20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ
 ようこそゲストさん トップページへ ご利用方法 Q&A 操作マニュアル パスワードを忘れた
 ■ 目次へ

作品名:あの頃へ 作者:こまち

第109回   109
大人のあたしが・・・こんなに走ったのは何年振りだろう?

途中ブーツをちゃんと履き直し、走り続けた。
夜中の静かな住宅街を・・・込み入った道のりも・・・すんなりと抜けれて・・・

そして、大通りまで出てくると、道沿いにあるコンビニを発見した。
夢の中ではなかった・・・いや、昔はまだできてなかったコンビニだ。
そこに入り、奥のお手洗いへと向かう。
洗面所の鏡の前で立ち尽くす・・・

涙は止まっていた。
それにしても・・・ひどい顔。
化粧はとっくに崩れていたんだろう。
泣きはらした目が、さらにひどい表情をかもし出している。

携帯用の化粧落としのウエットティッシュで、残りの化粧を拭き取る・・・そして、軽くファンデーションだけ塗り直した。

手洗いからでて、飲み物を購入・・・そして、店内で飲食できるコーナーへと向かった。

椅子に腰掛け、買った紅茶を一口飲んだ・・・
なにげに、その缶を眺める。

・・・・・・紅茶・・・っ
そして・・・さっき‘‘山田‘‘って・・・呼ばれたこと・・・っ
・・・‘‘あんた‘‘って・・・言われたこと・・・っ

・・・何をしてても・・・考えてても・・・ちょっとしたことで、すぐに、思い出してしまう。

いくら、打ち消そうとしても・・・あの夢のことが・・・出来事がっ・・・ほんとに鮮明に残ってて・・・っ!

だから・・・ついつい出てしまう感情がある。



あたしは・・・松井君のことが・・・・・・好きなんだ―――



ばかみたい・・・夢の中で恋した相手を、現実でも好きだと思ってしまうなんて・・・

さっきのやり取りを後悔した。
松井君に変に思われたのはしかたがない。
あたしの中で、彼が言ってくる事がわかる気がして・・・でも、実際に思ってたことと同じになってることが・・・だんだん怖くなった。

夢と現実の境目がわからなくなりそうで・・・っ
彼との夢での思い出が・・・こうして蘇ってきて・・・っ
また・・・どうしようもないくらい好きになってしまいそうで・・・っ

ただ紅茶を飲んでるだけなのに、松井君を思い出してしまう。

何を飲むか聞かれて・・・お茶って言ったのを、紅茶って言い換えてた。
ムキになるあたしに・・・いつの間にか彼もムキになって言い合いしてた。
いつも焦ってるあたしに対して・・・おもしろがるように冷静に反応を返してた。
普段素っ気なくても・・・ふと優しい笑顔を見せてくれた。
あたしは・・・そんな、松井君の事が・・・好きで好きで・・・しかたがなかった―――

再び、あたしの頬には涙がつたっていた。



それから数時間、コンビニで過ごし、朝方になってようやくつかまったタクシーで家路に着いた。
コンビニから外に出た時、肌寒さを感じ・・・そこで、上着のロングカーディガンを彼の家に忘れてきたことに気付いた。

・・・・・・あれ・・・気にいってたのに。
そんなことを思ってしまった。



そして、波乱の同窓会から一週間後の日曜日―――

きょんちゃんと会う約束をしていた。
時間が、はっきりしないから待ち合わせができないという事で、あたしの家に直接会いに来てくれた。
どこか外で会うわけじゃなかったから、化粧は身だしなみ程度で、長Tシャツにジーパンと・・・家着の恰好でいた。

「・・・これなんだけど・・・」
あたしは以前きょんちゃんから預かった茶封筒を差し出した。
「・・・どう?・・・やっぱり、無理?」
きょんちゃんは、これだけ返事が遅れたあたしに、諦めた感じになっていた。

「・・・・・・紹介・・・してもらえるかな?」

「えっ・・・ってことは、引き受けてくれるの!?」

コクン・・・と頷いた。

「ほんとに!?・・・ありがとう!きっと先生も喜ぶよ。・・・あ〜・・・智子の連絡先教えてもいい?それか・・・智子から連絡してもらってもいいし。もちろん先にあたしから言っとくから。」
「・・・うん、こっちこそ、ありがと。」


迷ってた・・・保育士の件。

同窓会の時、まどかに背中を押された感じで・・・
もう一度、頑張ってみようと思えた。
長年のブランクがあるから不安がないとは言えない・・・というか、不安だらけだ。

でも・・・せっかくのチャンスを、きっかけを・・・今のあたしは無駄にしたくなかった。
後には戻れないけど・・・先に向かっていこうって・・・そう思えたんだ。

このことを前日に、母にも相談してた。
もちろん母の答えはやるべきだっ、てことだった。
そのあとに、あたしはあの質問もう一度してみた。

「ねぇ、お母さん・・・・・・人生・・・やり直したい?」
「へ?・・・なにそれ?」
「今まで生きてきて・・・後悔することってあったでしょ?」
「・・・そうねぇ〜・・・数え切れないほどあるんじゃない?」
「そのことを・・・やり直したいって・・・思う?」
「・・・そうねぇ〜・・・・・・やり直したくは・・・ないかな?」
「・・・どうして?」
「どうしてって・・・そりゃあ、やり直せるもんだったら、やり直したいけど・・・・・・でも、今の現実を失いたくないから。」
「・・・・・・」
「過去の嫌なことや、後悔してしまうことがあったからこそ・・・こうやって、今の生活があるんだって・・・そう思うわ。」

夢の中でのあたしは、なにも言えなかった。
でも今は・・・

「・・・あたしもっ・・・お母さんと同じ。まだまだ先が長いんだから、前見ていかなくちゃ・・・だよね。」
母とあたしは笑った―――



きょんちゃんに、この間話せなかった美樹の話をし、今度家に遊びに行く約束をした。
すごい喜んでた・・・そして、申し訳なさそうな表情もしていた。
きっと・・・長年つかえていたことが、今度取れるだろう。

この後予定が入っているとのことで、玄関の外まで見送った。
車に乗り込み、エンジンをかける。

「・・・あっ・・・そういえば・・・」
きょんちゃんは思い出したかのように、ニヤニヤしてきた。
「・・・?」
「・・・あの夜、どうだったの?」
「えっ・・・――!!・・・なに・・が?」

思い出したくもないことを・・・っ
あえて、とぼけてみた。

「またまた〜っ、松井君に送ってもらったでしょ?智子完全に潰れててさ〜・・・気付いたのいつ?どこ!?」
きょんちゃんは興味津々に聞いてくる。
「・・・あのね〜、きょんちゃんおもしろがって・・・―――っ!!」

ふと、視界に車が入って・・・降りてきた人物を見て・・・固まってしまった―――

「・・・?どうしたの?・・・――!!」
言葉が詰まったあたしを不思議に思い、きょんちゃんからもその相手が視界に入ったみたいだ。

「・・・・・・あ・・・じゃあ、あたしはこれで・・・また連絡するね。」

きょんちゃんは急いでハンドブレーキを降ろし、アクセルを踏んだ。
見送るのを忘れてしまったあたしは・・・俯くしかなかった。


そんなあたしに・・・・・・松井君は近付いてきた。


「・・・いきなり来て・・・ごめん・・・これ、忘れてたから・・・」

そう言いながら、紙袋を差し出した。
素直にそれを受け取り、中身が見える。


・・・ロングカーディガンだ。


「・・・住所・・・卒業アルバムの最後の方に載ってたから・・・それを頼りに・・・」

「・・・・・・ありがと。」

「・・・・・・」
「・・・・・・」

二度と・・・会うことはないと思っていたのに・・・
まさか、こんなに早く再会するとは・・・心の準備も何も、あったもんじゃない。

しばしの沈黙・・・破ったのは・・・彼だった――



「あのさ・・・ちょっと・・・時間いい?」



「―――っ・・・え?」



「・・・・・・せっかく・・・天気いいし・・・ドライブでも、どう?」



「―――っ・・・・・・うん。」



カバンと上着を持って・・・そのままの家着の恰好で、松井君の車に乗った。


← 前の回  次の回 → ■ 目次

■ 20代から中高年のための小説投稿 & レビューコミュニティ トップページ
アクセス: 19737