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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第107回   107

「・・・最初に言っとくけど・・・俺なんもしてないからね。」

固まってるあたしに対し、松井君はドアの柱にもたれかかり言ってきた。

「まぁ、恰好からしてわかるだろうけど・・・同窓会の2次会だったのは覚えてる?」

その質問には、ロボットのような動きでコクンっ・・・と頷くことができた。

「気付いたら、横に倒れてきて・・・一瞬ヤバいかとも思ったけど、気持ち良さそうに寝息立ててたからさ・・・友達とかも何度も起こしたんだけど、ピクリとも起きなくて・・・」
続けて話す松井君に対して・・・恥ずかしい醜態の一部始終を見せてしまったか思うと、まともに顔が見れなくなり、自然と俯いてしまった。

「中田と仲良かったから、一緒にタクシーで帰るかと思いきや、用事があるから俺に任すって、とっとと先帰って・・・」

―――っ!

きょんちゃんの言動にふと何かの企みを感じた。
前に会った時・・・チャンスかも・・・なんてこと言ってたし・・・

その事を松井君に言える訳もなく、黙ったまま続きを聞いていた。

「とりあえず、あのメンバーでしらふなのって俺くらいだったし・・・家さえわかれば送れるって思ってたけど・・・誰もまともにわかんなくて・・・まぁ、みんなかなり酔ってたしね。」

誰もって・・・誰か一人くらいは、わかる人いなかったわけ!?
・・・って・・・自分が一番悪いんじゃん・・・

「それで、放っておくわけにもいかなかったし・・・ケンも潰れてて、どっちみち送んなくちゃいけなかったし・・・あいつの家はわかるから、置いてきたけど。・・・それから・・・俺んち来客用の布団ってないからさ・・・おやじのよりはまだマシかと思って、ここに寝かせてた。」
一通りの説明を受け・・・あたしは口を開く。

「・・・・・・ごめ・・ん・・なさい・・・迷惑かけて・・・」

まずはこの言葉しかでてこなかった。

「・・・クスクス・・・かなり反省してるみたいだね・・・いいよ、別に。」

―――っ・・・
・・・不覚にも・・・こんな事態なのに・・・
松井君の笑った顔に・・・キュン・・・としてしまった。

「水飲む?のど渇いてるでしょ。」
松井君はそう言うと、リビングの方へと向かった。
あたしは布団をサッと整え、自分の荷物と上着を持ち部屋を出た。


リビングに入り・・・息が止まるかと思った―――

さっきもそうだけど・・・やっぱり・・・あたしはここを知っている。
テーブルの上には、パソコンと資料らしきものが散らばっているけど・・・

必要最低限の家具しか置いてないリビング。
奥の和室には、こちらの部屋の明かりのせいで、はっきりはしないが仏壇らしきものが・・・。
そして、本棚の下の段に・・・何冊かのアルバムがあった。

・・・・・・グルグルと・・・何度か味わったことのある目眩みたいなもんがやってきた。
思わず手を頭に当て、冷静さを保とうとする。

「・・・大丈夫?」

そんなあたしの様子を、松井君は違うように捉えたんだろう。
「頭痛いんだろ?薬飲むか?」
そう言いながら、台所にある置き薬箱を探る。

「あっ、大丈夫・・・気にしないで・・・」

これ以上迷惑を掛けられるわけもなく断ろうとするが、すでに手に取った薬と、水の入ったコップを差し出された。

「ほら、飲んだら少しは楽になるんじゃない?」
「・・・・・・ありがと。」

実際に、頭が痛いのもあったし・・・断ることができなかった。

・・・違ってた。
夢の中での松井君と、今ここにいる彼が・・・当たり前なんだけど違ってた。
今の彼は・・・

よく話してくれる。
よく気遣ってくれる。
そして・・・よく笑顔を見せてくれる。

そんな彼の優しさに、すんなり甘えてしまった。


薬を飲み終え、荷物を持つ。
「あのっ・・・ほんと、ありがとう・・・あたし、帰るね。」
いつまでも長居をしているわけにもいかず、玄関に向かおうとした。
・・・が。

「・・・どうやって帰んの?」
松井君は冷静に聞いてきた。
「・・・え・・・どうやってって・・・タクシーでも拾うよ。」
「・・・こんな時間に、いないと思うけど・・・」
「・・・・・・え?」

すぐさま、カバンの中から携帯を取り出す。

―――っ!!
・・・もうすぐ2時になろうという時間・・・もちろん、夜中のだ。
都会でもないこの辺で、夜中に走り回ってるタクシーは確かにいないだろう。

あたし・・・どのくらい寝てたんだ!?
夕方から2次会は始まってたけど・・・居酒屋にいたのが何時までかさえわからない。

呆然と立ち尽くしてるあたしに、松井君はクスクスと笑って・・・
「もう少し待ってて。これ、メール待ってる奴がいてさ・・・あと30分くらいで終わると思うから・・・後で送るよ。」
そう言って、テーブルの上に広がっている資料を手に持った。



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