ロボ・ミナコの恋
大空の中、じたばた暴れるエステボーヨシユキなのだが、ロボ・ミナコはがっちりつかんだまま飛び続ける。 「ちくしょう、離せ、馬鹿野郎!」 《はなしたら おちる にんげん しぬ だめよ》 「お前、今、人間って言ったよな。チンコロンって言葉使わないのか?」 《ろぼ みなこちゃん そのことば ないな》 「じゃあ隷属愛玩種は?」 《ろぼ みなこちゃん それも ないな》 いつしか、しっかり抱き合って飛んでいる、ロボ・ミナコとヨシユキであった。 「もしかして宙賊は? 宇宙支配種は? 超電導マヌコロン種は?」 と、風圧の為、涙をにじませながら、ヨシユキの質問は続く。 《ないな だびんちせんせ きらいな ことば ぜんぶ えいきゅうさくじょ だから ろぼ みなこちゃん ことば すこし へん なの なの》 ヨシユキは笑って言う。 「ちっとも変じゃないさ。俺は、可愛いから好きだな。その辺に降りようぜ」 村の長者の屋敷の庭に降りた。 山崎の方から聞こえてくる合戦の雄叫びが、気になる様子のロボ・ミナコである。 「心配するな。こうなったら、成り行きに任せるしかない。俺だけじゃないぞ。お前が介入したって歴史ってもんは変わるんだ。もう、放っとけ、放っとけ」 ヨシユキは、屋敷の台所に入って行く。 このあたりの住民は皆、弁当を持って合戦見物に出かけているので、誰もいないのだ。 ほったらかしの茶うけの漬け物をつまむ。 「なかなか旨いタクアンだ。ロボコちゃん食ってみるかい?」 《ろぼこ ちがう ろぼ みなこちゃん なの えねるぎぼーる たべたの おなかいぱい なのなの》 それからヨシユキは、のっそりと座敷に上がり込んだ。 「俺がエステボーのボス、エステボーヨシユキだ。捕まえて捕虜にしたのはロボ・ミナコちゃん。お手柄だったな。まったく、銀河史に残るぜ。確かにお前は天才ロボットだよ。気に入ったぜ」 こう言うと、エステボーヨシユキは、畳の上にごろりと寝転んで、そのまま、気持ち良さそうに眠ってしまった。 ところで、ヨシユキの脇にいるロボ・ミナコの様子がおかしいのである。 ヨシユキの言葉を再生しては、何度も何度も聞いているのだ。 《〜ちっとも変じゃないさ。俺は、可愛いから好きだな。〜ちっとも変じゃないさ。俺は、可愛いから好きだな。〜ちっとも変じゃないさ。俺は、可愛いから好きだな。〜》 眠り込んだヨシユキの脇で、季節外れの小虫なんぞを、追っ払ったりしている。
さて山崎である。 羽柴勢は、かろうじて踏みとどまっていた。 コトミ艦長の指示で、身体の利く忍者達によって、前線にコンパクトシールドが運ばれたのである。 前線の兵共は、この、洋傘をおちょこにしたようなシールドを立て、レーザービームを防いでいる。 そして、初めて掘った塹壕の中で、首をすくめている。 だが、レイ・ガンと火縄銃。 これは圧倒的な火力の差である。 今だエステボーの攻撃が始まらないのは、ロボ・ミナコによって拉致されたボス、エステボーヨシユキの消息が判らなくなって、一時的に、指揮系統が乱れている為だ。 それと、メロスが帰った事により、フェロモン号クルーが戦闘能力を失った事を知り、慢心している為でもあった。 明智勢の勝利は、もはや確実となったのだ。
前線へ出た羽柴秀吉は、兵共と一緒に塹壕に篭っている。 兵共が逃げ散らぬように、大将自ら前線に出る。 という苦肉の策なのであった。 織田信長も森蘭丸も、黒田官兵衛も徳川家康も、付き合いの良いところを見せて、一緒に塹壕にいるのだが、皆、青い顔をしている。 「のう猿よ。どえりゃあ事になったなも。あれ程の威力とはの。草木も丘も消えよったであ」 と、信長。 「はあ、くわばらくわばら。つるかめつるかめ。上様、早くフェロモン号へ戻りましょ」 と、蘭丸。 「さて、そろそろ、おいとましようかの。三河へ帰ったら、すぐさま隠居して、出家して、お寺に篭る所存」 と、家康。 「しかし、江守殿もaタイプ殿も、いつの間にか、おらんようになってしもた。わしゃ夢を見ているのかの?」 と、官兵衛 「夢なら、早く醒めてくれい。悪夢じゃ。ひっすう、これは、悪夢じゃあ」 と、泣き顔の秀吉。 ピピッ、ピピッ、ピピッ その時、コトミ艦長に持たされていた信長の、ハンド・トーキーが鳴った。 「えー。わしは信長じゃ。コトミ殿か?」 コトミ艦長が言った。 「よく聞いて。信長さん。もうすぐエステボーのレイ・ガンを、使えなくしてやるわ。私が合図したら、突撃するのよ。チャンスは一度だけ」
日本晴れの山崎の、抜けるような青空に、熱気球『飛翔天黒布(ひしょうてんこくふ)』が浮かび上がった。 本能寺より信長を助け出した、あの熱気球である。 ──合戦当日は雨だった。 という説もあるが、それでは、お話にならない。 断じて、日本晴れであった。
操船しているのは、桔梗(ききょう)、沙織(さおり)、小鹿その他、無傷だった少数の百地忍者と、服部半蔵配下の忍者達である。 この変形モンゴルフィエ型気球は、折りたたまれて、伊賀忍者の陣屋に持ち込まれていたのだった。
気球に乗った桔梗が言った。 「さあ、撒き散らすのじゃ。急ぐのじゃ」 「わあっ。いい眺めじゃ。明智の陣は広いのう。おババはどこかな?」 と、小鹿は、はしゃいでいる。 「もう、小鹿ったら。仕事じゃ。早う早う」 と、沙織。 くノ一達は、いくつもある大きな布袋を、順番に切り裂き、中のアルミ伯の細片を、空に放出する。 この細片はカートの中の備品で、レーダーかく乱用の物であった。
明智の陣では、エステボー達が笑っていた。 「ダサい気球だな。爆弾でも落とすつもりかな?」 と、エステボー・ゲバラ。 「一発食らわせようか?」 と、エステボー・レーニンが、レイ・ガンを構える。 「まあ、ちょっと待て。面白いじゃないか。もう少し見ていよう」 と、エステボー・モータクトー。 「何やら、悪しき予感がする。すぐさま撃ち落として下され」 と、光秀。 「キラキラと。……金属片を撒いてるぞ」 と、エステボー・メロス。 アルミ箔の細片は空を覆ってゆく。 やがてキラキラ光りながら、ゆっくり降りてくる。 「早う撃って下され!」 と、光秀が叫ぶ。 「ちょっと待てっ!」 とエステボー・ゲバラが叫んだのだが、エステボー・レーニンは、すでに引き金を引いていた。
ジュワワームン
とばかりに、レーザービームは、アルミ片に乱反射して、七曲りの末に、光秀のちょん髷を、バッ! と焼いた。 黒煙りが上がり、はげちょろげである。 エステボー・メロスも撃ったのだが、こちらもやはり乱反射して、陣中の軍馬の尻を焼いた。 「ブヒヒーン」 と、軍馬は後足立ちとなり、陣中は騒然となった。 「ヤバイぞ! 撃っちゃいかん!」 と、ゲバラが叫んだ。
ピピッピピッピピッ と、信長のハンド・トーキーが鳴った。 「今よっ! 突撃して!」 と、コトミ艦長の声。 「猿! 総攻めじゃー」 と、立ち上がった信長が叫ぶ。 「皆の者、かかれーっ」 と、叫びながら、秀吉が軍配を振りかざして飛び出した。 塹壕から次々に、兵共が飛び出して行く。 「信長様の弔い合戦じゃあ」 と、誰かが叫ぶ。 「わしのか? なんだか妙な気分じゃの」 と、信長。
──ウワー!
雄叫びをあげ、槍の穂先をそろえて、羽柴勢は突っ込んで行く。 槍が打ち合う、刃が打ち合う、首が飛ぶ。
──パパパンパンパパンッ
鉄砲の音が鳴り響く。 修羅場じゃ修羅場じゃ合戦じゃっ。 男は皆、皆、いくさが好きじゃ。 やがて、数で劣る明智勢は総崩れとなった。 エステボーも、5台のカートに分乗して、時空船を隠している琵琶湖を目指して、撤退して行く。 カートの屋根には、柘植(つげ)のオババがへばりついていた。 「お宝星へ行くんじゃ! 美貌を取り戻すんじゃ。離すものかー!」
こうして羽柴勢の追撃戦が始まった。
その頃、友和はaタイプと、あの『二十分間の世界』での約束を果たすべく、近郷の村で一緒に場所探しをしていた。 長者の屋敷と思われる家屋の台所に入り込むと、旨そうなタクアンがあったので、失敬してボリボリ噛っていると、座敷から何やら怪しい声が聞こえてくるではないか。 友和とaタイプは、ふすま越しに聞き耳を立てる。 「ほう人間と全く変わらんな、柔らくてあったかい。感じるんだな。オッパイも格好いいぜ。乳首はまるでゼリービンズだ。綺麗綺麗。ワイフ機能有りか。此処も感じるのかい? ほう。此処はつるつるだな。お? 濡れ濡れじゃないか。……サンタの帽子、とっちまえよ。可愛いぜ、ロボ・ミナコ」 《よしゆきさ へな かんじ なのなの ああ あん》 驚いたaタイプの目がまんまるになった。 「まっさかーって感じ! エステボーヨシユキとロボ・ミナコだわ。信じられなーい!」 「おかしかないさ。いつでも、どこでも、善行と美那子は、くっつく事に決まってるんだ。それより、俺達も……」 「あんん 友和さん」 やっと念願かなった友和であった。
そしてフェロモン号は飛び立った。 信長と蘭丸を『お宝惑星』へ、特異点友和を元の時代に戻す為に。 結局、ロボ・ミナコは帰って来なかった。 公式には、恐ろしい宙賊エステボーのボスに、掠われた事になっている。 真相は、友和とaタイプだけが、……いや、実際はフェロモン号メインコンピューターのママは、知ってる筈である。 《ロボ・ミナコちゃんは、どうせ帰ってきたってスイッチを切られて、ブルーシートに包まれて、倉庫に転がされるだけですからね。いっそ掠われたほうが幸せな場合だってあるのよ。何しろ、あの娘は、非(ナル)知性型ロボットですからね》 誰にも教えないのだが、ママには通信が入っていたのだ。 《ろぼ みなこちゃん は いま しあわせ です よしゆきさ の さんたくろす およふく あんで ます まま も げんきで かつやく してね なの なのなの》
いつものように艦内をうろちょろしていた信長が、コトミ艦長に話しかけた。 「コトミ殿、ちと相談があるのじゃが」 「分かってるわよ。ちょうどこのあたりよ。ほら、逃げて来るわ」 モニターには、落ち武者狩りの、土民の竹槍に追われて逃げ回る、明智光秀が映し出された。 《牽引光線ロック! さあ引っ張り上げるわよ》 傷つき、疲れ果てた光秀が入ってきた。 艦内のまばゆい光に、目が眩んでいる様子だ。 まるでタイム・トンネルの、大きな出入り口から出てくる時の人間みたいに、よたよたと歩いてくる。 か細い声で尋ねる。 「此処は涅槃でござろうか?」 すかさず信長のカン高い声が鳴り響く。 「トロ臭えキンカ頭! 詰めが甘うて見てられんわい。光秀! わしと一緒に『お宝惑星』へ行くのじゃ! どうじゃ、嬉しいか?」 「ひっ、信長! 本物の魔王だったのか? されば此処は、地獄に相違なし。お、お、恐ろしやっ! ひっ、ひっ、ひっく」 頭を抱えて、うずくまってしまった。 蘭丸がけたけたと笑った。 可哀相な光秀である。 「コトミ艦長、俺も相談があるんだけどな」 と、友和。 「駄目よ」 と、コトミ艦長。 「聞きもしないで」 「駄目です」 「聞くだけ聞いてよ」 「絶対駄目!」 実の処、この時代に残り、桔梗と祝言を挙げたい友和なのであった。 「……。叶わぬ夢かあ」
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