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作品名:あの頃へ 作者:こまち

第101回   101

「どう!?飲んでる?」
まどかがビール瓶を片手に持ってきた。
流れ的に、お酌をされるとわかりコップを出す。

「・・・そういうまどかは絶好調だね。」
顔を赤らめたまどかに対し、あたしもお酌を返した。
「まぁね〜、こういう時でもない限り、酔っ払えないもんっ!」
「クスクス・・・そっか。」
育児の毎日だから、そうだろうな。

「・・・あ、そうだ・・・いちかちゃん・・・だったっけ?一番上の子。」
「うん、そうだよ。」
「もういくつだ?小学・・・」
「4月から、5年だよ。」
「えっ!?・・・もうそんなになるの!?」
「そうだよ〜、早いよね〜・・・って、親が言ってどうすんのよね?」
「ううん・・・早いわ〜・・・そっか〜、5年生か〜・・・」
「・・・智子に、世話になってたのが、3歳4歳の時だもんね・・・あれから6年経ってんだよ・・・」

―――っ・・・6年・・・

「・・・ねぇ、智子?」
さっきまでの、おちゃらけた口調ではなかった。
「・・・保育士・・・もうやんないの?」

―――っ!!・・・

「いちかさ、今でもたまに智子のこと話してくれるよ?」
「え・・・?」
「・・・智子先生辞めないで欲しかったって・・・」
「――っ・・・」
「小さい時の記憶って・・・いつまでも残ってるもんなんだね。三つ子の魂百まで・・・てやつ?」


まどかの上の子が保育園に通ってた時、あたしはそこの保育士として勤めていた。
保育士として4年目で、ベテランとまではいかないが、それなりに経験を積んでいて、自分としても、ちゃんと仕事をこなしているつもりだった。

いちかちゃんの担任としてやっていたが、一つ上の年長児で、いつも問題を起こす男の子がいた。
ある時は、人の物を横取りしたり、ある時は、暴力をふるったり・・・まぁ、どこにでもいるといえばいるんだろうけど。

そして、ちょっとした事件が起きた。
ある朝、いちかちゃんの上履きがなくなっていた。
そして探すと簡単な所に置いてあり、問題としてなかったが・・・それは毎日続いた。
毎朝、いちかちゃんだけの上履きが隠されていたのだ。
そしてその隠し場所は徐々にエスカレートし最終的には、男子トイレの便器の中へ入れられていた。
いちかちゃんは、ずっと我慢していたが、その時ばかりは大泣きをした。
まどかの家に謝罪をしたのはもちろん、さすがに先生達の間だけでのことではなくなり、園児たちにも話を切り出した。

すると何人かの園児が、問題ばかり起こしていた男の子が、隠しているのを見たと言ってきた。
それを聞いたあたしは、保育士としてあるまじき行為をとってしまった。

その男の子を、みんなの前で怒ってしまった。
それは、この子がやったんだいう事を、みんなの前でバラしたようなもんだった。

次の日、事態は急変した。
その子の母親が、園に乗り込んできたんだ。

それが、教育者としてのやり方か?
みんなの前で犯人扱いされて、この子の気持ちはどうなるのか?
そもそも、この子がこんな行動をとってしまったのは、あたしに責任があると・・・。

その子から見て、いちかちゃんに対し、特別扱いをしているように見えたと。
いちかちゃんをひいきしていると。

それを聞いてあたしは・・・何も言えなかった。
そんなつもりじゃなくても、ついつい友人の子供であるいちかちゃんを、他の子より気づかっていたんだ。

たった5歳の子に、知らず知らず、保育士失格な姿を見せていたんだ。

その子の親もかなりヒートアップしていて、収拾がつかなくなりそうだったので、あたしは辞職届を出した。
園側も、それを受理した。

その事があって、保育士という職業から遠のいたんだ。


「・・・あの時の子さ・・・この間補導されたんだよ。」
まどかがビールを飲みながら話す。
「えっ?補導!?」
「そ。なんでも万引きの常習犯らしいわ」
「・・・そう・・なんだ・・・」
「5年生で常習犯って・・・あたしが思うに・・・結局のところ、教育がなってなかったんじゃない?小さい頃から問題ばっかで・・・それを園や学校ばっかのせいにして・・・」
「・・・・・・」
「・・・智子が・・・辞めることなかったんだよ・・・」
「――っ・・・まどか・・・」
「智子はっ・・・いい先生だったよ?」
まどかの目からは、涙がこぼれてた。
「――えっ!?ちょっと、まどかっ!?こんなことで泣かないでよ〜・・・あっ、もしかして、泣き上戸!?」
「・・・うっ・・・っく・・・違うわよっ・・・ひっく・・・」
まどかは全然泣きやまず、それどころか大泣きしだした。
向こうで飲んでるダンナさんに、助けてもらった。

「もう〜・・・こいつ飲むとこうなんだよ〜。」
ダンナさんは、まどかを会場外へと連れ出した。

・・・やっぱり・・・泣き上戸か。
でも・・・まどかの言葉が、少しうれしかった。


そして、3時間の宴会も終わりに近づいてきた。
会場は元の静けさを完全に失っていて、2次会の話が進められている。
場所と参加する人を確認している。
参加しない人は、徐々に会場外で待っている送迎バスへと向かう。

結局・・・・・・松井君は、来なかったみたい。
なんか、気が抜けてしまった・・・何を期待してたんだか・・・。

ケンちゃんや田口君とも、話していない。
あの頃だって、ほとんど話してないから当たり前なんだけど・・・。

「智子、2次会行く?」
きょんちゃんが楽しそうに聞いてきた。

きょんちゃん、きっと行くんだろうな・・・。

なんとなく、あたしの中で盛り上がりが欠けてきた。
・・・・・・2次会・・・止めとこ。

そう思い席を立ち、きょんちゃんに返事をしようとした。

「・・・あたしは、やめ――っ」

グイッ!

―――っ!?・・・は!?

何故かあたしの腕は挙げられていた。
人の手によって・・・

「はいはいっ、山田と中田も行きま〜すっ!」

そう言って、あたしときょんちゃんの腕を両方の手で挙げていたのは・・・ケンちゃんだった。

「・・・え・・・えっ・・・!?」
一瞬なんのことかわからなかったが、2次会に参加する人を挙手させていたみたい。
あたしらを見て、2次会の幹事がチェックする。

「・・・ちょっと・・・あたしは――っ」
「もちろん行くでしょ!?・・・ほら、中田とは2年ん時同じで、山田とは2年3年と同じクラスだったのに、まともに話したことないだろ?この際つもる話もあるし・・・な?行くぞ!」

・・・・・・この人は・・・ほんとに強引な人だ。
有無を言わせない・・・あの時の、ケンちゃんと同じだ―――


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