開戦
合戦が始まった。 まずは口上戦なのである。 羽柴勢の中から、ひときわ声の大きな足軽大将の、千駄山六角が口上を叫ぶ。 「やあやあ〜そこな明智光秀と〜申すは〜。謀叛人にして大悪人なり〜。いにしえの昔より〜犬畜生にも劣る〜、不忠者〜裏切り者〜後をたたず〜」 明智軍の中からはエステボーヨシユキが、濁り酒の入ったひょうたんを、ぐびぐびと、らっぱ飲みしながら、エネルギー・バズーカ砲を担ぎ、のっそりと出てきた。 そして叫ぶ。 「やかましーっ! 黙れ!」 エネルギー・バズーカ砲をぶっ放した。
ドゴゴーーオン
瞬間的に十万度にも達する熱弾は、両軍の間に在る小高い丘の一つを、一瞬にして蒸発させた。 続いてエステボー達が出てきてレイ・ガンを撃ちまくる。
ジュジュジュババババー
目に見える範囲の、すべての樹木が蒸発した。 木々が生い茂っていた跡は、黒焦げの土が、焦げ臭い黒煙りを漂わしているばかり。 本能的な恐怖が羽柴勢を襲った。 浮足立った兵共は、今まさに、我先に逃げ散らんとした。 その時であった。 「ありゃなんじゃ!」 空を見上げた千駄山六角のどら声が響き渡る。 兵共も空を見上げた。 「鳥か?」 「飛行機か?」 「飛行機はまだ無いぞ!」 「真っ赤な火の玉か?」 「こっちに向って来るぞ!」 「なんまんだぶ、なんまんだぶ」 「鶴亀(つるかめ)鶴亀(つるかめ)鶴亀(つるかめ)」
凄いスピードで飛んできたサンタクロース姿のロボ・ミナコが、ちょうど両軍の中間地点に、 スッターン! と音をたてて着地した。 土煙が上がる。 そして一陣の風が土煙を吹き飛ばした。 そこには、ロボ・ミナコがファイティングポーズをとって、立っていた。 《わるい えすてぼ ろぼ みなこちゃんが たいじ するの いくぞ!》 エステボーヨシユキは、ハイパワーブラスターを構えている。 「ほう、可愛らしいな。サンタのお嬢さん、アンドロイドかい?」 ロボ・ミナコが答える。 《れおなるど だ びんち せんせが つくた てんさいろぼと ろぼ みなこちゃんだ わるい えすてぼ かくごしろ》 ひょうたんから一口、ぐびりと飲んで、ヨシユキが言った。 「成る程、独裁官ミナコにそっくりだな。ダ・ビンチが造ったって? それじゃ『お宝惑星』の生まれだな。……まったく。本当に頭くるよな。人類全体の『お宝』であるべき知的財産を、一部連盟の有力者だけの為に。しかも、すでに、勝手に活用している。おいロボット、これが正義か? 答えてみろ」 《うるさい! わるい えすてぼ》 と、答えたロボ・ミナコだったが、その時、カチャンと、深層記憶メモリ『ダ・ビンチ・コード』が作動したのだ。 製作者、レオナルド・ダ・ビンチからのメッセージが、時を越えてロボ・ミナコの意識の中に流れ込できた。 《だけど…… だびんち せんせ も すかり おなじこと ゆてたな ……だから なる ちせいがた ろぼと つくた ゆてたの……だから かんじょうの まま いきてゆけ ゆてたな── ろぼ みなこちゃん じゆうに たのしく しあわせに いきて ゆきなさい ゆてたの なのなの》 両軍の兵共も、エステボー達も、固唾を呑んで見守っている。 そんな中、ヨシユキが口を開く。 「ダビンチもさすがにチンコロン、いやつまり、男だぜ。くそ! 大嫌いな言葉、チンコロンが、すっかり身についちまってる。悲しいぜ。もうひとつ聞くけど、エステボーは何故悪い?」 ロボ・ミナコが答える。 《それは…… ふぇろもんご おそて まま ぽいずんすので ばか なたよ えすてぼ わるいやつなの なの》 ヨシユキは顔をしかめる。 「おっと、こいつあまずい質問しちまった。面倒くせー、蒸発しちまえ!」 エステボーヨシユキのハイパワーブラスターが火を吹いた。 しかし、戦闘モードのロボ・ミナコは、一瞬早くランドセルロケットに点火していた。 加速装置が作動している為、難なく熱線を回避しながら、エステボーヨシユキ目指して、螺旋軌道を描いて飛んで行く。 そして、ヨシユキをがっちり捕まえて、大空高く舞い上がり、そのまま飛び去った。 明智勢も羽柴勢も、宙賊エステボー達も、あれよあれよと、大口をあけて見送るばかり。
走れメロス
エステボー・メロスは走っていた。 メロスが登場した時から、とにかく、コイツは走るんじゃないかな? と思ったでしょ。 そうです。やっぱりメロスは走らなくっちゃ。
フェロモン号の女達は、手足が痺れたままなので、縛り上げる必要はなかった。 その代わり、半重力カートの操縦も出来ないのだ。 ゲロまみれで転がっていて、手足は動かないくせに、口だけは達者である。 「エステボー・ヨシユキの陰謀って訳ね」 「それにしても」 「実の姉に、電撃ムチを食らわせるなんて!」 「許せないわ!」 「野蛮なのよ!」 「知性もプライドもありゃしない」 「ホモサピエンスのカス、チンコロンだもんね」 「その中でもコイツ、最低のチンコロンね!」 「まさにクズね」 「ミジンコにも劣るチンコロンだわ」 メロスはぐっと拳を握り締める。 いっその事、ブラスター(熱線銃)で全員、丸焼きにしてやりたい! しかし、そんな事をしたら、キョコーンのボス、ユータロとの取引がパーになる。 「おい、姉ちゃん、お前が運転しろ!」 と、精一杯虚勢を張って、ブラスターの台尻でこづく。 だが、姉のきなこは、 「私は船医だから、操縦なんか出来っこないわよ!」 と言い張る。 おそらく、知らをきっているのだろうが、とにかく今は、時間が惜しい。 こうなったら、自分で操縦するしかない。 と思ったメロスは、操縦者認証の為のIDを作り、パスワードと共に入力したのだが、なかなか上手くいかない。 「ちっくしょー」 とメロス。 「馬鹿だわコイツ」 「虫けら並みの脳みそね」 「可哀相なくらい」 「黙れっ!」 とメロス。 やっとの思いで登録完了したのだが、今度はエラーの連続であった。 メロスは叫ぶ。 「ぐっぞー!」 結局、カートは動かない。 女どもが、あざ笑う。 「コイツ機械オンチだわ!」 「やっぱり馬鹿なんだわ」 「何が、宙賊エステボーよ!」 「低脳チンコロン!」 棒立ちのメロスが、真っ赤になって叫ぶ。 「てめえらあ、マジで丸焼きにしてやるう」 そこへ、偵察隊の忍者達が帰ってきた。 「メロス殿、逃げたほうがええ」 と、柘植(つげ)のおババ。 ゲロまみれの百々太夫(ももだゆう)が叫ぶ。 「桔梗(ききょう)、殺すな。以外に気の弱い奴じゃ。カスミ網で捕らえろ!」 桔梗と沙織(さおり)、そして小鹿が、カスミ網を投げる。 ドムッ! と、煙幕を張って、おババが逃げる。 メロスは転がって、おババに導かれるままに、その場を脱出した。 悔しいが、仕方が無い。 ──とにかく、「合戦中は戦闘不能にする」という目的は、達成したのである。 と言う次第でメロスは、明智光秀の陣へ向って、一目散に走っているのだ。 その背中には、肩車のように、おババがペッタリと張り付いている。 単身、くノ一小鹿がそれを追う。 だが、小鹿に殺意は無い。 丘を越えて走るメロスの肩の上、振り向いたおババが叫ぶ。 「のう小鹿、頼む。見逃してくれ。あたいは、なんとしても『お宝星』へ行きたいんじゃ!」 小鹿が叫ぶ。 「分かった。おババ。追わずにおこう。これは選別じゃ。おババの好きな葬式まんじゅうが入っている。達者でな」 と、豆絞りの布袋を投げた。 「ほーか。腰弁当かい。小鹿、気が利くのう。さらばじゃ」 キャッチしたおババは、腰弁当を腰に巻いた。 明智の陣ではエステボー達がざわめいている。 「おい、あの丘を見ろ!」 「メロスじゃないか」 「ババアを乗っけて走って来るぞ」 「何だか知らんが」 「援護してやるぞ」 「早く来いメロス」 「走れ、メロス」 メロスは明智の陣へ跳び込んだ。 ゴール・インと同時であった。 ──ボムッ。 という、鈍い音とともに、威力は本当に、たいした事ないのだが、腰弁当に仕込んだ爆薬が爆発した。 一陣の風が煙を吹き飛ばすと、そこには、下穿きを吹き飛ばされ、歳の割には、妙になまめかしくて綺麗な尻を、丸出しにしたおババが、棒立ちになっていた。 「うっひゃあ。恥ずかしわい」 と、おババは茂みに飛び込んだ。 「きゃはははは」 と、丘の上で小鹿が笑った。
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