馬鹿みたいに暑い夏、山形の田舎で爺さんは家族に見守られて息を引き取った。
親戚中大騒ぎだ。爺さんが死んだからではない。爺さんの最後の一言でだ。 「パレードが・・見たかった・・の・・う・・」
なにせTVも見ないラジオも聴かない、本といったら農具の説明書ぐらいのものしか読まない爺さんだ。家族にしたらパレードなんていう単語を知っていたのがまず不思議だった。
最初に浮かんだ仮説は「遺産の謎解き説」だった。爺さんは別にパレードが見たいと言ったのではなく、遺産のヒントを言っていたのではないのかという説だ。
田舎だから土地はたくさん持っていたはずの爺さん。皆一斉に色めきだって探し出した。
しかしパレードがヒントというのはなかなか難しい。皆困難した。すると、一人の子供が「あ!」と小さな声を上げた。その子の母親らしき人が近寄ってきてその子が持っている紙をひったくって、小さな声を上げた。
皆が後ろから覗き込むと、その紙には色んな色が混ざり合ってぐちゃぐちゃになっている何かが行進している絵が書いてあった。そして、その下に間違いなく爺さんの字で「パレード」と書いてあった。
その日皆は、一言も喋らずにバラバラに帰った。
私はその話を母伝いに聞いただけだった。その時は特に何も思わなかった。バカなやつらだと思っていた。 次の仕事の原稿を書きながら、ラジオで話のネタにでもするかと思っていた。 次の日その話をラジオでした。結構受けた。 収録が終わって、廊下をトボトボと歩いていると向こうから前台本を書いてやった芸人が歩いてきた。 「あ、おはよざます。今からすか?」 「ん、いや終わったとこ」 「あ、そすか。じゃ失礼しまーす」 「おう」 ボロボロのバイクに乗って帰った。家に帰ってテレビをつけた。自分が台本を書いたTVがやっていた。
いつからかTVでは笑えなくなっていた。
その晩変な夢を見た。
俺は移動図書館のおじさんになっていた。そして気がついたら砂漠で移動図書館をやらされていた。来るわけの無い客。よく響く童謡。いつまでもいつまでも通る俺の声。 まいったなあと思っていると、天からオーナーが降ってきた。 「やめていっすか?こんなとこじゃ客こないし」 「褒美をやろう。それ。」 ボトっと音がして豆腐が降ってきた。俺は食おうと思って顔を近づけた。その瞬間、崩れた。豆腐の崩壊。俺の限界。
そこで目が覚めた。電話が鳴っていた。 電話に出ると、この前貰った仕事についての電話だった。
「あ、もう次の回の原稿大丈夫なんで、はい、またよろしくおねがいしまーす」
またっていつだよおい。へらへらしながら俺はもう一度寝ることにした。次は豆腐が食える夢を期待して。
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