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作品名:至極の一日記 作者:Reddcherry

最終回   1
 真っ黒なスタジオ。
 3…2…1…
 照明オン!
 パッと明るくなる。
 バックの壁はオフホワイト。その前に長いデスク。
 NHK並みにシンプルな作りのセット。
 そのデスクに2人の男が座っている。
 向かって左側の男にカメラがススッと寄っていく。
  男「こんばんは。至極の一日記の時間がやってまいりました。司会の吉田角栄です。今夜も、みな皆さま方がたから送って頂いた日記を元に、いろいろとコメントをしていきたいと思います。あ、私の隣には先週に引き続き、アメリカ合衆国国際日記研究会アルバイト長、ジョン・マイケル・ビンセント・ギャロさんにお越し頂いております。」
 ジョン・マイケル・ビンセント・ギャロ(以下J)
  J「グッイブ二…….あ!ソーリー。コンバンハ。ギャロデス。」
 吉田「ははは。いやぁ、ジョン・マイケル・ビンセント・ギャロさん。今夜は、えっと、それは….ハートですかね?ハートのネクタイですね?」
  J「ソウデスネ。ニッキ….ア~、イコール、ハート。ニッキイコールハート!コレデスヨ!」
 吉田「それでは今夜の日記です。え〜、S県にお住まいのMさんからの投稿です。」
 吉田が手紙を手にとり読み上げる。
 吉田「吉田さん、はじめまして。あ、はじめましてって、なんか照れるなぁ。でも実際そうなんだからしょうがないですよね、へへ。あの、僕、初めて投稿します……って、当たり前か。だから“はじめまして”ですもんね。(こりゃ傑作)えっと、これは僕が、実家に用事があって帰った時に、たまたまなんですが、自分の押入れから発見した日記です。僕がまだ20代前半の頃に書いたやつだと思います。内容は、友人と2人で隣の県まで50ccのバイクで薬局に行った時の話です。それでは、よろしくお願いします。」
  J「オー、モーターサイコー?イイデスネェ。ワタシモネェ、ヨクネェ、モーターサイコーデネ、タビシタンデスヨ。」
 吉田「ほ〜。ジョン・マイケル・ビンセント・ギャロさんも。」
  J「ソ。アレハネ、ワタシガネ、マダ15サイデネ、フリョウトヨバレハジメタコロノハナシナンデスケドー。」
 吉田「あ、ジョン・マイケル・ビンセント・ギャロさん。申し訳ありませんが、時間の都合でその話はまた、ははは、ツタヤとかで会った時にでも伺います。」
  J「シィィ〜ット!」
 吉田のまわりを残し、それ以外の照明がだんだんと暗くなりつつ吉田に再びカメラが近づく。
 吉田「至極の一日記。今夜もあなたを極上の世界へとお連れ致します。」
 吉田の照明も消える。
 うっすら吉田とジョン・マイケル・ビンセント・ギャロのシルエットが見える。
 カラン…….。
 ジョン・マイケル・ビンセント・ギャロが何かを机の下に落とし、カサカサと動いているのが分かる。
 エルヴィス・プレスリーの「ハートブレイクホテル」が流れ出す。
 画面下から、丸ゴシック体の日記の文章が上に向かってスクロールしていく。と、共に、吉田の朗読が始まった……….。
    10月2日
 今日は朝5時に起きて、友達と2人でバイクで隣の県まで行ったよ。行きはいろんな道を通った。田んぼの真ん中の小道やら、川の土手沿いやら。歩道橋もバイクで通ったんだ。おもしろかったよ。ああ、おもしろかった。自然と口笛まで吹いてしまう始末さ。しかもこのペースなら夕方にはホームタウンに帰って来れるし、なかなかいい旅だなって思ったよ。夜にはバイトがあるしね。
 難なく目的地の薬局に到着してさ、用事済ませてね、「じゃあ、帰る?」なんつって、再び鉄のカタマリにマタガリ、(はははっと、吉田が微笑む)ホームタウンをめざし、走りだしたんだ。
 その帰り道、まず雨が降り出した。
 ポツポツと小降りだったけどさ、バイクで走ってる時はさ、こんな雨でも顔に当たると痛ぇのなんのって……..。苦痛で顔がニンニクみたいに曲がっちまったぜ。そしたらそのうち、今度はバイクの調子が悪くなってきたのさ。多分、雨の水がバイクの構造上、入ったらアカンよってトコに入ったらしいんだな。でも、ヘコへコしながらもなんとか走ったんだよ、山道を。そう!山道だぜ!?蛇みたいにクネクネしてやがる!ま、何で山道かっつうと、薬局を出発する時、帰り道は海の方か山の方かどっちで帰る?って事になってさ、僕ちん自らさ、山道って言っちゃったんだな。しょうがないじゃん!雨もバイクの不調も予想してなかったんだからさ!その時はとても楽しい気分だったんだしさ!
 まさに後の祭りだぜ。
 苦虫を潰したようなニンニク顔でクネクネ道をへコへコ運転で走ったさ。こりゃ1、2時間遅れたなって思った矢先、
 今度は何とパンクしやがった!こんのクソバイク!山ん中だぜ!!いやぁ、ブルッたね、正直。もうさ、一緒に走ってる友達に申し訳ないやらさ、自分が情けないやらでさ、マイッちゃった。とにかく、走行不能状態になっちゃったんで、クソバイク押して歩いたワケよ。100メートルばかし歩いたトコで、ウマい具合に民家を発見してさ、早速そこにHELP ME!つって駆け込んだのよ。そしたらさ、そこのクソババア!ヒトの事怪しい奴でも見るような目付きでジロジロ見てきてさ、何言っても「無理無理!私じゃ無理!」の一点張りだぜ。無理星人か!?お前はよぉ!結局「もういいっス」つって帰ったよ。で、道に戻ったんだけどさ、どうする?この先。家の形すら見えないぜ。そしたらね、友達がさ、「先の方にバイク屋があるか見てくるね」って走ってくれたんだ。か、かたじけない…..。で、その間、僕ちんは独りぼっちでさ、この雨の中、どこもかしこも山、道の前方を見れば遠くまで延びててさ、先端は霞んでらぁ…..。そんな中をさ、トボトボとバイク押しながら歩いたんだな。そん時さ、何か雨がしょっぱいなって思ったんだけどさ、ありゃ泣いてたね。うん、完全に泣いてた。ま、あの孤独感は一生忘れないだろうさ。まったくよぉ、足がイデェっつうのよ!でも、これじゃあアカン!楽しい事を考えなくちゃいけない!つって思ったけどさ、ダメ。ぜんぜんダーメ!「無」の世界にはいっちゃたね。何にも考えずにボーッと歩いたよ。自分の中じゃ2日くらい歩き続けたと思ったけど、正確な時間は分からないが、しばらくして友達が戻ってきたんだな。友達が言うに、バイク屋見つけてそこのおっさんにココまで車で来てくれるように頼んでくれたんだとさ。ちょっぴり笑顔がこぼれたね。で、数分後におっさんが車で来てくれたんだな。笑顔が思いっきり溢れ出たね。車にバイク積んでさ、おっさんの運転する隣に座ってさ、バイク屋に向かったんだ。途中、そのおっさんはバイク好きらしくてさ、ずっとバイクの事喋り続けてたっけ。その間、雨でズブ濡れの僕ちんは、冷房がガンガン効いてる車の中で凍りそうになってたよ。ホント、寒くてかなわなかったぜ。
 バイク屋に着いて、パンク直してもらってる間、そこの奥さんがさ、コーヒーとお菓子くれたんだ。カンゲキ!みんな、僕ちんの為にスマン!つって心の中で謝ったよ。バイクの修理も完了した頃、ちょうど雨もやんでさ、いい出会いもあったし、何かドラマみたいな感じだったな。
 そして再度出発!
 我が町まであとまだ1時間もあると思うと、ちょっと顔が鬼瓦みたいになるけど、ま、雨も降ってないし、いいでしょって思って走り出したらさ……、
 ザーザー。
 雨が。
 今度はザーザーだぜ!そんでもってバイクがまた調子悪くなる。で、山道。
 大魔神は怒ったよ、こうなるとね。声を大にして呪いの言葉を叫んだぜ。
 こんな….!こんな旅ぃ!二度とするもんかぁ!!つって。
 でもなんだかんだ言ってたらさ、山道抜けてさ、ホームタウンの隣町まで来たんだね。自分のエリアのナンバーの車が走ってるのを見てさ、こんなに嬉しかった事は無いね。もうすぐ家に着けると思うとスピードアップしちゃうぜ。あぁ、早くシャワー浴びたいぜよ。
 が!またトラブッた…….。
 今度はガス欠。
 も、も、もういいっす。
 でも近くにガソリンスタンドがあったから、得意のバイク押し歩きも少しで済んだのさ。で、ガソリン入れて、やっとこさ家に帰る事が出来たんだな。で、間髪入れず、これからバイト。
 ははは。大変よ。
 もういいっす。

                     おわり。
 スタジオが再び明るくなる。
 吉田「いやぁ、最初の華やかなムードが一転し、壮絶な旅になったようですね。どうですか?ジョン・マイケル・ビンセント・ギャロさん。」
  J「コレハヒドイ。」
 吉田「自分で選択した山道が不幸な結果になってしまった。もういいっすって、この終わり方。Mさんのお気持ち、よく分かりますね。きっと一緒に旅されたMさんのご友人も、Mさんの最低な運気にゲンナリした事でしょうね。」
  J「アノ〜、ミスターヨシダ。」
 吉田「なんでしょうか?ジョン・マイケル・ビンセント・ギャロさん。」
  J「トチュウ二デテキタ、エット、アレハ、ナンデスカ?二、ニン…….。」
 吉田「え〜と、にん?あ、ニンニクですか?」
  J「二、ニンニクゥ?」
 吉田「はい。ガーリックですね。Mさんはフルフェイスのヘルメットじゃないやつをかぶっていらっしゃったんでしょう。雨が顔に直接バチバチとあたり、日記にもあったように、壮絶な痛さの為、顔の一部分がクシャっとなって、ニンニクのような形になってしまったって事ですね。」
  J「オー!ガーリック!?リアリー!?アー!ナルホドネ!イタサデネ!カハッ!ハハハ!フェ、フェイスガ…..プハッ!ルックスライクガ、ガーリック!!?タハッハハ!ガーリック!は、は、ハラいてー!」
 吉田「ははは。ジョン・マイケル・ビンセント・ギャロさん。最後に流暢な日本語が出ましたねぇ。」
 声無き笑いのジョン・マイケル・ビンセント・ギャロは何度もうなづく。
 吉田「それではみな皆さま。今夜の至極の一日記。いかがでしたでしょうか?来週はトムとジェリーの再放送の為、番組はお休みさせていただきます。では、みな皆さま方がたからの投稿、お待ちしております。さようなら。ごきげんよう。」
  J「ハァ。(呼吸を整えてから)スィーユーアゲーン!」
 吉田「ガーリックですか?ジョン・マイケル・ビンセント・ギャロさん。」
  J「ブハハッ!フゴッ!(ブタ鼻)いかんって!それいったらいかんって!」
 ジョン・マイケル・ビンセント・ギャロを横目にニンマリとする吉田。
 腹を押さえながら笑っているジョン・マイケル・ビンセント・ギャロ。
 2人からカメラが遠ざかっていくにつれ、照明も落ちていく。
 画面右隅に文字が浮かぶ。

                              至極の一日記  終


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