・・・タクシーで一緒に帰るんじゃないの?」 突然の頼みに、当たり前の疑問が出てくる。 「あ〜・・・あたしこの後用事があって・・・」 ・・・用事? この後に・・・? 今何時だよ・・・10時は過ぎてるぞ・・・
そんなことも思ったが・・・ 「・・・わかった・・・」 引き受けてしまった。
そして、自分の肩にケンの腕を回し、寝ボケまくってる状態だったが、車まで引きづるように歩かせて乗せた。 次に、山田だ。
スヤスヤ寝ている彼女を、ケンと同じように運ぶのは、さすがに気が引ける・・・というか、やっぱそれは、無理でしょ・・・
先に荷物と上着を車に運び、再び店に戻る。 あれだけ起こしても起きないんだから、気をつかうこともないんだろうけど・・・寝ている山田を起こさないようにと、ゆっくりと抱きかかえる。
そして、歩きだした時、 「・・・ん・・・」 一瞬起きたかと思い、顔を見下ろすが・・・笑ってる?
そんな山田を見て、また頬が緩んでしまった・・・
夢の中の二人を車に運び終え、店から出てきた集団の中から、中田を探した。 ・・・が、姿が見当たらない。
やばい・・・家の場所聞こうと思ったのに・・・あいつ、もう帰ったのか? 仕方なしに、他のやつらに聞いてみた。
「え〜!?智子〜・・・どこだっけ?・・・あ〜・・・南だよ、南〜っ!」 その意見が、まともとも思えない。 かなり酔っているこいつらの意見は、当てにならなかった。
すごく・・・かなり、迷ったが・・・しかたない。 道端に置いて行くわけにもいかないし・・・とりあえず家に行くか・・・。
こうして俺は、ケンを先に家に送り届け、山田を自分の家へと連れていく羽目になった。
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