「・・・最初に言っとくけど・・・俺なんもしてないからね。」
固まってるあたしに対し、松井君はドアの柱にもたれかかり言ってきた。
「まぁ、恰好からしてわかるだろうけど・・・同窓会の2次会だったのは覚えてる?」
その質問には、ロボットのような動きでコクンっ・・・と頷くことができた。
「気付いたら、横に倒れてきて・・・一瞬ヤバいかとも思ったけど、気持ち良さそうに寝息立ててたからさ・・・友達とかも何度も起こしたんだけど、ピクリとも起きなくて・・・」 続けて話す松井君に対して・・・恥ずかしい醜態の一部始終を見せてしまったか思うと、まともに顔が見れなくなり、自然と俯いてしまった。
「中田と仲良かったから、一緒にタクシーで帰るかと思いきや、用事があるから俺に任すって、とっとと先帰って・・・」
―――っ!
きょんちゃんの言動にふと何かの企みを感じた。 前に会った時・・・チャンスかも・・・なんてこと言ってたし・・・
その事を松井君に言える訳もなく、黙ったまま続きを聞いていた。
「とりあえず、あのメンバーでしらふなのって俺くらいだったし・・・家さえわかれば送れるって思ってたけど・・・誰もまともにわかんなくて・・・まぁ、みんなかなり酔ってたしね。」
誰もって・・・誰か一人くらいは、わかる人いなかったわけ!? ・・・って・・・自分が一番悪いんじゃん・・・
「それで、放っておくわけにもいかなかったし・・・ケンも潰れてて、どっちみち送んなくちゃいけなかったし・・・あいつの家はわかるから、置いてきたけど。・・・それから・・・俺んち来客用の布団ってないからさ・・・おやじのよりはまだマシかと思って、ここに寝かせてた。」 一通りの説明を受け・・・あたしは口を開く。
「・・・・・・ごめ・・ん・・なさい・・・迷惑かけて・・・」
まずはこの言葉しかでてこなかった。
「・・・クスクス・・・かなり反省してるみたいだね・・・いいよ、別に。」
―――っ・・・ ・・・不覚にも・・・こんな事態なのに・・・ 松井君の笑った顔に・・・キュン・・・としてしまった。
「水飲む?のど渇いてるでしょ。」 松井君はそう言うと、リビングの方へと向かった。 あたしは布団をサッと整え、自分の荷物と上着を持ち部屋を出た。
リビングに入り・・・息が止まるかと思った―――
さっきもそうだけど・・・やっぱり・・・あたしはここを知っている。 テーブルの上には、パソコンと資料らしきものが散らばっているけど・・・
必要最低限の家具しか置いてないリビング。 奥の和室には、こちらの部屋の明かりのせいで、はっきりはしないが仏壇らしきものが・・・。 そして、本棚の下の段に・・・何冊かのアルバムがあった。
・・・・・・グルグルと・・・何度か味わったことのある目眩みたいなもんがやってきた。 思わず手を頭に当て、冷静さを保とうとする。
「・・・大丈夫?」
そんなあたしの様子を、松井君は違うように捉えたんだろう。 「頭痛いんだろ?薬飲むか?」 そう言いながら、台所にある置き薬箱を探る。
「あっ、大丈夫・・・気にしないで・・・」
これ以上迷惑を掛けられるわけもなく断ろうとするが、すでに手に取った薬と、水の入ったコップを差し出された。
「ほら、飲んだら少しは楽になるんじゃない?」 「・・・・・・ありがと。」
実際に、頭が痛いのもあったし・・・断ることができなかった。
・・・違ってた。 夢の中での松井君と、今ここにいる彼が・・・当たり前なんだけど違ってた。 今の彼は・・・
よく話してくれる。 よく気遣ってくれる。 そして・・・よく笑顔を見せてくれる。
そんな彼の優しさに、すんなり甘えてしまった。
薬を飲み終え、荷物を持つ。 「あのっ・・・ほんと、ありがとう・・・あたし、帰るね。」 いつまでも長居をしているわけにもいかず、玄関に向かおうとした。 ・・・が。
「・・・どうやって帰んの?」 松井君は冷静に聞いてきた。 「・・・え・・・どうやってって・・・タクシーでも拾うよ。」 「・・・こんな時間に、いないと思うけど・・・」 「・・・・・・え?」
すぐさま、カバンの中から携帯を取り出す。
―――っ!! ・・・もうすぐ2時になろうという時間・・・もちろん、夜中のだ。 都会でもないこの辺で、夜中に走り回ってるタクシーは確かにいないだろう。
あたし・・・どのくらい寝てたんだ!? 夕方から2次会は始まってたけど・・・居酒屋にいたのが何時までかさえわからない。
呆然と立ち尽くしてるあたしに、松井君はクスクスと笑って・・・ 「もう少し待ってて。これ、メール待ってる奴がいてさ・・・あと30分くらいで終わると思うから・・・後で送るよ。」 そう言って、テーブルの上に広がっている資料を手に持った。
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