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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第111回   リョーマside  1


「もういいから、早く行かんか!」
病室の床で、おやじが急かす。
「・・・わかったよ・・・行くから。・・・明日の昼前には迎え来るから。」

家で急ぎの仕事を終え、10年ぶりに開催される同窓会へ出席するため、準備をしていた。
・・・が、おやじがリビングで胸を押さえて、うずくまっていた。
もちろん放っておくことができず、自分の車で救急病院へと連れて行った。

幸いな事に、安静にしてれば大丈夫という事で、念のため、今日だけ入院することになった。
診察や検査をしていたら、すでに同窓会は始まっている時間で、俺は行くことを諦めていた。
さほど、行きたかったわけでもないし、未練はなかった。

でも、そんな俺に対し、おやじはしつこく行くように言ってくる。
あまりのしつこさに観念し、行くことにした。

何度か、ケンや田口からのメールが入ってるのをチェックする。
今は・・・2次会を居酒屋でやってるみたいだ。

このまま行かないと、きっとあの二人は・・・特にケンはうるさいだろう。
家に来てまで文句言いそうだ。
そうなると、おやじにも行かなかったことがバレるだろう。

ちょっと顔だけ出すか・・・
そんな気持ちで、車を居酒屋へと走らせた。



店のドアを開けた途端、酔っ払っている連中の騒ぎ声が店中に広がっている。
思わず耳を塞ぎたくなる感じだったが、聞き覚えのある声の方に目をやった。

・・・ケンが、女をヘッドロックしていた。
あいつのことだから、別に珍しい光景でもない。

「――っちょっ・・・痛いってば〜!!・・・――ケンちゃんっ!!」
ヘッドロックされていた女がそう叫びながら、ケンから逃れた。

ふと、その女の顔が見えた。

・・・・・・誰だっけ?
同級生には違いないんだろうけど・・・

隣で笑っているもう一人の女は・・・なんか見覚えある。
あいつに・・・告白されたような記憶もある。

そんな事を考えながら、ドアの前から動こうとしない俺に、店員が声を掛けてきた。
「いらっしゃいませ〜、空いているお席へどうぞ。」
いつまでも、席に行こうとしない俺に気をつかったんだろう。

「あ・・・いえ・・・」
向こうで集まっている客の一人である事を伝えようとした。

「・・・――おいっ!!こっちこっち!!」

ケンが俺に気付き、陽気な笑顔で手招きする。
店員はそれがわかると、「失礼しました〜」と言って、持ち場に戻った。

「やっと来たか〜っ、もう来ないかと思ったよ。」
ケンは立ち上がり、俺の腕を引っ張ってきた。

他のやつらも、今頃現れた俺に注目する。
名前を確認され、なんとなく、余所余所しい返事になってしまった。

「なにが、・・・はい。だよ!ほらっ、突っ立ってないで飲もうぜ!」
ケンがさっき自分が座っていた場所へと連れていく。
そして、さっきヘッドロックされていた女の隣に座るよう促され、目を向けた瞬間・・・

―――っ・・・・・・思いっ切り、顔を背けられた―――

・・・・・・
なんとなく・・・いい感じではないんだけど。
俺・・・なんかした?

そんなことを思ってしまった。
自分で言うのもなんだけど、俺はあまり人に嫌われるような第一印象を持っていない・・・今までそう思ってた。


そして、田口や中田も加わって、話が盛り上がる。
田口の様子を見ると・・・どうやら、長年の片想いは終止符を打ったようだ。
結婚してるとはいえ、やっぱり、中学の時の淡い恋心は消えない・・・そう言ってたな。

その意見・・・わからないでもないか。
ふと、自分が中学の時の恋心を抱いていた年上の相手の事を思い出す。
なんとなく、笑みがこぼれてしまいそうなのを、我慢した。

「・・・ってことは・・・松井君もまだ独身なの?」
話しは、いつしか結婚の話に・・・

北田 弘子の質問に一言で答えた。
「・・・まぁ。」
そんな俺を、ケンはおもしろおかしく話しだした。
「っ・・・ぷぷぷぷっ、こいつ、この間フラれたんだと。」
「おまえな〜・・・」
そう反撃したものの・・・こいつが聞くわけないな。
あっさりと、言い返すのを諦めた。


そして、まだ俺の話のネタが尽きることなく、今度は中学ん時の告白の話になった。

「・・・そういえばさ・・・今思い出したんだけど・・・松井君の告白されてるとこ、あたし見たことあるよ。」
そう言ったのは、田口の隣にいる中田 京子。

「・・・たしか・・・ねぇ、智子も一緒じゃなかった?」
そう言って、俺の隣で黙ったままの女に目をやった。

「―――っ!!・・・え?」

自分に話がふられるとは思ってもみなかったのか、体がビクっと動いた気がした。
いまだに、こいつの名前がわからない。
・・・智子?
上の名前は・・・?

「ほら〜・・・3年の時だっけ?・・・なんかの行事の時で・・・文化祭だったかな?・・・そこははっきりしないんだけど、偶然見合わせたって感じで、二人でキャーキャー言ってたよね?」
そう言いながら、はしゃいでるようにも見える中田に対して、こいつは・・・

「・・・・・・そう・・だったね、そうえいば・・・」

・・・まるで興味もなさそうな空返事。
別に、興味を持って欲しいわけでもないが・・・なんでか、こいつの態度が気になった。

店に入った時、ケンとのやり取りは・・・楽しそうだったよな・・・?
それまでは機嫌が良くて・・・今は悪いのだろうか?
・・・俺が来たから?
・・・中学ん時・・・こいつに何かしたっけ?
告白なんて・・・されてないだろうし・・・そもそも話したことも・・・あったか?

俺にしては珍しく、他人の事を考えていた。
隣で一人、ゴクゴク飲んでいるこいつの事を・・・


だいぶケンも酒の酔いが回ってきたか、言ってる事がおかしくなってきた。
そして、俺の隣に視線を向け、まだ飲み続けているこいつを呼んだ。

「・・・ん?・・・おいっ!こら山田っ!!」

・・・やま・・だ?
・・・山田・・智子・・・か。
そういえば・・・田口が想いを寄せていた、中田 京子の友達だったっけ?
・・・なんとなく・・・覚えてる。
たしか・・・こいつも自転車通学だった。
朝、自転車置き場で会ったことあるな、そういえば・・・

「・・・なに?」

山田は相変わらず、ケンとは違うテンションで返事をする。

「なに?じゃねーよ!・・・おまえさっきから一人でグビグビ飲みやがって〜・・・隣なんだからっ、リョーマに酒を注げよっ・・・ほんっと気が利かねーな〜・・・そんなんだから、結婚もできねーんだよっ・・・」

また、余計な事を・・・っていうか・・・山田もまだ独身か。
この歳になると、家庭を持ってるやつの方があきらかに多いな。

ケンの嫌味にも言い返すことなく、さらに俺から背を向けるように体勢を持っていく。
・・・完全に俺・・・避けられてない?

「・・・待てよ・・・こうしてみると・・・今完全にフリーなのって・・・おまえら二人じゃん!」
ケンはそう言いながら、並んで座っている俺と山田を指で交互に指した。
そして、さらに山田の機嫌をそこねるかのように、追い打ちをかけた。

「・・・おい・・・この際おまえらつきあっちゃえよ〜っ!」

ケンの発言に周りのやつらもはやし立てる。
それはまるで・・・中学生のように。


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