合戦前夜
中国大返しを成し遂げた羽柴秀吉は、姫路城へ入ると剃髪して信長への哀悼の意を表すと共に、金蔵を空にして兵共に分け与え、その不退転の心意気を天下に示して出陣した。 信長旗下の武将達も続々と馳せ参じるのであった。 いざ、弔い合戦である。 秀吉の人気は高く、沿道の観衆も口々に羽柴勢を誉めそやし、兵共の意気も大いに上がった。 それに較べて明智勢は、意気消沈気味で人気も無く、馳せ参じる武将もほとんど無かった。 馬上の光秀自身でさえ、客将であるエステボーヨシユキの接待に、疲れ果てていたのだ。 だが何といっても、天下取りに踏み出したのであるから、ここで引っ込む訳にはゆかぬ。 同盟軍のエステボー達の、気まぐれに発射するレーザーガンの光線により、沿道の木々やお地蔵様が消滅するのを目の当たりにすると、次第に勝利を確信するようになった。 やっと意気も上がってきた。 いざ山崎へ山崎へ。 明智勢の行軍は続く。
大蛇の如き長い隊列となって、街道を進む明智勢の中には、超低速となって行軍する、エステボーの戦闘車両が5台見える。 ボスのヨシユキとエステボーの三人の最高幹部、ゲバラ。レーニン。モータクトーは、その車両の屋根の上で、陣屋女郎と宴会を続けている。 この三人は「三羽烏」と自称しているのだが、エステボー達は皆、「三馬鹿大将」と呼んでいた。 二十名を越すエステボーが徒歩で行軍している。 久々に地上に降り立ったので、足腰を鍛えておこうという訳だ。 合唱しながら歩いている。
──チンコロンなんて呼ばないで 俺たちゃ自由な男の子 隷属愛玩種なんてくそくらえ だけどたまには思い出す あの娘の綺麗な横顔を ああ戻りたい 戻ろかな? 戻っちゃ、やっぱりチンコロン しょせんは、か弱いチンコロン 駄目だ、駄目、駄目、元気出して! 男になろう 本物の男に でもやっぱり戻ろかな? う〜う〜う〜 なんて切ない チンコロンのブルース──
半重力カートに乗って移動した友和達は、いち早く山崎の地に到着していた。 同乗して来た頭領、百地百々太夫(ももち・ももだゆう)を始めとする伊賀忍者の幹部連は、後発の伊賀者共を待ちながら、「中国大返し」の羽柴勢を迎える準備に余念が無い。 やがて明智方の先鋒である忍者部隊と接触した。 合戦を前にして、血みどろの死闘を繰り広げている模様だ。 それは忍者戦らしく音も無く、木の葉一枚動かない。
信長と蘭丸と家康の乗ったカートには、到着と同時にフェロモン号の美女達が、入れ替わり立ち代り押しかけてくる。 「ちょっと家康さん。あんた邪魔よ!」 「そうよ。狭いんだから。外に出なさいよ」 カートから追い出された家康に、友和がタバコを勧めている。 煙を吐き出しながら、家康がポツリと呟いた。 「人生とは、重き荷物を背負いて、一歩一歩歩いて行くようなものじゃの。寒いの。しかし、モテない」 「カア」 と、カラスが鳴いた。 蘭丸もカートから出てきた。 しかし、こちらは美女達がくっついている。 「殿のお側にいなけりゃ……」 と蘭丸。 「可愛いわあ」 「いーのよ。蘭丸さんは若いんだから、私達とお散歩しましょ」 「そうよ。カートの中じゃ、艦長がうるさくってたまんないわよ」 「コトミ艦長、信長さんがタイプだったとはね」 「以外だわ」 貸しきりになったカートの中では、信長がいい調子だ。 「わしはのう、天下なんぞはいらんのじゃ。こうして天上びとの美女に囲まれておるんじゃものな。これからは天上界を、あまねく見聞しとうなった」 「キャー。すっごく渋いわあ。私も連れてって!」 「やっぱり天下人のオジサマって、一味違うわね」 「カッコいいわあ」 すっかり角がとれた信長は、燻し銀の魅力を放っている。 「……ん? 鳴かぬホトトギス? 秀吉は無理矢理か? 家康はずっと待つのか。さもありなん。わしは殺すとな? あははは。そりゃ、ちょっと違うぞよ。わしの場合はのお。ホトトギス鳴かぬなら、こちょこちょこちょ。さあ鳴いてたもんせ。いい声での。こちょこちょこちょ」 「きゃあ、天下様ってばもお」 「エッチなオジサマ」 「ねえ、オジサマ……」 「あ〜ん。オジサマ〜ん」 『人間五十年』の渋いオジサマと、天下の美少年は、流石にモテる。 心配したコトミ艦長は、発展しそうな雰囲気を察知するやいなや、小姑の如くすっ飛んできて、モーションをかけている美女を、片っ端から蹴散らしている。 「ミルク伍長。歩哨交代しなさい。まったく。ねえ、オジサマ……ですって! あ〜ん。オジサマ〜んは誰? まあっイルゼ少佐じゃない! あなたは偵察に行きなさい!」 今や小姑は、古女房の如き有様となっている。 「信長さんもいい加減にして! 羽柴勢はもう着いたわよ。秀吉の所へ行くんでしょ? 一緒に行ってあげるわよ。え? 私は行かなくていいの?」
そして、両軍とも布陣を終えた山崎の地は、不気味に静まり返っているのであった。
さて、ここは羽柴秀吉の本陣である。 「秀吉殿〜。秀吉殿〜。一大事でござる〜」 普段は冷静沈着な黒田官兵衛が、息せき切ってびっこの足を、ひょこたんひょこたん引きずりながら走ってきた。(表現に差別的不快感を感じた方には、心よりお詫び申し上げます) 「何じゃい官兵衛! 先刻までは俺の事を、殿様、上様と持ち上げて呼んでおったものを、またぞろ秀吉殿に戻ったのかよ。どういう了見じゃい!」 息を切らして官兵衛が答える。 「まさにその事じゃ、秀吉よ、よく聞け。わしはおぬしの家来になるつもりでおったがよ。だが、家来はやめじゃ。やめ。また寄騎に戻る事にしたがよ。寄騎は家来じゃにゃい」 「誰も頼んでいまいが。おぬしが勝手に、(機を見るに敏)とか、賢しらに考えくさって家来になったぎゃあよ」 「とにかく聞け。藤吉郎」 「なんじゃい官兵衛、とうとう呼びすてかい。しかも、昔の名前だなも」 「黙って聞けい! 猿。上様が、上様がよ。今、此処へ来なさるで。徳川殿もご一緒なんじゃ。信長様が生きてらっしゃったんじゃ。── ……猿よ、気いしっかり張って、つつがなくお迎えするんじゃぞ」 「何? 何? 何?……あががっが?」 流石の羽柴秀吉も絶句したのだった。
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