忍者の一分(いちぶん)
それは大宴会であった。頭領百々太夫(ももだゆう)以下、小者を除く男は皆、忍者装束である。 やっぱり忍者は忍者の格好じゃなくっちゃ気分が出ない。 大広間の脇の板の間から続いている土間の方なんか、忍者の格好で立ち飲みをしてる。 ガヤガヤと、術の自慢話なんかしている。 「そこでわしはのう、佐助の奴に分身の術を使ったのじゃ」 と先輩忍者の鼠。 「マジッすか?」 と若い忍者。 「佐助は驚いておったわ。クックック。なんせ『六本しめじ』じゃからのう。ぽっぽぽっぽじゃ。凄いじゃろ」 「わしらは、風車手裏剣を担いできた後の影分身じゃろ。もうくたくたじゃったよ」 と先輩忍者鼠の下忍A。 「最初から、六人がかりでやればいーじゃねえか」 と若い忍者。 美形忍者、くノ一エリカの周りには、人だかりができている。 「石田三成ってすっごいエッチなの」 と、妖しく身をくねらせながら言う。 「ゴックン。どのくらいエッチなんだ?」 と周りの一同。 「あのね。千駄山ロッカの『超電導美那子W3・美那子の深いくびれに、もうくらくら』ノクターンノベルズにて掲載中。このくらいエッチなの」 「ほう。18禁の術かあ」 「すぐ検索しなきゃ」
友和には上座が用意されていた。 薬師(くすし)、真鍋妙技斎(まなべみょうぎさい)は、打って変わって忍者の頭領然としている。 さてこそ、百地三太夫(ももち・さんだゆう)の後継者、伊賀忍者の頭領である。 「拙者が百地百々太夫(ももち・ももだゆう)でござる」 と、友和に向って一礼。 それから一同に向き直り、 「さて、織田の乱派(らっぱ)は紛れ込んではおらぬな?」 と、軽いジョークを一発かます。 「あははははは」 と忍者共が笑う。 金髪の司会者が出てきても可笑しかない雰囲気となる。 そして、長演説をはじめた。 「件の密書にて仏敵織田信長、近々上洛し本能寺にて宿泊の由、我ら親兄弟の仇を討たんと、手薄な本能寺に、切り込む所存であったのじゃが、江守様の言によると、にわかに明智光秀謀反との事。── 信長ずれの横死は結構極まりなく嬉しき仕儀なれど、父の仇、母の仇、子の仇、妻の仇、恨みは骨髄の我ら、己が手にて信長の素っ首獲らずば、この怨み晴れようか? じゃによって我ら、かねてよりの手筈通り、あくまで信長の首求めて切り込む所存! これ武士の一分に非ず、伊賀忍者の一分なり! 明智の万余の軍勢の中に切り込むは、いかに忍者の我らとて、千に一つも生還の望み無し。 しからば今宵、末期の酒盛りにて、我らの覚悟、江守様にはとくとご覧あって、願わくば伊賀忍者の死に様など、後世に伝えられる事、お願い申したき次第。 貴殿は後世のお方との事、何とぞ、お頼み申す」 ──パチパチパチパチ〜 満場、割れんばかりの拍手である。
勇猛悲壮な酒盛りが始まった。 友和も目頭が熱くなり、勇士達にちょこれい糖を振る舞いながら、濁り酒をしこたま飲む。 盛り上がると芸も出る。 「欣求芸(ゴング・ショー)がはじまるわ」 と桔梗が言った。
「音羽の城戸、一発芸やります」 「霧のとん兵衛、いきます」 「四貫目はこれじゃ」 「くノ一沙織、歌を唄います」 「夙のカムイ、ごろうじろ」 「伊賀の影丸、ごらんあれ」 「伊賀のカバ丸、超魔術をやります」 流石は忍者共。 芸達者揃いであった。 石川五右衛門が大風呂敷を使って芸を始める。 「よう、まってました。五右衛門得意の大風呂敷じゃ」 「それそれ膨らみまする、膨らみまするぞー」 いろりの熱気を巧みに取り入れた大風呂敷を、大きなてるてる坊主のように膨らましてゆく。 五右衛門はおどけた調子の口上を述べる。 「あさて、何を仕込むか? 何を仕込むか? お楽しみ」 忍者共は手拍子をとり、大風呂敷はどんどん膨らんでゆく。 濁り酒を注ぎながら小鹿が耳打ちする。 「いつもは、ありがたいおふだが仕込んであるのじゃ。鳩や兎や、馬やお坊さまが出てくる事もあるのじゃ。ほんに五右衛門は、目くらましの達人じゃ」 天井に届くほど、いっぱいに膨らんだ大風呂敷が破裂した。 パーン! ありがたいおふだは降ってこなかった。 鳩も坊主も出てこない。 だが、ありがたくないのがにおってきたのだ。 「うわっ臭い」 「くっせー」 「たまらんわい!」 「なんじゃ! 五右衛門! 屁かあ」 「ネタ切れしたんじゃ。じゃから、すかしっぺを仕込んでみました」 「たわけもの!」 「ど阿呆」 「場所をわきまえい!」 しかし、このにおいが友和の大脳に刺激を与えた。 すっくと立ち上がった。 「これだ! ひらめいた! 頭領、皆の衆、信長を掠いましょう。よーし出来るぞ。絶対、出来る筈だぞ!」 忍者共の目が丸くなった。 迷い込んだ尺取り虫が、丸めて捨てられたハーシーの、チョコの包みの銀紙の脇を、のろのろと通り過ぎて行く。
「何と? 江守様」 「そのような事が」 「まことに出来るのか?」 「大きくて丈夫な布さえあれば。骨組みは竹で良い。熱気球と言うんだ。絵図面を書く。紙と筆くれ。せっかくだ、うんと大きな物を作ろう」 株式会社「ララミー玩具」の完全なる窓際族である資料編纂室長の江守友和は、心血を注いで、変形モンゴルフィエ型熱気球の設計図を、鼻息も荒く、電光石火で書き上げた。 「昔は俺だって、先代社長と一緒に、玩具の図面引っ張ってた事だってあるんだ! 何がCGだ。ちくしょーめ!」 流石は忍者共である。頭が良く、物作りの技術もしっかりしていた。 当時最高のテクノロジー集団なのである。 こうして、薬師(くすし)、真鍋妙技斎(まなべみょうぎさい)の屋敷の中庭では、忍者達が「本能寺の変」の日を目指して、熱気球の製作を始めた。
次回はいよいよ本能寺だ。 OSFA(オヤジSFアドベンチャー)は、だんだん加速して行く。
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