どうすることもできず立っていたが・・・とりあえず、荷物を置いて邪魔にならないよう、隅っこの方に腰を下ろした。
考えてみれば・・・松井君ずっと起きてたのか。 ・・・こんな時間まで。
「・・・・・・仕事?」 「・・・えっ?・・・あぁ・・・うん、まぁ・・・雑用に近いけどね。」 なんとなく気になり、聞いてみたけど・・・松井君は笑いながら答えてくれた。 「・・・・・・忙しい時に・・・ほんとごめんなさい・・・」 こんな時にお邪魔してるなんて・・・迷惑もいいところだ。
「別に気にしなくていいよ・・・」 松井君はパソコンの画面を見ながら、話を続けた。 「ほんとはさ、終わってたはずなんだけど・・・おやじが、急遽病院に行ったのもあるし、そのまま2次会に出てたしで、相手から訂正指摘されてたメール気付いたの、家に着いてからだし・・・相手は待ってるからすぐ送れっていうし・・・ったく、時間も時間だし、明日でもいいじゃねーか、って思うんだけどね。」 話しながらでも、パソコンと資料を交互に見合わせ、難しそうな顔をする。
・・・そっか・・・松井君のお父さん、今病院だった。
「・・・大丈夫なの?・・・お父さん。」 居酒屋でもそんな話はしていたが、もう一度聞いてみた。 「うん・・・狭心症でも、軽少みたいで・・・まぁ、ほっとくと良くはないんだろうけどね。」 「・・・そっか・・・なんか・・・今日一日・・・大変だったね。」 「・・・え?」 「だって・・・お父さんの事だって・・・松井君一人で面倒看てたんでしょ?それなのに、2次会に出席するわ、あたしがここにいるわ、今の終わって、またあたしを送るって・・・ほんっと・・・ごめんなさい。」 もう一度謝るあたしに、松井君は手の動きを止めた。
「・・・・・・俺が一人でって・・・母親いないって、わかった?」
―――っ!! しまった・・・そんなこと知ってるなんて・・・覚えてたとしても・・・ちょっと・・・いや、かなり変じゃんっ! ・・・まずいっ・・・まずい〜〜っ・・・――っ
「・・・――っさっき・・・仏壇見えたから・・・もう、仏壇置いてあるなんて・・・そうかなぁって・・・勝手に思い込んでた・・・ごめん・・・」
苦し紛れの言い訳をする。
松井君は、やっぱり笑いながら反応を示した。 「・・・あぁ〜・・・そういう事ね。」 そして、またパソコンを操作する。
カタカタと、パソコンのキーを押す音が響く・・・ ・・・・・・ ・・・・・・
そしてあたしは・・・何を思ったか、とんでもないことを言ってしまった。
「・・・ねぇ・・・お線香・・・あげてもいい?」
「・・・・・・え?」
いきなり、10数年ぶりに会った同級生に・・・しかも話すのは今日が初めてともいえる相手にそんなことを言われて、何を言ってるんだ?・・・普通ならそう思うだろう。
「・・・・・・あぁ、いいよ。」
でも・・・そんなあたしに松井君は、快く受け入れてくれた。
和室の電気を付けてもらい、ろうそくに火を灯す・・・ 線香を供え、手を合わせる・・・ そして・・・仏壇に飾られてある写真に目をやる・・・
・・・思った通り。 ・・・そこの写っている写真の人を・・・あたしは覚えてる。
20代前半に見えて、すごい綺麗な人で・・・目元が松井君にそっくりで。
「・・・俺が3歳の時に亡くなったんだ。」 松井君は、あたしが聞いたわけでもないのに話してくれた。
「・・・そっか・・・早いね・・・」
あたしは・・・受け答えしながら・・・思い返していた。
「・・・元々体弱かったらしくてさ・・・俺産むのも一苦労したみたい。」
「・・・そうなんだ・・・」
・・・・・・試してみようか・・・
「・・・・・・っお母さんの事・・・覚えてる?」
「え?・・・・・・まぁ・・・なんとなくだけど・・・覚えてる部分もある。」
「・・・・・・」
「ほとんど・・・抱っこばっかされてた気がする・・・顔とか、声とかはさすがに覚えてないけど・・・・・・でも、存在自体は・・・覚えてるかな・・・」
―――っ・・・
「・・・・・・そっか・・・・・・かわいがられて・・たんだね・・・一緒にいた時間・・・短くても・・・そう思えるってことは・・・」
「・・・・・・あんたって・・・変わってんね。」
――――――っっ!!
「・・・今まで母親いないこと言うと、大抵の人は、かわいそうとか、大変だったねとか、労いの言葉かけんのに。」
―――っ・・・だめだっ・・・もうっ・・・限界っ・・・!
あたしは、立ち上がってリビングへと戻った。
「――っ・・・山田?」
そんなあたしを松井君は変に思っただろう。
でも・・・あたしは、自分で自分を追いつめ過ぎてっ・・・耐えれなくなった。
そしてすぐさま、置いていた荷物を取り、玄関へと向かう。
「――っ!?・・・おいっ・・・待てって!!」 あまりにも訳がわからなく、すばやい行動をとるあたしに、松井君は呼び止める。
「――っ・・・山田っ!!」 ブーツを履いていたあたしの腕を・・・松井君は掴んだ。
―――っ!!・・・・・・っ
そのことで、あたしの動きは止まった。
「・・・なんだよ・・・急にどうし・・・――っ!!」
松井君は・・・驚いてた。 無理もない・・・
あたしは・・・泣いていた。 ポロポロと・・・次から次へと・・・涙が止まらなかった。
「――っ・・・どう・・した?」 突然の事で、松井君はさすがにうろたえている。
「・・・・・・っ」
「・・・・・・山田?」
もう一度、名前を呼ばれる・・・
「・・・っ――ごめんっ・・・やっぱっ・・・一人で、帰れるからっ――」 そう言うと、思い切り腕を振り払い、まだブーツのファスナーを閉めていない状態で、玄関を飛び出した。 中からもう一度、あたしの名前を呼んでたのが聞こえたけど・・・振り返らず、走って行った―――
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