大人のあたしが・・・こんなに走ったのは何年振りだろう?
途中ブーツをちゃんと履き直し、走り続けた。 夜中の静かな住宅街を・・・込み入った道のりも・・・すんなりと抜けれて・・・
そして、大通りまで出てくると、道沿いにあるコンビニを発見した。 夢の中ではなかった・・・いや、昔はまだできてなかったコンビニだ。 そこに入り、奥のお手洗いへと向かう。 洗面所の鏡の前で立ち尽くす・・・
涙は止まっていた。 それにしても・・・ひどい顔。 化粧はとっくに崩れていたんだろう。 泣きはらした目が、さらにひどい表情をかもし出している。
携帯用の化粧落としのウエットティッシュで、残りの化粧を拭き取る・・・そして、軽くファンデーションだけ塗り直した。
手洗いからでて、飲み物を購入・・・そして、店内で飲食できるコーナーへと向かった。
椅子に腰掛け、買った紅茶を一口飲んだ・・・ なにげに、その缶を眺める。
・・・・・・紅茶・・・っ そして・・・さっき‘‘山田‘‘って・・・呼ばれたこと・・・っ ・・・‘‘あんた‘‘って・・・言われたこと・・・っ
・・・何をしてても・・・考えてても・・・ちょっとしたことで、すぐに、思い出してしまう。
いくら、打ち消そうとしても・・・あの夢のことが・・・出来事がっ・・・ほんとに鮮明に残ってて・・・っ!
だから・・・ついつい出てしまう感情がある。
あたしは・・・松井君のことが・・・・・・好きなんだ―――
ばかみたい・・・夢の中で恋した相手を、現実でも好きだと思ってしまうなんて・・・
さっきのやり取りを後悔した。 松井君に変に思われたのはしかたがない。 あたしの中で、彼が言ってくる事がわかる気がして・・・でも、実際に思ってたことと同じになってることが・・・だんだん怖くなった。
夢と現実の境目がわからなくなりそうで・・・っ 彼との夢での思い出が・・・こうして蘇ってきて・・・っ また・・・どうしようもないくらい好きになってしまいそうで・・・っ
ただ紅茶を飲んでるだけなのに、松井君を思い出してしまう。
何を飲むか聞かれて・・・お茶って言ったのを、紅茶って言い換えてた。 ムキになるあたしに・・・いつの間にか彼もムキになって言い合いしてた。 いつも焦ってるあたしに対して・・・おもしろがるように冷静に反応を返してた。 普段素っ気なくても・・・ふと優しい笑顔を見せてくれた。 あたしは・・・そんな、松井君の事が・・・好きで好きで・・・しかたがなかった―――
再び、あたしの頬には涙がつたっていた。
それから数時間、コンビニで過ごし、朝方になってようやくつかまったタクシーで家路に着いた。 コンビニから外に出た時、肌寒さを感じ・・・そこで、上着のロングカーディガンを彼の家に忘れてきたことに気付いた。
・・・・・・あれ・・・気にいってたのに。 そんなことを思ってしまった。
そして、波乱の同窓会から一週間後の日曜日―――
きょんちゃんと会う約束をしていた。 時間が、はっきりしないから待ち合わせができないという事で、あたしの家に直接会いに来てくれた。 どこか外で会うわけじゃなかったから、化粧は身だしなみ程度で、長Tシャツにジーパンと・・・家着の恰好でいた。
「・・・これなんだけど・・・」 あたしは以前きょんちゃんから預かった茶封筒を差し出した。 「・・・どう?・・・やっぱり、無理?」 きょんちゃんは、これだけ返事が遅れたあたしに、諦めた感じになっていた。
「・・・・・・紹介・・・してもらえるかな?」
「えっ・・・ってことは、引き受けてくれるの!?」
コクン・・・と頷いた。
「ほんとに!?・・・ありがとう!きっと先生も喜ぶよ。・・・あ〜・・・智子の連絡先教えてもいい?それか・・・智子から連絡してもらってもいいし。もちろん先にあたしから言っとくから。」 「・・・うん、こっちこそ、ありがと。」
迷ってた・・・保育士の件。
同窓会の時、まどかに背中を押された感じで・・・ もう一度、頑張ってみようと思えた。 長年のブランクがあるから不安がないとは言えない・・・というか、不安だらけだ。
でも・・・せっかくのチャンスを、きっかけを・・・今のあたしは無駄にしたくなかった。 後には戻れないけど・・・先に向かっていこうって・・・そう思えたんだ。
このことを前日に、母にも相談してた。 もちろん母の答えはやるべきだっ、てことだった。 そのあとに、あたしはあの質問もう一度してみた。
「ねぇ、お母さん・・・・・・人生・・・やり直したい?」 「へ?・・・なにそれ?」 「今まで生きてきて・・・後悔することってあったでしょ?」 「・・・そうねぇ〜・・・数え切れないほどあるんじゃない?」 「そのことを・・・やり直したいって・・・思う?」 「・・・そうねぇ〜・・・・・・やり直したくは・・・ないかな?」 「・・・どうして?」 「どうしてって・・・そりゃあ、やり直せるもんだったら、やり直したいけど・・・・・・でも、今の現実を失いたくないから。」 「・・・・・・」 「過去の嫌なことや、後悔してしまうことがあったからこそ・・・こうやって、今の生活があるんだって・・・そう思うわ。」
夢の中でのあたしは、なにも言えなかった。 でも今は・・・
「・・・あたしもっ・・・お母さんと同じ。まだまだ先が長いんだから、前見ていかなくちゃ・・・だよね。」 母とあたしは笑った―――
きょんちゃんに、この間話せなかった美樹の話をし、今度家に遊びに行く約束をした。 すごい喜んでた・・・そして、申し訳なさそうな表情もしていた。 きっと・・・長年つかえていたことが、今度取れるだろう。
この後予定が入っているとのことで、玄関の外まで見送った。 車に乗り込み、エンジンをかける。
「・・・あっ・・・そういえば・・・」 きょんちゃんは思い出したかのように、ニヤニヤしてきた。 「・・・?」 「・・・あの夜、どうだったの?」 「えっ・・・――!!・・・なに・・が?」
思い出したくもないことを・・・っ あえて、とぼけてみた。
「またまた〜っ、松井君に送ってもらったでしょ?智子完全に潰れててさ〜・・・気付いたのいつ?どこ!?」 きょんちゃんは興味津々に聞いてくる。 「・・・あのね〜、きょんちゃんおもしろがって・・・―――っ!!」
ふと、視界に車が入って・・・降りてきた人物を見て・・・固まってしまった―――
「・・・?どうしたの?・・・――!!」 言葉が詰まったあたしを不思議に思い、きょんちゃんからもその相手が視界に入ったみたいだ。
「・・・・・・あ・・・じゃあ、あたしはこれで・・・また連絡するね。」
きょんちゃんは急いでハンドブレーキを降ろし、アクセルを踏んだ。 見送るのを忘れてしまったあたしは・・・俯くしかなかった。
そんなあたしに・・・・・・松井君は近付いてきた。
「・・・いきなり来て・・・ごめん・・・これ、忘れてたから・・・」
そう言いながら、紙袋を差し出した。 素直にそれを受け取り、中身が見える。
・・・ロングカーディガンだ。
「・・・住所・・・卒業アルバムの最後の方に載ってたから・・・それを頼りに・・・」
「・・・・・・ありがと。」
「・・・・・・」 「・・・・・・」
二度と・・・会うことはないと思っていたのに・・・ まさか、こんなに早く再会するとは・・・心の準備も何も、あったもんじゃない。
しばしの沈黙・・・破ったのは・・・彼だった――
「あのさ・・・ちょっと・・・時間いい?」
「―――っ・・・え?」
「・・・・・・せっかく・・・天気いいし・・・ドライブでも、どう?」
「―――っ・・・・・・うん。」
カバンと上着を持って・・・そのままの家着の恰好で、松井君の車に乗った。
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