ビリー、ステファニー、そしてチャド
1
その日、チャドはいつものように早朝五時に目覚め、水を飲み、散歩に出かけた。チャドは早朝の街が大好きだった。 うっすらと明るい静かな街並み……………。 この街並みを、夕方だと考えてみる。 いつもなら帰宅ラッシュの時間。人や車、騒音、排気ガスなどで賑わっている街並み。 それが無い。 不思議な気持ちになる。 宇宙人の襲来に備えて、みんな他の惑星に避難したのか!?それとも、とんでもないウイルスが流行し、人類が滅びたのか!? 何かゾクゾクしてくる。 そんな感じが好きだった。とにかく、そんな大好きな早朝の街を、チャドは走った。嬉しさで舌ベロが口からはみ出してきそうだ。 郵便局を通り過ぎ、消防署の角を曲がり、居酒屋と薬局の間にある細い小道を抜ければいつもの公園に出る。チャドはそこで小休止する。その公園で飲む水がたまらなくうまい!とてもさわやかな気分になる。 チャドは、自分が公園で水を飲んでる姿を想像しながら走った。フと我に返ると舌ベロが口からはみ出ていた。 「いかんいかん。あぁ、でも早く飲みてぇなぁ。」 自然とスピードが上がる。 いつもの通り、郵便局を通り過ぎて消防署の角を曲がった。居酒屋と薬局が見えた。あの間の小道を抜ければ公園だ!チャドはその小道に飛び込んだ。 そして、すっ転んだ。 「いっ...てぇなぁ!何だよ!」 眉間にシワを寄せながら、チャドはサッと立ち上がり振り返った。 この小道は居酒屋と薬局の二つの建物が、父なる太陽の光を遮り、昼間でも薄暗い。チャドは自分の飛び込んできた方向を、目を凝らして見た。ん?地面に何か黒い物体がぼんやり見える。どうやらソレにつまづいたみたい。ゆっくりと、警戒しつつ近づく……。 黒い物体の正体………。 それは死体だった。男の死体だった。死体は横向きで倒れている。死体というものを初めて見たチャドはどうしていいか分からず、とりあえずその場に座った。で、やがて落ち着きを取り戻し、 水! と、まず思った。 「そうだ。俺はまだ水を飲んでなかったぜ。ま、コイツはほっときゃいいや。」 チャドは立ち上がり、目的地の公園に向かおうとした。 が………。 「待てよ…。…ビリー。そうだ!ビリーに見せてやろう!最近刺激に飢えてるってうなってたしな。」 チャドはニンマリとし、ビリーの元へ向かった。 その道の途中、浪人生のロメオに出会った。綿ボコリだらけの帽子に藍色のシャツ。いつものファッションだ。ボーッとしていて、見るからに鈍臭そうな奴。今年で三浪決定のロメオが、母親にガミガミとドヤされているのをよく見かける。こんな奴に言ってもしょうがないよな、と思いつつも、 「よぉ!ロメオ!すぐそこの居酒屋と薬局の間の小道、分かるだろう?そこで俺、死体を見つけたんだ!」 と、ロメオに向かって叫んだ。するとロメオは、(何だコイツ、変な奴だぜ)とでも言っているような顔で、立ち止まる事なくチャドを見つめ、そのまま結局何も言わずに行ってしまった。 「チッ……。やっぱダメだ、アイツ……。」 チャドは気を取り直し、ビリーの家に再び足を向けた。 ビリーの家は、街から二キロ程離れた所にある小高い丘。うん。その小高い丘の上にある古い空き家がそうなんだな。 チャドは、出入り口になっている南側のキッチンの窓から中に入った。何度も出入りしてるから、もちろん家の間取りは頭の中に入ってる。彼は、まるで自分の家かのように、ズカズカと二階にある寝室に向かった。 ソファーで寝ていたビリーは、チャドがドアを開ける音で目を覚ました。それにつられて、隣で寝ていたステファニーも目を覚ましたのだった。 「やぁ!ビリー!お目覚めかい?おっと、ステファニー!これまた朝っぱらからお美しいねぇ!」 チャドはこう挨拶するなり、近くにあった水を飲んだ。 「チャド!どうしたってんだい?こんな朝早く……。」 と、ビリーはゆっくりと起き上がりつつ、全身であくびをした。 「ねぇチャド。今日はおみやげ無いの?チョコレートのかけらとかさぁ。」 と、ステファニーは、自分の真っ白な体を見つめながら言った。 「え?みやげ?あぁ、悪いな。今日は無いんだ。でもな、みやげ話ならあるんだな。とっておきのヤツ!」 「何だい?とっておきのヤツって?」 と、水を飲むためにソファーから飛び降りつつ、ビリーが言った。コレを聞いたチャドはニンマリとし、水を飲んでいるビリーと、相変わらず自分の体にうっとりしているステファニーのちょうど間、ココだよ、ココ。ってトコロまでゆっくりと歩いて行き、喋り始めた。 「俺、いつもみたいにさ、いつものコースを散歩してたワケよ。公園の水が恋しくて、ちょいと急ぎ足になっちまったけどね、ははは。あ!そうそう!ロメオに会ったぜ!途中の道でさぁ。やっぱり冴えないっつうか、パッとしないっつうか、なんともヤツは……。あ、スマン。話が冥王星の方向に行っちまったな。アー、アー……、テステス……。ゴホン…。ホラ!公園に抜ける小道!居酒屋と薬局の間の!知ってるだろう?そこでさぁ、俺さ、てへへ、すっ転んだんだな。」 陽気に喋るチャド。 聞いてるのか聞いていないのか、水を飲み続けるビリー。 同じく聞いてるのか聞いていないのか、己の体を見続けるステファニー。 「で、問題!一体何に俺はつまづいたでしょう?」 チャドは、さながらクイズ番組の司会者のように、ビリーとステファニーの顔を交互に見た。ビリーは水を飲むのをやめ、天井を見上げて考えた。ステファニーは.......... ワオ!まだ体の観察。チャドは、しばらく彼らの反応を楽しんだ後、言った。 「…………死体だよ。へへ。死体!俺、死体を発見したんだよ!男のな!」 ビリーはもちろん、ステファニーもこのクイズの答えに驚いたと見え、ビリーと顔を見合わせ、そして、チャドにその視線を向けた。 「ヘイ!チャド!そりゃ事件だぜ!事件!よっし!出かけようぜ!」 と、ビリーは口の周りをペロッとやった。 「私も行くわ。こんな所でのびてても美容に悪いしね。ええ、きっと悪いわよ。」 と、ステファニーは、蝶結びをほどくように……、分かる?そうそう!スルルって感じでね。ソファーから降りたんだな。 「へへへ………。やっぱココに来て正解だったぜ。オーケー!ビリー!案内するぜ!」 と、チャド。 こうして彼らは、丘の上の家を飛び出して行ったってわけ。
2
ビリー達が街を歩くと、みんなが声を掛けてくる。 「まぁ!揃って仲いいわねぇ!今日はどこ行くの?」 と、八百屋のおばさん。 「あ!おい!みんな見ろって!ビリーだぜ!かっこいいなぁ!なぁ?」 と、近所のワンパク小学生。 「あー!ステファニー!!かーわいー!!!」 とギャル。 「ちぇっ!みんな人気者だな。」 たまらずチャドがぼやいた。すると、 「おぅ!チャドじゃねぇか!カレーパン食うかい?へへ。ま、食いたくなったらいつでもウチに来いよ!」 と、パン屋のおっさんがチャドに向かって叫んだ。それを聞いたチャドは立ち止まり、 「へっ!今から仕事だよ!し・ご・とっ!言われなくたって腹が減ったら食いに行くっつうの!」 こう言い放ち、先を急いだ。 パン屋のおっさんは、返事をしてくれたチャドに西城秀樹並に感激し、カレーパンをあげようと店から飛び出したが、すでに遅し。彼らの姿はすでに無かった。 ところで…………。 何故、彼らは人気者なのか? 何故、チャドはカレーパンなのか? 何故?なぜ?……… その訳は、こうなんだな。 それは、つい一週間前。この街にある小さなお店で、強盗事件が発生した。犯人は、店のレジスターから金を奪い逃走した。十分間におよぶ逃走劇の末、店主の追跡を見事にかわした犯人は、(上手く逃げる事ができたぜ。へへへ、こりゃあ、いとをかしいぜ。)、と余裕をかましつつ、息切れを落ち着かせる為、歩いた。 で、角を曲がったところで鉢合わせしちゃったんだな。 誰に? ちょうど公園に行く途中だった、ビリー、ステファニー、そしてチャドに………。 犯人は一瞬たまげたが、深呼吸をし、平然を装ってその場を通り過ぎようとした。 が!そうはいかんよ! チャドがいきなり犯人に飛び掛った!とっくみあいになった!執念で追ってきた店主が駆けつけた時には、彼らで犯人を押さえ込んでいた。こんな訳で、この事件が彼らを有名にさせ、この街で彼らの事を知らない人はいないでしょうっていうくらいになった。 あ、チャドのカレーパン? それは、後で判明した事だが、チャドが犯人に飛び掛ったのは、犯人のポケットから見えていたカレーパンが欲しかっただけという理由だった。その日はとても腹が減っていてかなわなかったと、のちにビリーに話したそうである。え?これも立派な犯罪じゃないかしらん?みなさんこう思われるだろうが、街の人たちは、結果良ければそれで良し!こう考え、この件に関しては大目に見てくれたんだね。更に、(サングラスにバンダナといったら浜田省吾)のように、(カレーパンといったらチャド)というのが、強盗退治という偉業と共に街中に広まったのさ。 おっと、話がキリになったところで、ちょうどビリー達が例の現場に到着したようだ。 「ここだぜビリー。見ろよ。あすこだ。」 チャドは死体のある場所を、アゴをグイッとやって示した。ビリーは何も言わず、死体に近寄って行った。ステファニーがこれに続いた。 死体を見つめるビリー。 ステファニーは、死体を二割、ビリーを八割で見つめている。 そのビリーとステファニーを、チャドは交互に見つめる。彼らは、薄暗いこの場所で、しばらくじっとしていた。 やがて、ビリーが口を開いた。 「確かに死んでるな……。へへ、まいっちゃうぜ。コイツは俺がガキの頃によく遊んだグレッチだ。頭のところを見てみろよ。ハゲてるだろう?しかも、サイコロの三の目になってるよな。間違いないぜ。こんなハゲ方してる奴が他にいるかよ!チキショウ!一体何だってんだよ!何てザマだよ!………。お前泳ぐのヘタだったよな…。今度教えてやるって…そう言ったろ!?これじゃあ教えられねぇだろうが!!」 ビリーは、落ちていた石を足で蹴り上げた。すかさずステファニーが近づき、なだめた。 「ビリー。気持ちは分かるわ。私だったグレッチとはよく遊んだもの。私の為に蓮華畑から蓮華草を取って来てくれたり、歌を作って聞かせてくれたりしてくれたわ。私も悲しいし悔しいわよ。でもね、今はくよくよしてる時じゃない。天国のグレッチに笑われるわよ!ね?そうでしょう?ビリー。」 「そうだな、ビリー。俺もそう思うぜ。……あ、待てよ。そういやグレッチは何で死んだんだ?死因は何だろう?」 と、チャドが言った。ビリーはうなだれたまま、チャドにこう返した。 「奴は、メイビー……病気だな。女遊びが昔から激しかったし。変な病気をうつされたのさ。……ん?おい見ろよ。ハンバーガーだ。食いかけの……。そいいやコイツ、好物だったな、ハンバーガー。しかもロッテリアの………。」 すると、チャドがスッと出てきた。 「ちょっと見せてくれよ。」 と、チャドは、そこらの下品な犬がやるように、ハンバーガーの匂いもクンクンと嗅いだ。ビリーとステファニーは彼の行動を見つめる。更に彼は、なんとペロッとハンバーガーのソースをなめたのだ! 「むふぅ〜」 チャド、考え込む。で、一分三十秒後、こう言った。 「こいつはねぇ、毒だな。つまり、これは毒入りバーガーってワケよ。俺は鼻が利くんだ。間違いないぜ。毒の匂いがプンプンすらぁ!グレッチは病気なんかじゃねぇ!殺されたんだ!」 ガーン!! ビリーとステファニーは、チャドの発言に衝撃を受け、丸い目を更に丸く、そして大きくし驚愕した。 「チ、チャドっち、さっき舐めたよな?ソース。」 ビリーが聞く。 「そーッスよ。ははは。なんつって。あのくらいの量なら問題ないさ。」 「殺されたって、どうするの?これから……。埋める?」 と、ステファニー。 「何言ってんだ!コイツはグレッチだぜ!その辺の奴とはちょっとワケが違うぜ!」 ビリーは、こうステファニーの言葉を遮った。そして、この薄暗い小道をゆっくりと進み、通りまで出た。 ビリーは、父なる太陽の光を全身に浴びた。ステファニーとチャドから見ると、ビリーは真っ黒なシルエットにしか見えなかった。バックの光が眩しい。 そのシルエットがこう言った。 「犯人は、今日………。今日!今日中に捕まえてやる!」 映画のようなシーン。ステファニーとチャドからは、ビリーの姿が妙に神々しく見え、勇気とやる気がみなぎってくるのを感じた。これがビリーのすごいところだ。まわりにパワーを与えてくれる。 この時、 チャドは、(さすが俺たちのボスだ。一生アンタについて行くぜ。)こう心の中でつぶやいた。 ステファニーは、ビリーへの(惚れ度)が、現在の110%から、140%まで上がった。 「ヘイ!行こうぜ!」 ビリーが合図する。 「よぉ、ビリー。グレッチはどうする?」 チャドが聞く。 「とりあえずそこに置いとけ!」 そして彼らは、グレッチ殺しの犯人探しに、再び街に繰り出したのだった。
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ビリー達は、手分けして捜査を開始した。 ビリーは、広い交友関係をフルに活用し、グレッチの最近の動きなどの聞き込み。チャドは、よく利く鼻を利用し、グレッチの残した臭いから、その日の彼の足跡をたどる。ステファニーは、自分のファンクラブ連中に命令し、彼らに、この街はもちろん、隣の街 更に隣の隣の街まで範囲を広げ、グレッチの立ち寄りそうな場所を隈なく調べあげさせる。 そして約束の時間。昼十二時ジャスト。丘の上のビリーの家にそれぞれ戻ってきた。 報告一番目。ステファニー。 「ビリー。私の取り巻き連中に調べさせたところ、グレッチは最近ね、バーにもカジノにもめっきり姿を見せなくなったって。それだけじゃないのよ。年寄りと一緒に歩いているのをよく見かけたって話を多く聞いたそうよ。」 報告二番目。水を飲み終えたばかりのチャド。 「俺はな、ビリー。グレッチの臭いを辿ってたんだな。逆回転の映画を見てるような感じでさ、結構楽しかったぜ。奴の足取りがだいたい分かったね。奴は死ぬ直前、本屋に行ってる。そんで、毒入りバーガーの臭いは、この本屋からあの小道までの道の途中で、グレッチの臭いと混ざるんだな。分かるかい?つまりグレッチは、本屋を出てから小道に向かう途中で毒入りバーガーに遭遇した、って事さ。ちなみに、本屋の前がレストラン。その前が、どっかの民家。奴はそこに長い時間いたみたいで、そこから前の臭いは消えちゃってるんだな。その家ってのがさ………。」 「その家は、庭に大きな木があって、ブランコが二つばかしぶら下がってる。屋根はグリーンで、丸い窓が玄関の隣についてる。サンタクロースが入りやすいようにか知らんが、でっかい煙突がある家。………だろう?」 と、ビリーが言った。 「そ、そうだよ!なして分かったん?」 「俺はいろんな奴に、最近のグレッチの動きを聞いて回ったのさ。ステファニーの調べた通り、奴は最近、年寄りとつるんでたらしい。で、俺はその年寄りに照準を絞って調べたんだ。その年寄りは、名前がサンディっていう、キリスト気取りでみんなに(愛とは何か)って説いて回ってる奴らしいんだ。単純なグレッチは、何か神秘的なモノをサンディに感じたんじゃねぇかな、サンディの事をグレッチが(師匠)って呼んでるのを聞いた奴もいるぜ。とにかく俺は、そのサンディに会いに行こうと思って、住んでる所を調べて、行ってみたんだ。が、あいにくサンディはその時いなかったのさ。」 「じゃあ、俺の鼻が当てた家ってのは……。」 「そうだ。サンディの家だ。…………。間違いねぇ!犯人はサンディだ!この時間なら奴は家にいるはずだぜ!行こう!とっ捕まえによぉ!」 ビリー、ステファニー、チャド。 彼らはお互いに顔を見合わせ、うなづく。 そして、 「うおっしゃぁ〜!」 サラリーマン金太郎ばりの気合いの雄叫びをあげ、矢のように丘の上の家を出て行ったんだな。
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グリーンの屋根は、遠くからでもすぐに分かる。その敷地内の大きな木。その木から二つブランコがぶら下がってる。そのブランコの近くで、男と男が話しをしている。 片方は年寄り。 もう片方はまだ若い。年寄りの方が、若い男に向かって言う。 「なぁ、ゾーウィ。いいかい?よくいるだろう?セックスは愛を確かめ合う為とか言ってる奴が。笑っちゃうぜ。そういう奴にさ、『じゃあ、お前の言う(愛)って何だよ?』って聞いてみなよ。きっとヘンテコな答えが返ってくるぜ。そんなのさ、お互いの本能が(やりたい)からやっただけだろう?腹が減った奴同士が飯を食うのとなんら変わりないぜ。腹が減ってない奴に無理矢理食わす。それはつまり、レイプって事になるな。まぁ、とにかくさ、テレビドラマやマンガなんかの影響で、(愛)は恋愛だけのものなんつう感じをもたされるけど、NO!NO!NO!(愛)ってもんはな、もっとスケールがデカイもんなんだな。しかも、いつも、な?いつでも、そこら辺にあるんだ。いいかい?いいか〜い?ここからが大事だぜ。俺が思うに、(愛)ってもんはな、(いい感情を持った自分に気付く事)なのさ。(愛)は与えるもの?………違うね。ま、全くとは言わないよ。が、……が!な?どっちかっていったら与えられる方だな。でもな、与えられただけじゃダメよ。話しはそこで終わっちまうからな。与えられて、自分に心地よい感情が沸きーの、その心地よい感情を持った自分に気付く!その時!ん〜………。その時さ!その時初めてぇ〜、(愛)が生まれるんだな。そうね、例えば、道を歩いていてな、アリを踏んづけそうになるとするじゃん?で、アリの為に、踏む寸前の足を避けてやる。この場合は、まずね……、まずは、避けてもらったアリの方が(ありがとう)っつうね、感謝の気持ちを持つ事。とりあえず、この気持ちをアリが持たなければイカンのよ。で、更にだ、アリが、(僕は今、いい感情を持ったんだ!)つって、己でその事に気付いて、そんでぇ、(愛)が生まれるのさ。分かる?まだあるぞ。地球が、俺たち生き物の為にな、良い環境を与えてくれてるだろう?俺たちがその事について、(地球さん、ありがとう)と思う。まずな?んで、(ありがとう)と思った己に気付いて、き・づ・い・てぇ〜………。(愛)だ!どうだい?ゾーウィ?ドゥーユーアンダーステアァ〜ン?」 「サンディさん!全く分かりません!でも、勉強して、必ずサンディさんの愛の教えを理解できるようにがんばります!」 ゾーウィは、即答で、ハキハキとこう答えた。 「あははは。少し難しかったか?ん?ま、がんばってみてくれよ。俺の言う(愛)が理解できればさ、この世の中にな、どんだけぇ〜!(愛)で溢れてるって事が分かる。そうなれば、きっと心が豊かになるぞ。」 「サ、サンディさん!俺…、お、俺、感動して屁が出そうッス!これからあなたの事を、師匠って呼ばせてもらってもいいですか?」 「ほっほぉ〜。師匠かぁ〜。いいよん。お前の好きなように呼んでくれよ。」 「ありがとうございます!じゃ、俺、これから職安行かなきゃいけないんで失礼します!また来ます!では、師匠!」 と、ゾーウィは、顔にまるまると喜びの表情を浮かばせながら、サンディ師匠に一礼し職安に向かった。サンディは、満足そうにその姿を見送った。やがて、ゾーウィの姿が見えなくなると、 「さて、ひと眠りでもすっかな。」 と、向きをかえた。 すると!そこには三つのシルエッツ!………、そうさ、言うまでもない!ビリー達さ! 「な、なんだチミたちは!?」 と、驚き叫ぶサンディ! 「この偽善者め!」 チャドが前に出る! 「アンタのやってる事は、すべてお見通しよ!」 ステファニーが続く! そして、その間から、 「お前に消された奴の恨み!今晴らさせてもらうぜ!」覚悟しやがれ!」 と、ビリーが! サンディは、突然現れたビリー達に、戸惑いながらこう言った。 「ちょ、ちょ、ちょっと!ちょっと何何?待ってくれ!俺には何の事なのかさっぱり分からないんだが。だ、誰かと間違えてない?」 「とぼけてんじゃねぇ!グレッチって知ってるだろ!お前とよく一緒にいるとこ見た奴がわんさかいるんだよ!知らないとはぁ〜!ぁ言わせないぜ!」 ビリーが唸った! 「グレッチ?あ、あぁ!頭に三つのハゲのある男か?知ってるともさ!アイツはな、俺の話をそりゃぁもう真剣に聞いてくれてな、とても理解してくれたんだ。お前さんの言う通り、よく一緒にいたさ。サムタイム、マッサージングなどもしてくれたやさしい奴だよ。俺は奴の事をさ、息子同然に思ってるよ。今日だってな、これから一緒に飯を食う約束だ。 二日に一度は一緒に飯を食うのさ。で、そのグレッチがどうかしたのか?」 「な、何ぃ!?ふざけんなよ!死んだんだよ!つうか、てめぇが殺したんだろうがっ!」 チャドが叫んだ。これは今にも飛び掛りそうな勢いだ。 「な!………。し、死んだって!?本当け!!?そそ……そんなバナナ……。」 サンディは、ヨロヨロ及びヘタヘタと、その場に座り込んだ。そして、しばらく黙っていたが、もうしばらくして、こう言った。 「奴は……、グレッチはな、俺の生きがいだった。グレッチには、これから先、俺がくたばった後もよぉ、俺の意思を継いで欲しかったんだ。俺はそのように奴と接したし、奴もその事には気付いてくれていたと思う。……それが何故!ホワーイ?」 サンディはうなだれ、目からはティアドロップスがにじんで頬を伝って地面に落ちてそこにいたアリを三匹溺れさせた。 「てんめぇ!ヘタな芝居うってんじゃねぇっつうんだよ!いい加減に……」 もう飛び掛る寸前、ビリーがチャドを止めた! 「待て!チャド!…………違う!サンディは違うぜ。犯人じゃねぇよ。あのティアドロップス、まるでフランス映画にでてくる野良犬みたいだ。」 「……フランス映画?………チャド!私もそう思うわ!彼はグレッチの事をとても可愛がってたと思う。そんな彼にグレッチが殺せて?」 「へへへ……。オールラーイ!ビリーとステファニーがそう言うなら間違いないな。」 チャドは素直に言う事を聞き、おとなしくなった。そして、そのまま後ろに下がったチャドと入れ替わりでビリーが前に出て、 「悪かったよ、サンディさん。俺たちの早とちりみたいだった。俺もグレッチとは親友だった。悔しさと辛さはアンタと同じだ。必ず犯人を捕まえるからさ、元気だせよ。」 と、うなだれているサンディに言った。しかし、サンディの衝撃は深く、ビリーの声など届かなかったのか、反応は無かった。 ビリーは、ステファニーとチャドに向き直り、言った。 「行こう!俺は言ったはずだぜ!今日中に犯人を捕まえるってな!捜査は振り出しに戻っちまったけど、まだ時間はたっぷりある!気合を入れていくぜ!! そして、ビリー達はサンディの家を後にした。 依然としてうなだれたままのサンディの近くで、ブランコが風にあおられ揺れている。しばらくして、家から女の人が出てきた。 「サンディ!ご飯できたわよ!どこにいるの?」 女の人は、木の下にいるサンディを発見した。 「そこにいたの?どうしたの?元気なさそうね。ホラ、ここに置いとくわよ。」 と、女の人はごちそうの乗った皿を置き、再び家に入っていった。 年寄りは、一瞬顔を上げ、目の前のごちそうを見た。……そして、また顔を伏せた。皿に乗った食べ物は、結局そのまま手を付けられる事無く、ハエの餌食となった。
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夕方。 巨大で真っ赤な太陽が、ユラユラとビルの谷間に沈もうとしている。 街は……、街は、帰宅ラッシュの人や車、騒音、排気ガス、ジャズメン。そりゃぁもう大騒ぎである。そのお祭り騒ぎの街なかから、少し離れた小さな町。その小さな町にある一本の通り。そこに映る三つのシルエッツ。 分かるだろう?誰か。え?分からないって?バカやらう!コノ、オオバカやらう!ビリー達に決まってるじゃん。で、そのビリー達は、その通りを無言でしばらく歩いていたのさ。 「なぁ、ビリー。どうするんだい?全くわかんなくなっちまったな。」 と、チャドが重々しい空気に耐え切れず口を開いた。 「あぁ、そうだな。……。今度はどこから手を付けようか……。ん?おい、ステファニー。どうしたんだ?」 ビリーは、突然立ち止まったステファニーに尋ねた。 「ここって、グレッチが最初に毒入りバーガーを見つけたっていう場所よね?」 「ん?あぁ、そうだよ。そうそう、ここだよ。ここから毒入りバーガーの臭いが始まったんだ。ここでグレッチは、拾ったのか貰ったのか知らないけんど、とにかくハンバーガーと遭遇してさ、そのまま持って帰ったんだな。で、途中で食いながら歩いたんだろうな。結局あの場所で………。」 と、チャド。 「死因はハッキリしてるのに!チキショウ!」 ビリーは地団駄踏んで悔しがった。 と、その時。 「ステファニーさーん!」 遠くから、ステファニーを呼ぶ声がする。振り返ると、こちらに向かって走ってくる少年の姿が!その少年は、どうやら全力で走ってきたらしく、息を切らせながらこう言った。 「ハァハァ……。ス、ステファニーさん。僕、ステファニー・スター・クラブ、略してSSCのメンバーです!あ、ハァハァ……、ビ、ビリーさん、こんにちは。」 どうやら、ステファニーの取り巻き連中の一人のようだ。 「どうしたの?一体。」 ステファニーが優しく少年に尋ねた。 「は、はい。仲間から聞いたんですが、ビリーさんたちが、グレッチの事件を調べてるって……。僕、さっきその事を知ったばかりで。探しましたよ。いやぁ、良かったなぁ。」 少年は、ステファニーに会えた嬉しさを顔いっぱいに浮かべた。 「そうだったの。ありがとう。それで、何か分かったの?」 「はい。僕、犯人を知っています!」 キッパリと言い切った少年。間を少し置いてから……、 ビリー達は驚いた! 「お、おい!少年!犯人を知ってるって!?そりゃぁ一体どういう事だ!!?」 「はい。仲間たちの話だと、死因は毒だそうですね?毒の入ったハンバーガー。僕、見たんです、現場を。どういう事かというと、今朝、散歩してたんです。僕、早朝の街って大好きで……」 「ははは。俺と一緒だな。俺も好きなんだよ。なんつったってさ……」 「おい!チャド!静かにしろ!すまん、少年。続けてくれ。」 「あ、はい。で、大通りから、あすこに見える自動販売機を曲がって、この道に来たんです。その時、ちょうど僕らがいるこの辺りに、グレッチがいるのが見えたんですよ。彼は上を向いてました。何だろうと思って、僕もその方向を見ました。すると、民家の二階の窓が開き、中から人が顔を出し、下にいるグレッチにむかって何かを落としたんです。グレッチは、その何かを拾って、ありがとうってお礼を言ってるのが聞こえました。で、そのままグレッチは行ってしまいました。僕は、グレッチのいた場所、ま、つまりここなんですけど走っていって、彼が一体何をもらったのか調べたんです。ハンバーガーでしたね。臭いですぐ分かりました。僕も欲しかったんで、しばらく待ってみたんですけど、結局窓は開かず、あきらめてそのまま帰りました。それからグレッチが殺されたって事を聞いたんです。しかも、毒入りバーガーを食わされたって言うじゃないですか!ビックリこきましたよ。」 「よくやった!少年!あ、そういや名前を聞いてなかったな。」 「ジバゴです。」 「よし!ジバゴ!お前を今日からSSCの親衛隊長に任命するぜ!」 「え!ええぇ!?本当ですか?ビリーさん!ありがとうございます!」 ジバゴは飛び上がって喜んだ。 「ちょ、ちょっとビリー!勝手に決めないでよ!……フフフ、まぁいいわ。ジバゴ、ヨロシクね。」 と、ステファニーは天使のような笑顔でジバゴに言った。 「へ、ヘイ!僕、命にかえてもステファニーさんをお守りします!」 ジバゴのこの誓いの言葉をにこやかに聞いたビリー。その顔は、目の前の家に向き直ると同時に、怒りの表情になった。 「さぁて、この家だな?おいチャド。知ってるよな?この家………。この二階に住んでる奴……。」 ビリーは二階の窓に目をむけたまま、チャドに聞いた。 「へへへ…。あぁ、知ってる。ここらは俺の散歩コースだぜ。今までに何百回と通ったことか……。ロメオだ。ロメオの家だよ。あいつ、勉強のしすぎで頭がイカれちまったんじゃねぇか?」 チャドが言った。 その時! 「ビ、ビリーさん!」 突然ジバゴが叫んだ! 「こ、ここ、こいつです!窓からハンバーガーを落としたのは!間違いありません!」 と、ジバゴが示したソコ。ソコに立っていた男。 そう!ロメオ! 「な、何だぁ?こいつらは……。人んちの前でタムロしやがってよ。きっついヤツ食わせてやろうかぁ?」 ロメオは、ボソボソっと言った。そして、そのまま平然とビリーたちの前を通り過ぎようとした。 「チャド!いくぜ!」 ビリーの合図! 「オーケー!ボス!」 チャドがニンマリと答える! さながら、獲物に飛び掛る二匹のライオン。そんな感じで、ロメオにビリーとチャドは飛び掛った! 「うわぁっ!なな!何だ!?おい!何なんだよ!おいっ!やめっ、やめろっ!!」 不意を衝かれたロメオは、その場に倒された。しかし、すかさず反撃する! 「こ、この野郎!敵討ちってかぁ!?ふざけやがってぇ!」 ロメオは手を伸ばし、チャドのシッポを掴んだ! 「イデデデデェ!放しやがれ!」 チャドはたまらず叫ぶ。ロメオは、そのままチャドをブン投げた! 「チャドォ!てんめぇ!やりやがったな!」 ビリーの怒りは頂点の頂点に達した!そして、火の玉の如くロメオに飛びつき、渾身の力を込めて、そのケツに噛み付いた! 「ギャーッ!」 ロメオがのたうち回る!しかし、ビリーは決して放さない! 「や、やめろ!この…このクソ犬がぁ!」 ロメオは半泣きだ。そこへ、復活したチャドが再びロメオに飛び掛る!更に、ステファニーとジバゴも続く! ロメオは、完全に押さえ込まれた! 「す、すまん!悪かったよ!俺が悪かったぁ!お前たちの仲間を殺したのは俺だぁ!ゆ、許してくれぇ!だ、誰かぁ〜!助けてくれぇ〜!」 ロメオはついに白状した。それを聞いたビリーは、ようやくケツから口を放した。 「へへへ!やったぜ!みんな!」 ビリーは満足気に言った。そして、沈みかけの太陽に向かって、 「やったぜ!グレッチ!やったぜ!サンディ!俺たちの勝ちだぁ〜!」 と、叫んだ。 この、ワオーンという叫びは、この小さな町いっぱいに、響き渡ったとさ。
おわり ☆注意☆ グレッチがバーとかカジノに行く目的はさ、ホラ、裏口のゴミ捨て場さ。客の残したうまい肉とかあるんだな。 ゾーウィの職安の件は、入り口の隣の噴水のある池。そうそう。そこに水を飲みに行くんだな。そこの水が冷たくてさ、うまいんだってよ。
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