「どう!?飲んでる?」 まどかがビール瓶を片手に持ってきた。 流れ的に、お酌をされるとわかりコップを出す。
「・・・そういうまどかは絶好調だね。」 顔を赤らめたまどかに対し、あたしもお酌を返した。 「まぁね〜、こういう時でもない限り、酔っ払えないもんっ!」 「クスクス・・・そっか。」 育児の毎日だから、そうだろうな。
「・・・あ、そうだ・・・いちかちゃん・・・だったっけ?一番上の子。」 「うん、そうだよ。」 「もういくつだ?小学・・・」 「4月から、5年だよ。」 「えっ!?・・・もうそんなになるの!?」 「そうだよ〜、早いよね〜・・・って、親が言ってどうすんのよね?」 「ううん・・・早いわ〜・・・そっか〜、5年生か〜・・・」 「・・・智子に、世話になってたのが、3歳4歳の時だもんね・・・あれから6年経ってんだよ・・・」
―――っ・・・6年・・・
「・・・ねぇ、智子?」 さっきまでの、おちゃらけた口調ではなかった。 「・・・保育士・・・もうやんないの?」
―――っ!!・・・
「いちかさ、今でもたまに智子のこと話してくれるよ?」 「え・・・?」 「・・・智子先生辞めないで欲しかったって・・・」 「――っ・・・」 「小さい時の記憶って・・・いつまでも残ってるもんなんだね。三つ子の魂百まで・・・てやつ?」
まどかの上の子が保育園に通ってた時、あたしはそこの保育士として勤めていた。 保育士として4年目で、ベテランとまではいかないが、それなりに経験を積んでいて、自分としても、ちゃんと仕事をこなしているつもりだった。
いちかちゃんの担任としてやっていたが、一つ上の年長児で、いつも問題を起こす男の子がいた。 ある時は、人の物を横取りしたり、ある時は、暴力をふるったり・・・まぁ、どこにでもいるといえばいるんだろうけど。
そして、ちょっとした事件が起きた。 ある朝、いちかちゃんの上履きがなくなっていた。 そして探すと簡単な所に置いてあり、問題としてなかったが・・・それは毎日続いた。 毎朝、いちかちゃんだけの上履きが隠されていたのだ。 そしてその隠し場所は徐々にエスカレートし最終的には、男子トイレの便器の中へ入れられていた。 いちかちゃんは、ずっと我慢していたが、その時ばかりは大泣きをした。 まどかの家に謝罪をしたのはもちろん、さすがに先生達の間だけでのことではなくなり、園児たちにも話を切り出した。
すると何人かの園児が、問題ばかり起こしていた男の子が、隠しているのを見たと言ってきた。 それを聞いたあたしは、保育士としてあるまじき行為をとってしまった。
その男の子を、みんなの前で怒ってしまった。 それは、この子がやったんだいう事を、みんなの前でバラしたようなもんだった。
次の日、事態は急変した。 その子の母親が、園に乗り込んできたんだ。
それが、教育者としてのやり方か? みんなの前で犯人扱いされて、この子の気持ちはどうなるのか? そもそも、この子がこんな行動をとってしまったのは、あたしに責任があると・・・。
その子から見て、いちかちゃんに対し、特別扱いをしているように見えたと。 いちかちゃんをひいきしていると。
それを聞いてあたしは・・・何も言えなかった。 そんなつもりじゃなくても、ついつい友人の子供であるいちかちゃんを、他の子より気づかっていたんだ。
たった5歳の子に、知らず知らず、保育士失格な姿を見せていたんだ。
その子の親もかなりヒートアップしていて、収拾がつかなくなりそうだったので、あたしは辞職届を出した。 園側も、それを受理した。
その事があって、保育士という職業から遠のいたんだ。
「・・・あの時の子さ・・・この間補導されたんだよ。」 まどかがビールを飲みながら話す。 「えっ?補導!?」 「そ。なんでも万引きの常習犯らしいわ」 「・・・そう・・なんだ・・・」 「5年生で常習犯って・・・あたしが思うに・・・結局のところ、教育がなってなかったんじゃない?小さい頃から問題ばっかで・・・それを園や学校ばっかのせいにして・・・」 「・・・・・・」 「・・・智子が・・・辞めることなかったんだよ・・・」 「――っ・・・まどか・・・」 「智子はっ・・・いい先生だったよ?」 まどかの目からは、涙がこぼれてた。 「――えっ!?ちょっと、まどかっ!?こんなことで泣かないでよ〜・・・あっ、もしかして、泣き上戸!?」 「・・・うっ・・・っく・・・違うわよっ・・・ひっく・・・」 まどかは全然泣きやまず、それどころか大泣きしだした。 向こうで飲んでるダンナさんに、助けてもらった。
「もう〜・・・こいつ飲むとこうなんだよ〜。」 ダンナさんは、まどかを会場外へと連れ出した。
・・・やっぱり・・・泣き上戸か。 でも・・・まどかの言葉が、少しうれしかった。
そして、3時間の宴会も終わりに近づいてきた。 会場は元の静けさを完全に失っていて、2次会の話が進められている。 場所と参加する人を確認している。 参加しない人は、徐々に会場外で待っている送迎バスへと向かう。
結局・・・・・・松井君は、来なかったみたい。 なんか、気が抜けてしまった・・・何を期待してたんだか・・・。
ケンちゃんや田口君とも、話していない。 あの頃だって、ほとんど話してないから当たり前なんだけど・・・。
「智子、2次会行く?」 きょんちゃんが楽しそうに聞いてきた。
きょんちゃん、きっと行くんだろうな・・・。
なんとなく、あたしの中で盛り上がりが欠けてきた。 ・・・・・・2次会・・・止めとこ。
そう思い席を立ち、きょんちゃんに返事をしようとした。
「・・・あたしは、やめ――っ」
グイッ!
―――っ!?・・・は!?
何故かあたしの腕は挙げられていた。 人の手によって・・・
「はいはいっ、山田と中田も行きま〜すっ!」
そう言って、あたしときょんちゃんの腕を両方の手で挙げていたのは・・・ケンちゃんだった。
「・・・え・・・えっ・・・!?」 一瞬なんのことかわからなかったが、2次会に参加する人を挙手させていたみたい。 あたしらを見て、2次会の幹事がチェックする。
「・・・ちょっと・・・あたしは――っ」 「もちろん行くでしょ!?・・・ほら、中田とは2年ん時同じで、山田とは2年3年と同じクラスだったのに、まともに話したことないだろ?この際つもる話もあるし・・・な?行くぞ!」
・・・・・・この人は・・・ほんとに強引な人だ。 有無を言わせない・・・あの時の、ケンちゃんと同じだ―――
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