「もういいから、早く行かんか!」 病室の床で、おやじが急かす。 「・・・わかったよ・・・行くから。・・・明日の昼前には迎え来るから。」
家で急ぎの仕事を終え、10年ぶりに開催される同窓会へ出席するため、準備をしていた。 ・・・が、おやじがリビングで胸を押さえて、うずくまっていた。 もちろん放っておくことができず、自分の車で救急病院へと連れて行った。
幸いな事に、安静にしてれば大丈夫という事で、念のため、今日だけ入院することになった。 診察や検査をしていたら、すでに同窓会は始まっている時間で、俺は行くことを諦めていた。 さほど、行きたかったわけでもないし、未練はなかった。
でも、そんな俺に対し、おやじはしつこく行くように言ってくる。 あまりのしつこさに観念し、行くことにした。
何度か、ケンや田口からのメールが入ってるのをチェックする。 今は・・・2次会を居酒屋でやってるみたいだ。
このまま行かないと、きっとあの二人は・・・特にケンはうるさいだろう。 家に来てまで文句言いそうだ。 そうなると、おやじにも行かなかったことがバレるだろう。
ちょっと顔だけ出すか・・・ そんな気持ちで、車を居酒屋へと走らせた。
店のドアを開けた途端、酔っ払っている連中の騒ぎ声が店中に広がっている。 思わず耳を塞ぎたくなる感じだったが、聞き覚えのある声の方に目をやった。
・・・ケンが、女をヘッドロックしていた。 あいつのことだから、別に珍しい光景でもない。
「――っちょっ・・・痛いってば〜!!・・・――ケンちゃんっ!!」 ヘッドロックされていた女がそう叫びながら、ケンから逃れた。
ふと、その女の顔が見えた。
・・・・・・誰だっけ? 同級生には違いないんだろうけど・・・
隣で笑っているもう一人の女は・・・なんか見覚えある。 あいつに・・・告白されたような記憶もある。
そんな事を考えながら、ドアの前から動こうとしない俺に、店員が声を掛けてきた。 「いらっしゃいませ〜、空いているお席へどうぞ。」 いつまでも、席に行こうとしない俺に気をつかったんだろう。
「あ・・・いえ・・・」 向こうで集まっている客の一人である事を伝えようとした。
「・・・――おいっ!!こっちこっち!!」
ケンが俺に気付き、陽気な笑顔で手招きする。 店員はそれがわかると、「失礼しました〜」と言って、持ち場に戻った。
「やっと来たか〜っ、もう来ないかと思ったよ。」 ケンは立ち上がり、俺の腕を引っ張ってきた。
他のやつらも、今頃現れた俺に注目する。 名前を確認され、なんとなく、余所余所しい返事になってしまった。
「なにが、・・・はい。だよ!ほらっ、突っ立ってないで飲もうぜ!」 ケンがさっき自分が座っていた場所へと連れていく。 そして、さっきヘッドロックされていた女の隣に座るよう促され、目を向けた瞬間・・・
―――っ・・・・・・思いっ切り、顔を背けられた―――
・・・・・・ なんとなく・・・いい感じではないんだけど。 俺・・・なんかした?
そんなことを思ってしまった。 自分で言うのもなんだけど、俺はあまり人に嫌われるような第一印象を持っていない・・・今までそう思ってた。
そして、田口や中田も加わって、話が盛り上がる。 田口の様子を見ると・・・どうやら、長年の片想いは終止符を打ったようだ。 結婚してるとはいえ、やっぱり、中学の時の淡い恋心は消えない・・・そう言ってたな。
その意見・・・わからないでもないか。 ふと、自分が中学の時の恋心を抱いていた年上の相手の事を思い出す。 なんとなく、笑みがこぼれてしまいそうなのを、我慢した。
「・・・ってことは・・・松井君もまだ独身なの?」 話しは、いつしか結婚の話に・・・
北田 弘子の質問に一言で答えた。 「・・・まぁ。」 そんな俺を、ケンはおもしろおかしく話しだした。 「っ・・・ぷぷぷぷっ、こいつ、この間フラれたんだと。」 「おまえな〜・・・」 そう反撃したものの・・・こいつが聞くわけないな。 あっさりと、言い返すのを諦めた。
そして、まだ俺の話のネタが尽きることなく、今度は中学ん時の告白の話になった。
「・・・そういえばさ・・・今思い出したんだけど・・・松井君の告白されてるとこ、あたし見たことあるよ。」 そう言ったのは、田口の隣にいる中田 京子。
「・・・たしか・・・ねぇ、智子も一緒じゃなかった?」 そう言って、俺の隣で黙ったままの女に目をやった。
「―――っ!!・・・え?」
自分に話がふられるとは思ってもみなかったのか、体がビクっと動いた気がした。 いまだに、こいつの名前がわからない。 ・・・智子? 上の名前は・・・?
「ほら〜・・・3年の時だっけ?・・・なんかの行事の時で・・・文化祭だったかな?・・・そこははっきりしないんだけど、偶然見合わせたって感じで、二人でキャーキャー言ってたよね?」 そう言いながら、はしゃいでるようにも見える中田に対して、こいつは・・・
「・・・・・・そう・・だったね、そうえいば・・・」
・・・まるで興味もなさそうな空返事。 別に、興味を持って欲しいわけでもないが・・・なんでか、こいつの態度が気になった。
店に入った時、ケンとのやり取りは・・・楽しそうだったよな・・・? それまでは機嫌が良くて・・・今は悪いのだろうか? ・・・俺が来たから? ・・・中学ん時・・・こいつに何かしたっけ? 告白なんて・・・されてないだろうし・・・そもそも話したことも・・・あったか?
俺にしては珍しく、他人の事を考えていた。 隣で一人、ゴクゴク飲んでいるこいつの事を・・・
だいぶケンも酒の酔いが回ってきたか、言ってる事がおかしくなってきた。 そして、俺の隣に視線を向け、まだ飲み続けているこいつを呼んだ。
「・・・ん?・・・おいっ!こら山田っ!!」
・・・やま・・だ? ・・・山田・・智子・・・か。 そういえば・・・田口が想いを寄せていた、中田 京子の友達だったっけ? ・・・なんとなく・・・覚えてる。 たしか・・・こいつも自転車通学だった。 朝、自転車置き場で会ったことあるな、そういえば・・・
「・・・なに?」
山田は相変わらず、ケンとは違うテンションで返事をする。
「なに?じゃねーよ!・・・おまえさっきから一人でグビグビ飲みやがって〜・・・隣なんだからっ、リョーマに酒を注げよっ・・・ほんっと気が利かねーな〜・・・そんなんだから、結婚もできねーんだよっ・・・」
また、余計な事を・・・っていうか・・・山田もまだ独身か。 この歳になると、家庭を持ってるやつの方があきらかに多いな。
ケンの嫌味にも言い返すことなく、さらに俺から背を向けるように体勢を持っていく。 ・・・完全に俺・・・避けられてない?
「・・・待てよ・・・こうしてみると・・・今完全にフリーなのって・・・おまえら二人じゃん!」 ケンはそう言いながら、並んで座っている俺と山田を指で交互に指した。 そして、さらに山田の機嫌をそこねるかのように、追い打ちをかけた。
「・・・おい・・・この際おまえらつきあっちゃえよ〜っ!」
ケンの発言に周りのやつらもはやし立てる。 それはまるで・・・中学生のように。
|
|