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作品名:21世紀の宇宙危機 作者:imanikaz

第1回   第一節 悪夢
西暦2027年8月7日土曜の朝五時
 私こと今西キャズは、京都鴨川の荒神橋上から東山を見ながら、心地よい川風に額の汗を冷やしつつ早朝の散歩を楽しんでいた。この荒神橋では、日本で初めてノーベル賞をもらった湯川秀樹先生が、百年ほどまえに良く散歩していたそうだ。我が名前キャズは、祖父和雄がアメリカのフロリダ大学留学中にそう呼ばれていたとのことで、カズの米国南部訛りである。なお、父の名は和富といって、九州でインターネットのベンチャー企業を経営している。さてっと、青々とした大文字山の上空は、太陽が出る前の朝焼けで錦色に染まっていた。この色は、すぐに真夏の太陽が毅然と輝き始め、午後には気温が摂氏四十度にも上昇すると予感させた。
「この気温上昇は、地球温暖化の影響でしょう……」
Tシャツのポケットに忍ばせた超ミニパソコンを兼ねた携帯テレビが毎日繰り返していた。このマイクロカラーテレビの電波は、人工衛星からのデジタル放送であり、位置測定GPSと携帯電話も兼ねている。ふと、緑の濃くなった比叡山の上空を見上げると、肉眼でも見え始めた白い黄色っぽい星が、三日前の同時刻よりも大きくはなっていたが、前と同位置にあるのを見て、悪い予感に襲われてハッとした。この黄色い小惑星が昨日の同じ時に同位置にあるということは、この小天体が地球を直撃する軌道上にあると言えるからである。
 このような地球に接近する小天体は、一般に地球近傍小天体NEO(Near Earth Object)と言い、小惑星や彗星のことである。小惑星の大部分は、火星と木星軌道の間に五万個あまりも点在し、硬い岩石や金属質の固体である。現在のところ地球に衝突する大きなNEOは、まだ発見されていないと言われていた。なお彗星は、冥王星より遥かかなたのオルトクラウドから飛来して、太陽を回る雪だるまのような小天体で、その氷が太陽熱で蒸発していくと、金属や岩が残って小惑星に似てくる場合もある。この彗星がほうき星と言われるのは、蒸発したチリが太陽の光圧で押し流されているからだ。
 大文字山の空に早朝見える黄色いNEOは1999年1月に発見され、国際天文学会の確認番号1999A1であり、エリザベスの愛称である「リズ」と呼ばれている。このリズは直径が一マイルもある小惑星であって、今年は地球から38万キロメートルの彼方を通過すると予測していた。この値は、ちょうど地球と月の距離であり、偶然ではあるが1955年にパロマー天文台での観測でも確認していたNEOである。リズが月と衝突する確率は、一万分の一と無視できるといわれていた。
ところが、ケータイ付属のミニパソコンをポケットから取り出して、インターネット経由で京洛大学宇宙物理教室のスーパーコンピュータに機密暗証番号でアクセスし、急いでリズの軌道を計算した。すると、リズは地球を直撃する軌道ルートにあることが解かったのだ。
「レイナさん、大変だ! リズという名のNEOが一週間後には日本列島に衝突するようだよ」
私は、京洛女子短期大学の二年生の花園レイナにケータイ電話で知らせた。
「キャズさん、本当かしら? よく観測してから、再計算してね。ところで………個人的に相談したいことがあるから、午後五時に河原町四条の例の喫茶店で会いたいわ………」と、レイナは驚いてはいるが、いつもの若々しい声が返ってきた。彼女は九州の高校の同級生であり、ボランティアとして地球温暖化防止の活動も一緒にしている。二人とも京都に来てからもう一年余りになるが、京都弁はまだ良くしゃべれない。大きな声では言いにくいが、昨世紀に流行った言葉で言うと、二十一世紀では珍しく未だプラトニックな間柄で、手がチョット触れたことが一回あるだけである。
 レイナは私とは正反対の性格で、友人の間では九州生まれの博多人形のような美人と言われている。レイナ本人は、モダンミュージックのピアニストになりたいそうだ。恥ずかしいながら私の鼻は幼少の頃から団子鼻であるが、レイナの鼻は高いが短めで丹精であり、その肌は苔寺の水苔のように女性的で瑞々しい。ピアノは幼稚園の頃から習っていて、今はアルバイトで教えているそうで、鍛えられたその指は白魚のように美しい。ところが、私は初歩的なドレミの楽譜が読めないのである。なお、彼女の祖母が同じ女学生の頃、1990に地球温暖化防止京都会議が宝ヶ池であり、母と三代にわたりそのボラをしているとのことである。
 私がボラで参加している国際宇宙防衛隊は、地球に衝撃を与えるNEOを発見して追跡し、その地球への被害を予測し、必要となったら迎撃するのが任務である。今は国連の正式機関であるが、1995年に設立して以来ほとんどボラ中心で活動してきた。
一般にNEOの直径は百メートルでも、その運動エネルギーは昨世紀最大の水爆であるTNT火薬百メガトンに相当する。その地球上でのインパクトは、我々の大都市を壊滅の危険に曝すのである。例えば1908年にロシアのシベリアツングースクで爆発したNEOは、直径80メートルであったが、シベリアの森林を半径約百キロメートルにわたり壊滅させた。
 しかし直径が一マイルすなわち約千六百メートルとなるとTNT40万トンに相当し、一国の文明を壊滅するエネルギーがある。直径が10キロメートルとなると、地球の気候を変えてしまい、六千五百万年前に恐竜が滅んだように、世界中の人々や生物にとって破滅的な危機が生じるのである。 小惑星リズは、1999年1月13日にアメリカ空軍の望遠鏡によって発見され、イタリアのピザ大学のミラニ等はその軌道の分析した。1999年3月に、彼等はその解析結果の原稿を世界中の専門家に電子メールで送って、軌道計算の正当性をチェックするように依頼した。すると、米国NASAの天文学者達は、詳細な技術的な解析の結果、この小惑星が少なくとも2039年には地球にインパクトするかも知れないことを再確認した。そこで、ミラーニ達は4月にピザ大学のウェブサイトでその原稿を発表した。およそ1週間後に、彼等の原稿は国際天文学会のエキスパートのグループに回され、非公式の技術的レビュウでは地球インパクトの確率は正しいと言われた。リズと地球は、一年に二度だけ二月と八月に接近し、2039年8月には地球へのインパクトのシナリオがあり、その確率が10中の約1であることを確認した。
 私ことキャズは、京洛大学宇宙物理教室の古めかしい研究室でリズ接近の軌道を再計算して、国際宇宙防衛隊にその結果を電子メールで知らせた。その日の夕方、地下鉄四条駅近くの喫茶店でレイナが待っているので、車の渋滞を尻目に鴨川沿いにマウンテンバイクを飛ばした。
「地球温暖化は予想以上に深刻で、気温の暴走は毎年摂氏一度も上昇してきたようよ」
と、温暖化防止国際フォラムの様子をレイナに話した。
「もっと重大なのは、直径一マイルのNEOが一週間後には琵琶湖に衝突するようだ」
私は話しかけたが、彼女は別の心配事があるようだ。
「個人的なことですが、九州の両親が近くの有力者の息子と見合いをするように言っているので、帰省しようか迷っているのよ……」
の言葉を聞き、私はさらに心臓が破裂しそうになった。
「もう、万事窮すだ! …」 ……
そこで急に、これら三重苦の悪夢に冷たい脂汗をかいてもがき始めた。すると、電話のベルが大きく聞こえ出して、蒸し暑い夏の昼寝からハット目がさめたのである。


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