Wひょうたん宇宙
さて、時空艦フェロモン号は、友和少年を送るべく、196×年の日本へと向ったのだが……。 ママが言った。 《緊急連絡。緊急連絡。時空座標SENDAYAMA6KA。進行方向に、大きな磁気嵐。コトミ艦長、このまま突っ切っちゃう?》 「あ、待ってママ。不必要な危険は回避しましょ」 とコトミ艦長。 《じゃ、パラレル航路を通るわね。時空SENDAYAMA。一度、抜けるわね。はい。今、抜けたわ。Wひょうたん宇宙へ入ったわ》
──ブザーブザーブザーブザー
と、いきなりブザーが鳴った。 《救難信号受信。救難信号受信》 モニターには、大型戦闘艦に追跡されている小型艦が、映し出された。 すかさずママは、戦闘モードのスタンバイ。 「どちらも、連盟艦じゃないし、エステボーとも違うわね」 と、コトミ艦長。 大型戦闘艦がビーム砲を発射した。 小型艦はすでに何度か被弾している様子だ。 「ほっとけないわ。ママ、高速信号弾発射!」 発射された高速信号弾は、大型、小型、両艦の間で炸裂した。 パッ! 目も眩む閃光に、モニターも真っ白になる。 これ幸いとばかり小型艦は、フェロモン号に隠れるように、回りこんできた。 《小さい方から通信よ》 「当艦、フェザーン商船。感謝する。当艦に戦闘の意思無し。引き続き調停活動の続行を、お願いしたし」 コトミ艦長が言う。 「ママ。返事して」 《当艦、銀河連盟245ヶ星系軍、戦闘時空艦フェロモン号。連盟時空艦規約108条により、貴艦を民間商船と認識。従って、これを救助します。連盟時空艦規約108条とは、いかなる時空域においても、連盟船、その他に関わらず、民間船に救助を要請された場合、無条件にこれを救助するというものです。安心して》 大型戦闘艦は停止した。 巨大な砲門がフェロモン号を睨む。 「やる気かしらね」 とコトミ艦長。 《通信、送り続けてるのに……》 とママ。 クルーは、固唾を呑んでモニターに見入る。 友和少年は、コクピットの椅子で、鼻ちょうちんを膨らまして眠っている。 「なんだか電車みたいな格好の宇宙船」 とaタイプ。 ママが解説する。 《あの艦は約100人乗りよ。人工知能制御艦じゃないわ。銀河系共通マシン語で呼びかけても、反応が無いの。マニュアル艦ね。Wひょうたん宇宙は、フェザーン回廊とイゼルローン回廊っていう、二つの通路を持つ変わった宇宙なの。現在、回廊を挟んで、帝国軍と共和軍に分かれて戦っているのよ。あ、通信よ》 モニターには、いかにも折り目正しい、軍人然とした、ハンサムな男が映った。 フェロモン号の美女達がどよめく。 「貴艦の通信は、礼節にはのっとっているが、意味のない眼くらましと解釈する。何が『銀河連盟』だ! 何が『連盟時空艦規約』だ! おおかた、ペテン師ヤンの謀略であろう。このミッターマイヤーが、そんなトリックに引っかかると思ったか? フェザーン船を引き渡せとは言わぬ。即時降伏しろ! 猶予は3分だ。しからずんばフェザーン船もろとも、宇宙のもくずとなるであろう。ローエングラム帝国万歳!」 そしてプツンと切れた。 クルー達はざわめく。 「なによ。この態度!」 「ちょっとハンサムだと思って」 「馬鹿にして」 「電車のくせに」 コトミ艦長が言った。 「フェザーン船ってのに、こうくっつかれちゃ、逃げる事も出来ないわね。仕方が無い。先制攻撃するわ。アクメ砲スタンバイ。動力部を狙って。出力50パーセントでいいわ」 aタイプが言う。 「偉そうにカッコつけてる方が悪いんだもん」 「撃て!」 とコトミ艦長。 ボシュワアムウウウウムムウウウ! ドッカーンンン! ローエングラム帝国軍の、疾風オルフこと、ミッターマイヤー上級大将の旗艦『人狼』は、動力部にアクメ砲を食らった。 すかさずコトミ艦長。 「戦闘艇が飛び出してきたら面倒だわ。ママ。撃って」 《ゼリービンズ弾でカタパルト口を塞いでやるわ》 プチュムプチュムプチュムプチュム 戦艦『人狼』もビーム砲を発射したが、フェロモン号のシールドに遮られた。 大破炎上する帝国宇宙戦艦『人狼』を尻目に、フェロモン号とフェザーン商船はランデブー飛行を続けた。
フェザーン商船から通信が入った。 「感謝する。私はフェザーン自治領の商人、ボリス・コーネフ。お礼にコンテナを一つ置いてゆく。お受け取り願いたい」 「あ。ちょっと待って。こちらもコンテナを一つ打ち出すわ。『贈り物には贈り物』が、銀河連盟時空艦の習いなの」 とコトミ艦長。 そして、ふり向いてaタイプに言った。 「中尉、危険物がないか調べて。ヤバそうなら、破壊していいわ」 「わーい! やっと出番が来たもん」 さっと敬礼したパイロットのaタイプ中尉は、ヘルメットをかぶり、小型戦闘艇に乗り込み、発進した。
フェザーン商船は、漂うコンテナを、直に回収している。 コンテナの中では「ぶもうー」と、デネブ牛が鳴いていた。 象ほどもある、最高級シモフリ。銀河グルメ年鑑にも載っている名産牛であった。 通信が入った。 「いただきます。共和軍の兵士達は、若く食べ盛りの連中だ。提督ヤン・ウェンリーに代わって、お礼申しあげる」
aタイプ中尉は、危険物、毒物のチェックを済ませると、フェザーンのコンテナを牽引して、フェロモン号へ戻った。 そして、コンテナを開けると、中には古典的な武器が入っていた。 「え? これ、マサカリ?」 「マサカリって金太郎さんの武器でしょ?」 「マッサカーって感じ」 「アハハハ。それ駄洒落?」 「千駄山ロッカじゃあるまいし」
ママが言った。 《Wひょうたん宇宙では、ゼップル粒子っていう、火器を使えなくする兵器があってね。だから、男どもはマサカリ使って、昔の武士のように戦うのよ》
それからフェロモン号は、時空SENDAYAMAへ再突入すると、196×年の日本に友和少年を下ろし、次の特異点警報の鳴った戦国末期、安土時代へと向った。
──『銀河系時空船規約』第17条。コスモス・メッセージによる特異点の追跡、調査の義務は、すべての時空船、船長が、優先的に負うものとする。 軍、民間、連盟の如何を問わずとしたこの規約は、『銀河連盟時空艦規約』より、更に重いものであった。
──え〜。今回に限り、『銀河英雄伝説』の宇宙に入り込んでしまったフェロモン号であった。 アクメ砲を食らわしたりして、愛妻家のミッターマイヤー提督には、まことにすまぬ事をした。 平に平にお許しあれ。千駄山ロッカ。
|
|